第42話
『しかし嬢ちゃん、アルテミスを止めるってもどうやって止める?アサルトフレームで押すとかじゃないよな?』
「そんな馬鹿な事しませんよ!プラネットには移動用のブースター以外にブレーキの為のブースターもあるんです、それを操作出来れば…」
アルテミスにいる間に出来るだけ調べて考えた結果それが一番可能な方法だった。
他にも万が一失敗した場合は戦艦クラスの火力を集中してアルテミス自体を外部から破壊する、またはアルテミスの動力を暴走させて自爆させる…手段はあるが被害が桁違いになる為に断念した。
『それなら俺達が中にいるファミリーの連中とブレーキを操作しにいくぜ』
『本当に止めるんだか…まだあたしは信用してない。だからあたしもついていくよ!』
「分かりました…では道案内をよろしくお願いします…えっと…」
『そういや名前言ってなかったな…バートンだ、よろしくな』
『あたしはカーラ、これが終わったらあんたら全員捕まえてやるから覚悟しなよ?』
『そんときゃ改めて抵抗するさ』
「…もうすぐアルテミスの影響範囲内です…っ?!」
アラートが鳴り接近してくる機体を捉えた。
『ほう?何故戦闘区域から引き返してきた?それに…統合軍の機体まで引き連れているな』
『………み、ミレリア様…!…何故こんなことをするんで?アルテミスにゃまだ仲間が大勢…』
『…呼び水だ』
呼び水…?
『もうすぐその為の条件が揃う。貴様らに邪魔をされる訳にはいかんのでな』
ダークブルーに塗装された敵の機体がビームソードを抜き放つがその輝きは通常の輝きとは違って力強い。
「…カーラさん、バートンさん…アルテミスへ向かって下さい。ここは私が食い止めます」
『馬鹿いうんじゃないよイリスちゃん!残して行けるわけ…』
「お願いします、アルテミスを止める為にはもうこれ以上時間は無駄に出来ないんです!」
『…すぐに後続の連中が追いつくから無茶しないように』
「はい!」
バートンとカーラが飛び去っていく
『1人で私を止める?ふ…甘くみるなよ小娘が!!』
ビームソードとビームソードがぶつかり合い激しく発光する。
斬り結んでいる中イリスは別の腕からヒートダガーを射出し、それを回避する為に離れた敵目掛けてワイヤーアンカーを撃ち込む。
『中々に動くじゃないか』
しかしワイヤーアンカーは敵のビームソードに斬られて爆発、敵はそのまま流れるように取り出した大型のショットガンをファントムに直撃させ、コックピット内のイリスは激しく揺さぶられる。
「くぅっ!?」
『止めるのだろう!その程度か!』
連続で撃ち込まれる散弾が容赦なくファントムの装甲を抉る。
いくら硬いとはいっても…このまま被弾が続けば…!
イリスはフットペダルを踏み込んでその場を離脱しつつ背中にマウントしていたバズーカを掴むと連続で撃ち込み空になったマガジンを入れ替える。
追撃の為に加速してきた敵の近くでバズーカの弾頭が爆発、爆風で少しスピードが落ちた敵にアサルトライフルのトリガーを引く。
何発かが敵に命中したが装甲に弾かれてしまいダメージを与えられなかった。
「手持ちの火力じゃ…いや、あれなら!」
もう一度バズーカを構えて今度は少しずつタイミングをずらして撃ち込みながらレバーを押し込んで逆に突撃していく。
『小賢しいな!その程度の武装ではザーフアイネの装甲は抜けぬ!』
ミレリアが最初に飛来したバズーカの弾頭を機関砲で撃ち落とし、少し遅れてきた2発目を躱す。
