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あの日見た流星  作者: カルバリン
20/43

第19話 過去2


ディステルガイストを格納庫へと移動させた後、二人は改めて顔を合わせた。


「本当に久しぶりだね、最後に会ったのは…5年位前かな…」


「そうです、5年は経ちますよ。色々聞きたい事はありますがね…何故生きていると教えてくれなかったのですか?!…死んだと思って…ああ、クソ!こんな事を…言いたい訳じゃ…」


駄目だ、久しぶりに見る彼女はあの時と変わらない姿でこちらを見ている。


「話すべき事は沢山あるけど…まずは…ちゃんとした挨拶からだね」


そう言うとリースは姿勢を正し手に持った軍帽を被って敬礼する。


「改めて、統合軍特務隊所属リースオドネル少尉です、旧アレイストからの要請で暫くこちらの開発チームに加わる事となりました、よろしくお願いします…」


差し出された手を握り返すと…


「…義手、ですか。それと…その他人行儀は何とかなりませんか?居心地が悪い」


「ふふ、今はあなたの方が立場は上よ?それ相応の態度で接するのが当然でしょ」


「勘弁してくださいよ…それよりここのチームに加わると言いましたが…本当ですか?」


「ええ、色々事情があるのだけど…簡単に言えば取引をしたの。…私がやった事に対する全てを黙認させる代わりに少しだけ協力するって」


そう言った彼女の顔は今でも覚えている…納得はしていない。そう表情が物語っていた。


そもそも彼女が武力を行使…あの機体を使って暴れたら止められない筈なのに何故だ?とは思うが…色々な事情(・・・・・)が関係しているのだろう。


「そんな顔しないで、あなたの悪い癖よ?すぐ顔に出るのは。……私も人の事は言えないけどね」


「…リースさん。あの事件…あの時あなた達に何があったんですか?…聞かれたくないならこれ以降は聞きません。だがもし…教えて貰えるなら…」


「………フロイトは私があの時研究していた物がなんだったのか分かる?」


近くにあった整備員用の椅子に腰かけたリース。


「確か…過去の遺物を研究している、とは聞いた様な…」


「そう、過去の遺物と言われている旧時代に動力として使用されていた核融合炉…それがあの当時私が研究していた物よ」


「核融合炉…?!あんな物を何故?あれは確か設計図から何から旧時代の人々が忌むべきものと言ってこの世から消した、と昔読んだ記録には…」


「…技術者ってねどの時代も考える事は一緒なのよ。禁忌と言われても技術の革新の為なら……たまたま骨董品屋で設計図を見つけたの。普通の人にはなんなのか分からなかったんでしょうね…でも私は見た瞬間に分かった」


最初はエネルギー問題を解決出来るかも知れないと思って試作型を作った…だけどリースさんは見つけてしまった。

パワー効率をあまり損なわず、今の状態から限りなく無駄を無くし、省略していった結果…とうとうアサルトフレームへと搭載出来る大きさへと収めてしまった。


「…アサルトフレームへ搭載出来るって事…つまり今あるアサルトフレームの動力であるバッテリーなんかとは比べるまでもない出力で動かせる可能性が出たの。…ただしフレームから何から相応の強度が無いとまともに動かす事すら叶わないけどね」


だけど彼女は試作型の炉と完成型の炉…2つを作った時点で研究データを全て破壊、現物は破壊に伴う被害が未知数な為に別々の場所へと封印した。


「…思えばあの時、どんなに未知数でも破壊…いえ、最初から作らなければ…って何度後悔したか…。幾ら封印処理を施しても必ず嗅ぎ付ける奴は出てくるのにね」


その日は唐突にやってきた。


「いいかな?これ以上隠すのは君達の為にならないと思うけれど…それでも渡す気はないかい?」


油断…はしていなかった。セキュリティに不備があった訳でもない…だけど人選は誤った。


「ごめんなさい…!こんな事になるなんて……」


縛られた私に謝るのはイリスのベビーシッターとして雇っていたマリアベル…病弱な弟の入院費を稼ぎたいと言って斡旋所から派遣されてきた女性で人柄も問題無いと思って雇用した。


