第三の目2
「まずは手を洗って玉ねぎの皮を剥く」
「うん」
調理する準備をして玉ねぎから取り掛かった。皮を剥いた後は上の部分と下の部分を切って縦に半分に切って片方を渡した。
「とりあえずみじん切りにするけど、やり方見てて」
と言って縦に切り目を入れ、水平に切り目を入れてから横に切っていった。
「こうやるとある程度みじん切りになるんだ。後は適当に切っていき細かくする。やってみて。」
綾音は恐る恐る包丁を握っていた。手つきが危なかっしくて見ていられなく包丁を持つ手を握り、一緒に切っていった。
「そう、包丁を持たない方は猫の手にして包丁は猫の手よりも高く上げないで切ること。そうすると指切らないから」
こういう時、老健で老人に料理を教えるレクリエーションしていた事が役に立った。
綾音は黙ったまま、されるがままだった。顔は見えなかったが耳のあたりが朱くなっていた。
「切ったらボウルに入れて次はハムを切るよ」
基本ハムもみじん切りだったが玉ねぎに比べたら難易度は低いだろう。
綾音はなんとか一人でハムをみじん切りにした。おぼつかない手つきだったがちゃんと猫の手で包丁も猫の手以上高く上げる事はなかった。
「次はフライパンに油をひいて玉ねぎ・ハムを炒める。火を使うから気を付けて。」
火傷しないよう注意しながら炒めてもらう。火が通ったらご飯を入れて混ぜ、塩コショウとケチャップで味をつけ、別のボウルに一旦入れてもらう。
卵を割るのもおっかなびっくりといった感じだったが割り、溶いていった。
「ここから難しいからな」
再びフライパンに油をひいて、卵を入れ、ボウルに入れたケチャップライスを卵の上に乗せ、フライパンを斜めにして手際よく包んでいった。
「難しそうなら俺がするけど、どうする?」
綾音はブンブンと首を振ってやりたいとアピールしていた。
卵を入れ、ご飯を入れたが包むのは難しく苦戦していた。こればかりは感覚で覚えるしかないからしょうがないか。
包丁の時と同じように一緒に包んでいった。
少し玉子が狐色になっていたがなんとか完成した。
後はケチャップで好きにかけてもらうことにした。
俺はギザギザにケチャップをかけていった。
綾音は星のようなマークにかけていった。
忘れそうになっていたがミックスベリーと牛乳を用意した。
「それなぁに?」
「ん、これはラズベリーっていうんだ。俺はベリー系でこれが一番好きなんで買ってきた。食べてみるか?」
「うん」
ラズベリーを一つ手に取り、口に入れた。
俺も一つ口に入れる。甘酸っぱい味が口に広がった。この甘酸っぱさがなんとも言えず、好きだった。
綾音はほっぺに手を当てていた。
とりあえずこれをミキサーに入れて牛乳を入れて砂糖を少し加え、スイッチをいれ、ミックスベリー・オレが完成した。
コップに入れ、食べる準備はできた。
「「いただきます」」
二人して声を揃えて、オムライスを食べる。
うん、我ながら良い感じにできたと思う。
「やっぱり一人で食べるより誰かと食べた方が美味しいね」
そういうもんだろうか。一人暮らし始めてからもう長いから普段の食事でのそんな感覚は忘れたような気がする。
「そうだな」
とりあえず相槌をうち、黙々と食べた。
綾音はオムライスを半分ほど残した。
「あまり美味しくなかったか?」
と少し心配して訊いてみた。
「ううん、お父さんにも食べてもらおうと思って。初めて料理したから」
父親想いのいい子だった。
「そうか。喜んでもらえるといいな」
「うん」
そう言って綾音は飲み物を飲み干してお皿を持って出て行った。
俺は後片付けと洗い物をしてから食堂を後にした。
夜、屋上で煙草を嗜んでいると品行寺がやってきた。
「料理、教えてやったんだって~。娘が嬉しそうにオムライスを持ってきてくれたよ」
嬉しそうに話し、煙草に火を点けた。
「別に大したことはしてませんよ。あの子が自分で出来る範囲で頑張って出来ない所はフォローしただけですし」