そして3発目の弾頭と一緒に突っ込んできたファントムが腕の装甲をスライドさせて展開した固定式のビームソードで突きを繰り出すが機体をスラスターで捻って回避し隙だらけとなったファントムにザーフアイネのビームソードが直撃、ファントムの左肩の装甲と頭部の一部を破壊する。
『センスもある、機体も良い…だが足りないんだよ貴様には!経験が!』
続いて振り下ろされたビームソードを掴んで止めたイリス。
『掴んでその後何が出来る!止めたいならば掴むのではなく隙を晒している間に斬れ!』
掴まれた腕をものともせずファントムに体当たりしたザーフアイネはもう片方の腕にビームソードを持ち変えてファントムを貫く。
僅かに躱してギリギリ致命的な損害は避けた
「まだ、まだだよ!」
ファントムを貫いた状態の腕も挟み込んで止めると右肩に装備されていたメガランチャーを遠隔操作で動かしてザーフアイネに向ける。
「この距離で直撃させたら耐えられないでしょ!!いっけぇぇぇぇ!!!」
メガランチャーが放たれザーフアイネとファントムは閃光に包まれた…
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『こっちだ!このドックなら機体を隠せる』
『…分かった』
イリスと別れた二人はアルテミスに到着するとすぐに機体を降りてアルテミス内を走る。
「………」
「そこの通路を右だ、その先に貨物エレベーターがあるからそこを…」
カーラは通路の曲がり角まで来ると貨物エレベーターの方を覗いてバートンに止まれ、と合図する。
「…厄介なものを」
「ありゃあ…防衛型の自動人形か」
貨物エレベーターの前に陣取っていたのは最近開発されたという自動人形…オートマトンだった
「手持ちの火力じゃ厳しいね…こんな事ならちゃんと補給担当と話して支給受ければ良かった…!」
防衛型オートマトンはみるからに装甲が厚そうでありカーラが持っているのは軍用アサルトライフルだが以前補給担当官と派手に喧嘩したお陰でカーラは未だに旧型のアサルトライフルをコックピット内のバックパックに突っ込んでいた。
そもそもアサルトフレームから降りて戦う事なんて無い事から予備の弾薬も最低限しか積んでない。
「軍から支給されんじゃねぇのかよ?」
「最近謹慎処分を受けてたんでね、余計な装備は積んでない」
肩に掛けたアサルトライフルと私物の大型拳銃しか持っていないカーラにバートンが懐から何かを投げ渡す。
「そいつを使え。俺の手製だが威力は保証する」
受け取ったのは通常のものより少し大きいグレネード…それをカーラはピンを抜こうとしてやめる。
「…どうした?」
「こいつの爆発ってどの程度威力がある?」
「まぁアサルトフレームのコックピットハッチ吹き飛ばす程度には強力だぜ」
「ならエレベーターから引き離す必要があるでしょ、危うくそのままやるとこだったわ」
「ああ?…いや、エレベーターは使えねえ。さっき言おうとしたんだが…貨物エレベーターは認証された奴らしか使えねぇからな。制御室にはそれ以外じゃエレベーターの更に先にある点検用シャフトからしか行けねえんだ」
「じゃあ気にする必要ないか」
カーラが言いながらピンを引き抜いてグレネードを放り投げるとオートマトンの目の前に到達した瞬間グレネードの爆炎にオートマトンが包まれた。
「いくよ!」
「おう!」
二人は炎に包まれているオートマトンの脇を通り抜ける為に駆け出したが…
『……ガガ…………侵入…』
燃えながら壊れかけた腕を動かして走り抜けようとしていたバートンを殴りつけ弾き飛ばすとカーラへ腕に内蔵されたガトリングガンを向ける。
