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あの日見た流星  作者: カルバリン
26/43

第25話 ダリウス中隊


『ダリウス中佐!これからどうするんですか!?』


「ハロルド!もう中佐じゃない!良いからもっと速度を上げろ!もう少しで合流ポイントだ!」


後ろからは10機以上のスピアが追いかけて来ていた。


「バサル准将!幾ら誤魔化す為とはいえ流石にこれはキツい!」


バサルの部屋から出てバーミリオンを退艦しようとした直後艦内の警報が鳴りダリウスとハロルドの捕縛指示が艦内放送されたのだ。


二人は慌てて格納庫へと走り待機中だったスピア2機を奪って逃走、現在に至る。


「迂闊に撃墜する訳にもいかん、最悪合流ポイントを変える必要があるな」


『そうは言っても…あっちは普通に撃ってきてるんですよ!?こんな通常仕様のスピアじゃ…』


表向き俺達は脱走者扱いになるからな。


直撃しそうなものだけを回避しながら逃走する二人だが流石に10機以上に追われてはどうにもならない。


『…前方から識別不明機が更に1機来ます!!…こいつ、速い…!?』


レーダーに映る機影は凄まじい速度でこちらへ向かって来ていてこのままだと挟み撃ちにされる状況だった。


「仕方ない、ハロルド!応戦するぞ!」


『了解!援護は任せて下さい!』


二人が一斉にライフルを前方から来る機体へ向け、その機体が見えた時…同時にライフルを撃ったが目標の機体はスラスターの噴射方向を変えて機体を捻り連射されたライフル弾を綺麗に避けた後、二人を一瞬で抜き去り後方から追いかけて来ていた統合軍のスピア達へと突っ込んでいった。



『なんだか分かりませんけどこれはチャンスです!今のうちに離脱しましょう!』


「…ああ、確かに」


見たことが無い機体だったがあの動き、あれはまるで…いや、そんなはずは無いか。


ダリウス機のモニターには混乱している統合軍の部隊相手に身の丈に匹敵する刀身を持ったカタナと呼ばれる武器を軽々と振り回して暴れるグレーのアサルトフレーム…機体の見た目はスピアに似ているが背中にあるバーニアはかなり大型で頭部には指揮官機に装備されているタイプのブレードアンテナ、脚部や腕部はスピアよりも一回り程太い。


あんな馬鹿みたいにデカイ刀身を持ったカタナをあの機体は踊るように振り回して頭や腕、足を斬り飛ばしていく…相当な技量がないと出来ない芸当だった。


『ダリウス中佐!早く!あいつが暴れている間に!』


「分かっている、だがその前に…グレーのASのパイロット!どこの誰かは知らないが助かった!そちらも無理せず離脱してくれ!武運を祈る!」


ダリウスの通信が聞こえたのか一瞬だけダリウス達の方を向いたグレーの機体だったがまたすぐに敵に向かって突撃していった。


「…ん?メッセージか」


"了解"


たった一言ではあったがあの機体が少なくともダリウス達の敵では無いという事だ、敵ならそもそも最初のすれ違いざまに切り捨てられていただろう。


バーニアを吹かして離脱していく2機を確認したグレーの機体は2機を追いかけようと動き出した1機へ向けてカタナを投げつけて串刺しにすると腰から通常サイズのカタナを引き抜く。


「行かせはしない」


バーニアが猛然と炎を吐き出して機体を押し出すと瞬く間に距離を詰め、カタナを振るってスピアの両腕を刈り取り行動不能にさせるとそのスピアを掴んで最後の1機に投げつけて完全に沈黙させた。


投げつけて刺さったままのカタナを回収して肩に担いだグレーの機体のコックピットが開く。


「…これで大丈夫。後は…アルテミスか」


コックピットの中から出てきた軍服姿の女性はダリウス達が去った方向を見て呟いた後、何処かへと飛び去っていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


離脱したダリウス達は待機していた輸送艦"ストリクス"へと着艦して部下達へ暫くの間は追われる立場になる、と告げて事前に話していたよりも厄介な状況になったと説明した。


