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あの日見た流星  作者: カルバリン
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第13話 ファントム、出撃。


大丈夫…。


『ファントム発進シークエンスへ移行。1番ハッチオープン』


ゆっくりとハッチが開いていきカタパルトに管制灯が灯る。


イリスはレバーを少し倒しファントムに発進姿勢を取らせると少しずつスロットルを操作してバーニアを吹かす。


そこで"ピピピ"と通信の知らせが入ったので繋ぐ。


『イリス君、聞こえるか?』


繋ぐとジークリンデがモニターに映る。


「はい、聞こえます」


『君のコールサインはその機体に元々設定されている"メテオ1"だ。今は時間がないから礼は後で言わせてもらう…必ず帰還してくれ』


勿論、必ず帰ってきたい。

まだアリア達と話も出来ていないしフロイトさんにも聞きたい事はあるから。


だから私はやってみせる!


「ファントム…出ます!!」


磁力カタパルトが勢い良くスライドして機体を艦の外へと押し出すと固定が解除されてファントムは宇宙(そら)へと飛び出す。


低出力で吹かしていたバーニアのスロットルを更に上げて姿勢制御するとイリスはレーダーを確認する。


「近くにいる2機を追い払う、私がやるべき事はそれだけ!」


最も近い位置に居る見たことがない型のアサルトフレームへ向けて肩にマウントされたメガビームランチャーを構える。


ターゲットサイトが相手の機動でズレていくがファントムのシステムがそれを修正していく。


まだ……


敵のアサルトフレームも気が付いているようでロックされないような変則機動をとっているが…


一瞬、ターゲットロックとなったその瞬間イリスはトリガーを引きメガビームランチャーから直撃すれば一撃でアサルトフレームを破壊出来る光が放たれた。


「っ!?馬鹿な!ビーム兵器だと?!」


敵の艦からアサルトフレームが発艦し、こちらに照準を合わせようとしているのは分かっていた。

だがこちらとの距離は少なくとも500メイルは離れている時点で狙撃用武装なんぞ当たらない、と思って一応警戒はしつつ敵艦への攻撃を続けていた。

そもそも敵の艦に搭載されている主砲の方が恐ろしい以上真っ先に破壊する必要がある。


だが…その想定を覆す事態だ、本来ビーム兵器などという武装は戦艦または拠点などエネルギー供給が出来る場所のみで使用され、アサルトフレームが使えるビーム兵器は精々ビームソード等の格闘兵器だけ…それが世の常識だ。


しかし、レウスは過去にその常識を覆したアサルトフレームを知っている。


「…まさか、な」


モニターに写し出された機体はどこか似ているがあの(・・)機体ではない…その事に安堵したレウスは頭を振る。


「あの時とは違う、今なら負ける事は無い筈だ…ジェーン、俺はあの機体を相手するから君は…」


『…………』


「…?どうした?」


カメラを向けるとジェーンのスピアは完全に動きを止めていた。


「おい!聞こえるか?!」


『…聞こえています。すみません、あの機体の相手は私がしますのであなたは敵艦を…』


「駄目だ、あの機体は嫌な感じがする。お前さんのノーマルスピアじゃ無理だ!」


『しかし…』


「…なら先にあの黒い機体を二機で行動不能にする、それでいいか?」


『……分かりました』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『メガビームランチャーはフルチャージで連続使用出来ない、外した以上次の射撃は諦めて牽制に徹するんだ』


「は、はい!」


今の所相手はこちらに近づく気配は無いけど…


メガビームランチャーからアサルトライフルへと切り替えて様子を伺う。


『いいか?ソルシエールが離脱するまでの時間を稼げばいい、ファントムが全力で逃げに入れば追いつけるアサルトフレームなぞそうはいない』


確かに、最初に乗った時もスラスターの出力に驚いたもの。

多分全力で噴射すればスピアとかじゃ追いつけないのは納得できる。


『私はこれからエンジンルームで修理を行うからサポートは出来ないが…無理は…』


「大丈夫です、無理はしませんから」


そう、無理はしない。改めて気を引き締めてレバーを握りモニターに映るスピアに機体を向けるとそれに気付いたもう1機のカスタム機も動く。


どうやらソルシエールへの攻撃を一旦やめて私を狙うみたいだ。


「他の海賊機は…ソルシエールが牽制してくれてるね」


2機相手にどこまでやれるかはわからないけど…


スロットルを上げてバーニアを吹かすとそれに応えてファントムが加速する。


まずノーマルのスピアから!


一気にスロットルを上げて突っ込む。

相手が対艦ライフルならアサルトライフルの射程へと持ち込めば取り回しが悪い対艦ライフルじゃ対応出来ないはず!


『やらせるわけが無いだろう』


もう少しでアサルトライフルの射程に入るという所でもう1機に割り込まれる。

割り込んできた方へアサルトライフルを連射するが避けられた…その一瞬の隙を逃すことなく対艦ライフルがファントムに着弾して機体を激しく揺らす。


「っつ!?」


バランスを崩したファントムに更に2発、3発と対艦ライフルが撃ち込まれ、更にもう1機のカスタム機もライフルを撃ち込む。


『これだけ食らっても装甲に大してダメージが通らんだと?!』


レウスが驚くのも仕方ない、戦艦ですらダメージが通る対艦ライフルの弾頭でもさしてダメージが無いように見えるのだから。


だがイリスも黙ってやられるつもりは無かった。

無理矢理バーニアを噴射して弾幕を回避するとそれを追いかけてきた2機との機動戦闘が始まった。


バーニアの炎が尾を引きながら二機を引き離そうと加速していくファントムだがコックピットのイリスは…


「…こ、これ以上は…」


ファントムの出力で全開機動を行うと当然身体には相応の負荷が掛かる。

真っ直ぐ進むだけなら耐える事も出来るだろうが今は戦闘機動…様々な角度で曲がり敵の弾を避けている状態だ、負荷に耐えられなくなってくるのも時間の問題点だった。


振り向いてアサルトライフルを撃つが相手は戦い慣れているのが分かる…最低限の動きで回避して迫ってくる。

マガジンを入れ換えて再度トリガーを引くが結果は同じ…


「はぁ…はぁっ…」


イリスの状況は極めて悪かった…初めての本格的な実戦で味方は自分1人、更に殿(しんがり)の役目を果たさないといけない上に敵は場慣れしたパイロット…緊張感と度重なる高機動戦闘の負荷から操縦も段々と精彩を欠いていく。


敵のライフルがまた着弾して機体を揺らす…幾ら頑丈とはいえ何度も被弾すれば装甲も次第に耐えられなくなる。


まだ…まだソルシエールは離脱出来てない…!もっと引き付けないと…!

そう思った瞬間、敵のスピアが放った対艦ライフルの弾丸が命中してファントムのスピードが落ちた。


「スピードが落ちた!……直接叩く!」


サーベルを引き抜き距離を詰めてくるレウスを援護するジェーン。

ダメージこそあまり無いが巧みな射撃と対艦ライフルの着弾よろけで自由に動けない。


やっぱり、私じゃ無理だ…


振り上げられたサーベルが迫った時、形見のペンダントが光った。


『Walhallaシステム起動』


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