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あの日見た流星  作者: カルバリン
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第7話


「艦長、たった今通信が入ったのですが…」


ソルシエールの通信担当であるエイミが首を傾げつつそう報告する。


「エイミ、報告はハッキリとしなさい。何か問題が??」


「すみません、間違いなくこのソルシエールの回線に送られているのですが…識別信号が"メテオ"と表示されてるんです。こんな識別信号は統合軍には無かったかと…」


エイミの話を聞いていたジークリンデはガタンと音を立ててエイミが座る通信席へと走る。


「馬鹿な!その識別信号は…」


ジークリンデが通信画面を見ると確かにコール名はメテオ1と表示されていた。


「音声通信ではない…?」


通信を開くとそこには…


敵対勢力のAFと交戦中、終了次第合流求む


と、その一文が表示された。


「…艦長、どうされますか?」


「エイミ、物資の搬入状況は?」


「万全とは言えませんが…ある程度、70%程は完了しています」


報告を聞いたジークリンデは険しい表情をしたがすぐに頷く。


「よし、総員に通達!現刻をもって搬入作業を放棄!ソルシエールはオストローデンを出航する!」


ジークリンデの号令と共に艦内が慌ただしくなる。


「艦長、先程のメテオとは?私の記憶ではメテオなんてコールサインを持った部隊や個人は居なかったかと」


エイミは出航の為に必要なコントロール作業をしながら疑問をジークリンデへ問う。


エイミは通信士兼管制官として優秀な成績を納めたと自身で思っている。統合軍のコールサインは全て頭に叩き込んであるのだがメテオなどというコールサインは聞いた事が無い。


「そうか、エイミは四年前に軍に入隊したのだったね?それならば知らないのも無理はない。…我々の様な古参の軍人、特に出身が旧アレイスト公国の軍人であれば知らぬ者は居ないのだが…」


ジークリンデはどこか遠くを見るように目を細めると口を開く。


「…メテオ、それは我々アレイスト公国軍出身者にとっては救世主だったんだ」


「救世主…ですか?」


「ああ、エイミはアレイスト公国が何処にあったのか知っているかな?」


「ええ、アースにあるドゥバン海峡の先にあった、という程度ですが…」


「では"アレイスト侵攻"についてはどうかな?」


「アレイスト侵攻については詳しい情報が開示されてはいますけれど…色々な情報が有りすぎてどれが正確な情報なのか…」


ジークリンデはそうだろうね、と頷く。


「ベルンホルストがアレイストへ大規模降下作戦を仕掛けるという情報を得たアレイストは全総力をもって迎撃作戦を実施したのさ」


それは悲惨な戦場だったよ、次々と降下してくる敵の輸送戦艦、更にそこから何十機と知れないAFが出撃してくる。


私はその年に軍に入隊したばかりの新兵だったが必死で操縦幹を握り、スロットルレバーやフットペダルをがむしゃらに操作して一次攻勢を生き延びた。


顔に負ったこの傷もその時のものさ。


顔を横断するように斜めに入った傷跡を撫でながらそう言ったジークリンデは続ける。


もう次の攻勢は凌げない。誰もが分かっていた。


一次攻勢でベテランの兵士は大多数が撃破され、戦死した…残った戦力は後方支援に回された新人部隊、私の様に前線で奇跡的に生き残った新兵とその所属部隊の一部という有り様だった。


そして十分な整備も出来ない寄せ集めの残存兵力で挑んだ第二次攻勢…絶望したよ、見上げれば凄まじい数の戦艦…私も恥ずかしい話だがその時ばかりは逃げたいと思ったよ。


『……まだ、まだ死にたくない…!誰か…』


知らず呟いた…もう心は折れて、絶望したよ。


だがね、そんな時…奇跡は起きた。


見上げた先の戦艦が突然赤い閃光に貫かれて爆散したのさ。


何が起こったのか分からなかった、だが目の前では次々と降下してくる戦艦が爆散していく。


『空からの攻撃で戦艦が次々に落ちていくぞ…!』


味方の通信が聞こえて、空を見上げた。そして驚いたよ、あの赤い閃光は空…いや、更に上…宇宙から放たれている事に気が付いた時はね。


降り注ぐ赤い閃光…戦艦の爆発…そんな光景に言葉を失って呆然と眺めていた私は自分へ向けて放たれた敵の攻撃に気が付かなかった。


私の機体はコックピットのすぐ横をライフル弾に貫かれて倒れ、それを見た敵機はソードを引き抜いて止めを刺すために向かって来てね…それはもう必死で敵に向かってライフルを連射したけど多少の時間稼ぎにしかならなかった。


だけど、その時間が私の運命を動かした。


ひび割れて所々映らないメインモニターが映した光景…私は今でも鮮明に覚えているのさ。


遥か上空から真っ赤に赤熱しながら降下してくる機体…その機体に気が付いた敵は私なんぞ目もくれずにその機体へ攻撃を始めたけれど関係無いと言わんばかりにその機体は真っ直ぐこちらへ突っ込んで来たんだ。


落下しながら左腕に構えたガトリングガンの形をした武装が周りにいた敵の機体を蜂の巣にし蹂躙していく。


そのままその機体は地面に衝突して凄まじい轟音と衝撃で意識が飛びそうになったけれど通信機から聞こえた声に引き戻された。


『貴女の声、聴こえたわ。…戻って来て最初に聴こえたのが貴女の声だった…』


鈴の音色のような透き通った女性の声だった。


「き、聴こえた…?」


『そう、心から助けてって願ったでしょう?まだ死にたくない、と。より悪意で満ちた方を助けるよりよっぽど良い…でも、生き残れるかは貴女次第かな』


不思議な感覚だったよ…だが彼女の言葉は私を奮い立たせ、壊れかけた機体もそれに応えるように最後の力を振り絞ってくれた。


その人は私の周りを取り囲んでいた残りのベルンホルストの機体を全て一掃して次々と他の味方を助けてくれた。


「深紅の重装甲、肩に描かれた死神、半分溶解したフェイスガード…私は心当たりがあった」


「それは…もしかしてあの有名な…」


その様な特徴を持つ機体は後にも先にも一機だけだ。


「そう、己が復讐の為に有名なクランを7つ、鎮圧に出向いたヘリオス帝国の艦隊を単機で全滅させた史上最悪の復讐鬼…"深紅の死神"さ」


だが私達にとっては命の恩人だ、そして戦場で味方として識別するために急遽アレイストから与えられたコールサインが『メテオ』…彼女が空から降ってきた様子が流星に見えた事からついたコールサインさ。


「しかしそれももう10年以上前の話で、彼女はかなり昔に死亡したと記録されているからエイミが知らないのも無理はない。一体何故このコールサインが使われているのか…確かめる必要がある、それに…このソルシエール本来の任務を遂行するために戦力はあるに越した事はない」


しかしもし、もしも本人が生きていたのなら…あの時の恩を返す事が出来るかもしれない。


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