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あの日見た流星  作者: カルバリン
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第37話 深紅の死神



「ファントムがこちらを照準に!メガランチャーをチャージしています!!」


「イリス君はどうしたんだ!?」


「こちらからの呼び掛けに応答ありません!攻撃…来ます!」


ファントムからメガランチャーが発射されソルシエールへと迫るがそれはソルシエールのそばを通り過ぎていく。


「は、外れた…だと?」


メガランチャーを撃った後ファントムが敵のアサルトフレームを一方的に蹂躙していく様子を見て言葉を失っていたが敵艦隊がファントムへ砲撃を再開した事で応戦を始める。


「エイミ、ファントムにはまだ繋がらないか?!」


「駄目です!応答ありません!」


「…無駄だろう。今のファントムにイリス君の意思が介在しているようには見えない」


「フロイト技師!貴殿は何を知っている?」


「これに関して私は何も知らんよ。だがある程度予測は出来るがね…ファントムに搭載されていたシステムが発動して機体が耐えられなかった、それは機体が万全の状態ではなかったからだというのは報告した」


「確かに、そのような報告は受けたが…まさか!」


「そう、機体が万全になったことであのシステムは完全に作動している…のだろう。以前は機体が先に限界を迎えて停止したが今回は…どうなるかわからん」


「ならば一刻も早くファントムを回収する!」


「勿論そのつもりだが…今の状況では無理だ。アルテミスからの砲撃に艦隊からも攻撃が来る、今の我々に出来るのは一旦この場から離れて…」


「それではイリス君を見捨てるのか!それならば私が出てファントムを回収する!ミリア!周辺艦隊に通達、現宙域を一旦離脱せよと」


『あなたが出る必要はない』


突然割り込んできた通信…その声の主がモニターに表示される。


『あの機体は私が責任をもって連れて帰る。お前達はすぐにここから離脱しなさい…ジークリンデ、あなたは指揮官でしょう?ならばその艦を容易に離れるべきじゃない』


「……姉さんなの?」


『久しぶりね…今ではもう立派な軍人に…いや、今は時間もない。詳しい話は後に、早く離脱しなさい!』


「時間がないって…姉さん!あなたは何を知っているんですか!」


『…必ず彼女は連れて帰る。だから…』


「か、艦長!!我々の後方から強大な熱源反応!!…来ます!」


ソルシエールの後方から迫るのは一条の赤いビーム…それはソルシエールのすぐ横を通過して敵の艦隊に直撃、更に貫通してアルテミスへと到達…アルテミスの一部を蒸発させた。


「な…!?」


『間に合わなかった…!ジークリンデ!とにかく今は離れなさい!もう…来る!』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「駄目!ファントム!止まってよ!」


必死にレバーを引くイリスだがファントムは一切の操作を受け付けずに動く。


敵の艦隊から砲撃が来るとそれを回避するファントムの動きに歯を噛みしめて耐える。


急激な加速と減速を繰り返すファントム…耐えるイリスの視界が段々と赤く染まっていく。


この前よりも負荷が強い…!このままだと意識が…!


イリスがレバーを握りしめて耐えているとファントムが不意に方向転換する。


「…っ!何を…?!」


ファントムのモニターに写し出されたのは先程戦っていたアサルトフレームとそれを回収しようとしているスピア…


「ファントム…?っ!駄目!!」


ファントムがバーニアを吹かして加速していき2機へと迫るがそこまでだった。


イリスに限界が訪れ意識を失い……そして…


“おいで…ディステルガイスト“


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


レーゲ宙域、旧帝国軍旗艦ガングニール…大戦時撃沈された後そのまま廃棄処分となり幾年月…その荒れ果てた格納庫内には鈍い光を放つ鎖で厳重に封印された機体…ディステルガイストが鎮座していた。


