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あの日見た流星  作者: カルバリン
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第2話


「…イリス、明日は適正検査だったな?」


夕食を食べた後、私達はなるべく話をするようにしている。

毎日どんな事があったとか些細な事を話すけれど、私はこの時間がとても大切なんだと思うんだ。


「そうだよ?お父さんも今日の夜間から確か任務で1日居ないんでしょ??結果は明後日報告かなぁ」




「…お父さん、か…いつからだろうな?イリスが俺をお父さんと呼び始めたのはさ」


「えぇ?もうそんな昔の事は忘れちゃったかなぁ、でも…思えばもう10年は経ってるんだよね…」


お母さんがいなくなってもうそれだけの月日が流れた…私ももう16歳、一応成人として認められる歳ではある。


「あのね…もし、私がパイロットに適正があったら…一人で暮らそうと思うの。私がいたらお父さんは結婚とかしにくいだろうし…」


「ふむ…別にイリスが居るから結婚しない訳じゃないんだぞ?むしろ居なかったら俺は生活出来ないと思うが…俺が家事をしてたのなんてほんの2、3年位だろ?後は全てイリスがやってくれてるからな」


それは違うかな。私が出来ない時や忘れてる時なんかはさりげなく片付けてくれてるからね。


「……じゃあもう少しだけ…甘えても良い…?」


「もうとっくにイリスは俺の娘なんだぞ?いつまでも甘えたい時に甘えたら良い、だが!ボーイフレンドを連れてくるのはまだ先にしてくれ…俺のメンタルが崩壊してしまうからな」


「ふふふ、当分無いと思うけどね」


「さて…明日は早いんだから早めに寝たほうがいいぞ?体調は万全に、だ」


そう言って出ていったダリウスを見送ってからイリスも次の日の準備などを済ませてその日は眠りについた。



次の日…AF適正検査当日、工業プラネット"オストローデン"内AF格納庫『Z3』…ここにとある曰く付きのAFが搬入されてきていた。


「ダリウス中佐!例の機体…搬入完了しました」


「そうか、了解した。ハロルド…外の警備態勢はどうなっている?」


「今回の輸送に同行した我が隊のスピアが3機、オストローデン駐留艦隊も一部が出撃待機状態です」


「しかし…よりによって今日オストローデンに来るとは…」


ダリウスの呟きに隣で作業をしていたハロルドはそういえば、と


「今日イリスちゃんの適正検査でしたね?しかしオストローデンの更に奥で行われるでしょうし心配は要らないと思いますが」


「まぁそうだろうが…どうにも嫌な予感がするんだ。リースがこの機体を残して行方不明になった時もこんな感じだったからな…」


ダリウスが見上げる先には今しがた搬入されたアサルトフレーム…"ファントム"が直立態勢で格納されていた。


「………」


「この機体が主を失ってもう10年ですか…時の流れとは早いものですね」


「そうだな………しかし今回の件は不審な点が多いのが気になる所だな」


「はい、この機体は持ち主であるリースさんが行方不明になって以来軍の技術部が管理していましたけれど、それも何年か前までの話です。その後は我々が引き取りに行ったカレル基地の倉庫に放棄されていましたし…言ってはなんですが今更こんな旧式機を奪取しようと考える連中が居るとはとても思えませんよ」


「それはどうですかねぇ?この機体が旧式?あなた方はこの機体が何なのか何も分かってないようで…軍の一部の馬鹿な上層部と一緒ですな」


む?ファントムと一緒に入港してきた技術者か…?たしか…フロイト、だったな。


「どういう事だ?この機体は間違い無く10年以上前にロールアウトした機体のはずだが…それが旧式では無いと?」


ダリウスの問いにフロイトは頷く。


「あれの設計制作を誰が行ったかは知っていますかね?」


「技術部では無いのか?もしくはラインロック社か…」


そのどちらにも首を振ると


「…あれは個人が設計、開発したものなのですよ。ファントムのパイロットであったリース少尉…いや、敢えてこう言いましょうか、元AF開発技術部所属、更に2年後当時を騒がせた『深紅の死神』リース=ライネルとね」


深紅の死神…今でも古参の傭兵や軍人ならばその名を聞いただけで震え上がる最狂の復讐者…単機で当時あった有名なクランを次々と壊滅させ、それに対して鎮圧に向かった軍の機動艦隊をも全て叩き潰した正真正銘の化け物…


