第35話 アルテミス侵攻
「…これで良かったのか?」
『はい、マスターからはそう命令を受けていますので』
「そうか。…ただ1つ確認したい。お前…一体何者だ?あのパイロットは“お母さん”と言っていたが?」
『…声が似ていたのでしょう?そう珍しい事でもないと思いますが。…私が何者であるかなど貴方には関係無いはずですが?』
「関係はある、と言ったらどうする?もしお前が俺の考えている奴と同一ならば…」
シャムシールがライフルをジェーンのスピアへと向けると同時にロックオン警告が鳴り響く。
『正気ですか?貴方では私を撃墜出来る可能性は限り無く0%に近いと思われますが?』
「答えろ!お前の名は…リースなのか?」
『…リース?私はジェーン。その様な名前ではありません』
「……」
『…仕方ありませんね。これ以上戦場で無駄な事をするのであれば…』
スピアが手に持った対艦ライフルを動かそうとジェーンがレバーを握り締めた時…
『待ちたまえ、レウス殿。ジェーンに関しては私から後程改めて教えよう…だからまずはこの戦場で頼んだ事をやり遂げてくれないか?』
「だが………いや、了解した…一旦この話は置いておく」
『ではお願いしますよ?あなたの任務は…』
「ああ、この戦場の裏で動いている奴らの排除、それとあの黒いAFをそいつらに渡さないようにする。だろう?」
『結構。ならよろしくお願いいたします』
通信が切れると同時にため息を吐くとレウスはバーニアを展開して戦闘中の宙域へと飛んでいく。
「……お母さん、だと?私は、知らない…だけど…なぜあの娘の存在は私を乱すのか…分からない」
ジェーンは首を振り考えるのをやめるとレウスが飛び去った方角へ向かうのだった。
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「すぐに腕部の換装を!終わり次第また出ます!」
「分かった!10分だ!嬢ちゃんは終わるまで少し休んでてくれ!…おい、武装の再装填急げよ!!」
了解!と作業員が慌ただしく走り回る。それを見ながらイリスは近くに来ていたアリアの所へ行く。
「イリス!大丈夫だった?!」
「大丈夫、それよりどう?データは取れた?」
「うん、一応それを元に各部の稼働値を再調整してるからまたファントムの性能を引き出せると思う。だけど完全に調整するならまだ時間もデータも足りない」
「充分だよ、アリアが調整してくれるだけでも全然違うしさ」
「ねぇ…イリス?絶対に無茶はしないでよ?死んじゃったらそれまでなんだからね?どんなにファントムが壊れても私とフロイトさんで直してみせるから…無事に帰ってきて…」
「分かってるよ、ちゃんと帰ってくるから」
「嬢ちゃん!もうすぐ終わるからコックピットに戻ってくれ!」
「じゃあ、行くね!帰ってきたら食堂のアイス食べに行こ?」
そういってイリスはファントムへと戻っていく。
その背中を見送りながらアリアは…
「約束だよ、イリス…」
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『お待たせ!一旦補給に戻って!』
『いや、まだやれる!あの後敵が別方向に行っちまったからな』
ニールのレムレースは確かにダメージも無さそう。
「じゃあそのまま行くよ!」
『おう!さっさと終わらせて帰ろうぜ!家には軍から連絡してるらしいけどさ…母ちゃんがブチ切れてそうだからな』
「カーラさんなら有り得るね…ニール、帰ったら地獄かも」
『…………勿論イリスは助けてくれる…よな?』
「無理。カーラさんに勝てる気がしない」
カーラさんには何度かニールと一緒に怒られたりアサルトフレームの訓練をやらされたりしたけど…思い出すだけでも震える。
「というかカーラさんもこの戦場にいたりして…」
『や、やめろよ…マジでいそうだからな』
カーラさんも軍人だからもしかして…というよりニールの状況を黙っていられる様な人じゃないし…
「確かカーラさんの所属って…」
『たしか第6艦隊の…なんとかって部隊だったか?』
「なんで自分の親が所属してる場所を覚えてないのよ?」
『んな言われてもなぁ、母ちゃんの部隊って特殊らしいしあんま話に出ないからな』
「そういえばお父さんもカーラさんの部隊とは何度か………ニール!お喋りは終わり、来るよ!!」
バーニアを噴射して散開するとそこをビームが通りすぎる。
『スピアが6機!イリス!』
「わかってる!ここで時間をかけられない!」
『アイツらだ!黒と白のアサルトフレーム!コイツらを捕まえれば一生遊んで暮らせる金が…』
最後まで言う前に敵のスピアはファントムの放った弾丸に貫かれて爆散、そのまま加速していくとイリスはビームソードを引き抜くと更に1機斬り捨てる。
『まだ来るぞ!』
「キリがないよ!このまま物量で押しきられたら…」
周辺の統合軍も奮戦しているみたいだけどソルシエールを護衛するだけの余力は無さそうだし…たった2機で守りながら進むのは…