その機体はかつて主人と共に燃え盛る憎悪のままに全てを蹂躙し、破壊し尽くした“深紅の死神“

目的を果たした主人と機体…もう後は静かに朽ちていくのみ…そうあるはずだった。


だが…ソレには分かった。自分が護るべき主が死に瀕していると。

それから何年もの間解けない封印をもどかしく感じていた

しかしこの鎖は絶対に解かれることはない、もう主は“必要になる未来なんてきませんように“と願っていたからだ。


『ねぇ、レド…イリスは元気に育っているよ?あなたと私の宝物…今度こそ…』


今でもメモリーに残っている…微笑む主と小さな娘…

この光景を記憶出来た事はとても素晴らしい事だ。


しかし…そんな主達はまたも争いに巻き込まれた


長らく沈黙していたコックピット内の計器類に光が灯る。


コックピット全面が周囲を映すと更に映像が映し出される。それは笑顔でこちらに手を伸ばす幼い子供…


“イ………リ…ス…………“


低く唸るように動力機関が起動し機体を動かす為のプロセスが実行されていく。


『駄目だ、頼むから大人しくしていてくれ。リースさんは私が救いだす…だからまだ』


封印されてからずっと共に在るこの女がいる以上どうにもならない。

唸り続けていた動力が静かになると女は一言呟いた後その場を去った。


あれから数日後その時は突然だった。


“これ以上は…“


ソレが今まで感じていたうっすらとした主の意識…その意識が一際強く感じられた


“おいで”


その一言、それだけだった。だが…それだけで充分だったのだ。

一気に機関部に火が入り全てのシステムが立ち上がっていく。


鈍い光を放ち機体を固定していた鎖が弾け飛ぶとソレは咆哮ともとれる駆動音を放ち立ち上がる。


そして長い間封印されていたその巨大な棺桶とも言えるガングニールから飛び立つと一気に加速する。

目的地へと向かう途中…邪魔なモノがあったが蹴散らし進む。


“おいで…ディステルガイスト”


高速で移動しながら背部にあるユニットが稼働して長大なライフルへと可変するとそれを構える。


長距離砲撃戦用粒子砲“オルトロス”かつて戦艦等を無慈悲なまでの火力で塵へと還した武装が放たれ、

激しく赤い光を放ちながら突き進んだ光は射線上にある全ての障害物を蒸発させてアルテミスへと直撃、脅威となりうる拠点防衛兵器を破壊した。


アルテミスで戦いを繰り広げていた全ての人々が見た…圧倒的な存在感を放つそのアサルトフレームを。

先程放たれた悪夢のような一撃…大部分の人間は何が起きたか分からなかったが一部、古参の軍人や宙賊は心底から震え上がりその名を口にする。


“深紅の死神”


かつての大戦で世界を、当時覇権を握っていた帝国を相手に単機で戦争を始め、帝国を追い詰めた最強のアサルトフレーム…それが今この戦場に現れた。


ある者は何が起こったのか分からず呆然とし、またある者は過去に味わった体験から震え上がり、またある者はそれが意味する所を知った上で動き始める。


「な、なんなの…あれ…」


『マーヤ、急いで戻れ』


ファントムのコックピットでイリスを拘束しようとしていたマーヤが呆然としているとロッソから通信が入る。


「だ、だけど…」


『急げ!!絶対にそのパイロットには何もするな!!』


凄まじい剣幕にビクッと身体を震わせたマーヤだったがすぐにコックピットから飛び出すとロッソがハッチを開いたので滑り込む。


「ロッソ!何が…」「しっかり掴まってろよ…!」


マーヤの話を遮ったロッソは一気にスロットルを押し込みその場から離脱を始める。


「やべぇ、やべぇぞぉ!!!何で動いてやがる!?あの女はまだアルテミスに…」


「ロッソってば!何なのよ!?」


「死にたくなきゃ黙ってろ!とにかく離れるぞ!」


加速していく機体につられてマーヤがコックピットの壁に押し付けられる。


いつもふざけた態度のロッソがここまで慌てるなんて…あれが一体何だっていうの?!