「・・・ふ~っ、そうかい。それでも私にとっては嬉しい思い出となったよ。ありがとう」
改めてお礼を言われた。この人にお礼を言われるとなんだかムズ痒い感じがする。
「それで、昨日の件、考えてくれたかね?」
真面目モードで問いかけてきた。
・・・・・・・。
すっかり忘れていた。
「私としては君が必要な人材なんだけどね。もちろん、娘にとっても良い影響を与えると思っている」
「・・・必要な人材、ですか」
今まで色々な仕事をしてきたがそんな事を言われたのは初めてだった。
「そうだよ。それに娘の為に色々してくれて泣いてもくれたからねぇ」
急におふざけモードになった。
「アレは、多分そういう類の話に弱いだけです。年取って涙もろくなっただけです」
照れくさいのを隠すように反論した。
「それに、今日のだって自分が食べたい物を作ろうと思ってた時にあの子が一緒に作ると言ったからついでにしただけで・・・」
そんな俺を見透かしたように品行寺は笑い、
「人間、年取るとなかなか素直になれないからねぇ。・・・ともかくだ。私達としては君を必要としている。これは本当にそう思っている」
真剣な想いが伝わってくるようだった。
「・・・役に立たなかったらどうしますか」
「ん~、その時はその時で考えるさ。君をどう扱うかは。なに、悪いようにはしないよ」
「・・・解りました。どこまでやれるか判りませんが、職員になります」
「交渉成立、だねぇ」
そう言うと品行寺はニンマリと笑った。
日曜日、電車を乗り継いで目的地の店へと向かった。休みの日という事もあり人でごった返していた。
人をかき分けながら進み、店の前まで行くと待ち合わせ時間より少し早かったが二人はもう揃って待っていた。
「お待たせ。二人とも早いな」
「おっす。俺らもさっき着いたところだからそんな待ってねえよ」
「んじゃ、揃ったことだし~、早速入って呑みましょうか~」
なーさんは昼から呑む事が嬉しいのか呑む前からテンションが上がっていた。
「「「かんぱ~い!」」」
三人グラスを合わせてカチンと音を立ててから呑む。
「・・・っぷっはぁ~。なんて贅沢な時間!」
と喉を鳴らして呑み、やっくんが酔いしれていた。
「しっかし、よく二人とも休み取れたね。結構人手不足だったんじゃない?」
辞めた俺が言うのもなんだったのだが訊いてみた。
「事前に休みの日を申請したら通ったのよ」
「それに、求人かけてたから新しい人が入って来てくれたしね~」
タイミングが良かったということだろうか。
「新しい人ってそんなすぐ使える人なの?」
前に働いていた所は基本的に入ったとしてもまずは試験期間があり、それで使える人材ならそのまま。使えない人材なら辞めてもらう。という形式を取っていた。
「その人、前の職も別の老健で働いたみたいでこっちのやり方にもすぐに慣れて問題なかったのよ~」
なーさんが説明してくれた。グラスは空になっていた。
「そうなんだ」
俺も飲み干し、次のドリンクの注文をする。
「そっちはどうなん?うまくやってんの?」
やっくんに訊かれた。
「ん~、まぁまぁ、かなぁ。期間限定だったけど職員にならないか?って誘われてさ。」
「いいじゃん、いいじゃん。で?どうしたの?」
なーさんが相槌を打ってきた。
「ちょっと迷ったけど、その誘いを受けることにした」
「めでたいめでたい!今日はアレだなぁ。い~ちゃんの復職祝いだな!」
そう言ってゴクゴクとお酒を飲み干し、次のドリンクの注文していた。
「そうは言うけど、あまりやりがいがないっていうか。専門的なことは出来ないし、長年眠っていた子のリハビリやらされたり大変だったよ」
「PT雇わなかったんだ?」
「そう、俺が老健で働いていたからっていう理由でそっちの知識ないから老健のやり方で記録つけたり、色々気を使いながらやってたよ」
「あっはは。まぁ、それはしょうがないわな。で、その子はどうなったん?」
