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あの日見た流星  作者: カルバリン
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第24話 バサル


「中佐!イリスちゃんは見つかりましたか?!」


「…いや。何処を探しても見つからなかった。だが…大体の検討はついてるさ」


イリスと同時に行方が知れない生徒3人…イリスの友達であるニール、アリア、ロイの3人が行方不明となっているが…


「行方不明じゃない、彼らが乗っていたアサルトフレーム…あれは軍の新型だ。必ず軍の上層部が絡んでいる」


「では、今から向かうのは…」


「…いや、上層部に直接掛け合っても意味は無い。普通なら保護者である俺に連絡がくるはずだがそれもない。…事の次第によって…俺は軍を抜ける」


「中佐、その時は私もお付き合いしますよ。というか部隊全員抜けると思いますけどね」


冗談でもなんでもない事実だ。ダリウスが率いている部隊はダリウス自ら集めた人員で構成されている…というか彼の行動で救われた者が自然と集まって来た、というのが正しい。

だからダリウスが軍を抜けるとなった場合は全員ついてくる事になるのは間違いないだろう。


「…ははは。もういっそのこと傭兵としてクランを立てるか?軍を辞めて生活出来ないなんて事になったら申し訳ないからな」


「良いですね、もしそうなった場合は是非やりましょう!」


「だな。しかしまずは…イリス達を見つけるのが先だ、多分あの人(・・・)なら答えを持ってる筈だ」


ダリウス達が向かうのは統合軍第3機動艦隊司令…バサル准将の艦…バーミリオン。その艦影が遠くに見えて来る。


「バサル准将がこちらに迎えのシャトルを寄越す、と言っていたが…あれか?」


見た先には統合軍のマークが入ったシャトルが待機していた。


「…失礼、貴方はダリウス中佐でお間違いないでしょうか?」


声に振り向くとそこには統合軍の制服を着た士官が立っていた。


「…そうだ、こっちは我が隊の副隊長のハロルドだ。貴官は?」


「私はバサル准将よりダリウス中佐をお迎えするように指示を頂きましたメイズ中尉であります!中佐の武功は聞き及んでおります、お会い出来て光栄です!」


「いや、私はそんな言葉を向けられる程の男ではないさ。早速だが准将の元へ案内してもらっても?」


「了解です!あちらにシャトルを待機させてありますのでそちらへ」


メイズに案内されてシャトルへ乗り込むと座席に座る。


軍のシャトルでも降下作戦用の機体なのだろう、座席は機体の左右に搭乗員が待機する為の簡易的な座席しかないし、所々が実戦投入されているだろうと思える位には使い込まれた跡がある。


「このような機体でお迎えするのは忍びないのですが…」


「構わないよ、私達は客ではないからね。無駄な金を使う必要なんて無いさ。バサル准将はそれを理解しているからこれを迎えに出したんだろう」


俺としては話の内容次第で軍を離脱するつもりなのだからその方が気楽で良いが。


「バサル准将なら答えを持っている…と言ってましたけどそれは何か確信が?」


「…今回の輸送計画、あれはバサル准将の指示だった。そもそも今日俺がここに来たのも准将が根回ししてるみたいだしな」


普通ならオストローデンでの戦闘で輸送対象のファントムを奪われた俺達は任務を遂行出来なかったのだから何らかの処分を受ける筈だった。

だが処分はなくイリスと他の3人の生徒の捜索は統合軍の調査隊が行うから報告書を上げたのち別の任務に着けとの辞令までくる始末…明らかに俺達を干渉させないように遠ざけているとしか思えん。


それに…あの時敵のパイロットが言っていた目的…新型艦とその搭載アサルトフレームの奪取、新型艦などそんな情報は与えられて無かったが実際に新型のアサルトフレームを見た以上は新型艦も存在しているのは間違いない。


「…さて、バサル准将は何を考えているのやら。納得のいく話であればいいが…」


そうしている内にシャトルはバーミリオンの着艦デッキへと降り立ち、そこには…離れた所からでも一目で分かる巨漢が腕を組んで仁王立ちしていた。


壮年だがしかし力強いその雰囲気はまさに歴戦の猛者、というに相応しい。


「よぉ、元気だったか?」


シャトルから降りたダリウス達へそう声を掛けニカッと笑う。


「お久しぶりです、バサル准将。確かイリスの入学式以来ですかね」


お互いに抱き合うとバサルは着いてこい、と踵を返す。


「おぅ、イリスの入学式だってぇのにハロルドと組んで俺を遠ざけたお前のやり口…忘れてねぇぞ?」


「…結局その後家まで押し掛けてきたでしょうが。准将が入学式に出席していたら大騒ぎになるって考えた俺達は間違ってませんよ。大体イリスには叔父としての顔しか見せてないのですからバレますよ流石にね」