「バートン!っつ!?」
なぎ払う様に撃ち込まれるガトリングガンを後ろに飛んで避けるとアサルトライフルで腕を狙って破壊、そのままバートンへと駆け寄る。
「なにヘマしてんだい!早く立って!」
「ぐっ…いや…さっきのであばらが折れた…俺に構わず行け!」
また動きだしたオートマトンにアサルトライフルのトリガーを引くバートン。
「お前は馬鹿か!?あばら骨の一本二本折れた程度で諦めるんじゃないよ!ほら!行くよ!」
バートンに肩を貸しながらオートマトンにアサルトライフルを撃ち続けるカーラ。
「捨てていけばいいもんを…」
「黙って撃ち続けな!」
カーラは扉の目の前に着くとドアノブを回したが鍵がかかっていて開かない
「バートン、ちょっと我慢しなよ!」
「あぁ?!なに…」
カーラはバートンが返事をする前に右足を思いっきり引くと容赦なくドアに蹴りをぶち込んでドアを吹き飛ばした。
その衝撃がバートンに伝わり呻くがお構い無しにバートンを中に押し込むと迫ってきていたオートマトンに弾が切れたアサルトライフルを持ち変えてフルスイングし頭を破壊、よろけた所で回し蹴りを放ってオートマトンが派手に倒れたのを見てバートンがいる通路に入る。
「ほら、行くよ」
「お、おう…」
もう、どっかで代わりを探さないと…と言いながら持っていたアサルトライフルを捨てるカーラにバートンは自分のアサルトライフルを投げ渡す。
「アサルトライフルが曲がるくらいの勢いで殴ればそうなるだろ…」
受け取ったライフルのマガジンを外して確認したあとスライドを引いて肩に掛ける。
「もう弾が残ってなかったから別にいいでしょ?それより…これ以上あんなのが出てきたら流石に…待って、誰か来るわ…」
足音からして1人みたいだけど…何かを押しているような音も…?
「さっさと脱出しねえとな、アルテミスはもう止まらねえ。それに…こんなお荷物まで連れてかなきゃならねえとは」
男が車椅子に乗せた女の頭をポンっと叩く。
「見た目は美人だが意識がねぇから面白くもねぇ…まぁ目が覚めた所で自由は無いけどよ」
車椅子に座っている女は目を閉じた状態で動かない。
近くまできた所でカーラが飛び出して男にライフルを突き付ける。
「ゆっくりと車椅子から手を離せ」
男が素直に手を離したのを見て膝に蹴りを入れて跪かせるとバートンがすぐに男を縛り上げる。
「どっから出したのよそのロープ」
「宙賊って稼業は色々やらなきゃ生きていけねえからな。ある程度道具は持ち歩いてるのさ」
「…おい、こんなことして…!」
「黙れ…!」
カーラがアサルトライフルで殴ると呻きながら続ける
「ぐ…このままじゃ俺達は死ぬぜ?このアルテミスはもう止まらねえからな。だから俺とこの女を…」
「黙れって言ったでしょ。…女?」
言われて車椅子のほうへ近づいたカーラがまさか…と驚く。
青い髪に肘から先が義手…その顔はあの当時と変わらないと思えるが…
「リース…?」
「…誰だ?知り合いなのか?つか…どっかで…」
バートンが尋ねると頷くカーラ
「あぁ、あんたが嬢ちゃんって言ってた子の母親だよ、…リース!大丈夫かい?!生きて…」
「無駄だぜそいつは生きてるが死んでる…もうかなり昔から意識は戻ってねぇよ」
「お前達が何かしたんでしょ!」
男の胸ぐらを掴んで持ち上げたカーラをバートンが止めようとしたが逆にバートンが弾き飛ばされる。
「お、俺は何も…しちゃいねぇ…!アルベルトって奴は色々と…弄くっていたみてぇだが…少なくとも俺は…コイツを…」
