第22話 有り得ない相手
「なぁ、ダウンロードは終わったか??フロイトさんが自信あるって事は相当面白そうだよな!」
面白そうって…まぁ確かに気になるけどさ。
「…よし、ダウンロードが終わったから早速始めよう」
それぞれシミュレーターカプセルの中へ入るとパイロット用のヘルメットと同じ様に作られたデバイスを被る。
このデバイスから伸びたコードが本体に繋がっていてリアルな仮想訓練プログラムが使用できる最新型だよこれ…しかもネットワーク経由で自分の機体とリンクして機体データを構築するタイプだ。
「イリスも驚いただろ?しかもこれめっちゃリアルなんだぜ?本当にアサルトフレームを操作してる感じなんだよ」
早速起動すると機体の選択が表示された。
表示されたのはスピアやランス等の量産機と…
「ファントムは…っと」
ニールは迷わずレムレースを選択してたから私もファントムを選んだ。
すると次の瞬間にはファントムのコックピットへ収まっていた。
「本当にファントムのコックピットと同じだ…」
『すげぇよな!動かした感じも本物と変わらないんだぜ?武装は自由に選択出来るらしいけど俺はフロイトさんから標準装備から変えるのは禁止されてるんだよなぁ』
確かにファントムの武装もロックされてる。
さっきの戦いで使用したメガビームランチャーと120㎜アサルトライフルは装備した状態になってる…弾の選択は徹甲弾と通常弾しか無い。
『始めようぜ!』
言われて訓練内容を選択する。
画面には通常訓練や水中戦、対艦隊戦と様々なシチュエーションが出て難易度も表示されている。
その中でも難易度がアンノウンと表示されている"特別戦"を選択すると…
「ニール、これ…難易度がアンノウンになってるから注意してね?出来るだけ離れない様にした方が良いかも」
『げ!なんだよアンノウンって!…でもわくわくするぜ…イリス、お前こそ俺から離れるなよ?』
訓練スタートの合図が入ってすぐに機体のバーニアを吹かしつつレーダーを見る…だけどレーダーはあまり役に立たない…この場所は周囲に残骸が漂っていてレーダーを阻害しているみたいだから。
『こりゃ何処から敵が来るかわかんねーな』
こちらがレーダーを使えないなら相手も同じだと思う…だからまずファントムのカメラを熱探知に切り替えると…離れた場所に1つ反応があって動いてない。
「ニール、ここから800メイル離れた場所に1機、アサルトフレームの反応がある!」
『え?1機…それだけかよ??なら楽勝じゃないか?』
いや、私は凄く嫌な予感がするけど…なにしろ行ってみないと分からないな。
『俺が先行するからイリスは援護してくれ』
「了解。フロイトさんが私達には勝てないって言った位だから油断はしないでよ?」
『任せろよ!』
駄目だ…ニールの任せろって不安しか無い。
ビームランチャーを構え警戒しつつ距離を縮めていくとそこは…
「…こんな場所まで再現してるなんて」
『今まではこんな場所無かったぜ?こりゃあれだよな、"レーゲの墓場"だっけ?』
レーゲ宙域にある戦場跡…今も残骸が漂っていてその中でも有名なのがヘリオス帝国の巨大戦艦"ガングニール"だ。
朽ちる事なく今も漂い続けるガングニールは学院での授業で見学へ行った時そのままでこのシュミレーターで再現されていた。
『イリス…なんかヤバそうなのが居るぜ』
はは…フロイトさんが自信ある訳よね…。
実物、と言って良いのか分からないけど…話に聞いていた通りあんな特徴的なアサルトフレームなんて他にいないでしょ…。
その機体は残骸として漂うガングニールの船首で静かに佇んでいた。
「…フロイトさん、驚かせるならもっと別の驚きが欲しかったよ…!ニール、絶対に油断しないで!フロイトさんってばとんでもない機体を仮想敵として出してきてるよ!」
メガビームランチャーのセーフティを解除……実際の戦闘でもないけれど……冷や汗が頬を伝う。
『確かに普通のアサルトフレームじゃないっぽいけどよ…あんなの見たことねぇぞ?イリスは知ってるのか?』
「…実物は見たこと無かったけど、話に聞いていた通りだからアレが何かは分かるよ…アレは…」
深紅の重装甲に溶けたフェイスガード…肩にはファントムに描かれた物より更に恐怖を掻き立てる死神のエンブレム。
「…ディステルガイスト、それがあのアサルトフレームの名前だよ」
動く気配がない今なら…!
