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第二話 第三の目

「はぁぁぁっ!?お…いや、僕が彼女の面倒を見るんですか?」

 品行寺の提案に驚きすぎて素が出そうになるがなんとか取り(つくろ)った。

「い~ちゃんの職歴は見せてもらったからねぇ。だから彼女のリハビリを手伝って欲しいんだよ。もちろん、別途お給金をだそうじゃないか!」

「それならちゃんとしたPT・・・理学療法士を(やと)った方が良いと思いますが」

「別に悪い話ではあるまい。金はあって困るものじゃあるまいしぃ」

 品行寺の言うことはもっともだった。確かに金は欲しい。あるに越したことはない。それに日中は暇していることが多い。時間を潰すにも限度があった。しかし、年下の女の子のリハビリとなると面倒ではある。おそらく、色々気を使わなければならないだろう。

 俺が苦悶している様子を見て、品行寺はニヤニヤしていた。

「そうだねぇ、今のお給金があのくらいだから色を付けてこれくらいでどうだ?」

 懐から電卓を取り出し、テンキーを打ち込み、表示された数字を見せてきた。

 マジか。ほぼ、倍近くになっているじゃないか。

「解りました。やりますよ」

 金に釣られた事に少しため息をついたが煙草を吸い、心を落ち着かせた。

「綾音については本当にリハビリだけでいいから。その他のことはま~ちゃん…飯塚さんにやってもらうからダイジョブ、ダイジョブ♪」

 少しイラっときたが流すことにした。

「そうそう、これから夢のことなんだが今日からこちらから夢を提供するのでその夢を見られたかどうかの実験をやるから。ヨロシク~」

 そう言うとこちらの返事を待たずにとっとと屋上から去っていった。

 こうして、昼は綾音のリハビリを手伝い、夜は指定された夢を見るかどうかの生活が始まった。




 日中は指定の時間に綾音の部屋に行き、まず、本人がどこまで体を動かせるか確認し、記録していく。

 老健で働いてはいたがぶっちゃけ、理学療法士の仕事はちゃんと理解はしていなかった。

 なので基本となる当日の本人の様子・活動などを観察し記録して、それが終わると品行寺のもとへ行き、報告した。

 食事は最初は流動食を用意し、うまく嚥下(えんげ)するか観察していく。スプーンを最初は使っていたが徐々に介助箸を利用し、支援していった。

 運動に関しては、まずは手すりを利用し、本人のペースに合わせてゆっくり歩くよう指示する。手すりと反対側に立って肩を貸す。若さもあってか徐々に歩けるようになり、座る・立ち上がるなどもできるようになっていった。

 会話はほぼなかったが仕事と割り切って成長具合を()め、本人のやる気や継続意欲が()がれないよう注意していった。


 夢の方はというと、特に違和感はなかったのだが変な夢を見ることが多く、あまり寝た気はしなかった。

 異世界転生物よろしく、小高い丘の草原でゆっくりしてから学園に登校し、授業中に何かの召喚呪文を唱えようとした時に何かのトラブルが起きて光に包まれそうになる中

「綾音!」

 と叫んで、何かのフォローしたり。

 かと思えば、今度は綾音がどこか行きたいと言ってバイクに乗せて海浜公園に行くことにしたが走行シーンはなく、発進したかと思ったらいつの間にか着いて公園内をぶらついたり、

 更に言えば、どんな夢を見ていても必ず綾音が俺の夢の中に出てきていた。

「・・・なんなんですか。いったい」

 愚痴(ぐち)とも取れるようにいつも報告している飯塚さんに問う。

「説明されていなかったんですか?」

 飯塚さんは、少し驚くも呆れ気味に言った。

「綾音ちゃんがね。お父さんのお仕事を手伝いたいって言って所長もノリノリで夜に貴方と同じくヘルメットを被って寝ているのよ。そして貴方の脳波とシンクロ具合の経過を観察しながら、こちらが解析した夢のパターンを送っていたの」

