第8話
「一先ず武装のチェックは終わりましたけど…ほぼ近接格闘兵装しか無いですね」
イリスはモニターにファントムの武装一覧を表示して使用可能な武装をチェックしていた。
アンカーワイヤーに大型ヒートナイフ、頭部バルカン砲にさっき使おうとして結局使えなかったビームソード。
今の所このぐらいしか武装は無い。
「…ふむ、まぁ仕方あるまい。主兵装は、というかそもそもこのファントムは状況に応じて兵装を変える仕様なのだよ。近距離、中距離、遠距離とそれに対応する装備があったのだが…」
あった?何故過去系なの?
「実は、もう動かない機体には必要無いという上からの指示で各パーツは改修して統合軍のカスタム機に装着されている。一部は馬鹿な統合軍高官によって闇ルートへ流された」
「……」
イリスが無言でフロイトを見る。
「い、いや!私は反対したのだよ!?だがあの当時私にはそこまでの権限は無かったんだ。それに私は彼女との約束、いや、契約を実行してここまでファントムを輸送する段取りを仕組むのにどれだけ苦労…ん!んん!!…各パーツについては私の方で何とかする、とにかく今は現状で使用可能な武装で対応してくれたまえ」
明らかに何か誤魔化したけれど…どのみち無い物ねだりをしたところで何も解決しないし…
「とにかく!早目にソルシエールと合流した方が良い、君の怪我も治療しないといけないのだからな」
今は不思議と痛く無いけれどそれは一時的なものだと思うし早目に治療したいとは思うけれど…
「その…ソルシエールって何ですか?」
「統合軍が建造した高速戦闘艦だ、まだ試験航行すら終わってないがね…多分ここを襲った連中の標的はソルシエールと"レムレース"そしてこのファントムじゃないかと見てるんだが」
「そこに向かえばお父さんと合流出来るかな??」
「うむ、ソルシエールからダリウス中佐の部隊へ通信を送れば合流出来ると思うが…ん?イリス君!機体を4時の方向へ向けてくれないか!」
言われてファントムの頭部を4時の方向へ向ける
「あれは…確かさっきお父さんを助けてくれた…」
望遠モードにしたモニターに映し出されたのは先程敵に体当たりをして逃げるキッカケを作ってくれたAFだった。
基本的なカラーリングは白で所々青い塗装が施された機体は2機のAF相手に大型のハルバートを振るって応戦していた。
「今日は厄日か…!えぇい、何故今日に限って動く筈が無い様な機体が動くのか!イリス君、あの機体"レムレース"を援護に行けるかね?あれはソルシエールへ配備される予定の機体なのだ。今失う訳には…」
「どこまでやれるか分からないですけど…行きます!」
今度は失敗しないように慎重にスロットルレバーを押し込むとファントムはそれに応えて加速してゆく。
小さな頃はお母さんの膝の上だった、でも今は…
「お母さん、私はもうこんなに成長したよ…?ファントムを動かせるんだよ…?」
シートから伝わる振動…流れていく景色、イリスは今10年前にリースと一緒にいたその場所へと再び戻ってきた。
「…行くよ、ファントム!」
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「ニール、もしかして私達…イリスを見つけられない…なんて事にならないかなぁ」
「俺もそんな気がしてきた。そもそもここどこだよ?」
「オストローデンは広い、多分研究者の居住区画辺りだと思う。出来るだけ建物は壊さないようにしろよ?後から捕まるのは確定だが余計な罪を重ねる必要もないだろうさ」
捕まるのは確定なのかよ…
うへぇ、と嫌な顔をするニール。
「当たり前だろ、どこかの馬鹿がマイクを入れたまま喋るからな!本来は使うだけ使ったらどこかの段階で乗り捨てるつもりだったけど…それも出来なくなった」
「ま、別に良いぜ。友達を助ける為にやったことに後悔は無い!」
「…お前のそういう所が好ましいね」
「うげぇ、俺はノーマルだぞ?!」
二人が馬鹿な話をしているのを聞き流しながらアリアはずっとレムレースのデバイスを操作していたが…はぁ、とため息を吐く。
「色々と誤魔化して起動したから不安だったけど、一応戦闘が出来る位には再調整出来たよ」
あなた達が馬鹿話してる間にね!とまたため息を吐く。
「イリスが何処にいるのかも分からない、まして自分達も迷子…それに、何で私達に追っ手が掛からないのかも気になるし…色々とおかしいからニールもロイも気を引き締めてね」
「お、おう。分かってるよ」
