第41話
『……以上が今の状況です。ダリウス中佐、貴方には謝る事しか出来ませんが…』
「いや、もう過ぎた事だ。イリスが無事だっただけでいい。それよりもイリスが言っていたというアルテミスの件…本当なら急がなくては」
『はい、我々は既にアルテミス追撃へと動いていますが…ダリウス中佐はいかがしますか?出来るならば我々と合流して貰えれば助かるのですが』
「ハロルド、この艦でアルテミスに追いつくのは可能か?」
「送られてきた位置情報に間違いがなければ問題ありませんね、この艦の足なら少し余裕が出る位には。ただし…この倉庫から出られるならば、です」
『…倉庫とは?』
「いや…実は少々問題があってな。我々がいるこの艦はオストローデンの倉庫の中にあるのだが…」
「この倉庫にはこの艦を発進させるための港へ通じる移送エレベーターも何もないのですよ。なので発進するならオストローデン内を移動しなければならないのですが…この艦は登録もされていないので…」
『未登録の艦艇ですか、しかし倉庫にあるとなれば輸送艇クラスなのでは?輸送艇ならば近くの搬入路から…』
「戦艦なのです」
『……え??』
「…ハロルドのいう通り我々が乗り込んでいるのは巡航戦艦クラスなんだ」
『戦艦クラスを登録もなしにどうやって倉庫へ?』
「分からん。だが動かすしかない」
『かなりの騒ぎになると思いますが…緊急事態である以上仕方ないでしょう。こちらからオストローデンには連絡を…』
「……どうやら無駄らしい」
倉庫内に響く警報…
『ダリウスの旦那!!囲まれちまってるよ!』
サーリャから通信が入り発砲音が響く。
『たいちょー!倉庫の周りにアサルトフレーム3機、あと歩兵がいっぱい!』
「さっきの宙賊でしょうか…どうします?」
「聞いての通り少々問題が発生したので一旦通信を終わる」
『了解です、合流地点はそちらに送ります』
ジークリンデの通信が切れると同時に倉庫内で爆発が起こる。
「サーリャ、もう足止めは必要ない。発進してオストローデン内を移動、そのまま港から脱出する」
『だけど良いのかい?そうしたらオストローデンの駐留部隊ともやり合う羽目になるよ!?』
「そのつもりだ。どのみち急がねばならない理由も出来たんだ、多少の無茶は仕方ないさ」
『多少、ねぇ…ま、いいさ!あたいの大将はあんただからね!』
サーリャがそういって敵の歩兵にグレネードを放り投げて艦へと走る。
「ハロルド、エンジン始動と同時に重力制御システムをON、すべての武装のロックを解除!」
「了解です、外のアサルトフレームはどうしますか?この艦の武装ではオストローデンにも被害が出ますが…」
「フリッカに迎撃させる、フリッカ!」
『は~い!』
「発進したらすぐに出撃、周りにいるアサルトフレームを片付けてくれ」
『りょーかーい!』
一瞬大きく揺れた後メインエンジンの出力が上昇していくと重力制御システムが起動して船体が少しずつ浮き始める。
「エンジン出力59%!重力制御システム安定稼働!」
「艦の武装はオストローデンから出るまで出来るだけ使うな。フリッカもレイルフォースは徹甲弾の使用は禁止だ」
『はーい、ならハンドカノンだけでいいかなぁ』
『あたいも出ようか?』
「サーリャは待機だ。どのみちオストローデンを出た後もすぐに戦闘になる、その時には頼む」
『了解さね』
倉庫の屋根がスライドしていき艦全体が倉庫から出た所で敵のアサルトフレームからミサイルが発射される。
「周りに民間人もいるというのにお構い無しか…!」
ミサイルアラートが鳴り響くがすぐにフリッカがハンドカノンでミサイルを撃ち落とし、そのまま空中へと舞い上がる。
『カスタムタイプのランサーね、性能は良いんだろうけど動きが悪いよー!』
敵が慌ててライフルを撃つがスラスターを吹かして躱すと落下しながらハンドカノンを構えて3連射、武装を破壊した後シールド内に装備していたスモークグレネードを倉庫の中へと発射して中でバズーカ等を構えていた歩兵達の視界も奪った。
「フリッカ、アサルトフレームは出来るだけ墜落させないようにな」
『うーん、まぁバーニアに当てなければ大丈夫ですね!』
落下していたアルテューレがもう一度スラスターを吹かして落下速度を抑えながらハンドカノンを構える。
バーニアに当てないように……そこ!!