「ニール、提案があるんだけど」
『…?』
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「艦長、メテオ1から通信です」
「繋いでくれ」
『ジークリンデ艦長、このままでは私達に勝ち目はありません。そこで私に考えがあります』
「…考え?」
『はい、私達2人でソルシエールを護衛しながらだと正直厳しいです。なのでソルシエールには一旦後退してもらい、私達2機で一気にアルテミスへ侵入します』
「確かに。だが2機だけでどうやってあの大部隊を突破する?それに成功しても君たちが戻ってこれる保証すらないだろう?」
『いえ、そこはファントムに搭載されている機能を使います』
「機能?」
『ファントムにはステルス機能があるのでそれを使えばレーダーなどには検知されないはずです。流石に目視されると見つかる可能性もありますけど…そこで艦長には統合軍の艦隊に陽動をかけてもらえるように要請をしてもらえれば、と』
ソルシエールや統合軍が敵を引き付けてくれていればこちらが見つかる心配は無くなる。
『ただ…そうするといくら後退するとはいえソルシエールの護衛が…』
「ふむ…いや、その作戦でいこう。こちらの護衛は心配しなくていい、私が出る」
『え?艦長が…ですか?』
イリスの疑問にジークリンデは笑う。
「ふふ、これでも私は元々アサルトフレーム乗りだからね。それに前回の補給で配備された機体は戦闘指揮用の機体さ」
ソルシエールの艦橋で指揮を執らずとも指揮官仕様機であれば問題はない。
「今回の目的は分かっているね?」
『アルテミス内の発着ゲートの破壊、ですね』
「そうだ、発着ゲートさえ破壊してしまえば奴らは増援を出すことが出来なくなるそうなれば…」
「艦長!アルテミスに急激なエネルギーの高まりを確認!!これは……!?」
「…いかん!!回避運動急げ!」
「りょ、了解!!右舷スラスター全開!!」
『イリス!やべぇ!!』
ニールが咄嗟にファントムを弾き飛ばすと同時にアルテミスの方から赤いビームの光が迸りソルシエールの右舷側装甲に直撃しアラートが鳴り響く。
「う、右舷装甲溶解!!」
「被弾ブロック隔壁閉鎖!被害報告急げ!」
『第二装甲区画まで大破、第三装甲小破!現在その他損害状況確認中!』
「…やってくれる!イリス君、ニール君!無事か!?」
『………っ、私は大丈夫です…ニールは…?!』
『一応生きてる…ただレムレースが』
レムレースは左脚部が喪失していて戦闘継続は無理だと分かる。
『私を庇ったりするから…!』
『そこはありがとう、だろ…』
「ニール君、君は帰投しなさい。イリス君も1機では無理だ…ここは一旦…『いえ、このまま行きます』…無茶だ!」
『発着ゲートよりもあのビーム砲を何とかしないと…ソルシエールもですけど他の統合軍の艦隊も狙い撃ちされます!』
アルテミスからソルシエールまでは距離があるにも関わらず狙ってきた以上有効射程はかなり長距離なのだと分かる。
ただ…そんな兵器があるなら何故最初から撃たなかったのか?
『多分あのビームはチャージに時間がかかる、あるいは何か問題があって気軽に撃てないんじゃないかと』
「…確かに。今ならばソルシエールにもう一射撃てれば撃沈する事も可能な筈ではある、か」
ただ…何で統合軍はいまアルテミスを制圧しようとしているのか…確かに宙賊は脅威だけどここまで被害を覚悟してまで落とす意味があるのだろうか?
『ジークリンデ艦長、アルテミスには何があるのですか?』
「…アルテミスはただの宙賊拠点じゃない。あれは移動要塞なのだ…我々に下されていた指令はアルテミスにあるとされる機体の回収…前大戦の際深紅の死神と互角に戦って相討ちとなった核搭載型のアサルトフレーム“ベリアル“をね。今は大破しているらしいがあれは存在してはいけない機体だ…それを回収して何かを企む上層部には渡せないのだ」
ベリアル…確かお母さんのディステルガイストと同じ動力の機体。
『なら尚更私は行かないと。私にとっても関係無い事じゃないですから』
「艦長、アルテミスから多数の巡洋艦クラスの艦艇が出撃!こちらへ向かって来ます!」
「対艦隊戦闘用意!イリス君!すまないが先ずはあの艦隊をどうにかしなければならない」
『了解です、話はまた後で』
そう言ってイリスは肩に装備していたメガランチャーのチャージを開始するとそのまま敵の方へ砲身を向ける。
『ソルシエールはやらせない…!』
イリスはチャージが終了したと同時にトリガーを引くとメガランチャーからビームが迸る。
『…目標補足。ハディス、防御よろしく』
『シールド展開』
ビームの射線上に躍り出た1機のアサルトフレームはメガランチャーのビームが直撃して光に包まれる
『何…?今の…?』
光が収まるとそこには変わらず割り込んだアサルトフレーム。
『黒いアサルトフレーム…撃墜する』