それがリースだと?そんな情報は…いや、納得出来る部分はある、か。


「しかし、それが事実だとしても何の関係が…」


「何故あの当時誰一人として彼女の暴走…いえ、狂気の行動を止められなかったのか…簡単な事ですよ、彼女が当時使用していたAF、コードネーム"グリムリーパー"彼女から教えて頂いた正式名称は…ディステルガイスト…ですが…その機体性能が我々の技術力の数十年先を行っていたからです」


「…そんな、有り得るのか…?」


「事実ですよ、実際に私は実物を見たのですから。信じられますか?現代の機動戦艦に匹敵する…いや、それ以上の出力をもつ動力部、全身を覆う多層式装甲はエネルギーを消費して自動修復、重量過多の機体であるにも関わらず圧倒的な機動力と制御を実現する為の大推力バーニアと全身に配置された補助スラスター、武装は全て膨大なエネルギーを消費するビーム兵装…未だに実現出来ない技術ばかりです」


「……しかし、その"グリムリーパー"とやらを調べるなり、リースから聞き出すなりすれば…」


「勿論、それはそうなのですが…彼女に拒否されましてね。あらゆる手段をもってしても聞き出すという意見も一部あったらしいですが…」


それはリスクがありすぎる…か。

そんな代物が暴れだせば間違い無く大打撃だからな。


「まぁ、最終的に彼女が折れましてね、グリムリーパーは駄目だが自分達で技術を解明出来るのならと言ってロールアウトしたのがこのファントムなのですが…はっきり言いまして我々には解析不可能という結果だったので悔しい限りですよ。彼女が居なくなってからは起動すら出来なくなってしまいましたしね」


起動の為に必要な起動キーが無いから解析も出来ず、そもそも技術的に再現するのが非常に難しいから今まで放棄されていたと。


「軍としては彼女の過去の罪を盾にして交渉していたみたいですがね。そもそも彼女は罪を認めてグリムリーパーごと自爆する気だったそうです。…だがそれを辞めるに値する出来事があった、それが何かは最上級のプロテクトがかかっていて調べる事は出来ませんし、やろうとも思わないですね…私にとっても彼女は…まぁそれはいいとして自ら藪を突く必要もないと思いましてね」


多分それは………イリスだ。

リースは死んだと思っていた娘が生きていた、と昔まだ部隊長だった俺に語った事があった。


『私は神が居るっていうのは信じてなかったけれど、今は毎日祈りを捧げてますよ。死んだと思っていた娘が生きていた、あの子を抱きしめる事が出来たのは神様がくれた奇跡ですから』


もしも、私に何かあった時は…あの子をお願いします。


それが最後にリースと交わした約束だ。


「……それは懸命な判断だな」


「ええ、ですがこの機体に関しては別です。これは私が彼女から与えられた宿題、のような物だと思っていますから…決して放棄していた訳では無いですよ?これとは別の……っ!?」


突然格納庫内にアラートが鳴り響く。


『敵機動兵器接近中!!警戒レベル4、これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない!』


「まさか本当に来るとは!ハロルド!俺達も出るぞ!……フロイト殿、貴重な話をありがとうございます、あなたは早くシェルターへ避難してください」


「分かりました、まだ話す事があったのですが…それはこの襲撃を乗り越えてからとしましょう、ご武運を!」


走り去るフロイトを見送ったダリウスはハロルドと合流するとヘルメットを受け取った。


「数は?」


「今の所は3機です!ダン、フリッカ、ガイツが交戦中で3機共トマホーク型らしいですが…」


また厄介な機体を…。


トマホーク…拠点を攻める為に開発された重装甲AFで機動力こそそこまで高くないが強力な150㎜キャノンを装備し、近接格闘も大型のスレッジハンマーを基本装備としている為に中、近距離で無類の強さを誇るAFだ。


「…これは、陽動だな」


「と、思われます。トマホークは拠点攻略には確かに向いてますが…機動力に問題がありますし、何より3機しかいないというのはこの規模の施設を襲撃するには明らかに少ないですからね」


多分奴らの本命は…


「ハロルド、トマホークの相手はダン達とオストローデン駐留艦隊に任せて俺達は…ここだ」


ダリウスが端末のマップで示した場所にハロルドは頷く。


「了解です、こちらが陽動であれば必ずここから来ると思います」


示した座標はオストローデン東地区にある搬入口だ。


「ああ、早めに片付けるぞ。今はオストローデンにイリス達学生も大勢居る、被害を出すわけにはいかん」


「勿論です」


クソッ!やはり嫌な予感は当たるのか…!イリスに何もなければ良いが…


『………対象の反応…確認…』


二人が走り去った後、無人となった格納庫に佇むファントムのカメラアイが一瞬輝きを放ったのを誰も知るよしは無かった。

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