 ・・・・・・・・・・・。

 言葉はもちろん、ため息すら出なかった。最初から説明して欲しかった。




 そうして3週間ほど経ち、綾音はなんとかぎりぎり人並みに自立した生活を送れるまでになった。

 とある日、綾音の立ち上がりの様子を見ていた時にしゃがんでいてメモ帳を落としてしまった。

 それに気づかず、綾音が先に気づいて拾い、ペラペラと中を(のぞ)いた。

 そこに書かれた文字に注目していた。そこに書かれていたものとは


 タイトル 星空

 空がオレンジ色に染まるときの中 

 独り佇んで

 風が髪をなびかせ

 遠くを見つめてる


 逆境に負けない強さが

 欲しいと思ってた

 どんな時でも心の中は

 笑顔でいたかった

 キミと出会わなければ

 人は弱い生き物と

 痛感して とても

 生きていけなかったよ


 星も見えない空の下で

 あなたは輝いていますか?

 独り支えきれない闇

 ヒカリみつけてあげたい


 人のためにしてることは

 最後は自分のためになる

 信じてきたこと 全て

 打ち砕かれたとき

 キミの優しさなければ

 人は孤独な生きものと

 誤解して とても

 触れていけなかったよ


 ボクはあなたのヒカリみつけ

 あなたはボクのヒカリ見つけた?

 星のヒカリ散りばめて

 力になってあげたい


「勝手に人の持ち物の中を見るのは良くないよ」

 と(さと)すように言ってからメモ帳を取り上げるとよりによって、この前書いた詩のページだった。

 他人に見られるのは少々恥ずかしい気持ちがあった。

「・・・あの、もっと見たい」

 あざ笑うこともからかうこともなく、綾音はそう言った。

「君は笑ったりしないんだな」

 俺は素直にそう言った。自分でもなんで言ったのか言ってから少し戸惑った。

「・・・見てもいい?」

 おずおずとした様子で問いかけてきた。

 俺はメモ帳を差し出した。

 綾音は、ゆっくりとページをめくりながら詩の世界を楽しんでいた。

 その後、読み終えた綾音はメモ帳を俺に返してきた。

「とっても素敵な詩だった。でも、なんか男の子のような女の子のような詩が多かった」

 素直な感想だった。

「それは自分にとって(かせ)ってわけじゃないけど、中性的な表現にあえてしてるんだよ。どっちにでもとれるように。男性的・女性的ってのがなんか嫌だったってのもあるけど・・・」

 言い訳っぽくなってしまったがこれは俺が詩に対するこだわりの部分であった。

「普通なら、こういうモノは人にとって黒歴史だったり、若さゆえの過ちとして記憶から抹消するだろう。でも、自分は忘れっぽいからその時に感じた事や思ったことを詩にして大事に残しているんだ」

「・・・そうなんだ。私にも書けるかな?」

 素朴な疑問をぶつけてきた。

「別にこだわりとかないなら好きに書いていいと思う。それが君の詩になるから」

 そう言って時計を見ると終わりの時間だった。

「今日はこのくらいにしとこうか」

 と綾音に伝え、部屋を後にして屋上に煙草を吸いに行った。




 ああああああああああ、恥ずかしいっ!

 後から無性に恥ずかしさが心を締め付けていた。頭をかきむしりたくなる衝動を抑えながらニコチンを肺に送る。

 落ち着くまで時間はかかったが三本目の煙草を吸い、なんとか気持ちは落ち着いた。

 その時、バタンとドアが開き、品行寺が姿を現した。

「いよう、今日もご苦労さん」

「いえ、別に・・・」

 軽く会釈(えしゃく)をした。

「娘もだいぶ自立できるようになったし、改めてお礼を言おう。ありがとう」

 珍しいこともあるもんだ。明日は雨でも降るんじゃないだろうか。

「仕事ですから。別にお礼を言われることじゃないですよ」

「ドライだな、い~ちゃんは。もしかして褒められ慣れてないのかな~?かなかな~?」

 からかうように言ってきた。一度ぶん殴ったほうがいいのだろうか?