カーラはそのまま男を壁に叩きつけて続ける
「アルベルト…!?奴は死んだはず!」
「…死んでねえ。それにな、死んだはずの人間が生きてる…目の前にいるその女も一緒だろう」
チッと吐き捨て男を下ろす。
「色々弄くったって…まさか」
最悪の想像が頭をよぎるが男は首を振る。
「いや、それはねぇ。神に誓う!俺はそこまで人間やめてねぇよ」
「だが…アルベルトはどうだかな。やたらコイツに執着してたみてぇだから…」
まぁそんな事すればボスが黙っていないがな。厳重に管理されていたから犯したりなんざすれば一発で分かる。
「バートン、制御室は近いの?」
「イテテ…あ?まず謝れよ馬鹿アマが!…まぁ近いがよ、多分もう意味ねえだろ」
「…やっぱ止めに来たんだな?そいつのいう通りもう意味がねえよ、制御室は俺が仕掛けた爆弾で…」
そこまで言った瞬間、通路の奥で爆発が起きた。
「ほらな?もうアルテミスは止まらねえよ。だから早く…」
カーラは喋っていた男を引きずって近くの配管に縛りつける。
「じゃあね、あんたはここでそのアルテミスが落ちないように祈りでもしてたら?落ちたらあんたも死ぬだろうし」
「ふざけんじゃねえ!!落ちるって分かってんだろ?おいていくんじゃねえ!!」
「…止められなかったか、一応俺らの仲間が残った奴らを避難させてるが…間に合わんかもな」
「ギリギリまでやれることをやるしかないわ」
二人が考えていると不意に男が呟く
「ボスには悪いが…ここまでだな…お前ら全員道連れだ」
ピッという音と共に規則的な電子音が男から聞こえてくる。
「……まさか!!」
「今から走っても無駄だぜ?」
まさか自爆を選ぶなんて…これじゃ…
カタッ……
カーラが音の方を向くと…車椅子から立ち上がったリースがいた。
「…リース?あんた気がつい…」
フラフラと男に近寄ったリースが男の前でしゃがむとおもむろに懐へと手を突っ込みカウントを刻んでいた爆弾を取り出して複雑に繋がれた配線の1つを引き抜くと爆弾のカウントが止まった。
「……は?」
驚く男を無視して立ち上がったリースは相変わらずフラフラとしながら貨物エレベーターの前に行く。
あわてて追いかけたカーラが肩を掴むとリースが振り向く。
「あんた…大丈夫なのかい?!ずっと…」
「…………だ、れ?」
「私だよ!カーラだよ!忘れたのかい!?」
ふるふると首を振るリースにカーラは何か様子がおかしいと感じる。
「……まさかイリスちゃんの事も覚えてないんじゃ…」
「イリ、ス………っ!!」
ビクッと身体を震わせて頭を抱えたリースが何度もイリス、と呟く。
「わ…わたしが…………レド…も………イリスも……」
激しく頭を振るリースを見てカーラは男に駆け寄り問い詰める。
「リースに何したの!全部吐け!吐かないなら」
腰からハンドガンを引き抜いて眉間に突き付けると何かを見て笑う男…
「あぁ…なるほどな。だからボスは…」
「何をしたと聞いている!」
「おい…カーラ、」
「バートンは黙ってて、コイツの返答次第で今すぐ…」
「カーラ!貨物エレベーターが!」
カーラが振り向くと貨物エレベーターの表示がどんどんこの階に近づく。
「……来るぜ……………本物の”死神”がよぉ」
表示がこの階になり巨大な貨物エレベーターの扉が開いていく。
中には膝をついた状態のアサルトフレームが一機。
そのアサルトフレームが立ち上がってゆっくりと歩き出すとリースの前で止まってもう一度膝をつく。
嘘…あれは確かリースが封印したはず…!それに…リースが乗っていないなら誰が…??
