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第五話 夢の代償

「・・・んん。もう朝か」

 俺は起き上がり、部屋を出た。モニター室へ向かった。

 飯塚さんだけだった。飯塚さんに彼女の夢の話を一緒に聞いていいか許可をもらい、一緒に彼女の部屋へと向かった。

「そういえば、所長いませんでしたけど、何かやってるんですか?」

「綾音ちゃんの部屋に行ってるわ。朝起きた時に一人じゃないように毎朝行っているの」

 そうだったのか。少し感心した。

 彼女の部屋に着いた。飯塚さんがノックをして返事を待って中に入る。俺は少し萎縮しながら中に入った。

「おはようございます、泊さん。夢は見られたかしら?」

「はいっ」

 彼女は夢の内容を飯塚さんに伝えた。どうやら俺と同じ夢を見れたようで少しホッとした。

「ものすごく感動したんですけど、起きたら暗闇で。やっぱり夢だったんだって、ちょっとショックでした。そんな感じですね」

「じゃあ、期間中色んな夢が見られるようになったらどうですか?」

 軽い気持ちで提案してみた。

「そんな事できるんですか!?」

 彼女は驚き、声を上げた。飯塚さんが説明した。

「今回で目が見え、色んな物が見えた夢が見れたので、可能と言えば可能ですが。」

「是非お願いします」

 間髪入れずに返事をした。

 こうしてしばらく、二人の夢物語が始まった。

 夢を見る毎にハッキリと景色や物が見えるようになっていき、ファンタジーな夢や現実的な夢を通して様々な体験をしていった。

 しかし、重ねる毎に起きた後の彼女の雰囲気は暗鬱(あんうつ)となっていった。

「風景が見える夢なんて見なければ良かった。現実が辛くなってきて、ずっと夢を見続けていたい。現実は暗闇の世界で私は音を頼りにしてきたのにそれも若干感覚が鈍ってきて、生きるのが辛いです。生きる希望みたいなのが突然と消えてなくなった。そんな感覚にとらわれてます」

 その言葉を聞いてショックを受けた。その後も彼女は、ネガティブな言葉を吐き続けた。

 話を聞き終えたあと、俺はいたたまれなくなってその場を後にする。




 屋上の扉を開けると小雨が降っていた。

 それでも俺は歩を進め、吸殻入れの横に立ち、煙草を取り出して火を点ける。

 ニコチンを肺に溜めながら、考える。

 今まで、良かれと思って提案して夢を見てきたけど、彼女にとっては逆効果だったのだろうか。

 俺、何か間違えたんだろうか。

 モヤモヤした気持ちを抱えたまま、雨に濡れていた。

 扉が開き、所長が傘をさしてやってきた。

「なんで傘をさして煙草を吸わないんだ?」

「・・・雨の中、傘をささずに煙草を吸うバカがいてもいいでしょう」

「私は一応、おすすめはしないと警告したつもりだったんだがね」

「夢は所詮夢でしかないんですよね。それなのに、なんで彼女はあんなふうになったんでしょうか」

「おそらくは脳の再構築が行われたせいだな。視覚情報がない状態から視覚情報のある状態にニューロンが再構築された。彼女の音の感覚が鈍ったのもその影響だと考えられる。彼女にとって、視覚のある世界は、いわば禁断の果実だったのだろう。その味を知ってしまってはもう後には戻れまい。元に戻れたとしても何年かかるか」

「そんな・・・」

 俺はうなだれた。俺が悪魔の囁きが禁断の果実に手を伸ばすようにしたのか。

「だが、まだ希望がない訳ではない。君は人工視覚という言葉を知っているかね?」

「・・・いえ」

「ならば自分で色々調べて見ることだ。一度始めた事なら結果がどうであれ、最後までやり遂げなさい」

「・・・ありがとうございます」

 俺はお礼を述べて屋上を後にして、部屋に戻り、着替えてから娯楽室に向かった。

 PCで人工視覚について調べる。

 人工視覚・・・視覚に関係する神経組織(例えば網膜)を電気刺激し、疾患などの影響が少ない、残りの機能する神経ネットワークを生かして、視覚情報の電気信号が脳に伝達されるように補助する。

 その中で網膜を刺激して視覚を得るものと外部デバイスを利用して脳を刺激するものがあるのか。

 その時、俺の体に雷が落ちた感覚に陥る。

 脳を刺激って、夢と似たようなシステムじゃないのか?だから夢で視覚がある世界が見えた。

 脳を刺激する方を詳しく見る。

 脳の視覚をつかさどる領域「視覚野」を電極アレイで刺激するタイプの人工視覚です。

 脳は視覚情報ネットワークの最終地点でこの最終地点をうまく刺激することで、人工的な視覚としての画像を再構築できるのであれば、ネットワークの出発点である眼や、中継地点の神経細胞が障害された状態であっても、最終的に人工的な視覚が成立するのではないか、というものであった。