「…………」


「彼女を責めてはいけませんよ?弟を助けたい、手術をするには莫大な費用がかかる…そんな彼女に我々が手を差し伸べただけなのですから」


「ごめんなさい、ごめんなさい…でも皆さんは無事で済むからって言われて…だけどレドさんが……!」


「彼には申し訳ない事をしました…腕が良い傭兵と伺ってましたが…あっけないものですよ」


嘘だ…レドが…あの人がやられる筈がない。だって…私達をいつも守って…


「マリアベル、君から教えたらどうですか?撃たれそうになった私を庇ってあなたの夫は死んだ、とね」


「…嘘、よね?…マリア、答えて。嘘だって」


啜り泣くマリアベルは首を振る…


「……許さない、お前達全員許さない…」


「そうですか、まぁ許して貰おうがなかろうが関係ないですが。封印した場所を教えないならば次は…」


男は手に持った銃をマリアベルが抱えたイリスへと向ける。


「この子が死ぬだけですねぇ」


「………分かったわ。教える…だけどその前にイリスを返して。いつまでも薄汚い裏切り者に抱かせていたくない…どのみち私には抵抗する術がない。ならせめて我が子くらいは抱きしめていてもいいでしょう?」


「…まぁ良いでしょう。マリアベルさん、あなたの役目は終わりです、彼女へ子供を渡してどこへなりとも消えると良いですよ、勿論約束は守りますよ?あなたに危害は加えないし、弟さんの手術費用も振り込んでありますから。…ただし、今日の事を誰かに喋った場合…知りませんけどねぇ」


