第3話 猫耳少女とお金の話
今日の朝食は、おかゆに種を抜いた梅干し、豆腐のみそ汁。昨日、あれだけ飲んだのだからと思っていた和也であるが。
追加で肉とは、朝から元気だな。
どういう事かというと物足りなさそうなリン。
「他に何か食べる?」
「いえ、充分です」
「遠慮しなくていい。何しろ中年が中学生を自宅に連れ込んだ状態。リンの魔法が頼りだ。万全な体調でいてほしい」
発覚すれば少なくとも社会的制裁、待ったなし。
「それは心配しないでください。村人全員を操り、村を乗っ取った事もあります」
何気に物騒な事を言うリン。
「それは頼むとして、獣人の基準が分からないから。足りないなら言ってほしい」
その結果、彼女は幸せそうに豚肉の生姜焼きを食べている。
この程度なら、良いとして。問題は酒だな。
リンだけでウイスキー二本を軽く開ける。
和也が考えているうちに、食べ終えるリン。
「すいません。昨日、飲みすぎてしまって」
彼女が言っているのは量のことである。
「いいよ。久しぶりに上手い酒が飲めた」
「でも、かなり高いのでは?」
「安い方だけど」
「そうなのですか。あの味で?」
日本のウイスキーが気にいったらしい。
「それでも毎日は無理、お金がね」
彼女は耳をペタンとしている。
「そうですよね。あの、これを現金に換える事ができませんか?」
彼女は革袋を取り出す。
「どこから出した?」
彼の眼には何もない空中から取り出したとしか見えなかった。
「空間、いえ収納魔法です」
「分かった。説明しなくていい」
説明されてもわからない。
「金貨ですけど」
テーブルの上に、金貨の山が出来ていく。
革袋も普通じゃない。どう見ても見た目の収容能力以上の物が出ている。
彼は、それ以上なにもいわず金貨を一枚、手に取る。
「純度はともかく金でも知らない国の金貨となると、普通には換金できない。装飾品の類なら、可能だとは思う」
「そうですか。装飾品・・・。ありますが魔法付与の物のものばかりです」
「魔法付与?」
「装着者に魔力があれば、自動で魔法耐性、物理耐性を上げる。例えば炎魔法から身を守る。衝撃から身を守ると言えばわかりますか?」
「わからなくはないが、この世界の人に魔力何てあるのか?」
「あると思います。私が、この世界で魔法が使える。つまり魔法が発達しなかっただけ・・・」
リンはどう言えば良いのか悩む。
「この世界の人でも使えるかもしれないか。でも魔法なんて、空想の物だ。何も知らない人が使える物なのか?」
「それは魔力さえあれば、それが問題です。私がいた世界では人も魔法を使えます。ただ魔法使いという者は修練を積んだ者達。つまり技術を持っている・・・・」
「ああ、子供が車を運転するようなものか」
動かせる事は出来ても、何が起こるか分からない。
「はい。さすがは魔王様」
この感じ、思わず言ってしまったリンである。
「魔王じゃないから」
渋い顔の和也である。
「すいません。どうしても魔王様と重ねてしまって」
眼を伏せる彼女に何も言えない。
「それはいい。とりあえず、金か」
ぼやく和也。
今の自分の貯金、労災のため休業補償はある。自分と会社が掛けていた保険があるが。
問題は、家のローン。そして自分がいつまで働けるか。
彼の怪我は背骨の圧迫骨折。手術まではいかなかったが。脚のしびれが無いかと入院中、聞かれた。だが膝から下が、しびれるというか、どうにも前のように上手く動かない。日常生活には支障がないが今の仕事を続けるのは難しいと思う。そして歳を考えれば転職など無理では無いにしても難しい。
「一つ聞くけど、怪我の後遺症とか治せる?」
リンは下を向く。
「すいません。私が出来るのは切り傷とか骨折ぐらいです」
「それでも凄いけど。この際、金運アップの魔法とかないか?」
彼は本気ではなく、あくまで冗談である。
「この家に来てから、不運続きではなかったですか?」
正しい指摘である。
「その通りだけど」
認めるしかない。
「これは私達の世界の魔族、人族の考え方です。幸運があれば不運がある、どちらかが続くなどない。つまり偏りすぎのあなたは幸運をため込んでいると言えば、いいでしょうか」
分からなくはない。
「この家に住む事で失った幸運。取り戻せます。本格的に処置します」
本格的な処置。なんだか簡単すぎる。
「埋めたいので、陶器の破片とかありますか?」
「植木鉢でもいいか?」
亡き父親の趣味は園芸。
内心、イラっとする和也。
庭を造るなどと言っていた父親を思い出す。
途中で、脳梗塞で倒れ、介護状態
最終的に出来たのは藪。
まあ、それなりに手入れをしていたのは認めるが。
虫が増え、小動物が現れるようになり、イノシシが家の前まで来る。
当時を思い出す和也。
全て刈り取る。それは暑い日の事だった。
怒りが収まらない。
何で、俺が。後始末をしなければならない。
さっさと死ね。そうすればローンも無くなる。
それは彼の本音。その後、母親も亡くなる。
「あの、どうしました?」
「いや、悪い。余計な事を思いだした」
「30㎝ほど穴を掘ってください」
家の書面、右横、左横、後ろ、彼女が何か刻んだ物を埋める。
「これで、いいのか?」
「はい。これで変わるはずです」