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龍王戦記ドラグーン  作者: たくみ
第二章
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翼竜の骸

 かつて月の裏側に漂着したという龍の骸を調査するために生まれた組織は、龍骸調査団と呼ばれていた。

 しかし調査の途中で消息を絶ち、それ以降何の情報も入ってこなかった為に次第に存在を忘れられていったのである。

 時を置いて、翼竜騎士団を名乗る存在が地球へ侵攻してきた時にも、その存在を思い出す者はごく僅かだった。

 侵略者と同時に現れた、ドラグーン・タイプを操る火鳥タカヤが地上の人々に接触し、敵の情報をもたらすまでは。

 そして現在、敵の戦力に対して唯一有効な力として活用されている龍王機はそのドラグーン・タイプを元に作られ、タカヤ以外に操ることが出来ないという事実から、地上防衛の負担が彼一人に集中している状態にある。

 その事実そのものを心苦しく思う者たちと、彼の存在そのものを疎ましく思う者たちの思惑が重なる中、偶然にもその目的意識は一致していた。

 すなわち、龍王機に変わる防衛戦力の開発である。


「では、ワイバーン・タイプの解析はほぼ終了したと判断して良いのだな」


 防衛組織の司令官を勤める火鳥ユウイチロウの確認を、秘書の瀧川ミナトは肯定した。

 専属メカニックからの機体情報の還元も含めて、戦闘後に回収したワイバーン・タイプの詳細は解析が終了しており、組織のデータベースに記録されている。


「龍王機と比較して機械的な構造が多かったことが幸いした形です。もっとも、それが原因であの大きな斧槍による衝撃に耐えられない構造になったようですが」


「あの膂力を再現せずとも、防衛力としての活用法はあると考えるべきだろうな。ワイバーン・タイプのコンセプトはそういう意味でも我々としての1つの到達点になり得る」


 機体の性能比べをしているのではなく、あくまでも目前の状況を改善するために必要な力の獲得にこそ意義を見出だすべきだというユウイチロウの言葉に、ミナトも異論は挟まなかった。

 龍王機に取って変わる性能を持つ機体の登場を待ち望む声も上がる一方で、防衛に対して何の実績も上げない内からの性能談義が不毛であることも承知しているからである。

 今はまず、1つでも多くの実績を出して世間の評価を得ることが必要なのだ。


「ご子息となった彼を解放するためにも形にして見せなければ、ですかね」


 司令官自らがタカヤを引き取ったと言うよりは、彼を引き取ったからこそ防衛組織の司令に抜擢されたと言うのが正しい認識である。

 それ故、指揮能力が高くともユウイチロウを嫌う存在は少数ながら存在しており、水面下での主導権争いが今も続いていた。

 それは彼自身も理解していたが、今の立場でなすべきをなすことを見失わないよう心掛けているからこそ、表立って批判を受けるようなことはなくなっている。

 だがそれも、この計画の進行によってどう傾くかは誰も予想できないでいた。


「タカヤのことを重要視しているのは確かだ。しかし建前としてだけでなく、地上に迫る脅威への対処も優先しているつもりなのだがね」


「存じていますとも。その優しさが彼の救いになることを私も望んでいます」


 その言葉はミナトの嘘だ。

 彼にとって重要なのは地上の安全であり、そのために必要な火鳥タカヤを戦力として確保しておきたいという思惑から、彼を擁護しているに過ぎないからである。

 彼の取り繕った笑顔の意味を理解しているからこそ、ユウイチロウも苦笑を浮かべながらその建前を言葉通りに受け止める判断をした。


「彼の翼竜騎士団への敵意に対して、私の言葉が救いになるとは思っていないよ。ただ、もしも彼が将来、その感情からの解放を望んだ時に、何も出来ない自分では居たくないと思うだけさ」


 タカヤが単身で戦いを引き受けている根元には彼自身の翼竜騎士団に対する根深い負の感情が起因している。

 日頃から驚く程に理性的な行動をする彼が、敵を叩き潰すことに関してのみ一切の容赦がないことがその証明であり、1つの家庭の中に身を置いてもなお、彼の瞳は倒すべき敵を求め続けていた。

 何処までも前のめりに進んでいく子供に対して向ける気遣いの視線が意味するところは、ミナトも言葉として理解するところだった。


「なるほど。貴方は紛れもなく彼の、火鳥タカヤの父親のようですね」


「まだ半人前さ。娘のマイの方がよほどタカヤと家族をやっているとも」


 歪な関係だと思えるこの親子は案外上手いこと回っているようだという認識に落ち着いたことに対して、ミナトの表情は変わらず微笑を浮かべたままだ。

 それは感情を動かすに値しない、純然な事実でしかないと言外に語っているようでもあった。

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