マリアベルが私に近づきイリスを渡してきた時…


「ごめんなさい…!ゆるし「絶対に許さない。どこへ行こうとも必ずあなたと弟は殺すから。例え私が死んだとしても、必ず、絶対に私は行く」…ひぃぃ!?」


慌てて部屋を出るマリアベルの姿を目に焼き付ける…


「これ以上死体を増やすのはいけないので彼女は逃がしましたが…では、約束通り渡して貰いますよ」


「…あれはこの家の地下に封印したわ。扉の解除コードは"2aD5dec"後はこの鍵を二つ同時に回せば開く」


「なるほど、…おい、行ってきて確かめなさい」


二人の男が離れて家の地下へと消えていく。


暫くして二人は戻ってくると頷く。


「嘘は無かったようで…まぁこれで私の用事は終わったのですが…あなたは分かっていますよね?自分が殺されるのは」


イリス……ごめんね…私が…


響く銃声…抱えたイリスを庇うようにして何発もの銃弾を浴びたリース。


動かなくなったリースと泣き叫ぶイリスを一瞥して男は…


「…あなたの研究成果は有意義に使わせて頂きますよ」


『エレベーターからの搬出完了。作戦通りに後始末(・・・)を実行します、アルベルト。これだけあれば全てが灰になる』


「了解です、こちらも終わりましたので撤収します」


アルベルト達が撤収した後、崩れていく家の柱に腕を挟まれた事で弱々しく泣いていたイリスを抱いたリースの意識が戻った。


「……せめて………イリスだけは………」


動こうとしたリースだが挟まれた右腕は潰れてしまっていた…


「ぐ…うぅぅぅアァァァァァ!!!?」


力を振り絞って潰れて千切れかけていた腕を自ら引きちぎる。

火を放たれ、燃え盛る家の中を止めどなく流れる血で床に跡をつけながら半ばから無くなった右腕で必死に這いずっていく。


「……イリス?」


泣いていたイリスの声がしなくなった事に気が付いてイリスを見ると…


「ああ……!そんな……」


自身の返り血だと思っていた…だけど庇ったリースを貫通してイリスにも1発だけ当たっていた。


「あ…あ…あぁ……!?イリス……」


動かない我が子を抱きしめるリース。


全身から力が抜けていくのが分かる…


「…………」


崩れていく思い出の我が家…


「レド…ごめん…私とイリスも……そっちに…」


伸ばした手は何も掴めない…筈だった。


「…リース!ああ…なんで………そうか…イリスを……守ったん…だな」


聞こえる筈がない声……


「れ……ど……?」


「あぁ…俺だ……ッ…」


「イリスが……ごめんなさい……!私…守って…あげられなくて…!」


「もう、喋るな……止血すれば…ライルの…所で…イリスも…きっとまだ助かる…!」


レドはリース達を抱えると足を踏みしめる。


「…ごめんな…俺が…」


レドはアルベルトに撃たれたがギリギリ心臓は外れていた…気絶していた彼はリースの声が聞こえた様な気がして意識が覚醒したレドは言うことを聞かない身体に鞭打ってイリスを抱えたリースを見つけた。


「…生きていてくれ、た…」


「……ああ、生きてる…もうすぐ……だ」


たどり着いたのは自分の相棒であり最愛のリースが造ったアサルトフレーム…ディステルがあるガレージだった。


だが…


「……さすがに、甘くはない………か」


集中的に燃料をかけられていたのかディステルは超高温に晒され装甲が溶け始めていた。


もう身体も限界か………血を流しすぎた。


抱えていたリースと共にその場へと座り込んだレドはディステルを見上げる。


「ここで…終わりか……」


フェイスガードも溶けかけてしまっている愛機と、隣で荒い息を吐く最愛のリース…そして…


「イリス……」


二人を抱いて目を閉じるレド。


とうとうガレージも崩れ始め、3人の上に瓦礫が降り注ごうとした時、あり得ない出来事が起こる。


崩れてきた瓦礫で潰されると思ったがその瞬間、ディステルの腕が上がり、3人を瓦礫から守った。


腕が動いたと同時にコックピットハッチが開いたディステルを見て口角を上げる。


「……はは、そうか…まだ、お前は……行けるか…?」


コックピットにリースとイリスを座らせベルトをするとシステムを立ち上げる。


「これだけ……ボロボロでも……動けるな?」


呼び掛けに応える様にディステルの駆動音が響き、排熱ダクトから熱を吐き出す。


「…レド……?」


意識が戻ったリースにレドは…


「リース…聞いてくれ……君なら大丈夫…イリスを…頼む…もう時間がない…俺がガレージの入り口を吹き飛ばす、からディステルで…ライルの所へ…ディステルのメモリーに…あいつ宛のメッセージを…残した……後の事を…なんとかしてくれる…」


「い、いや…!レドも一緒に…!」


「駄目だ…ディステルも限界だ…ガレージの入り口を吹き飛ばす事は出来そうに無い…だから俺がやる……俺は…2人に生きて欲しい…」


どのみちもう3人共…助かる可能性は…


傷の具合からしても全員ほぼ致命傷だった。それでもここまで生きているのは…家族を助けたいというそれだけがレドの、リースの心臓を動かしていた。


「助からない…としても…こんな苦痛にまみれた…死にかただけは…二人にしてほしくない…駄目だとしても…脱出して、くれ…」


ディステルに触れた手が音を立てて焼けていく…これ以上は持たないだろう。


「…リース、君とイリス…3人で暮らせて…幸せだった…」


「私も…だよ……」


最後に唇を合わせた二人だったが…


「…後は任せたよ………」


閉じていくハッチ越しにみたレドは笑っていた。

そんな彼にリースも微笑みを返す。


「…さよなら…レド…愛してる」


"俺もだ"


