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あの日見た流星  作者: カルバリン
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第14話 戦闘からの帰還



Walhalla(ヴァルハラ)システム起動』


音声が流れると同時にファントムのカメラアイが赤く輝きを放ち各部の排熱ダクトから蒸気が吹き出した。


振り下ろされたサーベルに対して右腕の装甲がスライド、ビームソードを形成して切り払う。


「な、何?!私は何もしてないのに?!」


動揺するイリスだったがそれだけでは無かった、コックピットにあるモニターや配置されたスロットルレバーがパズルの様にスライドしていく。


「…!?」


元々3つのモニターで外を見ていた状態から自分が宇宙に投げ出されたみたいに全方位に映像が映り、それを阻害しない様に計器類のモニターやイリスの足に固定されたフットペダル、形が少し変わったスロットルレバー等…全てが様変わりしていく。


『周囲の状況から危機と判断、敵機体の排除に移行』


切り払われた体勢から持ち直したカスタム機に向けてスラスターを猛然と噴射して距離を詰めビームソードで切り結ぶ。


『な、なんだ?!急に動きが…!』


切り結びながら肩のメガビームランチャーのグリップを握り対艦ライフルを構えていたジェーンのスピアへチャージせずに放ち対艦ライフルを破壊してスピアの動きを止めてしまった。


『…?!』


切り結んだシャムシールを蹴りで弾き飛ばしてアサルトライフルを連射、直撃させる。


「勝手に動いて…!!」


一連の動作はイリスが行った訳じゃなく勝手にファントムが動いていた。

レウスとジェーンは一旦距離を開けようとスラスターを吹かし離脱すると同時にファントムもバーニア全開で追いかけていく。

シャムシールの方へと迫るファントムだったがメガビームランチャーから左腕に装備されたワイヤーアンカーに切り替えてジェーンのスピアに射出、脚部に命中したワイヤーアンカーが固定されたと同時にファントムがスラスターを逆噴射してスピアの推力を掻き消す。


『ジェーン!くそ!?何なんだあれは!』


レウスが助けに入ろうとするがアサルトライフルで牽制されて思うように近づけない。


ワイヤーで捕らえられたジェーンだがワイヤーアンカーが高速で巻き取りを始めた瞬間サーベルを引き抜いてアンカーが刺さった脚部ごと切り捨てる。


『この動きは…レウスさん、退却しましょう。今の状態のこの機体には勝てません… 私が抑えますので先に…』


途中でファントムからメガビームランチャーが放たれそれを回避する。


『だが!』

『今は言う通りにしてください、離脱の為の備えもありますから…急いで、私も長くは抑えきれません』


ビームソードを展開して接近してきたファントムをサーベルで迎えうち切り結ぶ。


『分かった、任せる』


シャムシールが踵を返して撤退の信号弾を撃つ。


離れようとするシャムシールに向けてファントムがまたメガビームランチャーを撃とうとした所にジェーンが割り込んで阻止する。


『"逃げる敵には追撃を"…何でですかね、この動きは手に取るように分かる』


全身の補助スラスターを吹かして細かい機動でビームソードを連続で振り抜くファントムに対して的確にサーベルでそれを防ぐジェーン。


『……っ、負荷が…』


切り結んでる途中で聞こえた声に何故か身体が震える。


「…っ?!今のは…??」


一瞬、知らない子供の姿が頭に浮かび、仮面の下で顔をしかめるジェーンだが相手は更に苛烈に攻め立ててくる。

聞こえた声に心がざわつくのを自覚しながらも機体の状態を見て頷く。


これ以上は、機体が持たない…


『これは特別製です…!』


再度切り結んだ瞬間、ジェーンはスピアに装備されていた閃光弾を打ち出し炸裂させ、スロットルレバーの隣に配置されたスイッチのカバーを開くと迷わずONにする。


閃光と共にファントムの各センサー類が一時的にエラーを起こし、その間に先ほどONにしたオーバーブーストを使用して急速に加速して離脱していく。


『…システムダウン。追撃不可、通常システムへ移行』


音声と共にファントムのコックピットが元の様に戻り、凄まじい負荷に晒されていた身体が自由になる。


『メテオ1、聞こえますか!?聞こえているなら応答を!!』


ソルシエールからの通信…無事だったならよかった


「大丈夫、聞こえます…ですけどファントムは動かせそうに無いので回収お願いします」


さっき発動したシステムの影響なのかモニターに表示されているファントムの状態は酷い有り様で各部駆動関連やバーニア類は稼働率がレッドゾーンを示していた。

そもそもまともな整備を受けていた訳でも無い状態で動いていた所にあのシステムで限界を超えた動きを見せたのだから機体がまだ自壊しないだけ凄いのかもしれない。


それより…Walhalla(ヴァルハラ)…ヴァルキュリアが死した戦士英霊(エインヘリアル)を集めた館…だったかな?そんな名前を冠する事が何を意味してるのかはわからないし、最初に乗った時とさっきの戦闘での音声も調べないと…。

それにファントムが凄まじい戦闘機動をしていたにも関わらず中に乗っていた私に対して負荷は凄かったが致命的な程でもない、それも不思議だ。


「ほんと…色々と知らないといけないなぁ。帰ったらフロイトさんに話してみよう…」


『メテオ1、自力での着艦は可能ですか?』


言われて機体の各部をもう一度チェックするとメインバーニアは使用不可だが各部スラスターの一部以外は最低限稼働可能だった。


「着艦する程度なら大丈夫みたいです」


『了解、着艦用ハッチ開きます。誘導ビーコンに従って着艦してください』


ソルシエールの後方甲板にあるハッチが開き、メインモニターにガイドビーコンが表示されたのを確認してスラスターを少し吹かす。

ガイドビーコンに沿ってソルシエールへ近づくと船外作業服…宇宙服を着た作業員が誘導灯を振っているのが見えた。


指示に従ってゆっくりとファントムを着艦させるとハッチが閉じる。

暫くすると着艦デッキ内にある警告灯が赤から活動可能の青へと切り替わったのでファントムのハッチを開いて降り、ファントムを見上げる。


出撃前は綺麗だった装甲も何ヵ所かは凹み等が目立ち、バーニア等は外装が歪んで展開に支障がありそうだ。


「ごめんね、私がもっと上手く乗れていれば…」


「何を言っているんだ、君は充分に上手くやってくれたよ」


振り向くといつの間にかジークリンデ艦長が立っていた。


「イリス君が敵を引き付けてくれたお陰で我々は生きているんだ、むしろ初出撃のあの状況でこの程度の損傷で帰還出来たのだから。…そうだ、アリア君達も心配していたから後で話してくると良い、彼らにも艦内で自由にして良いと指示を出してあるからね」


良かった、結局皆がどういった扱いになるかをフロイトさんに聞く前だったし…。


「では、私はこれで、まだ被害状況を確認している途中なんでね。…そうそう、これからの予定を決める会議を19時から開くからね?必ず参加するように」


「分かりました」


そうだ、私もこれからアリア達と一緒にこのソルシエールで働くのよね……


「それと…よくぞ無事に帰ってきてくれた、これからも無理を頼む事になるだろうが…宜しく頼む」


そう言って去っていくジークリンデ艦長に頭を下げ、もう一度ファントムを見上げた。


「学校を卒業するまえに実戦を経験するって思わなかったなぁ。…お父さん、心配してるよね…」


見上げたファントムに呟くイリスはまだ知らない。自分が置かれた状況がダリウスとの連絡も取れない様な状況だということに……。

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