「あぁ、一応人並みに生活出来るまでにはなったよ。この前なんかいきなり料理教えて、なんて言われて一緒に作ったりしたし」
「はは~ん。もしかして、その子女の子?」
なーさんの瞳がキラーンと光ったような気がした。
「そうだけど。なんで?」
「その子可愛い?」
「ん~、まぁ傍から見て可愛い方じゃないかな?」
「良いなぁ~良いなぁ~。私も女の子とイチャイチャしたい~」
もう酔っているんだろうか?確かにいつもよりハイペースでみんな呑んでる気がするが。
そんなこんなでお互いの近況を肴にしながら呑み続け、アニメなどの話になった時に事件が起こった。
「んもぅ、なぁんで分かってくれないのよぅ。可愛い女の子達がキャッキャうふふするのが良いんじゃないのよぅ」
「んなもん、見ねぇよ。それよりぃ、男たちが繰り広げる熱い戦いの方がいいだろうがよ」
酔った二人が言い争いはじめた。こういう事はたまにあったのでいつものことだと思っていた。
俺はどっちつかずに見守る事にした。
「見てもないのにそんなこと言うの信じらんなぁい!」
「お前もあのアニメ見てねえだろうがよぉ!」
徐々にヒートアップしていった。ここらで止めた方がいいだろうか。
「そのくらいでいいんじゃない。お互いの作品の良さってものがあるし、お互いオススメするものを見て感想言うのもひとつの手だろ?」
「「嫌だ」」
二人揃って声を上げた。こういうところで意地張るんだから。
俺はため息をついた。
その後も険悪なムードで飲み会はお開きとなった。支払いは割り勘だと言ったが俺の復職祝いで二人は頑なにお金を受け取ってはくれなかった。こういうところも似た者同士である。
少しフラつきながら研究所へと帰り、一服して少しでも酔いを覚まそうと屋上へ向かった。
「いよう。お帰りさん。飲み会はどうだったよ。気分転換出来たかい?」
品行寺…もとい所長がいた。
「いやぁ、まぁ~久しぶりにぃ、呑む酒は美味かったんですけどねぇ」
呂律がちょっと怪しかった。そこまで酔わないようセーブしていたつもりだったが結構呑んでしまったようだ。
「何かあったのかね?話くらいなら聞くよ」
思考が鈍っていたのか普段なら別に話すようなことではなかったのだがつい、口を開いてしまった。
「ふむ、お互い見ず嫌いしているアニメの話で険悪になった・・・ねえ」
何やら、品行寺は考えていた。俺は手すりにもたれかかり、煙草を吸いながらどうしたもんかと悩んでいた。
あのままだと職場でも気まずいだろうに。何とかしてやりたくても意地を張られた以上どうすることもできない。
「なら明日の夜、都合が合うならここに呼びたまえ」
「なんでですか?」
「い~ちゃんにしかできないことがあるじゃな~い。今すぐに連絡しなさいな」
何やら悪巧みを考えてそうな顔をしていた。
とりあえず、所長の言うとおり二人に連絡を入れ、夢を見ることとその感想の協力を依頼した。
二人とも了承を得て、来てくれることになった。
一服を終えた後、睡魔が襲ってきて所長の話は記憶から飛んでいた。
翌朝、気怠さが体を襲っていたが何とか目を覚まし、起き上がる。
夢を見た記憶はない。よっぽど深く眠っていたのだろうか?しかし、久しぶりにぐっすり寝た気がした。
飯塚さんにも夢は見ていないことを報告した。そして、朝の一服に屋上へと向かった。
その日は資料整理などの雑務などを行い、時間は過ぎていった。
夜、二人がやってきた。若干気まずい雰囲気はあるものの昨日よりは少しマシといった感じだった。
所長がやってきて二人に説明した。
「これから二人にはそれぞれ別室にて、ヘルメットを着用して寝てもらいます。一応、この事は他言無用でお願いしますねぇ」
少しニヤついていた。二人は少し引きながらも興味はあるようで頷いてそれぞれの部屋へと向かった。
俺も自分の部屋に行き、薬を飲んで眠ることにした。