狙って放たれた弾丸は敵のランサーの腕を、正確には手のひらを破壊して武器を持てなくしていく。
フリッカはすぐにマガジンを入れ替えて残りの機体も同じように戦闘が出来ない様にして撤退するしか出来なくしていった。
「流石ですね、私でもあんな芸当は出来ませんよ」
「フリッカは特別だからな」
アルテューレが甲板に着地したのを確認してハロルドは艦を動かして港を目指す。
「いやぁ…もう私はアサルトフレームのパイロットやめてもいいですか?この艦ならアサルトフレームに乗るより楽しめそうです」
ニコニコしながら色々と弄るハロルドにダリウスは肩を竦める
「別に構わないが…そこまでの性能が?」
「それはもう!!操舵システムも非常に高度なプログラムで補助されつつ…見てください!この周りに配置されたコンソールで艦の全ての機能が操作可能なんですよ!モニターには機関、武装、ダメージコントロールの状況…1人でも動かす事が可能なのです!ふふふ、もう素晴らしいとしか…いえ!素晴らしいなどという陳腐な言葉では」
「分かった、分かったから今はオストローデンをでる事に集中しよう」
「…しかしオストローデンを出るにも港を通れなければ出られませんね」
これだけ騒げばオストローデン側は港をまず封鎖する。そうなれば面倒だが…
「今は時間がない、港から強引に離脱する」
『たいちょー!また敵が来ますよ!』
「フリッカ、迎撃は甲板からだけでいい!このまま港に突っ込むぞ!」
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「不明艦は現在アサルトフレームと交戦しながら港を目指している模様!」
オストローデン内の防衛センターは例にない事態に騒然としていた。
「民間人に被害は!?」
「現在の所被害は確認出来ません!」
「どういう事だ?あれだけ戦闘していて被害が無いと?」
「それが…何故か交戦しているアサルトフレームは撃墜を避けていると報告が」
「…交戦しているアサルトフレームの身元はどうだ?」
「この近辺で活動している宙賊だと判明しています。それと…その内の一機は統合軍所属の機体なのですが…」
モニターにデータが映し出される。
「統合軍所属ランサーカスタム”アルテューレ”パイロットは…フリッカバークレイ少尉です」
「統合軍が何故?統合軍に問い合わせたのか?」
「統合軍からの返答は該当のパイロットは軍籍剥奪処分を受けているそうです」
「軍籍剥奪?そんな奴が何故軍所属のアサルトフレームを使っているんだ?!」
「詳細は不明ですがこちらと敵対する気配はない模様!」
「くっ!だがオストローデン内で戦闘行為をしている以上捕縛対象だ!レイシアを出せ!」
『聞いてましたよ。それで?私はどうすれば良いのです?』
「オストローデンで戦闘をしている馬鹿どもを分からせてやれ!」
『分かりました…レイシア=トリステイン、”ヴァンフォーレ”出ます』
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「港までもうすぐですが…オストローデンから迎撃が来ないのは気になりますね」
「内部で戦闘をしたくないのだろうとは思うが…確かに妙だな」
『たいちょー、来るよ…!』
甲板の上で待機していたフリッカが緊張した声でそう言うと遠くに見える機影…
『オストローデンで暴れた君たちには少しお灸をすえてあげるよ』
「速い!フリッカ!」
『ちょっと厳しいかも!』
加速して向かってくる全身がシルバーに塗装された細身のアサルトフレーム…
「あれは…ニードルとはまた古臭い機体ですね」
「気を付けろ、散々戦った中でもニードルに乗っていた奴は例外なく手練れだ!」
ニードルは細身のフレームに申し訳程度の装甲しか施されていないがそのお陰で機動力は折り紙つきだが…被弾を許されない機体故に乗り手を選ぶ機体だ。
「しかもあれは近距離特化仕様ですか。狂っているのかよっぽど自信があるのか…」
「……まさかな」
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『レイルフォースは使えないし…まぁやるしかないか…いこう、アルテューレ!』
スロットルを押し込んで空中に舞い上がると接近してきたシルバーの機体にハンドカノンを撃つ。
だが弾丸は敵の装甲を掠めただけで終わる
『当ててきますか…面白い!』
『やっぱ速いなぁ!』
シルバーの機体が腰に装備されたダガーを引き抜いて斬りかかるがそれをハンドカノンで受けるフリッカはそのまま別の腕でサーベルを引き抜く。
『あんまり得意じゃないんだけどなぁ』
サーベルを振り抜くが密着していた敵はスラスターを吹かして回転するとサーベルを弾いて持っていたダガーを投擲しアルテューレの肩部装甲に突き刺さる。