 しかし、それは手術が必要であり、リスクが伴う事が書かれている。

 だがヘルメットを被って外からの電気刺激によって視覚がある世界が見れた。

 という事はどこかで映像が見られる実験を行っている所があるかもしれない。

 俺は被験バイトで人工視覚についてないか調べた。



 調べ物に時間がかかり、気が付くと夜になっていた。

 俺は彼女の部屋に向かって扉をノックしたが返事がなかったので捜す事にした。

「泊さん、すみません」

「・・・なんですか?」

 負のオーラの雰囲気を(かも)し出していた。

「やっぱり、その、後悔していますか?」

「当たり前じゃない。感覚が鈍って人にぶつかっては謝って周りに迷惑をかけて、後悔してる」

「泊さん。あの、今は辛いかもしれませんが夢はありますよ」

 俺は脳の再構築のこと、人工視覚のこと、被験バイトでその仕事があることを彼女に告げた。

「俺、あまり頭は良くないから保証はできないですけど、多分、そのカメラを通して視神経に電気刺激を行う被験バイトなら、今の貴女なら現実でも見えるようになると思うんです」

 彼女は黙って聞いていた。

 俺は説明をした後、彼女に一枚のメモを差し出し、彼女の手のひらに乗せた。

「もし、本当に現実に視覚がある世界を望むというのであれば、そこに場所と電話番号が書きましたので親か支援者に頼んで確認してみてください」

「なんでわざわざ・・・」

「だって、夢での貴女は本当に嬉しそうに楽しそうにしていましたから。それって幸せなことじゃないですか。素敵なことだと思うんですよ。その姿を見て僕も嬉しかったんですから」

 ただ見えないだけなら目を閉じれば誰にでもできる。しかし、そのまま生活をしてみろ、となったら誰しもが無理だと言うだろう。

 彼女はその世界で生きてきた。

 しかし、俺がその世界を壊してしまった。罪滅ぼしや贖罪(しょくざい)といえば聞こえはいいがただの悪あがきでしかない。

「ここでの生活も期間限定ですから終わりが来ます。その時、貴女が決めてください。貴女は選べるんです。視覚がある世界とない世界のどちらかを」

 申し訳ない気持ちだったが真摯(しんし)(つと)めた。

 彼女も心耳を澄ませて聞いてくれていた。

「もし、嫌だったとしてもいつか脳が再構築して感覚が戻ります。なのでそんな辛そうな顔はしないでください。考えてみてもください。貴女は普通の人には体験できない世界を生きているんです。それって考えようによってはラッキーなことじゃないですか。だから強制はしません。そして、僕ができるのはここまでです」

 俺は頭を下げた。

「解りました。しばらく考えてみようと思います」

 彼女はメモ帳を握り締めた。

「また自販機にでも行きますか?」

 と誘いかけ、なるべく不安がないように今まで体験したアホな事など話して場を和ませた。

 彼女も少しずつではあるが元気になってくれた。




 その後、彼女と別れた。屋上に向かった。どうやら雨はあがったらしい。

 地面はまだ乾ききってはいなかったが吸殻入れに行き、煙草を吸う。

 これでよかったんだよな。そう思いながら空を眺めた。

「い~ちゃん」

 と扉が開き、綾音が姿を見せた。

「なんで勉強見てくれなかったの?」

 綾音はちょっと怒っていた。

 そういえば、まだ続いていたんだっけ?

「すまん。今日はどうしてもやらなくちゃいけない事があったから。一人で出来たのか?」

「はふん、楽しみにしてたのに。今日はお父さんが見てくれたよ。だから出来た」

 所長、俺の代わりにやってくれたのか。所長も忙しいだろうに。

「それは良かったな」

「い~ちゃんが良かったもん」

 とポツリと言った。

「別に俺じゃなくてもできたんならそれでいいじゃないか。なんならまたな~さんに頼んでな~さんに見てもらうとか」

「はふん!何で判ってくれないの?私はい~ちゃんがいいって言ってるじゃない」

「子どもか!」

 思わずツッコミを入れたが、よくよく考えれば中身は子どもだったな。

「夢も最近つまらないし」

「それも仕事の都合だからしょうがない。それよりも、お父さん、何か言ってたか?」

「え?・・・今度の休みの日にお母さんのお墓参りに行こうって。それから、お母さんの話をしたよ」

「そうか」

 母親との死とも向き合えるようになったのか。

「い~ちゃんは休みの日はどうするの?」

「そうだな。バイクに乗ってどっか行くかな」

 煙草を吸い終えるまで他愛のない話をしたのだった。




「・・・ここにお母さんが眠ってるんだね」

「あぁ」

 お父さんと線香を焚き上げ、黙祷を捧げた。

 お母さん、私は元気になりました。今はお父さんのお仕事を手伝ってます。

 偉いわね、って褒めてくれますか?

 勉強もなんとかやっています。

 頑張ったね、って褒めてくれますか?

 もうお母さんと話せないのは淋しいけど。

 それでも頼りになる人が見つかりました。

 おやすみなさい。お母さん。また来ます。

「よし、それじゃあ何か美味いものでも食べて帰るか」

「うん!」

 私は元気よく返事をしてお父さんの後をついていくのでした。

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