「・・・ふ~っ。もういい年したおっさんですよ、僕は」

「はっはっはっ。私からしたらまだまだケツの青い若人(わこうど)だよ。それはそうとそろそろ被験バイトも期間満了だな。この後、どうするんだ?」

「もうそんな日にち経ってるんですね・・・」

 日中は綾音の支援で次の仕事先を調べる暇がなかった。どうしようか?と少し悩んでいたら

「どうだね。ここの職員になるというのは?まぁ、専門的なことは任せられないので基本被験者といった感じだが」

 思いがけない提案だった。だが、思い悩む。

「被験者なら別に俺じゃなくても他の人でもいいんじゃないですか?」

 この仕事をやっていく自信はなかった。やることといったら夢の報告くらいで達成感も充実感も感じられなかったからだ。

「他に宛はあるのかね?」

「いや、特にあるわけではないですが。・・・前にも言いましたが自信がないんですよ。この仕事をやっていけるか。期間限定だったから今度は頑張れると思っただけで」

「本当にそう思うか?なら、あの時、君はなんで泣いていたんだ」

 急に真面目に問いかけてきた。本当にこの人は先が読めない。

「それは、・・・自分でもわかりません」

「心のどこかで満たされた気持ちが少しはあったからじゃないのかね。自分にも出来る事があった。それが自信になっても良いと思うがね」

 しばし、沈黙が続いた。あの時、俺は本当にそう思ったのだろうか。

「まぁ、福利厚生はしっかりしているし、一度考えてみてくれ。また今度改めて返事を聞くよ」

 そう言い残し、品行寺は屋上を後にした。

 俺は一人、煙草を吸いながら考えていた。

 ・・・答えは出なかった。


 夜、薬を貰う時に飯塚さんに訊いてみた。

「この仕事、やっていけますかね?」

「そうね。それは貴方次第じゃないかしら。どんな仕事にしろ本人のやる気がないとどんな仕事でもできますし、逆もありますし」

「そうですよね」

 当たり前の答えだった。そりゃそうか。

 ヘルメットを被り、眠りへと落ちた。




 翌朝、飯塚さんに夢の報告をする。

「荷物を(ほうき)に跨って飛んで届けなきゃいけないんですけどなんか夢の中で自分が箒に跨って飛んで届ける姿を見たんですよ。で、目的地に近くなったらいきなり右下あたりに制限時間みたいの出てきてカウントダウンが始まってかなり焦ったのに目の前にいる自分は余裕な顔して飛ぶスピード上げて行く夢でした」

 夢の中で自分を客観的に見る夢は初めて見た気がする。もちろん、綾音は魔女の格好をして同じく隣を飛んでいたが。

「報告ありがとう。それはまるで、第三の目みたいね」

「第三の目?」

「知らないかしら?別名サードアイと言ってスピリチュアルやチャクラの話になりますが、神様で言えばシヴァが有名かしら」

「簡単に説明すると高次元の視点から見える世界のことよ。例えば、一次元は点の世界、二次元は線の世界、三次元は立体の世界、四次元は時間の世界。基本、人は三次元までの世界しか認知できないとされていますが貴方は夢でそれを四次元の世界で見たということなります」

「はぁ、そんな事もあるんですね」

 あまりピンとはこなかった。

「まぁ、滅多に見られるものじゃないと思いますが」

 四次元の世界か。ひょっとしたらアニメやゲームの話も別の世界では本当にあったことを自分達がアニメやゲームとして見ているのではないだろうか。

 そんな訳ないか、とフッに笑う。

「それじゃ、屋上で煙草吸ってきます。あっ、昼ごはんは買いたい物があるので外出します。」

「解りました。時間はそんなにかかりませんね?」

「そうですね。多分一時間位で帰ってきます」

 そう言うと俺は屋上へ向かった。

 今日もいい天気だ。早速煙草に火を点けてまったりと過ごす。

 扉が開く、綾音がひょっこりと姿を現しこっちにやってきた。

「今近づくと煙草の匂いが付くよ」

 軽く注意を(うなが)した。仕事以外であまり近づいてほしくはなかった。それでもお構いなしに俺の横に着く。このあたりは流石親子といった感じか。それとも幼さゆえの距離感が掴めずにいるのか。