ハッチが閉じた後、リースは片腕でディステルを操作していく。


そしてすぐに爆発が起きて…レドが…死んだのだと分かった。


モニターは既に半分が死んでいたが不思議と動かす為に必要な箇所は辛うじて動作可能だった。


バーニアを噴射してガレージから飛び出したディステル…その直後…大爆発を起こして吹き飛ぶ家…。


激痛で意識が飛びそうになるリースだが必死でレバーを握りしめディステルを飛ばす。


「……まだ、死ねない……頑張って…ディステル」


飛びながら壊れていくディステル…モニターに表示された機体情報は既にerrorの文字で埋め尽くされいつ爆散してもおかしくないような状態だった。


もうすぐ………で……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……こ、こは……」


うっすらと目を開けるとそこは病室だった。


ピッ…ピッ…と機械音が鳴り響く。


「目を覚ましたんだな…義理姉さん」


声の方を見るとそこにはレドの弟であるライルが座っていた。


「…ライ、ル」


「あぁ、そうだよ…!…生きていてくれて…良かった…」


生きている…?


「……い、りすは……?」


「………イリスちゃんは……」


「……嘘……よね…?」


静かに首を振るライルを見て涙が溢れていく。


何故…!私達が何を…したと…


「ごめん、義理姉さん…だけど時間が無いんだ…兄さんから頼まれた…今世間であなたは…死んだ事になってる。そのまま隠して欲しいと。でなければ殺される、国が絡んでるみたいなんだ…俺のこの病院にもすぐに来ると思う」


「………」


脱け殻のように虚空を見つめるリース


「兄さんが昔使っていた隠れ家に設備を移す。義理姉さんはそこで暫く治療に専念するんだ、その間に俺がなんとかする」


返事は無い、こうなると分かっていてもリースにはイリスの事を伝えるしかなかった。


そうしてリースはすぐに隠れ家へと移されて治療をした…本来ならかなりの期間寝たきりになる怪我だったが彼女は2ヶ月もかからずリハビリを開始、何かに突き動かされるように、一心不乱に身体を動かした…。


絶対に…許さない。


動けるようになったリースは行動を開始する。


『リース?!お前さん…生きていたのか?!』


デンゼル……リースが電話をかけたのはディステルを造った時に世話になった工場の社長だった。

彼はレドの幼なじみで元はレドもこの工場でテストパイロットをしていた。


「ええ、生きてる…。デンゼルさん、あの時の借り(・・)…返してもらっても構わないですか…?」


「……やるんだな?…実行したらもう引き返せねぇぞ?」


「私はもう、失うものはないんです。…あなたなら分かるでしょう?同じ様に他者から奪われたのだから…」


「………ああ。……だがな、借りなんぞ無くても協力はするさ、だからまず俺の工場へ来い。話はそれからだな」


「分かりました、準備が出来次第そちらへ向かいます」


それからすぐにリースはリハビリを終わらせて工場へと向かった。


「あの時な、ライルのやつから連絡が来てコイツを回収してきたんだ」


「……ディステル」


工場の中でも誰も入れないデンゼル重工のシークレットエリア…そこにディステルはあった。


機体は回収した当時のまま手付かずで安置されていた。


「…そりゃあアイツの愛機だったからお前さんが拘るのも分かるんだがよ…コイツはもう直すのは厳しいんじゃねぇか?」


ディステルはあの時リース達が脱出する時点でスクラップ寸前でライルの自宅近くへ辿り着いた後、役目を終えたかのように機体が崩壊してしまった。


「装甲を溶かすレベルの熱を浴び続けちまってもうフレーム自体が駄目になってる…お前さんなら分かる筈だ…使えるパーツなんて無いだろう?」


デンゼルの言う通りディステルの状態は正にスクラップとしか言えない。


だが…それは普通の人間が修復するなら、の話だった。


「デンゼル、まだ…ディステルは死んでない…だって…」


リースはディステルのコックピットへ上がると当然とでもいうように起動キーを回す。


「あぶねえから燃料も抜いてるしバッテリーもオシャカになってるんだぞ?動くわけが…」


デンゼルがそこまで言った時…歪ではあるがアサルトフレームの起動時独特の低い駆動音が響く。


「おいおい…嘘だろ……何で起動するんだよ?!バッテリーから何からぶっ壊れてんだぞ?!」


「あは……まだやれる、そうでしょう?ディステル?」


リースの声に呼応するようにディステルの駆動音が甲高いものへ変わって動作停止する。


「まずは材料から…デンゼルさん、あの時私が渡した金属…"オルカレイコス"は量産出来ますか?出来ればアサルトフレーム丸々一機分…そう、全ての部品から何からを造れる位には欲しいです」