ディステルガイストへ向けてメガビームランチャーを撃とうとした時、動きを見せなかったディステルガイストがこちらを見た。
「ニール!気付かれた!」
『了解!なんだかわかんねーけど強そうな相手は大歓迎だぜ!』
ニールが一気にバーニアを吹かして距離を詰め、ハルバートを振り下ろしたが…
『おいおい!レムレースよりパワーがあるってか?!』
振り下ろしたハルバートを掴んで受け止めたディステルガイストに驚くニール。
すぐにメガビームランチャーを撃ち込むとハルバートを離して回避され、ディステルガイストの背部からガトリングガンがスライドしてきて右手に握られた。
『ニール!回避!防御じゃ無理!』
ただでさえガトリングガンは発射速度が速い上にあれは普通のガトリングじゃない。
6連装のガトリングが回転してビームの弾丸をバラ撒きレムレースの盾をズタズタに喰い千切る。
『こ、の!まじかよ!?』
ガトリングガンを撃ちながらスラスターを吹かしてレムレースへと突っ込んでいくディステルガイストの横から間に入ったファントムがビームソードで斬りつけるがそれはディステルガイストが左手で抜き放ったビームソードで切り払われた。
「やっぱりファントムのビームソードより出力が…高い!」
切り結ぶ度にファントムのビームソードはディステルガイストのビームソードに押し負け、そのまま態勢を崩したファントムに見向きもせずに左手のビームソードをレムレースへ向かって投擲して串刺しにした。
『うぎゃぁぁぁぁ!』
何とも間抜けな叫びを上げてレムレースは爆散、リタイアになった。
あっというまに落とされたじゃないの!…そんな予感はしてたからまぁあれだけども。
残ったこちらにデスティルガイストが振り向く。
「でも…なんだろう?強いとは思うけど…」
左腕の装甲がスライドして中から飛び出したビームソードの柄を握り引き抜くデスティルガイスト。
スラスターを吹かして迫ってくるけれどファントムなら追いつかれる事もない様な速度…メガビームランチャーのチャージを開始しながらアサルトライフルで牽制する。
すると見るからに速度を落としたディステルガイストへチャージが終わったメガビームランチャーを向けて…トリガーを引いた。
ビームの奔流がディステルガイストを飲み込んだのを見てイリスは息を吐く。
「普通に当たるんだ…フロイトさんは勝てないだろうって言ってたけど…勝っちゃったな」
流石にあれが直撃したらね。
だけど、ニールに油断するなって言ったのに油断していたのは私だった。
急速に接近する機体、先程とは比べものにならない速度で目の前まで詰めてきたディステルガイスト…その装甲には一切ダメージは無く、溶けたフェイスガードから覗くフレーム剥き出しの顔に輝く標準仕様とは違う赤いカメラアイの輝き…
駄目だ…!
すぐさまスロットルを全開まで押し込む。それに応えるよいにファントムは凄まじい加速でイリスをシートへと押し付けた。
モニターにスラスターの状態や機体の速度…様々な情報が表示されていく。
ファントムはすでに今まで記録されているデータを超えて稼働している……なのに!!
そして…次の瞬間には高出力のビームソードでファントムは両断されていた。
モニターには『戦死』の文字。
ヘルメットを脱いでシュミレーターから出るとそこにはニールとフロイトが待っていた。
「どうかね?出来る限り再現したのだが…」
「倒したと思ったら…ビームソードで真っ二つにされました」
「…??」
「どうかしました??」
「いや、まぁ勝てないだろうとも!なんせ元のデータが素晴らしかったからね」
「てかフロイトさん!あれ何だよ!あんな機体知らねぇよ!」
「悔しければあの機体をシュミレーターで倒せる位になりたまえ!…そろそろ時間だからイリス君はパイロットスーツに着替えて来なさい、私もすぐに行く」
「分かりました、ニールは?」
「俺も格納庫で待機になるから着替えにいくぜ?イリス達が出た後にレムレースも出る予定だからな」
二人が会話しながら出ていった後、フロイトはシュミレーターのデータを確認する。
「…ランスロットにはビームソードなんて無かった筈…イリス君は学院に来たことがあると言っていたのにニール君は何故知らないんだ??」
訓練記録を調べて見てもランスロットと戦った記録しかない。
「オプション装備を間違えたかもしれんな。また調整するか…次はフラムヴェルクを追加してみるとしよう」




