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あの日見た流星  作者: カルバリン
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第9話 思惑


「艦長、目標地点確認。識別不明機1、更に…レムレースも確認しました!モニターに出します」


「あれは…?」


レムレースの傍らにいる機体の特徴、肩に描かれたエンブレム…それを見て思い出す。確かあの黒い機体は昔あった部隊の隊長機…と資料で読んだような……。


しかし何故今さらそんな昔の機体がここに?


疑問は色々とあるが、それよりも今はレムレースと不明機を回収してここオストローデンから離脱する事が最優先だ。


「艦長!不明機から音声通信が…」


「繋いで」


『こちら統合軍技術開発局所属のフロイト、至急回収を求む』


「フロイト技師?!何故貴方がAFに??」


『ジークリンデ艦長…これには色々と事情があるのだがね…それは後から説明させて頂くとして救護班を待機させておいてくれないか?怪我人がいるんだ』


「わかりました、そのAFは自力で着艦出来そうですか?」


『無理ですな。パイロットが負傷している……あぁ、レムレースに抱えて貰えば何とか』


「エイミ、2番ハッチを開放して」


「了解です、『2番格納庫、ハッチ開きます。整備員は準備お願いします!』」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ハッチ開放の放送が流れ俄に格納庫が慌ただしくなる。


「どうやら自力で着艦出来ない機体がいるらしい!着艦用ネットとクレーン準備!急げ!!」


カークス技師長が叫ぶ。


「救護班は一応少し離れていてくれ!もし上手く着艦出来なかった場合も考慮したらあぶねぇからな」


そうして準備が完了するかしないかの時、こちらを目指して飛んでくる機影が見えた。


カークスが誘導員に指示を出させて着艦場所を示すとゆっくりながら丁寧な動きで二機のAFが着艦した。

片腕しか無いレムレースが抱えていた黒い機体…ファントムを慎重に降ろす。


「レムレースには確か子供が乗っていた筈だが……操縦は上手いみたいだな」


動かないAFを一機抱えてここまで見事な着艦を成功させる腕に感心するカークス。


「カークス、感心してる場合じゃない」


二機のAFを見上げていると後ろから声がかかる


「艦長、何故こちらに?」


「…少し確めたいことがあってね、だがそれよりも負傷者を早く搬送するように」


「了解です」


そうして会話している間にファントムのハッチが開き中から少女を抱えた白衣姿の男性…フロイトが現れる。


「おお!ジークリンデ艦長自らお出迎えとはね…負傷者はこの少女だ。搬送を頼んでも?」


彼が少女を抱えた状態でワイヤーを使い降りてくるとそこに担架をもった救護班が駆けつけて担架へと少女を乗せる。


「あんな子供が…?あれは学院の制服だな」


更にレムレースからも三人同じ制服の子供達が降りてくる。


「イリス!あぁ!私達が遅かったから…!」


担架に駆け寄る子供達。皆同級生なのだろう、だがそれよりもやらなければならない事がある。


「その三人を拘束しなさい。子供とはいえAF強奪は重罪だ」


ジークリンデの声と共に数人が動いてあっという間に3人を拘束する。


「君達には話を聞かせてもらう。連れていきなさい」


拘束されたにも関わらず驚くほど大人しい3人に内心首を傾げるがその中の1人が口を開く。


「私達が捕まるのは覚悟してました、だけどイリスは関係無いんです!お願いですからちゃんとした治療を…」


「…彼女の事は心配しなくていい。怪我人に手荒な事をするほど私達は人でなしでは無いよ」


ありがとうございます、と頭を下げて連れられていく三人を眺めているとフロイトがやってきた。


「ジークリンデ艦長、彼らの処遇だが…」


「あぁ、心配しなくてもそこまで大事にするつもりは無い。だが何も無し…というわけにもいかないでしょう?」


「…まぁそうですな。だが1つ気になる点もあるのですがね」


「ん?」


「当たり前のように動いているから忘れているのかも知れないですがね、レムレースはそもそもまだ完成してませんでした。機体を制御するためのシステムが未完成だった、しかし実際は動いていますがねぇ」


