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龍王戦記ドラグーン  作者: たくみ
第二章
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王の器

 機動性に特化したワイバーン・タイプとの戦闘を終えた龍王機は帰還し、専属メカニックである自分の元にたどり着いた。

 機体の整備を行う自分に対しての報告義務があるわけではないが、戦闘時の様子などから強化改修のヒントが得られることもあるため、乗り手のタカヤは特に隠し立てすることもなく話してくれる。

 守秘義務という言葉が頭をよぎるも、そもそも機体の調整のほとんどを自分がやっている以上は秘密もなにもあるまい、と開き直っていた。


「しかし敵の言葉も馬鹿には出来んぜ。ドラグーン・タイプが複数襲い掛かってくるようなら、お前も危ないんじゃないのか?」


 話題は進み、最後の捨て台詞として吐かれた敵兵の言葉へと移っている。

 仮に基本性能の差に開きがあるというドラグーン・タイプの量産がされた場合、戦況が悪くなると思うのは自然のことだと思えたからこその、自分の発言だった。

 タカヤの技量がどれだけ優れていようと、物量の差で押し切られるようなことになれば一溜りもないだろうと言うのが、技術者としての結論である。

 その見方そのものは彼も同意見ではあるようだが、量産そのものについては別角度から否定的な意見を述べてきた。


「突出した力を持てば、龍の因子の副作用によって今以上に統制が取れなくなるどころか、下克上を引き起こす原因にもなりかねないからな。そんな機体を翼竜騎士団が量産に踏み切る可能性は、ゼロではないにしても相当低いと思う」


 現状、タカヤが翼竜騎士団に対して優位性を保てているのは敵兵の特性、つまり龍の因子による好戦的な性格への変貌が影響していると言うのが当人の分析だった。

 相手がどんな力を持ち合わせていようと、協調性もなく正面から力押しで攻めることしか出来ない相手であれば、戦い方はいくらでもあるという話は理屈として理解できる。

 しかし制御の利かない暴力ほど恐ろしいものは無く、龍王機の性能がその抑止力として機能している状況は幸いであると言えた。

 しかし、ならばドラグーン・タイプという高性能の機体が生み出された理由がどこにあるのかと考えた時、思い至ったのは至極単純な解答である。


「ひょっとしてだが、アレは元々敵の親玉の機体だったのか?」


 龍王機を示しながらの言葉に、タカヤは頷いて見せた。


「その認識で間違っていない。だからこそアレを失ったことで、連中の侵略行動が遅延しているんだ」


 強力な力を有するドラグーン・タイプを指揮官機として、複数のワイバーン・タイプを従える形と言うのが本来の侵略の形であり、力という価値観しか持たない敵兵の特性を考えれば理想的な支配体型と言えるだろう。

 逆に言えばそれ以外の方法で手綱を握る手段が存在しないということでもあり、ドラグーン・タイプを奪ったタカヤの行動はまさしくその出鼻を挫く行為だったのだと分かる。


「今更だが、そんなものを使っていてお前は大丈夫なのか? 妙な副作用があるとか言わないだろうな」


 龍王機への改修は戦闘に最適化するための言わば外側の部分に集中しており、乗り手と接続される内側の機能は本来のものをほとんどそのまま使用している。

 敵の親玉が使うような機体を使っていて乗り手側に何らかの反動が襲い掛かろうものなら、そんな物騒なものを使い続けさせる訳にはいかない。

 地上の危機的な状況であることは理解していても、それを天秤に掛けて乗り手の安全性を損なわせるような行いは、技術者として許される判断ではないからだ。

 こちらの真剣な思いが届いたのだろう、タカヤは苦笑を浮かべながらこちらの懸念を否定した。


「大丈夫だと思う。俺は元々ドラグーン・タイプをより完全なものにする、データ集めの為に作られたらしいからな」


 だから機体を動かすことに支障が出るような身体にはなっていない筈だ、と言うのがその根拠であるらしい。

 確かに、動かすことにそのものに影響があるようでは役割を果たせないだろう。

 しかしそれは、試作機を動かしさえすれば他は度外視される存在とも解釈できるのだ。

 その可能性にタカヤ自身が気付いてないことは無いのだろうが、龍王機を降りる気がない彼が自らそれを口にすることはないと思われる。

 頑固なところは龍の因子の影響じゃ無いだろうなと思わず皮肉を言いたくなるが、そもそも通じるかどうかは怪しいものだ。

 ならば相手ではなく、自分の価値観の上での例えをぶつけるしかあるまいと思い直す。


「龍王機に乗ることを今さら止めやしねぇよ。ただ、何か異常があれば隠さずちゃんと言えって話さ。機体が原因でお前が体調を崩したなんて話になれば、整備してる俺にも責任が回ってくるってのは分かるよな?」


 責めるような響きを滲ませつつ、言外に無理をするな、人を頼れという意味を込めた言葉の真意がどこまで伝わったかは、正直なところ分からないままである。


「そうだな、気を付けよう」


 それでもタカヤが素直に受け入れて頷いたのを見て、今日はこの辺で勘弁しておいてやろうと、そう思うのだった。

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