「…この顔で叔父は中々無理があるでしょ」


ボソッと呟いたハロルドを睨み付けて黙らせたバサルは続ける。


「俺がランスロットのパイロットだってバラすサプライズを実行するまで言うなよ?俺の唯一の楽しみなんだからよ」


「…分かってますよ、イリスは気が付いてませんから安心してください。…それよりも」


「まぁ待て。その話は俺の部屋で話す」


それから暫く3人は世間話をしながら艦内を歩いて目的地である艦長室へと入る。


「早速、イリス達についてだが…軍の機密作戦に参加させられている」


「…馬鹿な!民間人を作戦に参加させるなど…」


「だが事実だ、昔俺の部下だった奴の艦に乗ってるのは間違いない、どうにもキナ臭い感じだったらしくてな…俺に連絡を入れてきたんだ」


「……ではそもそも准将もその機密作戦はご存じ無かった、と?」


ハロルドの問いに頷くバサル。


「ああ、准将である俺にすら隠して実行するなんざ馬鹿な事あるわけねぇ、と思いたいがな。実際にアイツからの情報ではイリス達は新型艦"ソルシエール"にファントムと共に乗ってんだよ」


バサルはこれまでの経緯を語る。


元部下であるジークリンデ大佐から助力をお願いしたいとプライベート通信が来た事にも驚いたがその内容に目を疑った。


「ファントムの輸送に関しては正式なルートで計画が送られて来たからな。確かフロントだったか?そいつが提出した届けがこれだ」


バサルがダリウスへ書類を渡す。


「…オストローデンでの解析作業?ファントムは解析が出来ないから倉庫で放置されていたのでは?それと、フロントではなくフロイトですよ」


「おう、それは間違いない。だが今回の件とも関係してるぞ?新型機…レムレースって名前だったんだがそれはファントムを参考にしてそのフロイトつー技師が造ったアサルトフレームなんだが…完成してなかったみてぇだな。一応オストローデン側にも協力要請が受理されてた、まぁ要するにレムレースの作業と平行してファントムの解析も…」


「確かに、理由としては問題無いですね」


普通に考えたらそうだろうが、実際はオストローデン襲撃と新型機、ファントムが同時に存在している所にイリスまで…そんな偶然があるだろうか?


「…ま、そんな偶然なんざあるわけねぇだろうな。あるとすりゃ…」


「…どっち側にも内通している奴がいる、ですかね?」


「最悪だがな。本当に偶然であってくれたら助かる…いや、イリス達の事を考えたらそうは言えねぇか。……しかしどうしたもんかねぇ…正式な軍事作戦に参加しているのもそうだが機密作戦というのが不味い。ジークリンデは俺は当然知っているって前提で言ってきた以上どっかで誰かが情報をねじ曲げてんだよなぁ」


やはり軍の上層部か?…だがそんな事をして何のメリットがある?


「イリス達を連れて帰る事は…出来そうに無いですか?准将なら…」


「…無理だ、完全に先回りされてる状態で俺が動いてもロクな事にならん。最悪統合軍で内部分裂する事になるぜ?」


バサル准将はかつて旧アレイストのエースパイロットとして活躍し、統一戦争の時は今も乗っている愛機…ランスロットで多大な戦果を上げた事で統合軍の英雄として慕われている。


その英雄が理由はあれど動いたとなればバサルを快く思わない連中も動くだろうし、それに反応してバサルを支持する奴らも対抗する…最悪の場合はそうして内部で戦っている間に他の勢力、宇宙海賊や統合政府に加入していないその他の国々もこぞって参戦していく事となる可能性も充分にある。


「ま、それは建前だ。イリスは俺にとっても可愛い元部下の娘なんだ、そんなイリスを巻き込んで何かやらかそうってする奴らがいるなら…俺は昔みてぇに敵を刈り尽くすまでよ。それで統合軍が崩壊するならその程度の繋がりでしかなかった、そういうこった」


元々別の国々が寄せ集まって出来たのだから様々な軋轢はある。だがそれ以前に元アレイストの軍人やアレイストの国民にとっては絶対の矜持があるのだ。


ダリウスは知らないがアレイストの人々にとって深紅の死神…リースは特別な存在であり、彼女の情報を開示しないように巧みな情報操作で隠し続けてきた。

勿論統合軍の上層部には素性から何から全てを把握している人物も昔はそれなりに居たが…今現在はほんの数人(・・)まで減っている。

その理由は簡単だ、彼女の遺産である"玩具箱(トイボックス)"と呼ばれる彼女だけがその在処を知っていた研究施設の場所を探ろうとして彼女自身に刺客を送ったり、イリスを誘拐しようとしたりした者達を全てアレイストが排除していった結果だからだ。