私は今回驚いてばかりですよ、と肩を竦めたフロイトは更に


「艦長が気になるのはこの機体の方ですか」


ジークリンデが見つめる先を見る。


「この機体についてはどこまでご存知で?」


「詳しい事は…昔読んだ資料にこの機体があった様な、という程度ですね。この機体は一体…」


少し考える仕草を見せたフロイトだったが…


「ジークリンデ艦長の経歴は資料で拝見させて頂きましたよ、確かアレイスト公国出身だと」


「ええ、確かに私はアレイスト公国出身ですね」


「ならばこの機体の"元"持ち主はあなたにとっても馴染み深いかと」


「メテオ…ですか?確かにこの機体から送られた通信文はメテオと識別されましたが…この機体に覚えは無いですね」


「あぁ、それはそうでしょう。この機体は"彼女"が我々の要求に応えて造ったデチューンモデルですからな。彼女の愛機とはまた別物だよ」


「…彼女とは??」


「リース=オドネル…"深紅の死神"と言えば分かるのでは?…まぁこの機体を知らないのも無理は無いですがね。なにぶんこの機体はもう10年は戦場を離れていましたからね」


フロイトは目を細めてどこか懐かしむような表情をしていた。


「なるほど、やはりそうですか…だがあれに乗っていたのは…」


「本人曰くリース少尉の娘らしいですがね…ここまで言っておいてなんだが…これは多分軍の中でもある程度機密扱いになっていたんじゃないかと。私も先程その結論にたどり着いたといいますか…不可解な事もありますがね…まぁその辺りの話は彼女の保護者に聞く機会があるかと」


「保護者…?」


「私がこのソルシエールへ向かうように指示したのはそもそも彼女の父親…ダリウス中佐に連絡をとるためで……」


「ダリウス中佐がこのオストローデンへ来ているのは知っていたがまさか彼女がその娘とは…しかし残念ですが連絡を取ることは出来ない」


「なんですと?」


「オストローデンが襲撃され我々には離脱命令が出てるのですが…そのまま本来の任務に着く事になったので」


「任務…それと連絡出来ない事に何か関係が?」


「フロイト技師はこのソルシエールへと配属される予定でしたので後から辞令が届く予定でしたがもう良いでしょう。我々はこのオストローデン離脱後そのまま"アルテミス"へ向かいます」


「馬鹿な!それはつまり彼女達学生をそのまま連れていくということかね?!そんな事が…」


「許されない、でしょうね…本来なら。しかし上層部からの指示でもう我々の情報は機密扱いとなり、アクセス制限が掛かるのです」


「それでも、だ!アルテミスは海賊共の拠点だぞ!ソルシエールには戦力となるAFも……まさか!?」


「貴方が想像した通りです、戦力なら…目の前にある、戦闘が出来る状態のAFと修理をする事で戦闘可能なAFが、そしてそのパイロットも居る。…私だって本来ならこんな事は許せないが…状況が悪過ぎる。AF強奪は罪が重い、それに対する罰がこれならまだ良い方かと」


「それはそうだが…レムレースを動かした三人はそうだとしてもイリス君はなんら罪を犯している訳ではない!」


確かに軍の機体ではあるがとっくに登録は抹消されている上に、元々ファントムは彼女の母親がその全権利を所持していた物だ。

それを今回イリス君が受け継いだだけに過ぎない…そんな彼女に違法性はないのだ。


「だが彼女の学友だ、理由自体も彼女を助ける為にレムレースを動かしたと。気が付いた彼女がその理由を聞いて何もせず船を去る事はしないでしょう?…私も出来る限り上へ掛け合うのでその間はフロイト技師、貴方に彼女達のサポートをお願いしたい。なにぶん急な出航で人員も足りないのです」


「…了解した。だがダリウス中佐から必ず恨みを買うぞ?それは覚悟しておきたまえよ」


レッドライトニングを敵に回す可能性もある、と示唆してフロイトはレムレースの方へと歩いていった。


「…私も、こんな指示糞喰らえだとは思うとも。だが…」


格納庫に鎮座するファントムを見上げるジークリンデはこれからの事を考えてため息を吐く。


「今回の機体強奪でレムレースが動ける様になったのは我々にプラスだった、と思いたいものだ…」


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