ゆっくりとリースへ腕を伸ばすとリースが振り返る
「……………あ………あぁ…………!?」
リースの頭に流れる記憶………今まで霞んでいた記憶…甦るそれは…
「あはぁ……ゴミ掃除をしないと…そう言いたいんでしょ?”ディステルガイスト”」
さながらダンスで差し述べられた手を取るかのようにディステルガイストの腕へと手を伸ばすリース。
手のひらにリースを乗せたディステルガイストがコックピットハッチを解放すると…中は無人だった。
「カーラ、ありゃ何なんだ!お前何か知ってるんだろ!?」
揺さぶられても呆けているカーラに男が口を開く。
「教えてやれよ、ありゃお前でも知ってるとよ。…ディステルガイスト、まぁ有名なのはもう1つの名前だ…知ってるだろ?”深紅の死神”だよ」
バートンは名前を聞いて驚く。
その名前は宙賊の間では有名だ…しかしそれは…
コックピットに収まったリースがレバーを握りしめるとディステルガイストは歓喜に震えるかの如く駆動音を高める。
「…リース、あんた…何をされたのよ…」
『…………?何を……?』
「私の事を忘れたのはいい、だけど…イリスちゃんはどうするのよ!!あの子は…」
『…イリスは…死んだ。私の…大切な…っつ!』
……どういう事?忘れたというより…
『アルベルト…今行くからぁ……絶対に…アルベルトも……”帝国”も…ぜぇーんぶ皆殺しにしてやる』
ゆっくりと貨物エレベーターの扉が閉まり始め、カーラが叫ぶ。
「待って!待ちなさいよ!!リース!!」
まるでもうカーラ達など見えていないリースがディステルガイストと行った後…
「あんた、一緒に来てもらうよ。リースの事を話してもらう」
「へいへい。もう自爆も出来ねぇ以上従いますとも」
無造作に捨てられた爆弾に視線を投げてから肩を竦める。
「しかしあの女…帝国とか言ってたがどういう事だ?帝国なんざもうとっくに…」
「多分…リースの中では終わってないのかもね…」
リースの記憶がおかしな状態になってるのは間違いないが…多分元々蓋をしていただけだったのかもしれない…復讐という狂気に。
「急ぎましょう、こうなったら最終手段よ」
「あぁ、戦艦で一斉攻撃だな」
「内部から爆破する」
バートンはまさか無いだろ、と思っていた手段を平然と言い放ったカーラにため息を吐くがそれに続いてカーラに引き摺られていた男が駄目だ、と真剣に言う。
「信じてくれるか知らんが…アルテミスを爆破すんのだけはやめとけ。今このアルテミスには廃棄プラネット解体用の液体爆薬が腹一杯積んである、爆破なんてしてみろ…この宙域にいる奴ら全てお陀仏だぜ。俺だって出来るなら死にたくはねぇ」
「なら戦艦からの一斉攻撃も無理…やっぱ周辺にいるアサルトフレーム全機で押し返す…?」
無茶苦茶な事を言い始めたカーラにバートンは少し考える…
押し返す……アサルトフレームが幾ら集まった所で大した意味はねぇ……
「カーラ、押し返す…のは無理だが軌道は変えられるかも知れねぇ。ブレーキ制御室は壊されたが軌道修正用スラスターは別の制御系統の筈だ」
「…確かにそうだな。俺もそこには何もしてねえ…軌道をずらす為の距離なんざ残らねえと思っていたからな」
嬢ちゃんから教えてもらったタイムリミットまではまだある…スラスターと合わせてアサルトフレームや戦艦で無理矢理なら…
「バートン、あんたはスラスター制御をお願い。私は外に出て周辺の部隊を全て集めて押すわ」
「頼む、俺の部下がドックに集まってる筈だからそいつらも使ってくれ。他の連中にも説明するように部下には言ってある」
わかった、と言って走り去ったカーラを見送った後バートンは男をもう一度配管に縛る。
「もし成功しなかったら死ぬな、ザイル」
「…どうだかな。死ぬのが今か、それとも少し後になるかの違いだろうよ」
バートンが制御室に向かった後1人残されたザイル
「………深紅の死神………か。戦ってみたかったんだがなぁ」
「それは叶わぬ願いです」
「な!…お前は…………」
そこに現れたのはジェーン…いつもの仮面を外した彼女は静かに銃をザイルへ向ける
「ああ…仮面ですか?ここにありますよ。まぁ貴方が真実を知る機会は来ないでしょうね」
懐から仮面を取り出して地面に落としたジェーンが銃を突き付ける
「…どうなってやがる!さっきここから出ていったのは…」
ターン、と乾いた銃声が響き渡る。
「………これで分かりましたか?私は貴方が探していた人物ではない。…いえ、本物ではない、と言った方が良いですか」
振り向いたその顔を見てレウスは…
「リース、じゃないのか…?」
「違う、と言えば違いますし…違わないと言えば…ですね……私は…彼女のクローンです。あの機体を動かす為に造られた」
