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あの日見た流星  作者: カルバリン
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第26話 ラグラス


「…識別信号確認、あれが出迎えの機体で間違いないみたいだ。イリス君、予定通り接触する」


「了解、スラスター出力カット。通信チャンネル3で固定…っと」


ファントムのスラスターが停止し慣性で進んでいくと相手の方も理解したのか同じようにスラスターを停止してゆっくり接近する。


『あー、こちらデンゼル重工所属のギリアムだ。そちらは統合軍高速戦艦1番艦"ソルシエール"所属の《ファントム》で間違いないか?』


「はい、ファントムパイロットのイリスです。…ギリアムさん、で良いでしょうか?以降はデンゼル重工へ到着までそちらの指揮に入れば大丈夫ですか?」


『……それで大丈夫だ、それと俺の口調は客人に対して不適切だとは思うが許して欲しい。生憎生まれてこのかた丁寧な口調というものを使ってこなかったのでな』


客人…?整備を受けるだけだから客っていうほどでは無いんじゃないかなぁ…とは思ったけれどギリアムが語った次の言葉で意味が分かった。


『そのアサルトフレーム…ファントムだったか?そいつを工場へ格納したらすぐに修繕に入る手筈になっているのは聞いているだろう?修繕の間にデンゼル社長が君に会いたいと言っているから社長の元へ案内する』


やっぱり…フロイトさんが言った通りか。


出発の前にフロイトさんから今回ファントムが単体で先行する事に決まったと聞いた時、フロイトさんはデンゼル重工が行き先と聞いて何か考え込んでいたから聞いてみたら…フロイトさん曰くデンゼル重工の社長は私のお母さんと関わりのある人物でお母さんの残した手紙にも出てきたらしい。

だからデンゼル重工の社長が何らかの接触は図ってくるだろうとは予想してた。


「やはりデンゼル氏の差し金か。だがこれはイリス君にとっても良い機会かもしれんな」


「…良い機会?」


「デンゼル氏はリースさんと深い繋がりがあった人物だからね。彼の協力があればこれから先何かあったとしても君の助けになるだろう。……どうにも今の状況はキナ臭いのだ、今になってイリス君の周りを取り巻く現状が動き始めた事…デンゼル氏は何かしら知っている可能性が高い」


そっか、確かにここ最近で色々な事が起こってるし…


『すまんがすぐに出発したい。最近宙族どもの動きが活発でな…最悪の場合捕捉されるかもしれん。出来るだけ戦闘は避けたい』


どのみちファントムは戦闘が出来る状態でも無い為すぐに出発したいという意見には賛成だ。


「わかりました、追従しますから先行お願いします」


『了解だ、しっかりついてきてくれよ』


ギリアムがスラスターを吹かして加速した後からイリスもスロットルを上げてその後ろを追いかける。


モニターにはスラスターの状態が表示されているが常にerrorの文字が点滅していてそれをフロイトが騙し騙し調整して誤魔化す。


「ふむ…思った以上に状態がよろしくないな。補助スラスターへのエネルギーラインをメインスラスターへと回すか…?だが…」


『機体損壊率42%超過』


たまに喋るこの機械音声についても未だに解明出来ていない。

最初に乗った時には意志があるみたいに私を認識していたみたいだったけどフロイトさんが調べた結果…特にそれらしいプログラムは見つからなかった。


「フロイトさん、デンゼル重工まで持ちそうですか?」


「このままの出力を維持していれば大丈夫だ、しかし万が一戦闘になれば…1つ方法はあるのだが先行している彼が問題だな」


「どうしてですか?」


「ファントム単体なら敵から逃げる事が出来るのさ。リースさんの手紙にはファントムの装備に関する詳細な仕様が記載されていてね、こいつが"ファントム"という名前を冠しているのには意味があるのだよ」


ファントム(亡霊)って名前なのは何でかな?って気になってたけど…


「イリス君は"光学迷彩"というものを知っているかね?まぁ…原理から説明すると長いので簡単に言えば周囲の景色と同化して視覚を誤魔化し透明に見せる…擬態して身を守る生物が使う擬態がそれなんだがね、ファントムは短時間ならば視覚だけじゃなくあらゆるセンサー類から完全に姿を隠せる"隠蔽装甲(ハイディングアーマー)"という機能があるのだよ」