「まぁ、皆ダリウス中佐に助けられてここに居ますからどこまでもついていくのは当然です」


「…俺は大した事はしてないがな。本来は軍を正式に離脱して傭兵クランを作るつもりだった…しかし今の状況でも皆がついてきてくれる事に感謝する」


「それより、バサル准将から頂いた鍵の事ですけど…調べたら倉庫じゃなくて民間人が借りているドックでした。しかも名義は"リース=オドネル"と」


「…なんだと?そんな筈は…」


「いや、間違いないですよ?しかも2年毎に契約は継続してるみたいですし…あぁ、更新は本人じゃなくても出来ますから本人だとは限らないですね」


「いや、とにかく行ってみるしか無いから考えても無駄か…それに、ドックならば潜伏するには丁度良い。オストローデンなら中古で戦闘艦も買えるだろう…さすがに輸送艦のストリクスじゃどうにもならん」


ストリクスはダリウス達が任務に出る際に使っているアサルトフレーム5機を格納出来る小型だがそれなりの速度を持つ輸送艦でこの艦自体に攻撃力はほぼ皆無…それに加えてダリウスの愛機…フラムベルクも無い状態では戦力的に厳しい。


「ダンとフリッカの機体はあるんだな?」


ダリウスの問いに答えるように前に出たのは統合軍の制服を着崩し、どこかの山賊だと言われても違和感が無いスキンヘッドの男…ダンだ。


「へい、あっしとフリッカは別件で帰ってきた所だったんでありやすが…隊長と副隊長の機体は次の任務へ向けて整備だとか言われて持ち出しが出来なかったんでさ」


「たいちょ~!あたしのアルテューレちゃんが甲板に固定されてるのをなんとかしてくださいよぅ!」


ダンの後ろから不満顔で出てきたのはダリウスの部隊で遠距離支援担当のフリッカ=バークレイ…彼女が駆るのはアルテューレ、主兵装は徹甲弾、HE弾、更に近距離でも対応出来るように散弾を撃てる特殊ライフル"レイルフォース"を装備、右肩には小型ミサイルポット、左肩に高性能レーダーユニットを備えたランサーを狙撃仕様にカスタマイズした機体だ。


「…フリッカ、お前の機体が外に固定されてんのはストリクスに自衛手段が無いからだって言ったじゃねーか。あっしの機体じゃ意味が無いからもう少し我慢しろよ」


ダンの機体は"ブリッツガード"でこちらもランサーを重装甲にカスタマイズした機体で最大の特徴は両肩の強化補助アームに装備された複合型可動式シールド"ゴドリア"だろう。

左の盾が完全な防御用の3重層装甲で右の盾はシールドとしての役割もこなすが内側に装備されたガトリング砲で射撃も出来る。

更にガトリング砲は残弾が0になるとパージする事も可能でデッドウェイトとならないようになっているがそもそもブリッツガード自体が鈍重な機体である為ガトリング砲を切り離した位では何も変わらないのだが。


二人が言い合いをしているのを眺めながら考えを巡らせる。


ダンとフリッカがこちらと合流出来たのは幸いだが…戦力不足だな。俺達の機体はバサル准将の所から拝借したスピア2機、ブリッツガードにアルテューレ……イリス達の目的地がアルテミスだというバサル准将の言葉が正しいなら宇宙海賊の拠点攻略作戦へと参加するのだろう。


しかし…いくら最新鋭の戦闘艦だとはいえ今まで攻めあぐねていた海賊達の拠点を叩くには不十分だと思うが…それを覆す何かがあるのか??


「中佐、考え事の途中で申し訳ないですが…オストローデン付近に展開するアサルトフレームと中型の艦艇がいるのですが…どうも交戦中のようです」


「識別信号は?」


「統合軍に該当部隊無し、交戦中の機体も同じく該当機体無し…ただ片方からは救援信号が発信されていて信号パターンから傭兵だと思われます」


報酬を受け取った帰りに海賊にでも襲われてるのか?