リース自身は統合軍にある程度譲歩し、条件を提示した上で3機のアサルトフレームを造りだした。


"神器シリーズ"と呼ばれる特別な機体…それぞれが元々あった各国に納得のいく話し合いを設けた上でリースが出した条件を守るという前提を約束した各国に1機ずつ引き渡された。


アレイストには近接格闘仕様の機体『ランスロット』


オリアナには遠距離戦闘仕様の機体『ブリュンヒルデ』


ベルンホルストには中距離戦闘仕様の機体『クルスニク』


その3機は今も高い性能を維持し、なおかつエースパイロットと言われる人物が搭乗している為まさに"神器"の名に恥じない代物である。


だがその性能に魅せられた権力者の一部はどうにかして更なる機体を手にしようと動いたがリースは同じ轍は踏むまいと自身の全てを隠した研究所を絶対に見つからないようにしていたし、万が一見つかったとしても正しい手順を踏まない限りどんな強行手段を使ったとしても突破は不可能なセキュリティを施して対策をしていた。


そしてリースが更なる保険として頼ったのが旧アレイストだった。

アレイストは彼女の願いを聞き、即座に行動した結果…リース達親子の情報を徹底して隠蔽する、もしくは偽装するといった内容の誓いを立て、それを犯そうとする者を排除してきたのだ。


…俺達アレイスト軍人は約束を違えない。リースが死亡認定されたとしてもそれは変わらん。


「ダリウス、お前を遠ざけようとする人間がわざと僻地への調査任務を押し付けようとしてるのは知ってるな?」


「ええ、バサル准将からの指令が届いた後に正式な任務として命令が来ましたが…」


「…これからお前には酷な事を言う。どうするかは自由だが…お前ら…軍を抜ける気はないか?」


バサルの言葉にダリウスの表情が固まりハロルドも驚いた表情になる。


「俺がここにお前らを呼んだ理由だがな、俺達元アレイスト軍人はリースとの約束っつーのがあるんだ。お前達にはそれを知る権利があるし、俺は知るべきだと思ってる」


「…それが軍を抜ける理由に繋がると?」


「そうだ、これから先必ず起きる出来事に対応するなら軍人では無理だ。現に俺はイリスが事件に巻き込まれても自由に動く事すら出来ねぇ…リースが行方不明になった時と同じさ」


バサルは苦々しい表情でそう吐き捨て、ダリウスを見る。


「すまん、急に言われて決める事じゃねぇな。だがなるべく「いえ、抜けさせて貰います」…なんだと?」


「元から今回の任務が断れない類いの物だと理解した段階でハロルドと決めてました。ただ…フラムベルクは軍の管理下にあるので持ち出せそうに無いですし…機体を用意する所から始めないといけませんが」


ダリウスの言葉にバサルは口角を上げるとデスクの引き出しから何かを取り出しダリウスへと放り投げる。


「…鍵、ですか?」


「それは預かりもんだ、オストローデン第2居住区14番倉庫…そこに行け。退役の手続きはこっちでやる」


「ではお任せします…と言いたいのですがそれだとあなたが動く、という攻め手を相手に与える事になります」


バサルが介入すればそれを口実にして仕掛けてくる奴らが必ず出てくる…それではバサルが今まで動かなかった意味が無くなってしまう。


「だがよ、俺ぐらいじゃねぇとお前に出された辞令は…」


ダリウスへと出された辞令はバサルぐらいでないとと撤回させるのは無理だ。


「正当な手順ではそうですね、だがもう…俺は統合軍に、いや…勝手な都合でイリスちゃん(・・・・・・)を巻き込む馬鹿共には付き合ってられない…という事で俺達統合軍第三機動艦隊第6機動戦艦"トリステイン"所属ダリウス中隊は現刻をもって貴艦隊から離脱致します」


正式な敬礼をしてそう表明したダリウスと後ろに控えたハロルド…二人にバサルは…ニヤリと笑う。


「…それがどういう事か、分かってるんだな?」


「勿論…ただまぁ隊の連中には文句を言われる位で済む…訳は無いですが…そういう事です」


「俺の艦隊から離反者が出たなら…俺自ら始末をつける。……ダリウス、覚悟しとけよ?」


最後に二人共敬礼をして部屋から出ていった後、バサルは煙草に火を点けて紫煙を吐き出し机の引き出しから1通の手紙を取り出してため息を吐く。


「リース…ダリウスも行ったぞ。生きてるのなら早く戻ってこい…馬鹿たれ」


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