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龍王戦記ドラグーン  作者: たくみ
第一章
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翼竜騎士団

 空の上から現れる襲撃者を迎え撃つ為に必要な能力が、龍王機には備えられている。

 飛行能力もその一つであり、敵が地上へと降り立つ前に迎撃できるのは元より、戦場を上空とすることで地上の施設や環境へのダメージを抑えることを目的としたものだ。

 しかし火鳥タカヤとしてその力に望むものは、如何に敵機との間合いを詰められるかの一点に尽きる。

 故に上空へと舞い上がり相手を視認した時には感情の昂りを抑えられなかったものであるが、それは相手も同じだったようだ。


「見つけたぜ、裏切り者ォ!」


 振り上げた長剣を自重を含めた推進力ごと叩き付けようとしてくる巨大な人影を確認した時、身体は既に反応して行動に移っていた。

 敵対者を討つべく意識を集中した状態で殺気を振り撒きながら襲ってくる相手に反応できない道理はなく、手にした斧槍の先端部で絡めようとする要領でその一撃を受け止める。

 龍王機と同じような形状を持ち襲い掛かってくるような相手など、確認するまでもなく自分が求めていた討伐対象であることが知れた。


「裏切りだと? 貴様らが俺を信用していたことなどあるまい、翼竜騎士団!」


 口にするのも憚られるほどの恨み辛みを噛み殺しながら、受け止めた相手の姿を横目で確認すると、記憶にある通りの敵機の姿に相違ない。

 白いボディに龍を象った蒼の鎧を纏い、背中には龍王機より更に大きな一対の翼を生やした姿は、ワイバーン・タイプと呼ばれる種類の外骨格であると記憶していた。

 量産を想定して生み出された兵器を保有する彼ら侵略者たちこそ、翼竜騎士団を名乗る武装集団なのである。


「我々と同じ力を与えられながら、ドラグーン・タイプを強奪して地球に寝返ったお前が、裏切り者でなくて何だと言うんだ!」


 力任せに押し切ろうとしてくる相手だが、初撃の勢いを失った状態で膂力だけで龍王機を上回る出力を得ることはできない様子であり、変則的な鍔迫り合いの体制のまま膠着してしまう。

 相手は全員が龍の因子を埋め込まれた組織であり、故に理性を凌駕する衝動に晒された者たちの集まりである以上、その統率は力の大きさとその誇示の手段が優れた者たちが行うのが常であることから、このような場面であっても退く姿勢を見せることはない。

 対して、受け流してしまえば地上に敵機を近付ける結果になりかねず、推力で押し切るには覆い被されるような体勢が足を引っ張ってしまっていて行動に移せなかった。

 今は挑発の意味も込めて会話を引き伸ばしつつ、隙を伺うことが最適であると判断するしかない。


「あの場に留まれば、貴様らの言いなりの兵器となって地球侵略に使われる以外の道など無かったろう」


「元より支配者となるための力だ! それの何が悪いと言うのだ!」


 思った通り、会話を成立出来る程の認識の共有は成されていない様子だ。

 力の行使が行動の基準であり、勝者が善、敗者が悪という価値観は暴力を肯定しており、力によって排除しない限り蹂躙され続けることになるだろう。

 敵への怒りが身の内側より沸き出すことを自覚した瞬間、我知らず力を込めた斧槍が相手の剣を力任せに押し返していた。

 均衡を崩され僅かに隙を見せたワイバーン・タイプに対して、得物の自重を利用して切り返した一撃をお見舞いする。


「力に任せて暴れるしか能の無い貴様らと、一緒にされる筋合いは無い!」


 それを剣で受ければへし折れるだろうという予測は立ったのだろう、龍王機の攻撃に対して必要以上に間をとって後退した敵機は、そこから迂闊に飛び込んでくるような真似はせず、こちらの動きを警戒するようにその場に滞空した。

 しばしのにらみ合いを経て、相手の方から手ではなく口を出してきたことは珍しい反応だったかも知れない。


「支配者になれるだけの力を持ちながら、地球にすがり付くしか出来ない権力者どもに使われるのがお前の選択なのか?」


 力という価値観しか理解できないからこその言葉に、物悲しさを覚えない訳ではない。

 だが少しでも同情してしまえば、新しく出来た家族を含め戦う力を持たない者たちが蹂躙される結末に繋がりかねない、危険な思想でもあるのだ。

 制御の利かない暴力こそが、自分が徹底的に潰すべき敵である。

 だからこそ敵兵の問いに対して、毅然とした口調で答えることが出来た。


「その力で傷付くのは、権力と暴力に振り回される力なき人間だ。だから俺は、そんな力の使い方をする貴様らを許さない!」


 返答は無い。

 その代わりとばかりに、敵機は今度こそ相手を切り伏せるべく手にした剣を振り上げて身構える。

 これに応じるように、龍王機もまた斧槍を振りかぶって相手の玉砕覚悟の突進を警戒した。

 永遠とも一瞬とも取れる沈黙を挟んで、敵対者は言葉を紡いだ。


「許しなど乞うものか! お前の不完全な龍とは違う、与えられた翼竜の力を見せてやる!」


 その言葉を最後に、ワイバーン・タイプは展開した羽の推力を全て解放して間合いを詰めるべく前進する。

 対する龍王機もその動きに合わせて間合いを計りながら、手にした斧槍を薙ぎ払った。

 交差は一瞬のこと。

 そして。


「……借り物の力で威張り散らすような相手に、俺は負けない。貴様ら翼竜騎士団は、俺が一人残らず叩き潰す!」


 斧槍によって剣ごと両断されたワイバーン・タイプの残骸にその一言が、戦いの終わりを告げたのである。

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