「仕方ない、見捨てる訳にもいかんだろう。ダンとフリッカは自機で待機、俺は戦闘指揮を取る…ハロルドはスピアで出撃後ストリクスの直援に回れ。状況を見てダンには出てもらう」


それぞれが了解!といって散っていきダリウスもストリクスの艦橋へと向かい自動操舵から一部をマニュアルへと移行する。


「軍から離脱したとイリスが知ったら叱られるな。…だが軍籍よりも大事なものがある、その為なら愛娘に叱られる程度甘んじて享受するさ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


オストローデンから100キロ程度離れた場所で逃げながら交戦しているのは鮮やかな緑に塗装されたアサルトフレームでそのコックピット内で苛立ちを募らせるのは20代後半の女性だった。


「いい加減しつこいんだよバリィ!あんた達みたいな三流海賊の仲間にゃならんっていってんでしょ!!」


乗り手の苛立ちに呼応するように鮮やかな緑のアサルトフレームが右手に装備したショットガンを連射して近づいていた1機を破壊した。


『サーリャ!こっちが下手に出てりゃつけあがりやがって!!こっちはお前の機体を破壊して無理矢理連れていっても良いんだぜ!?』


旧型のスピアをカスタムした機体で悪趣味な武装…巨大なチェーンソーを唸らせ迫ってくるのはあたしを仲間に引き入れたい海賊団…"サーペントテイル"の副団長のバリィという男であたしが誘いを断った事に腹を立てて部下を引き連れてきたのだけどこっちとしては迷惑極まりない。


「はん!それが出来ないから奇襲を仕掛けてんでしょーが!!悔しいならあたしとこの"シルフィード"を越えてみな!」


怒りのままに振り下ろされるチェーンソーを避けて腕に内蔵されたグレネード弾を発射しまた距離を取る。


…参ったねぇ。ああは言ったけど補給もしてない状態な上にあいつらの後ろには母艦まで控えてる…一応傭兵に偽装した救援信号は出しちゃいるけど今一番近くにいるのは統合軍の輸送艦しかいない。輸送艦の護衛程度の戦力じゃあいつらには……。


『…聞こえるか?こちらは救援信号を受信した輸送艦ストリクスだ、聞こえるなら応答を』


輸送艦から通信?助けてくれそうならありがたいが無駄に死体を増やすのはよろしくないね。


「あたしはサーリャ!ストリクス号の救援には感謝するが離脱を推奨する!輸送艦じゃ無理さね!」


『……了解した、だが目の前で人を見捨てるのは私の信念に反する』


信念って…輸送艦に武装なんざないだろーに!


「武装もないような輸送艦はさっさと…『フリッカ、撃て』」


輸送艦の通信に一瞬遅れてサーリャを包囲していた敵機が高速で飛来した弾丸に貫かれて爆散した。


何が起こったか分からず慌てる海賊達だがサーリャは口笛を吹いて笑みを浮かべた。


『そちらの機体はかなり消耗しているが…戦闘継続は可能か?』


「この程度ならまだいけるさ、改めて助けて貰えると助かるよ」


『了解した、君はストリクスの近くへ来てくれ。すぐにアサルトフレームを出撃させる』


輸送艦に武装があるのも驚いたけどこの艦長…戦い慣れてる。


『逃がすか!』


スラスターを吹かして接近してきたバリィだがまたストリクスから弾丸が飛来してバリィの機体…マッドチェイサーの装甲を抉る。


さっきから輸送艦の射撃にしちゃえらい精度が良いじゃないか…余程腕が良い砲手でもいるのか…?