「お父さんがね、い~ちゃんが毎朝屋上にいるって聞いて来てみたの」

 年下にちゃん付けで呼ばれるのは恥ずかしかったのでそれとなく注意する。

「年上にはせめて”さん”付けで呼んで欲しいんですが」

「もう夢友(ゆめとも)じゃない。それにもうい~ちゃんで定着しちゃった」

 あどけない笑顔でそう答えた。馴れ馴れしいのも親子譲りってことか。というか夢友ってなんだよ。

 もういいや、といった感じでため息をつく。

 すると電話が鳴った。やっくんからだった。

「もしもし、どしたん?」

「おっす~。この前言ってた昼から飲み会の件だけどさ、今度の日曜が丁度な~さんと二人休みなんよ。なんでどうかな~?って思ってさ」

「日曜か・・・。了解。お酒呑めるか許可取ってみるわ。また場所と時間決まったらラインでヨロ~」

「ウィ~ッス」

 通話を切った。さて、聞きに行こうと煙草を吸殻入れに入れた時に

「今の友達?良いなぁ~、私も友達欲しい」

「飯塚さんがいるじゃないか」

「はふん。あの人はお父さんしか興味ないみたいだもん。同い年の友達だった子達も私の事もう覚えてないだろうし」

 少し淋しそうに綾音は言った。

 そうだったのか。飯塚さんが品行寺にねぇ・・・。

 まぁ、それはさておき確かに何年も眠り姫だった子だもんな。友達作るのは難しい、か。

「まぁ、そのへんはまた学校に行きゃできるだろ?」

「本来なら高校卒業している年なのに?もう18歳だよ」

「高専とかなら。ただ、同い年位ってのは難しいだろうけどな」 

 詳しくは知らないが行けばわかるだろうが勉強が出来なければ難しいけど・・・。

「ふと、思ったんだがいつ事故にあったんだ?」

「小学5年生の時」

 ということは十~十一歳だから七~八年は眠っていたのか。よく生きているものだ。奇跡と言ってもいいかもしれないな。

「ところでい~ちゃん。今日お昼ご飯どうするの?」

「ふえ?・・・久しぶりに料理しようと思って買い出しに行こうと思ってたけど」

「はふ~ん。ご飯作れるの!?」

 そんなキラキラした目でこっちを見ないでほしい。

「飲食店でバイトしてた事もあるからな」

 そっぽを向いて答える。

「ねぇ、私に料理を教えて!」

「唐突過ぎだろ。っても簡単なものしか作らないけど」

「それでもいいよ~」

 こうして、二人してお昼ご飯を作ることになった。


 さて、出かける前に許可を・・・飯塚さんは、いないか。

「よぉ、誰かお捜し?」

 品行寺がいた。

「えぇっと、飯塚さんに今度の日曜に昼間に飲み会あるので行っていいか許可をもらおうと思いまして」

「飲み会かぁ~。良いねぇ、うちでも飲みニケーションでも開こうかねぇ」

 そんなことはどうでもいい。

「それでお酒飲んでもいいかどうかも訊きたいんですが」

「ん~、構わんよ。ただ、夜の睡眠導入剤は飲ませられないので自力で寝てもらう事になるが。」

 意外な返答だった。

「酔って寝た時のデータも取れるからな」

 それがやりたかっただけか。

 ともかく、許可はもらえた。

 なのでラインでお酒もオッケーヽ(´▽`)/と打っておいた。




 バイクに跨り、買い出しに出かけた。近くのスーパーに寄る。

 ご飯はあるからどうしようかな?おっ、卵が特売してる。卵買ってオムライスでいいか。ハムと玉ねぎを買う。ケチャップも買っとこう。冷凍食品を覗くとミックスベリーがあった。そのまま(つま)んで食べるのもいいが牛乳でミキサー入れて飲むか。

 そんなこんなで会計を済まし、リュックに入れて研究所へと帰った。

 バイクを降りると綾音が駆け寄ってきた。

「もう、待ちくたびれたよ~。って、い~ちゃんのバイク可愛いね」

 久しぶりにルネッサを褒められた気がした。

「そうだろ。ルネたん、気に入ってるんだ」

「ルネたんっていうの。ほぇ~」

 綾音はマジマジとバイクを見ていた。

 綾音に声をかけ食堂へと向かった。

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