確かにあの機体は普通のアサルトフレームとは何か雰囲気が違ったけど…


「マーヤ、このままこの宙域を離れるぞ」

「はぁ?!何を…」


「俺はな、まだ死にたくねぇ…やるべき事もあるからな。こうなる事も計算されてたんかよ、あのクソジジイ共が!!」


まるで意味が分からない…確かにあの機体は強力な武装を持ってるからヤバいのは分かる、分かるけど…それでもたかが一機だ。


「あのアサルトフレーム1機に何でそこまで?」


「お前は知らねえからそんな事が言える!あれはそんな易しいもんじゃねぇ…ジジイ共はあれを手に入れてからって考えてたみてぇだがもう終わりだ!誰が動かしてるか知らねぇが目的なんざ分かってる、あの女を取り戻しに来たんだ」


「あの女?」


「あぁ、首領ともう1人…アルベルトっつー野郎と戦って負けた女がいたんだ。ふざけた話だがその女はウチの格納庫から奪ったスピアで首領とアルベルトを追い詰めたんだよ」


「嘘…ボスはもちろん”ザーフアイネ”に乗ってたんだよね?それを追い詰めた?そんなこと…」


「こりゃマジだ。俺もその場に居たからな…だがアルベルトの野郎が何かを言った後その女はボスとアルベルトを巻き込んで自爆しやがったんだ。だが…辛うじて生きていた女をボスが回収して治療した」


「じゃああのアサルトフレームに乗ってるのは…」


「いや、それはあり得ねえ。まだあの女はアルテミスの最奥部で眠ってるのさ、今まで1度も意識が戻らなかったからな」


「じゃあ誰が…っていうか結局あのアサルトフレームは何なの?そこまでヤバい何かってこと?」


「やべぇさ。誰が乗ってんのか知らねえけどな…乗ってる奴次第じゃこの戦場…誰も生きて帰れねぇぜ」


そこまで言って黙ったロッソ。それ以上話す気はないのか真っ直ぐにモニターを見つめながらひたすらアルテミスから離れていく。


「これから…どうするの?」


「…これからか…なぁ…いっそ俺と暮らすか?お前1人くらいは養う甲斐性はあるぜ?」


「へぁ?!ばっ!なにいって…」


「まぁそれも生きてここを離脱出来たら、だがなぁ!!」


急激な減速でマーヤがシートの背もたれに顔を強打して呻くがそれに構う暇なくロッソは操縦に集中する。


『おや?これはこれはロッソさん。こんな場所で何をされているんで?危うくジェーンが撃墜するところでしたよ?』


「ち、最悪だぜぇ」


目の前に現れたのは旧帝国カラーのカスタム機、ノーマルのスピア、そして…


「あんたこそ…そんなボロボロの機体で何してやがる?」


ロッソのモニターに映るのは片腕と両足が無い状態でカプセルを抱えたアサルトフレームは…


「……ベリアル、ソイツはジジイ共が隠してた筈だがな」


「ああ、あの方達なら…今頃この宙域を彷徨ってらっしゃると思いますよ?」


「テメェ!まさか…ボスも…」


「いえ、それは安心してください。私も今の状態で戦って勝てるとは思えませんからねぇ…しかし彼女らが滅ぶのも時間の問題ではないですか?”深紅の死神”が現れた以上はね」