「あれか…精製するとなれば幾ら掛かるか分からんぞ?予算はどうする?ある程度なら俺が出すが…」


「全て」


「…ん?」


「私が持つ全て。バックヤード中央金庫にある23億エル…それから私の家近くにある作業所の地下金庫にある8億…全て使って良いから必ず揃えて。残りはデンゼルへの報酬でいい」


馬鹿げた金額を平然と口にするリースに開いた口が塞がらないデンゼルだったがすぐに気を取り戻す。


「本気か?!そんな事すりゃお前さんはどうやって生活…」


「世間ではもう私は死んでるの、お金なんて必要無い。…金庫から引き出すのはライル君に言って」


「…せっかく助かった命を無駄にするんじゃねぇよ…!」


「助かった?私を見てそう言えるの?…子も夫も死なせた!腕も無くなった!」


リースは手袋を外して長袖を捲り、見せた。

本来あったはずの腕は無く自分で造った義手をつけた腕を。


「こんな私が生き残って…レドの代わりにあの時私が死んでれば……」


パァンと音が響く。


「それ以上はやめとけ、…すまん。お前の気持ちも考えず余計な事を言った…だが今のは死んだレドの分だ、アイツも同じ様にしたと思う。俺だってアイツの幼なじみなんだ…アイツが守りたかった奴が死にたいって言うのを黙って見てられるか…!それにな、俺もお前と一緒だって事は忘れんな…」


「そう…だね。ごめん、だけど…まだ私も死ぬつもりはないから。やる事がまだ沢山ある…その為にも…アサルトフレームが必要なのよ」


お互い顔を見据え、静かに時間が過ぎていく。


「…わぁーったよ!ちゃんと必要な物は揃えてやる!ここなら製造に必要なもんは一通り揃ってるからな、だが約束しろ!復讐したいのはお前だけじゃねぇ。無茶はするな!それは守れよ?」


「分かった、約束…する」


多分リースは約束を破る。ならば…俺は裏から全力で手を尽くそう…それしか…無い。


しかし、リースは機体の完成と共に姿を消した。


リースが機体の製作に使用していたパソコンを調べたデンゼルは彼女がとんでもない代物を造り上げた事を知る。


「これは…設計図か?……?!おいおい…リース…お前さんは…なんてもんを造ってんだ…」


機体の強度、機動性、搭載武装…全てが今現状の最新型アサルトフレームの性能を悉く凌駕していた。


「…ん?メッセージか」


デンゼルへ


あなたに迷惑が掛からない様に全て私に関するデータや痕跡は消去しました。

このパソコンのデータもこのメッセージを開いた後自動的に消去されるようになってます……最初の約束通り私の財産は好きにして下さい。


もう、私は止められない。

止まる時間も無い…必ず関係した全員を地獄へ送る…このディステルガイストで。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…デンゼルにメッセージを残した私はすぐに行動に移した。…後は知ってる通り復讐の為に全てを懸けた。私が話せるのはここまでよ…これ以上は…言えないし、言っても信じて貰えないような馬鹿げた話だから。だけど1つ言えるのは相討ちであの男…アルベルトを討ち果たした時、私は死んだのよ。ディステルガイストも一緒にね」


「しかし…目の前のあなたは生きてると思うが…」


「まぁ、それが信じられないって事と関係あるんだけど…そこからは本当に教えられないの。私が生きている理由はたった1つ…我が子を"2度"と死なせたくない。それだけよ」


