龍の爪
圧倒的な攻撃力を持つ相手に対しての対抗策を、高い機動力によって回避する方向で対策を取ったということなのだろう。
幾日かの時間を置いて再度侵攻してきたワイバーン・タイプは、その背の翼の形状を大きく変えていた。
推進力を強引に強化しつつ、前回の機体と比較して全身を覆う装甲が少なく見えるのは軽量化も兼ねているようだ。
こちら、火鳥タカヤの操る龍王機の一撃でも当たれば決着は付きそうだが、的を絞らせないためか縦横無尽に飛び回っているため容易くはいきそうもない。
加えて、息切れして落下しようものなら地上を戦場にすることにもなりかねず、早急に対処する必要にも駆られていた。
恐らく相手の想定とは大きく離れた形ではあるだろうが、敵の改修はこちらに危機感を与えることには成功していたのである。
「スピードに特化した俺のワイバーンの動きに着いてこれるか!?」
こちらの思惑など知る由もない敵兵は、自分の力を誇示するように飛び回りながら接近と後退を繰り返しながらすれ違いざまに攻撃を仕掛けては、こちらの斧槍、ハルバートランサーと名付けた武器によって阻まれている。
妙な角度で打ち込まれては武器破壊になりかねないので、これも長期戦に出来ない理由の1つになった。
なるほど、相手の戦術に対して手持ちの武器の間合いでは相性が悪いのは確かなようである。
しかし、だ。
「ハルバートランサーを警戒して、防御より機動力を優先する選択は予測していたさ」
敵の改修も、戦術も、その思惑も手に取るように分かるのは、どんな計画であれ実行するのが龍の因子に囚われた感情的な兵士に過ぎないからだ。
現に、機動性しか取り柄がないことを自白しながらそれを見せ付けてくる相手の様子は、新しい力に酔いしれて自慢している子供と変わりない。
であれば、確たる目的意識を持って戦いに挑む自分に負ける道理は無いのだ。
「強がりを! こいつでトドメだ!」
推進力を上げるということは、その飛行能力の軌道がより直線的に伸びることに他ならず、現にこちらの挑発に乗って戦術の見直しの無いまま突っ込んでくるワイバーン・タイプの単調な動きを見極めることは難しくなくなっていた。
見切りが付けられる程に、手の内を晒しすぎたのである。
「やはり分かっていないな。貴様らの弱点は機体性能ではなく、その直情的な戦い方そのものだ!」
速度を合わせて後退しながら、ハルバートランサーの穂先と刃の間に丁度収まるようこちらに振るわれている剣の鍔元を目掛けて突き出し、捻る。
驚く程にあっさりと、剣は根元からへし折れた。
角度を考えて受けていた得物と、角度など気にせず叩き付けてきた得物の違いもあるが、これは単に質量の差に開きがあったことが原因である。
「バカな!?」
目の前の状況を受け入れられず驚愕し硬直した敵兵の隙を悠長に待ってやる義理はない。
得物を預けた手とは反対の左手を突き出すと、ワイバーン・タイプの額を鷲掴みした。
龍王機の武器は、ハルバートランサーだけではない。
「龍の爪の餌食になれ。ネイルクラック、発動!」
「が、あぁぁぁ!?」
額に突き立てて食い込んだ爪から発生した電気パルスが、機体内部を巡る神経に干渉して容赦なく焼き尽くす。
龍の因子による機体制御の応用で、敵の神経に強引に干渉して動きを奪う技であるが、どうにも力の制御が追い付かずこの威力を発揮するのだ。
敵に容赦する必要がないので問題なく使用しているが、自身の消耗を考えればもう少し制御出来た方が応用できそうな能力である。
それも今後の課題だと結論付け、動かなくなったワイバーン・タイプに視線を向ける。
「おのれ、ドラグーン・タイプさえあれば、お前なんか、に……!」
それが最後の言葉となった。
力なく垂れ下がるワイバーン・タイプを抱え直しながら、苦笑混じりに呟く。
「どんな力を持ち合わせていても、使い方を誤れば結果は同じ。まずは新たに得た力をよく知るべきだったんだよ」
自分にはそれが出来る時間と環境があり、戦うことへの目的意識も得ることが出来た。
それが翼竜騎士団の兵士と自分の間にある唯一の、そして最大の違いなんだと確信していたのである。