「すまない」
「それと…この子のエネルギー残量も半分切ってるからね?戦闘が出来ると言ってもそんなに持たないから気をつけて」
歩かせるだけならそう消費はしないが戦闘となれば別だ。
「イリスを早目に見つけて逃げよう。イリスもだがもし俺達も賊に捕まったら…」
最悪な状況が頭に浮かんだ3人に追い討ちをかけるようなタイミングでアラートが鳴り響く。
「そんな事言うから!」
真正面からスラスターを吹かして突撃してくるのは先程自分達が体当たりで弾き飛ばしたスピア改と通常タイプのスピアだ。
「あのスピアが来たって事は…ダリウスさんがやられた…?!」
「ニール!撤退!ダリウスさんを倒せる様な相手に勝てるわけ無いから!全力で撤退!」
「おう!」
ニールがスロットルとフットペダルを操作するとレムレースはバーニアを吹かして全力で後ろ向きに移動していく。
機体前面を腕に装備した大型のシールドで隠しながら移動するニール。
「へへん、これなら撃ってきても問題ないぜ?」
ニールは操縦実技は学院で3番目に上手い。加えてニールの父親はフリーの傭兵で父親に小さい頃からAFの操縦訓練を受けていたおかげで実戦でも通用する動きが出来ていた。
「親父が言ってたんだ、敵に背を向けるな。背中を撃たれればバーニアが破壊される危険がある、戦場で足を止めれば死ぬってさ!」
盾でコックピットを守れば少なくとも一撃で終わる事は無い。後は追いかけて来た敵に下がりながらライフルを撃てば敵は諦める事が多いがそれでも突っ込んできたら…後は自分の技量次第だ。
「ニール、お前ってAFを操縦してるときは輝いてるな」
「操縦している時だけかよ!?…つーか二人共もう口を閉じて何かに捕まってろ!突っ込んできやがった!!」
ライフルを撃ち込んでも盾でガードされる事に焦れた一機がサーベルを引き抜きバーニアを全開にして突っ込んでくる。
「おおおぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁ!!!」
敵のスピアがサーベルを振り下ろした瞬間、ニールはレムレースを前へ押し出し、敵の腕を掴んでサーベルを止めると膝蹴りを繰り出した後思い切り地面へと引き倒す。
「うし!親父に比べたら弱い!」
『中々やるじゃないか、だが詰めが甘い』
引き倒したスピアに気を取られた瞬間聞こえた声と共に振り下ろされた一撃でレムレースの左腕が宙を舞った。
「あぶねぇ…なぁ!」
残った右腕で背中からスライドしてきたハルバートを掴んで横薙ぎに払うと敵はすぐにその場から引いて間合いを取った。
「やべぇ、腕を…」
シールドが装備された左腕が無くなってしまい片腕となったレムレース。
「だから逃げようって言ったじゃない!」
「いや、あの時突っ込んできた奴をそのままにしてたら逃げ切れなかったんだって!」
どうする…?結局最初に引き倒したスピアも立ち上がってこっちを狙ってるしな……
レムレースの射撃兵装は盾と一体型のショットガンだけだ、それも無くなった今武装はハルバートしか無い。
『聞こえるか?俺達の目的はそのAFだ、命は保証するから投降しろ』
『本当か?投降したら命は保証するんだな?』
『ああ、保証しよう。俺は約束を違えないのが自慢でね…"黒狼"の名に賭けて誓うとも』
「黒狼…!?マジか…!」
「何?有名なの??」
「フリーランスのAF乗りで多分一番有名だぞ」
「…どうする?本当に助かるかは分からないぞ…ってニール!避けろ!!」
咄嗟にニールはスラスターを吹かして横に回転しながら転がり、さっきまで居た場所をライフルの弾が通りすぎた。
「くそ!やっぱり嘘かよ!ふざけんなぁぁぁぁぁ!!!」
そのまま姿勢を強引に建て直し、ハルバートを肩に担ぎバーニア全開で今撃ってきたスピアへと肉薄すると一気にハルバートを振り下ろしてスピアを両断する。
だが無理矢理姿勢を変えた代償として振り下ろした状態から復帰するには数秒はかかる。
その隙を見逃して貰える筈もなく…
『俺は本気で見逃すつもりだったがな…!コックピットだけ潰せば問題は無い』
迫るサーベルにニール達は目を瞑る…だが、そんな彼らの予想とは反してコックピットが潰される事は無かった。
『やらせない!』
声と共に割り込んで来たのは黒いAFだった
自分達が体当たりで窮地を救った時の様に今度は黒いAFが相手を体当たりで弾き飛ばす。
『大丈夫ですか?!その白いAFの人!』
その声を聞いて驚く3人
『『『イリス?!』』』