『っ!』
『おやおや、”魔弾の射手“というのも大したことはなさそうですね。これなら貴方を鍛えた”漆黒の死神“もたかが知れる!』
更にダガーを投擲、今度はアルテューレの脚部に刺さって爆発、アルテューレは煙を吹きながら墜落していく
「フリッカ!戻るんだ!」
『………い』
『なんですか?弱者は弱者らしくそのまま…』
『うるさいなぁ!!』
フリッカの叫びと同時にアルテューレがバーニアを吹かして上昇しながらハンドカノンを連射、しかしそれは全て躱されたがフリッカはハンドカノンを敵めがけて投げる。
『当たりませ…!?』
躱してアルテューレを視界に入れた瞬間、機体の肩部装甲が消し飛びモニターには長大なライフルを構えたアルテューレが映る。
『次…!』
アルテューレのレイルフォースが火を吹き敵の脚部を撃ち抜いて破壊するがそこで通信が入る。
『そこまでだフリッカ、レイルフォースは使うなと言った筈だ、それはプラネット内で使える威力じゃない』
フリッカが放った弾丸は敵の脚部を撃ち抜いた後そのままその遥か後方にある橋に命中して崩壊させてしまった。
『……ごめん、なさい』
レイルフォースを下げて甲板へ着地したアルテューレだが脚部が破損していたため膝をつく。
『レイシア…オストローデンに雇われているのは聞いていたが…こちらは積極的に敵対する意思はない』
『!?…誰かと思えばダリウス先輩ですか、お久しぶりです。お会いするのはあの戦争以来ですかね?』
『そうだな。未だにニードルを使い続けているのはお前位だろう…』
『ですね、他の方は大体死ぬか乗り換えたと思いますし。で…?投降していただけますか?私としては今の状態でダリウス先輩とやり合うのは避けたいのですが』
言葉とは裏腹にレイシアは背中に背負っていたバスターソードを引き抜く。
『…戦闘狂め』
『まぁ久しぶりにフラムベルクとも戦いたいんですよね』
『…フラムベルクは無い。俺はもう統合軍を抜けたからな』
『そうですか、残念です。では武装を解除して…』
『断る、今は急がなければいけない理由があるんでな』
『……なら仕方ありません強制的に制圧させてもらうとしましょう』
バーニアを吹かして突撃してきたレイシアを甲板からアルテューレが腕に装備されている機関砲で迎撃する。
『ハンドカノンも投げたしあまり時間は稼げないですよ!?』
『大丈夫ですよフリッカ、今隊長が出ます』
『え?あの子で出るの?!慣らしもしてないのに!』
『出来るだけやってみるさ…行くぞ“ヴォルカノン“』
カタパルトから射出された機体…オレンジとゴールドに塗装された“ヴォルカノン“がバーニアを吹かして飛び立つが…
『綺麗…………』
とフリッカが呟く。
ヴォルカノンが吐き出すバーニアの炎は通常とは違った輝きを放っていた。
「凄まじいな…だが謎の機関も問題なく稼働している…通常の燃料とは違うみたいだが…」
『ははは!なんですなんです?!その機体は!!訳が分からない反応をしていますねぇ!!そんな機体を隠してるなんて意地が悪いですよ先輩!』
ヴォルカノンを確認したレイシアが向かっていた軌道を変えて突撃してくる。
『俺も初めて動かすのでな!』
レイシアのバスターソードを躱した所を更に斬り上げて追撃するレイシア
『おや?武器も持ってないのですか??外見は派手ですが見かけ倒しにも程がある!』
『くっ!』
振り下ろされたバスターソードに腕を突きだすダリウス
『腕を盾にでもすると!そのまま叩き斬ってあげますよ!!』
バスターソードとヴォルカノンの腕が接触した瞬間激しい火花と共にバスターソードが弾かれた。
『?!なんて硬い!』
この機体には専用の武装があったが調べていたフリッカがいうにはレイルフォースよりも強力な武装だという…そんな物は使えない。
「リースは一体何を考えてこの機体を作ったんだ…?」
メイン兵装が使えない以上サーベルで戦うしかないのだが…その肝心のサーベルが装備されていなかった。
『金色に輝くその機体、ダリウス先輩には似合わない…貴方にはやはり炎のような…あの機体に乗ったあなたに勝ってこそ私はあの時の続きを…!』
まだそんな昔の事を…
『レイシア、今は時間がないんだ。話を聞いてくれないか』
一方的にバスターソードを叩きつけるレイシアとそれを腕でガードして防ぐダリウス。
『話をしたいのならば私を倒すことですね!』
バスターソードを防いだ所でヴァンフォーレは腰からダガーを引き抜いて投擲する。
『相変わらず全身に近接武装を仕込んでるな』
『貴方が私にはそれが良いと言ってくれたのでしょう?』
何度も投擲されたダガーを弾くがこちらに武装がない以上防ぐしか出来ない。
リースが造り出したこのヴォルカノンという機体…武装があれだけということもないとは思うが…何か無いのか!