「こりゃあお前の差し金か?」


「…さぁ?どうでしょうかねぇ…1つ言えるのは私も驚いているんですよ?何故あの機体が動いているのか、とかね」


だってほら、あれのパイロットは今ここに居るのですからね。そういって抱えたカプセルを見せるアルベル


「…その女をどうするんだよ?」


「……ちょっとした因縁がありまして。まぁ貴方には関係のない話です…どうせここで死ぬのですから」


「そう来ると思ってたぜ!」


アルベルの両脇に控えていた2機のアサルトフレームがロッソ目掛けて攻撃を開始する。


「ちぃ!!コイツら…強いな」


1人が射撃で牽制しながらその隙にもう1機が距離を詰めてくる…


「マーヤ…どうやらさっきの話……無理そうだっ!」


「……!!」


敵の対艦ライフルがロッソの機体のシールドを弾き飛ばす。

そこへもう一機…突っ込んできた敵のサーベルを切り払いながらロッソは続ける。


「マーヤ、お前だけでも…何とか逃がす。だから…頼みを聞いちゃくれねえか?」


「なに諦めてんのよ!まだ…」


マーヤの言葉を遮るようにコックピットが激しく揺れる。

モニターには機体の各所にダメージの警告が出ていた。


「………せめてバルガスがありゃあなぁ」


モニターが警告で埋め尽くされていく…


マーヤにもどうする事も出来ない…ギリギリで致命的なダメージを回避しているロッソだが落とされるのも時間の問題だ。


「すまん…」


そうロッソが呟いたと同時に放たれた対艦ライフルの弾丸が赤いビームの奔流に呑まれて消し飛ぶ。


『もうこちらに来ましたか…!あの程度の戦力では足止めにすらならないとは思ってはいたんですが…予定よりかなり早い。ジェーン、レウスさんここはお任せしますよ』


離脱しようとベリアルがバーニアを展開した瞬間、嵐の様な弾幕が襲いかかりそれを止める。


『っ!?やはりそう簡単には行かせて貰えませんか…!』


『マスター!』


『奴は……!!』


ジェーンはすぐにベリアルの前に移動、レウスは現れたアサルトフレームを見て昔の記憶が蘇る


血を思わせる機体色に半分以上溶けてしまっているフェイスガード…その機体は重装甲でありながらそれを微塵も感じさせない速度で彼等の前へと立ち塞がる。


『ディステルガイスト…やはり私の前に立ちはだかりますか…だが!リースは私が握っているぞ!』


ベリアルの腕には医療用カプセルが抱かれていてそれを示すとディステルガイストの動きが止まる。


『ふふふ、誰が動かしているのかは知らないですがやはり手出しは出来ないみたいですねぇ…?さぁ!リースの命が惜しいなら投降しなさい』


そう言ったアルベルに対して沈黙を続けるディステルガイストだったが…


『…………』


『どうしたのですか!?リースが死んでも良いのですか?!』


アルベルが叫ぶとベリアルのモニターにノイズが走る。


『………何を』


ノイズが一際酷くなったあと一気にモニターがクリアになるとそこには無人のコックピットが映る。


『無人…?この映像が何だと…?』


”カエセ“


その一文字がモニターを埋めつくしていく。


『…?!まさか…無人で動いているとでも…ジェーン!レウスさんとディステルガイストを止めなさい!』


アルベルの言葉と同時にレウスとジェーンが動く…ジェーンがライフルを撃ち込みレウスがサーベルを抜いて斬りかかるが…


「な、何よあれ…!ロッソ!今のうちに逃げよう!あんな化け物…おかしいって!!」


「あ、あぁ…分かってる…はは、あのジジイ共…こんな化け物を手に入れようとしてたんか…馬鹿だろ」


目の前で起こった出来事に呆然とするロッソ…間違いなくあの2機は手練れだった、だが…向かってきた2機の攻撃が全て直撃したにも関わらず邪魔なモノをどけるかの様にビームソードで斬り捨ててベリアルへと近付くディステルガイスト。


『ふふふ、まるであの頃の様です…!だが残念、まだベリアルは戦えないのでねぇ…それに、私はリースを殺すつもりはありません。むしろ彼女の願いを叶える為に救いだしたのです』


カプセルを差し出すアルベルとそれを受け取るディステルガイストだったが…ディステルガイストはそのカプセルを握り潰す。


『…やはり、偽物だったのですね。ならば本物のリースは…!』


アルベルがそこまで言った時、ディステルガイストがバーニアを吹かして何処かへと飛び去る。


『…さて、解き放たれた死神が何処へ向かうのか気になる所ではありますが…いよいよです…始まりますよ…世界を巻き込む戦いが…ね』

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