10年後この"信じられない事"の内容は彼女が残した手紙で分かった。

確かに今なら分かる…彼女はあの時何故事実を語らなかったのか…。


すっかり覚めてしまったコーヒーを飲むとフロイトは続ける


「彼女から聞いた話はそれが全てだよ。次にディステルガイストについてだが…私もあまり詳しく知っている訳じゃあない。あの機体を調べられるのを嫌がったのでね…調べた所で私にはどうしようもない代物だったがね」


「…フロイトさんでもですか?」


「ああ、正直言ってどうやってあんな物を造ったのか今でも聞きたい位さ。装甲の材質、機体を動かすOS、武装…彼女に教えてもらったコンセプトは"単機で戦争を始める為の機体"だそうだ。…馬鹿げた話だろう?だが実際にあの機体にはそれが出来る。…イリス君はアサルトフレームを運用するにあたって何が必要だと思うかね?」


「…まずはアサルトフレームのバッテリー、推進剤、弾薬……予備のパーツや装甲…整備をする人員…それにパイロット位ですか」


「そう、大体はそんな所さ。だからアサルトフレームを運用するにはイリス君が言った…補給が必要になる」


「ですね、戦争をするといっても補給出来なければ弾も撃てない、整備出来なければ機体は動かない」


「普通なら馬鹿げた話だ、というような事だが…彼女はそれを実行した。最悪補給を行わなくても戦闘継続可能…ディステルガイストは彼女が制作した2つの融合炉の内、奪われなかった完全版(・・・)を搭載、武装は全て機体のエネルギーに依存する仕様のビーム兵装、そして武装、装甲からフレーム、あらゆる部品をとある金属で造り上げた」


"オルカレイコス"


「オルカレイコス?それって確か伝説とかに出てくる架空の万能金属じゃないですか?」


「そうだね、そう言われていた。まあ彼女がそう言っただけであって本物なのかどうかなんてそもそも本物を知らないからな。だけど…あれは正直本当にそうなんじゃないかと思う。なんせ自己修復をする金属なのだから」


彼女はそれに関するデータを全て消去したし、私にも教える事は出来ない、と言っていた。

だがそれでも1つ教えてくれたのは材料さえあれば精製は出来る、と。


「自己修復出来る金属…だがそれ単体ではまったく意味は無いとも言っていたよ。自己修復は常にエネルギーを消費していくし、消費が激しいから現在のバッテリー駆動であるアサルトフレームでは起動してもエネルギー切れで終了…そんな物は貴重であっても生かせない以上ガラクタと同じだ」


「…ディステルガイストはそれが出来るから…」


「そう、あの機体の出力は全開なら今の戦艦よりも高出力を叩き出す。彼女が居ない今、あの機体を手に入れたい輩は幾らでもいるだろうな。彼女がディステルガイストを何処かに封印したというのも知っている者は知っているのだからね」 


「ディステルガイストは見つけ次第破壊したいと考えてます。そんな火種にしかならない機体は無くしてしまったほうがいいかなって」


幾らなんでも一機のアサルトフレームが戦争を左右するなんて危なすぎる。

それに…フロイトさんの話でお母さんがどんなに辛い思いをしたのかが分かった。仕事でまだ帰れないんだよって言い続けてたお父さんの事も…死んだ事を言い出せなかったんだと思う…。


「あれ…?でも…じゃあなんで私は生きてるんだろ…?フロイトさんの聞いた話じゃ私って致命傷だったんじゃ…」


「それに関してはリースさんからの手紙に書いてあるんだが…これはイリス君だけの問題じゃない為にどうしたものか迷ってるのだ…出来ればこちらで調べ、対策を講じた後話す…ということにしてくれないか?」


「それでいいです、どんな理由であれ私は生きてますし…少しでもお母さんの話を聞けたのは嬉しかったです」


「…そうか、なら話して良かったと私も思う。さて、長い時間話してしまったね、後からブリーフィングがあるみたいだから今のうちに食事でもしてくるといい。これから暫くは忙しくなるぞ」


「はい、お気遣いありがとうございます…」


フロイトは頷いてファントムを整備すると言って出ていった。


忙しく、かぁ…これからどうなるのかな…?


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