マッドチェイサーがバランスを崩している間にストリクスへ近づいたサーリャはストリクスを見てなるほど、と納得する。


「輸送艦に武装がなけりゃ固定砲台って…そりゃスピアなんて一撃で爆散する訳か」


モニターに映ったのは輸送艦の甲板に片膝をついて対艦ライフルより更に長大なダブルバレルライフルを構えた市街地迷彩仕様のランサーカスタムだった。

宇宙で何故市街地迷彩なのかは疑問だが頭部を狙撃用バイザーで覆ったその機体は更にライフルを撃ち、数瞬遅れて爆発光が迸りまた1機海賊の機体が爆散した。


『また1機地獄へごあんな~い!やーっぱりレイルフォースは素直な武器だよね!』


スピーカーからは緊張感のない若い女の声が聞こえてきてその間にもまた発砲、同じように爆散する。


『こちら輸送艦ストリクス所属のハロルドです、貴女の機体はまだやれるとの事でしたが…無理はせず下がっていて結構です』


涼やかで真面目そうな声の主は輸送艦から出撃してきたスピアで見た感じ一般的な統合軍のスピアだった。


『…そうかい、それなら助かるよ。さっきは強がったけどわりとシルフィードもダメージが残ってるからね。おんぶにだっこですまないけど…』


『いえ、どのみちオストローデンへ行くにはあなた方の近くを通る必要があったので。ここはお任せを…ダン、あなたは彼女とストリクスの護衛を。私が片付けてきます』


了解でさ、という声と共に輸送艦からもう1機アサルトフレームが出てくる。

出てきたのはこちらも市街地迷彩のランサーカスタムだが両肩に巨大な盾を装備していて重装甲だ。


……輸送艦にしちゃ異質な位に戦闘力がありそうな面子だねぇ。あたしの正体がバレると厄介な事になりそうだけど…あの狙撃手からは逃げられそうに無いね。


『フリッカ、私が討ち損じた敵は任せます…よ!』


スラスターを全開にしてハロルドが敵の方へと突撃して近くにいた1機をすれ違い様に腰から引き抜いたサーベルで斬り捨てる。


『こ、こいつっ!?』


仲間を瞬く間に落とされたバリィが慌ててアサルトライフルをハロルドへ向けて撃つがそれをスラスターの噴射角を微調整して綺麗に避けて肉薄する。


『いくらノーマルだとしてもその程度の腕で私は落とせませんよ!』


凶悪な音を立てて振り抜かれるチェーンソーをハロルドはチェーンソーの刃が無い部分…つまり腹の部分をサーベルで払い、左腕に装備しているシールドでマッドチェイサーを殴りつける。


『うごあっ!?』


殴られた衝撃でマッドチェイサーが大きくよろけた所でシールド裏にマウントされたグレネードを発射して吹き飛ばし、スラスターを吹かしてトドメの一撃を叩き込もうとした瞬間、アラートが鳴り響きすぐにその場を離れる。


すると今までハロルドが居た場所を重巡洋艦クラスの主砲が通りすぎた。


『やはり撃って来ましたか!…ダン!ストリクスを!』


『任せろぃ!』


ストリクスの前面で待機していたブリッツガードが両肩のゴドリアを構えて主砲を受け止める。

重巡洋艦クラスの主砲はアサルトフレームならば普通に撃破出来る威力を持っているがブリッツガードに対しては有効打とはならない。


『…どうやらあの主砲は仲間を逃がす為だったようですね』


モニターには撤退していくバリィ達が映り、それに対してフリッカは『撃って良い?』と聞いてくる。


『…いや、引くなら放っておく。重巡洋艦も撤退するみたいだからな』


ダリウスの言葉に了解、と返したフリッカだが完全に射程外になるまでレイルフォースを敵の重巡洋艦へと向けて撃てる様にしていた。


『さて、一応片付いた訳だが…その損傷ではオストローデンで修復するしか無さそうだな。よければオストローデンまで送るがどうする?…と、そういえば名を聞いていなかったな、私はダリウスだ。君は?』


『…あたしはサーリャ、流れの傭兵さ。助けてくれてありがとう。あんたたちさえよければオストローデンまで連れていって貰えると助かるよ』


『了解した、ならばハロルドに従ってカーゴに機体を格納してくれ』


『あいよ』

適当に逃げようかと思ったが…ふふふ、ダリウスにハロルド…統合軍でも有名な"赤い稲妻(レッドライトニング)"と"蒼の騎士"(ブルーナイト)の部隊に会えるなんてねぇ。


もしかしたらあたしの願いは…案外すぐ叶うかもしれない。

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