第5話
「なぁ、いつまで黙り決め込むんだ?」
「……………………」
「逃げようとか考えるなよ?それをされたら俺はお前に対して紳士じゃいられなくなるからな」
どうしよう…このまま捕まったままじゃ…
周りを見ても特に何か出来るような事があるわけでもない、ただ一つあるとしたら…
……お父さんが来たらどうにかしてこの人の邪魔をして隙を作る位しかないか。
『ハリード、このまま進めば例の場所だ。油断するな』
「わかってんよ…せっかくこんなAFまで用意して貰ってんだ、仕事はするさ!…っ!?」
先程までの雰囲気を一気に掻き消すかのようにアラートが鳴り響いた。
『来たな!"レッドライトニング"』
その異名の通り、鮮烈な赤で塗装された機体は凄まじいスピードでこちらへと迫ってきた。
「嬢ちゃん、ちっと大人しくしてろよ!舌噛むぜ!!」
「わわっ!?」
ハリードと呼ばれていた男はフットペダルを踏み込んで後方に移動しながら腕部に装備された機関砲を連射していく。
『貴様らがどこの誰かは知らん。だが相応の落とし前はつけてもらおうか!』
機関砲の弾幕を回避しながら加速していく赤い機体が腰に装備されたサーベルを抜き放ち、それに合わせるようにハリードもサーベルを引き抜く
『お、俺だってそれなりに修羅場を…』
生き抜いてきた!と続けようとしたが、それは叶わない。
相手はレッドライトニングの異名をもつ統合軍のエース、一介の賊が敵う相手では無い。
抜き放ったサーベルはハリードの機体の腕を斬り落とし、更にスラスターを吹かして姿勢を華麗に変えて右の脚部を斬り飛ばした。
『うおっ!?』
何が起こったのかわからぬままハリード機は地面へと転がり致命的な隙を晒す、だがしかしそこへ声が掛かる。
『そこまでにしておけよ、レッドライトニング!お前が今攻撃した機体には……お前の娘も乗っている』
今まさに止めを刺そうとサーベルを振り上げた赤い機体はピタリと停止する。
『なんだと?そんな戯れ言を…』
『嘘だと思うのであれば攻撃を続けるがいい、その代わり娘とは永遠にお別れになるがな』
そしてハッチを開くとイリスに銃を突き付けて出てくるハリード
「娘の命が惜しかったら機体を捨てろ」
「…お父さん!私は良いから…!戦って!」
「黙ってろ!」
叫ぶイリスを銃で殴るハリード
『やめろ!分かった、機体から降りる!だからイリスには手を出すな!』
くそっ!まさかイリスが捕まっているとは…
「…イリスを死なせる訳には、いかないな」
ハッチを開こうと手を伸ばした時…
『うぉぉぉぉぉ!!!ちょっとまてぇぇぇぇぇ!!』
叫び声と共に凄まじい勢いでもう一機の海賊に体当たりを仕掛けるAF…ニール達の参戦で状況は一気に動いた。
拘束らしい拘束はされていなかったイリスがハリードの事を咄嗟に突き飛ばしてAFから飛び降りたのを見たダリウスは直ぐにハリードが乗っていたAFに止めを刺して行動不能にするとイリスを回収しようとした。
だがイリスは身振り手振りで"大丈夫"と示して走って行ってしまった。
嫌な予感はしたがそれよりも…
『救援には感謝する…どこの部隊に所属してるのか教えて貰えると助かるんだが…』
目の前で体当たりから体勢を整えられず四つん這いという情けない格好となっている見慣れないAF…レムレースへ問いかけると聞いた覚えがある少女の声が響く。
『……あー、死ぬかと思った!』
『この声…アリアちゃんなのか?!何故君がAFに…?』
『ダリウスさん!イリス、イリスは大丈夫ですか!?』
『無事だよ、多分俺の足を引っ張らないように安全な場所へと移動したのだと思うが…』
『…良かった、私達はイリスを助ける為にここに来たんですけれど…このAFを勝手に持ち出してしまいまして…』
『"私達"?他にも誰か乗っているのか?』
ダリウスは通信をモニターに呼び出す様に指示をするとダリウスの機体のモニターにレムレースのコックピット内の映像が映し出された。
映像には操縦席に座るイリスと同じ制服を着た金髪の男子学生…たしかニールだったな、それと初めて見る紫髪の学生、そしてアリアが狭いコックピット内ですし詰め状態になっている様子が映っている。
しかしこのAF…俺の記憶には無いな。オストローデンで造られた新型か?…だとすれば勝手に持ち出したのはかなりマズイな
見た目がどことなくファントムに似ているが…
だがまずは
『…詳しい事情は聞かねばならない、しかしそうもいかんらしい…向こうはまだやる気のようだ』
ゆっくりと立ち上がる敵AF…ハロルドが駆るスピア改と同じタイプの中近距離戦闘用改修機か。
『君たちはイリスと合流してハロルドという俺の部下と合流するんだ!さあ行け!イリスを頼んだぞ…!』
ダリウスの専用機"フラムヴェルク"が左手に装備された機関砲で敵を牽制しながらスラスターを吹かして突撃していく。
「ニール、行こう!私達が居ても邪魔になるだけだよ」
「わ、分かってるさ!」
「あれがエースの動きか。俺達とは次元が違う…」
目の前で繰り広げられている普段自分達がやっている模擬戦など遊びに見える戦いに圧倒されつつもイリスを追う為にその場を離脱していくニール達。
「行ったか…。さっきの男は大して実力は無かったがコイツは明らかに違う」
『………』
『お前達の目的はなんだ、オストローデンに仕掛けるリスクを分かっていてやっているのか?こんなことをすれば統合軍が本腰をあげてお前達を殲滅しにくるぞ』
統合軍…オリアナ、ベルンホルスト、旧アレイストの3国が併合されて出来た新国家『リベル連邦』の軍を指す、オストローデンはAFを開発する為集められた技術者の為に造られたプラネットで、尚且つどの勢力にでもAFやパーツなどを販売している状況から基本的にどこの勢力も手を出せない状態だった、オストローデンに拒否されるとAFを運用する為に必要な物資などが入手困難になる事を分かっているからオストローデンには手を出さない。
それは海賊も傭兵も統合軍も変わらない。
統合軍は駐留艦隊こそ派遣してはいるがオストローデン自体に軍を置くという事はしていない。
『俺達の目的、ね……。いくらエースとはいえ情報は与えられてないという訳か』
敵のスピア改はソードを引き抜いてフラムヴェルクへと斬りかかり、それを迎撃するフラムヴェルクと激しく斬り結ぶ。
『まぁ依頼内容を喋るのはルール違反だが…こんなショボい機体を使わされたんだから憂さ晴らしにはいいか、教えてやろう。今回の標的はな…統合軍最新鋭戦闘艦及び搭載AFの強奪だ』
最新鋭戦闘艦だと?そんなものがオストローデンにあるなど聞いてはいない……が、先程の新型AFを見た後だと信憑性はあるか。
それに…このタイミングでファントムもこのオストローデンに搬入されてきた…偶然なのか?
『ただまぁ、それは海賊連中の目的だ、俺への依頼は…おっと、これ以上は教える必要は……なに?!……分かった、すぐに向かう』
敵のスピア改が一歩後ろに下がると煙が吹き出してその姿を隠す。
「クソ!スモークか!」
『トラブルが起きたんでな…お前に付き合っている暇は無くなった。失礼する』
煙で見えなくなる敵にライフルを撃つが手応えは無い。
「逃げた…のか?…一体何が起こっている………?」




