天からの襲来
五感を超えた感覚が捉えた異物の存在を認識した自分の表情が険しくなったことを自覚しながら、その視線は遥か上空へと向けられた。
「奴らが、来る」
決して違えることはない、仇敵とも言うべき相手を認識した自分の中で、人為的に植え付けられた闘争本能が刺激される。
感情が昂り、今にも暴発しそうな雰囲気を纏い始めたことに気付いたのだろう。
傍らに立っていた少女が、不安そうな声色で問い掛けてきた。
「やっぱり戦いに行くの、兄さん?」
視線を向けた先に居たのは、妹の火鳥マイ。
自分を火鳥タカヤとして受け入れてくれた、心優しい家族の一員である。
陰りを見せる表情を目の当たりにして、熱くなりすぎた自身の感情が徐々に落ち着けながら、僅かにでも彼女を安心させるべく笑顔を取り繕いながら問いに答えた。
「俺を家族として受け入れてくれたマイや、家族の皆が危険に晒されることになる。黙って見過ごすわけにはいかない」
真っ当な人間とは言えない存在の自分を受け入れてくれた場所は、自分にとって掛け替えのない居場所でもある。
上空から降り立ってくる存在は、それを根本から奪い去ってしまう脅威であり、そして奴らを圧倒するだけの力が自分には備わっていた。
他ならぬ、奴らによって与えられた力が。
「戦いが終わったら、ちゃんと帰ってくるよね?」
こんな自分であってもその身を案じてくれるマイの存在は心苦しく、それ以上にありがたいものだった。
だからこそ、自分は戦いに狂うのではなく、その先の未来を望むことが出来るのだから。
故に不安に囚われたままの妹の再度の問いに対して、自分は笑顔で頷いてみせた。
「当然だ。俺の帰る家は、もうここにしかない」
ハッキリと告げた言葉がちゃんと伝わったのだろう。
マイは不安そうな表情こそそのままに、それでも笑みを浮かべて頷き返してくれた。
「じゃあ、待ってるから。兄さんが帰ってくるのを、家族みんなで」
「分かった。なるべく早く片付けて帰るよ」
答えながら背を向ける。
立ち向かうべきを見据え、守るべきを背に、自らの意思で戦いに赴くために。
敵を見据えた両の瞳の瞳孔が獣のように開き、全身を巡る血が熱く滾り、身の内から涌き出る力が押し出され全身の体毛を逆立てる。
望まざるままに与えられた龍の力が全身を駆け巡るのを感じながら、敵対者を迎撃すべくその場を駆け出した。
「行ってらっしゃい、兄さん。気を付けて!」
背中から掛けられた最後の言葉に振り返ることなく、それでもその言葉を深く心に刻み付け、戦場へと駆ける足を早める。
「行ってくる。奴らは、俺が潰す!」
誰にともなく呟いたその言葉は、これから成し遂げるべきことへの決意表明だった。