「馬鹿な…そんな事が出来るなんて聞いた事が無い!」
「しかし事実です。目の前にいる私が証拠だと思いますが?」
確かに…何度見ても本人としか思えないが…
「…記憶は、あるのか?」
「無いですが…そうですね、肉体に宿った記憶といいますか…たまに知らない筈の光景などがフラッシュバックすることはありますよ」
「…だから初めて会ったあの時…」
会ったことがあるか?と聞いた時に”分かりません”と言ったのか。
「その…すみません。貴方はリースを憎んでいるのでしょう?そのリースと同じである私が不愉快ではないのですか?」
憎む…か。確かに今まではそうだった。
だがアルベルから聞かされた話に嘘はなかった…リースがなぜあの様に狂ったかの真相に触れた今は…
「俺からもいいか?…身体に宿った記憶と言ったな?ならもしかしてアサルトフレームの設計などリースの技術も…」
レウスの質問に対してジェーンは首を振る。
「それは無理です。朧気にはありますが…それよりも鮮烈な記憶によって塗り潰されているといった感じですね。彼女にとって一番記憶に残っていた…彼女と夫との最期…です」
ジェーンが語った内容は壮絶だった。
何発もの銃弾を浴びて挟まれて使えない右腕を自分で引きちぎり…この時点でいつ死んでもおかしくない筈だが最後は…
「燃え盛る格納庫から夫の死と引き換えに脱出…か」
「はい…その後は途切れ途切れであまり分からないですが…1つ言えるのはディステルガイスト…あの機体は何かおかしいと。貴方も見たでしょう?勝手に動いていたあの機体を…自動操縦ではあんな動きは出来ません」
アルベルとあのカプセルを回収しに行った帰り…俺達はディステルガイストに一瞬で行動不能に追い込まれた。
自動操縦であの反応は出来ない、それこそ熟練のパイロットでなければな。
「…これで思い残す事は無くなりました。レウスさん…私はもう貴方と共に戦う事も出来ない」
「何を言っている?」
「私はこの後廃棄される予定ですので。今まで…」
「廃棄?どういう事だ?!」
「私は出来損ないなのです。アルベル様の真の目標…リースが目を覚ますと同時に”あの子”も…」
「ジェーン、待て。お前はそれで良いのか!」
「良いのか、と言われましても私はもう存在する理由がありませんから」
「…ジェーン、そこまでです」
「アルベル…ジェーンが言っていたのは…」
「事実ですよ、この後ジェーンは廃棄となります…どのみちもう長くは生きられないですから」
「何だと?」
「クローンとは未完成技術なんですよ。複製されて生まれた人間に何もデメリットが無いと思いますか?」
造られてから大体5年、もっと長くても10年は生きられないんですよ
アルベルの言葉に頷くジェーン。
「しかし…ジェーン、どういうつもりですか?貴方には彼を始末した後に死ぬように命令した筈ですがね」
「………………」
「やはり失敗作か。…良いでしょう、最後に貴女の完成形の実験に付き合ってもらうとしましょう…来なさい04」
アルベルの後ろから現れたのはリースに似た少女だった。
だが似てはいるがそっくりではない…青の髪に混じって所々赤い髪があり、顔も少し違う…まるでリースと誰かの子供みたいな印象だった。
「04、貴女の最初の任務です。あそこにいる男を始末しなさい、彼は秘密を知りすぎました」
頷く少女がナイフを取り出す。
「レウスさん…逃げて下さい。何とか止めますが…私ではあの子に勝てません」
「だが…!お前は…!」
「聞いたでしょう?既に私は造られてから5年が過ぎてます…あとどれだけ生きられるかも分からない。しかし貴方は違う…っつ!?」
レウスへと地を這うように接近してきた少女がレウスの心臓目掛けてナイフを突き出す…反応が遅れたレウスは死を覚悟したが…レウスを突飛ばしてジェーンが割って入り貫かれた。
転がったレウスはすぐに立ち上がって銃を抜くと少女…ではなくアルベルへと向ける。
「どれだけ動きは速かろうが…俺が死ぬよりアルベルに弾丸が命中する方が早いぞ?」
「…良いでしょう。目的は果たしたので失礼しますよ」
アルベルが去ると少女も行ったのだが…去り際にジェーンを一瞥して何事か呟いて去っていった。
「おい!しっかりしろ!なぜ庇った!」
「ふふ…なぜですかね?…貴方は私の記憶に残っていた人に良く似ている、からですか」
腹部に突き刺さったナイフを抜けば確実に出血で死ぬ…だがこのままでも…
「良いのです……ただ今回は…私の番だっただけ」
「もう喋るな、すぐに何とかする!」
レウスは腰のポーチから包帯とガーゼを取り出すと傷口を抑える。
ちくしょう!!どうしたら良いんだ!こんな怪我…俺じゃどうしようも出来ない!