ファントムの装甲は特殊装甲の1種で通常は堅牢な装甲というだけの物だがエネルギーを装甲へと大量に回すと隠蔽装甲(ハイディングアーマー)が起動して完全に姿を隠す…センサー類ですら感知出来ない、文字通り実体の無いファントム(亡霊)となる。


「今回デンゼル重工で整備する事になって私は良かったと思っている。このファントムも装甲や内部機構、武装はデンゼル重工の協力で造られた物が多いらしいからね。幸い設計資料も手に入ったから私でも整備は可能だ……まぁ都合良くいき過ぎてる感は否めないがね」


「そうだとしても有難いと思いますよ?これからどうなるにしても私達に不利な事は今の所無さそうですし…」


私の状況は二の次だとして結果的に巻き込んじゃったアリア達に関してはどうにかしてあげたいな。

その為なら例え不自然で作為的な状況だとしても利用出来る事は利用していく。


「…大丈夫。私はやれる」


ギュッとレバーを握りしめた時、通信が入る。


『少し聞きたい事があるんだが…そのアサルトフレームは何処で手に入れたんだ?』


唐突な質問の意図が分からずにフロイトを見る…正直に言った方が良いのか、誤魔化すのか…


「…それは答える必要があるのかね?」


『無い。だが個人的には答えて貰えると嬉しいが…昔似たような機体に辛酸を嘗めさせられた事があってな。最初に見た時から気になっていた』


「もしその機体と同じだとしたら貴殿は…」


『勘違いしないでくれ、辛酸を嘗めさせられたといっても10年は昔の話だ。そんな昔の機体が今も統合軍で運用される訳もない…ただお嬢ちゃんの機体がそいつに似てたから同じ技術者の作品かと思って聞いただけさ』


多分その機体と同一だと思うけど…つまりこの人は昔お母さんと戦った事が…?


「その話、もしよかったら教えて頂けませんか?」


『…嬢ちゃんが興味を持つような格好いい話でもない…だがまぁ工場に着くまで少し暇だからな、オッサンの昔話位聞かせるのは構わねぇが…その代わりその機体の事も教えてくれよ?』


「機密に抵触しないていどなら大丈夫だ。イリス君に貴殿の話を聞かせてやってくれ」


『了解だ、つってもそんな大層な話じゃない。昔から俺は要人警護専門の傭兵だったんだがある時受けた依頼が偽装されたデータで発注された依頼だった』


「偽装…ですか??」


『あぁ、普通は要人警護とはいえ犯罪に関わる組織は依頼を出せないシステムなんだがな…たまに偽装して依頼を出す馬鹿がいるのさ』


アサルトフレーム等を扱う商人…武器商人は頻繁に宇宙海賊や同業者から襲撃を受ける為に大体の武器商人は独自に護衛部隊を雇っている事が多い。その斡旋を行うのが傭兵ギルド、フリーの傭兵や登録されているクランに依頼人の簡単な情報を開示して斡旋する。

詳細な情報開示は契約を結ぶ時に依頼人から提供されるのだが犯罪組織などの依頼発注を厳しく取り締まるギルドの裏をかくようにして依頼を出す組織がたまに出る…それに当たったのが当時のギリアムだった。


『そいつらは統合軍の横流し品を売る闇市が開かれる資源衛星までの護衛を依頼したのさ。表向きは資源衛星へ物資の搬送って名目でな』


依頼料も相場より高めだったし、前金で報酬の半分を振り込むって事で受けた訳だが…護衛の途中で俺達は統合軍の部隊に停止命令を受けた。


当時は統合軍に偽装した海賊が出ていたし、遭遇した部隊の部隊章がデータに存在しなかった事、1機だけ母艦から出撃してきた事…そこで俺達は統合軍に偽装した海賊かも知れない、と一応迎撃の用意をした…いや、してしまった。


停船命令を無視と判断された俺達と交戦状態に入ったその機体は瞬く間に俺の部下や仲間を落としていった。

俺自身も何度か切り結んだ後、機体の手足を全て切られて戦闘不能…あっという間だ。手も足も出ないとは正にあれをいうのだろう。


捕縛された俺達は依頼人共々連行される途中の輸送艇の中から側を並走するその機体を眺める事しか出来なかったな…黒い塗装のアサルトフレーム。


『釈放される時に聞いた話だと護衛含めて全員に殲滅許可が出されていたみたいでな…俺達が生かされたのは相手の隊長の優しさだったらしい。だがそれが余計に悔しく思ったのさ、生かして捕らえられる位に余裕で狩られたって現実にな』