リアクター出力向上…“フレイムアーマー“を展開しますか?
「フレイムアーマー?何らかの防御機能なのか…?」
迷わずYESを選択したダリウスだったが…画面に警告が表示される。
全身展開不可…一部展開を推奨
何度も流れる警告にダリウスは悪い予感を感じて一部…ガードに使っていた両腕を選択した所で一気に距離を詰めてきたヴァンフォーレの大剣が迫る。
『これで終わりです!』
フレイムアーマー…展開
もう一度防ごうと腕を盾にしたダリウスだったが次の瞬間…目の前で起きた出来事に驚く。
ヴォルカノンの両腕が青白い炎で包まれた後腕に接触したバスターソードが…溶けた。
『…え?』
しかし一番驚いたのはレイシアだった、今まで弾かれるだけだったバスターソードが触れた箇所からバターの様に溶けたのだから。
コックピット内温度上昇…冷却可能限界超過…
モニターには警告文、そしてアラートが鳴り響く。
「そういうことか…!これでは確かに全身展開など出来んな…!」
異常に暑くなっていくコックピット内でダリウスはヘルメットを脱ぎ捨てると先ほどの悪寒の正体を身をもって知った。腕だけでこの有り様なのだ…全身に展開していたら…
「だが…これがこの機体の使い方なのだな!」
バーニアを噴射して半ばから溶けたバスターソードを見ていたレイシアへと燃え盛る腕を振るうと我に返ったレイシアがバスターソードを投擲してくるが先ほどと同じように触れた側から溶けてしまった。
『…ヘビーメタル製の大剣ですよ…?何なのですか!?それは!』
叫びながら両腰に提げていたサーベルを抜き放つレイシアはヴォルカノンの振り抜かれた腕を躱して燃えていない箇所…胴体を狙ってサーベルを振るうがダリウスはそれをわざとそのまま受ける。
この機体…全身に展開する事を可能としているならば…腕同様全身の装甲がこの炎に耐える強度の筈だ!
思った通り装甲に弾かれるサーベル…弾かれて体勢が大きく崩れたヴァンフォーレはアルテューレとの戦いで破損していた脚部のせいで立て直せず…
しまった…………!!?
繰り出されたヴォルカノンの拳から青白い炎が溢れヴァンフォーレの頭部を文字通りに融解させた。
『もう邪魔をするな、俺達はオストローデンに危害を加えるつもりはない。ただ…俺の娘を助けに行きたいだけだ』
『っ…娘…?貴方に娘なんて…』
『リースの…忘れ形見なんだ。俺があいつに託された』
『ふふ…また…あの女…!どこまで私の………』
サーベルを下ろしたレイシアが腕を振って行け、と合図する。
『オストローデンには私から話をしておきます。……どうせ私以外にあなた方を止められるような人はいないですからね』
「……レイシア、“あの時”は…すまなかった」
『…今更ですよ………先輩』
早く行け、というようにサーベルを振るレイシアを背に飛び去るダリウス達…
『レイシア!何故逃がす!』
ふぅ…少しくらい感傷に浸らせてくれてもいいじゃないですか…
「私では止められません。ヴァンフォーレもボロボロですし…彼らはオストローデンに危害を加える意思はありませんでした。さっさといかせた方がマシです…ただ止めるのであればかなりの被害を覚悟したほうが良いですよ?」
『…まさか貴様がそこまで言うとはな。仕方あるまい…しかし今回の支払いは無しだ!分かったな?!』
「…ふふふ、大赤字ですよ…先輩!!」