「レウス…さん。もう…良いです……」
「良くねえ!まだ方法は…」
ジェーンの手がレウスの頬に伸ばされて触れる。
「短い…間ではありましたが…貴方は…」
ゆっくりと閉じていく瞼…
「…………………リース……貴女の気持ちが……わか……」
「おい!ジェーン!起きろ!!」
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『ふふ…やってくれたな』
どこか嬉しそうな声で言う相手にイリスは舌打ちをしたくなる。
あれだけ至近距離で撃ち込んだのに…大したダメージは無さそう…
『何故こんな事をするんですか?』
『何故…?そうだな…しいて言えば約束、だな』
『約束……?』
『ああ、今は無き友との約束…それだけだよ』
お互いにソードを引き抜いて斬り結びながら会話を続ける。
『帝国が無くなった原因を一掃する…第一はそれだ!あとは……”門“を開く為、か』
『門…?』
『君はこことは違う世界があると言えば信じるか?』
『こことは違う?』
『ああ、今まで沢山の人が研究してきたみたいだが…誰1人存在を証明出来なかったがね』
『どっちの理由も関係ない人を巻き込んで…』
『君がそれを言うのか?かつて帝国を滅ぼす原因となった死神の娘が!』
振るわれたソードがファントムの装甲を抉る。
『っ!?…だけどその原因を作ったのは…!』
『ああ、帝国だ!しかし君の母親も関係ない人間を大量に殺したぞ!?私の兄も!…いや、分かっている…先に手を出したのは帝国だ、だがな…それでは割り切れないんだよ…この感情は…彼女もそう言っていた』
『そして!もう1つの答え…それは君だよ!』
『…私?』
『君は自分の過去を知っているか?』
『…ええ』
『では聞こう、何故生きている?』
何故、生きている…?
『君はあの事件で致命傷だったんだ、そして“死んだ”葬儀も行われた、墓も作られ埋葬された、だが君は何故か生きている…知っているか?君と君の父親の墓があった場所が綺麗に消え去っている事を!何者かが細工したとかいう話じゃない、完全に消えているのさ』
『意味が分からない…』
『だろうな、だが事実だ。それに…別の世界に関する証拠もある。その世界から帰ってきた人物が二人いるのさ…1人はリース、そしてもう1人は…君の父親の仇…アルベルトだ』
『……』
『信じるかは自由だ、だがアルベルトは言ったのさ”神はいますよ。私とリースは会いましたから“とな!そしてアルベルトはこうも言った、“私は死んだが生き返った”あの世界にはそれを可能とする術があると!』
死んだ人間を甦らせる…?そんな事は…
『それとアルテミスを落とす事が何か関係してるんですか!?』
『大規模な爆発エネルギーさ。アルベルトとリースの最期を再現出来れば…門が開く可能性が高い、そしてその爆発で地球に逃げた旧帝国の裏切り者も全て始末出来る…だが…問題は…君だ』
『私…?』
『想定外なのだ、君がこの場にいるのも…そして!』
急にバーニアを吹かして回避した後…今まで敵がいた場所を紅いビームが通りすぎた。
『死神が来る事もな!』
凄まじい勢いで接近してきた深紅の機体がビームソードを引き抜いて敵に斬りかかり勢いそのまま押し込んでいく
『久しいな…深紅の死神!!』
『ミレリアァァァァァァ!!!』