それからずっとその部隊について調べてみたが情報1つ出なかった。

戦闘記録が残った機体は関与してないとされた時点で記録を抹消し、修理をした状態で統合軍から返却された。

修理もその部隊の差し金だっていうから余計に悔しく思ったな。


『ま、記憶にある機体とその機体が似ていたから気になった。それだけさ…もしその機体が同じ技術者のカスタム機体なら当時のあの部隊に関して何か分かるかと思った訳だ』


…なるほど。というか完全にファントムの事だし部隊の隊長って間違いなくお母さんじゃ…


「この機体に関してなら我々よりデンゼル重工の方が詳しいと思うのだが…社長と繋がりのある貴殿なら今回出迎えに行く事になった我々の情報はある程度知っているのだと…」


『なに…?そりゃ…どういう事だ?』


「…気になるのならイリス君をデンゼル氏の元へ連れていった時に直接デンゼル氏へ聞いた方が良いのではないかな?」


それなら…


「もし良かったらさっき聞かせて貰った話の対価…というかお礼になるか分かりませんけど…ギリアムさんも一緒にその場に居てくれますか?フロイトさんは機体の整備で手が離せませんし…私としても一人だと不安だというか……」


そう言った後、通信機から聞こえて来たのは愉快そうに笑うギリアムの声だった。


『嬢ちゃん、そりゃ俺に"護衛"を依頼するって事か?…気に入った!もし社長が嬢ちゃんに対してなんか企んだり不愉快な事になったりしたら俺が必ず守ってやる』


なおも笑い続けるギリアムだったが…


『お喋りはここまでだ、見えたぜ?あれがデンゼル重工本社があるラグラスだ』


モニターには巨大な工場が幾つも見えていて、工場の他にも戦艦クラスの艦が係留されているドックやビルなどが建ち並ぶ区画…その周囲を中型の戦闘艇とアサルトフレームが監視している。


「あんなにアサルトフレームが哨戒に出てる…まるで要塞みたい…」


「あながち間違いではないね、デンゼル重工程の大企業だと自社で抱える戦力は相当な規模だろう。ただ色々と制約はあるがね」


企業が持つ戦力は大前提として自衛以外に使用してはならない。戦力を保持する場合統合軍に戦力の正確な規模、つまり保持する固定砲台や迎撃衛星、艦艇、機動兵器…その全てを報告、登録する義務がある。


『俺達は社長直属だから別ではあるが…デンゼル重工の中でもラグラス防衛部隊の戦闘力は相当なもんさ。宇宙海賊を撃退した数も中々だぞ?……と、それよりまずは社長から指示されたドックへ向かう。このままあの馬鹿デカイ戦艦の奥にある格納庫へ飛ぶぞ』


ギリアムに追従して巨大な工場の上空を通過していく…


「こんなに大きな工場は初めて見ました…凄いですね!」


「デンゼル重工はオストローデンと深い繋がりのある企業でもある上にカスタムパーツの生産や販売、それ以外にもプラネットを建造したりもしているからそれに合わせて工場も巨大な造りになっているのだよ」


ファントムのモニターに丁度工場の屋根が開いてプラネットの外壁部分を転回させているのが映る。


『このラグラスでないと見れない光景だろう?だがラグラスは工場だけじゃない、ここで働く従業員やその家族の為に作られた街があるんだが嬢ちゃんくらいの若者向けのショッピングモールなんかもあるぜ?時間があれば案内してやるよ』


「本当ですか!」


「…それはまたの機会になると思うがね…今は一応作戦行動中だか……いや、まぁファントムを仕上げる間ならアリア君達と行ってきたまえ。私が艦長には許可を取るとするさ」


本来ならこの様な状況は好ましくないのだ。

イリス君達は普通にしている様に見えるが日常とは違う事で少なからずストレスは溜まるだろう…それに…作戦が始まれば皆が無事で済む保証もない。


学生に頼るしかない軍人とは…


「……ままならんものだね」


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