最終話 ほんとのキモチ
その日の俺はゆっくり過ごすつもりだった。なぜなら誕生日だからだ。三十一歳になる。特に誰かに祝ってもらう事などなく、自分で祝う事もしなかった。誕生日の日に仕事だった事もあった。もう祝ってもらっても嬉しい年でもないしな。
だから今日はゆっくり過ごすはずだったんだ・・・。
朝、起きて夢の報告を終えた後、炎天下だったが屋上に行き、煙草を吸っていた。
所長がやってくる。いつもの事だ。そう思っていた。
「い~ちゃん!今から海に行くぞぉ!」
年甲斐にもなくはしゃいでいた。
「何でいきなり!?」
「いいからいいから。さっさと準備をするんだぁ」
俺を促して海に行く準備をさせた。
水着どこにやったっけな。確か、移動支援でプールに行った時に買ったやつがどこかにあったはず。探し出し見つけた。それとTシャツのラッシュガードをリュックに入れ、部屋を後にした。
「運転よろしくねぇ」
所長に頼まれた。
「何で俺なんですか」
と訊くと
「私はアレ以来、車は運転していないからねぇ。それに運転できるのはい~ちゃんだけなんだよ。ま~ちゃんはペーパードライバーだから」
聞いて少し後悔した。
「嫌な事を訊いてすみませんでした。車、入口に回してきますね」
「いや、気にしなくていいよぉ」
俺は車のキーを受け取り、駐車場に向かった。
車を駐車場に回すとやっくんとなーさんが入口で待っていた。
「おっす。今日は楽しもうぜ」
「運転、頑張ってね~」
・・・・・・・・・・。
なるほど、こいつらの仕業か。所長がなんで今日突然海に行こうと言いだしたのか解った。
「全く、やってくれたな」
「んふふ~、何の事~?」
なーさんはしらばっくれていた。まぁいいか。と思い、二人を乗せた。
直ぐに所長達がやってきた。次々乗り込む。
助手席に綾音。真ん中に所長と飯塚さん。後部座席にやっくんとなーさん。で、出発することになった。
「どこの海に行くんですか?目的地を決めないと出発出来ないんですけど」
「白崎海岸なんてどうかしら?」
「いいねぇ、あそこ結構穴場があるんだよねぇ」
「そうなんですか?俺達まだ行ったことないから楽しみですよ」
「はふん、海楽しみ~!」
それぞれはしゃぐように話していた。ナビの目的地を白崎海岸に設定し、出発した。
高速とバイパスを利用する事三時間。目的地付近からは所長の案内で何とか昼前に到着した。
車を駐車場に停め、車から降りてみんなで着替えに行った。
着替えを終え、ビーチへと向かう。
「見るがいい!この白い砂浜!青い海を!」
所長が張り切っていた。人もそれほど多くなく、ほんとに穴場だった。何より岩壁が白い事にも少しびっくりした。
所長は、アロハシャツにブリーフ型の水着。やっくんは俺と同じサーフ型の水着だった。
かくいう女性陣は、というと。
飯塚さんは黒色の谷間の所が紐で編みこまれているレースアップ型のビキニで下はフリル付きだった。
なーさんは上は長袖のラッシュガードで覆われていたが下は水色のショートパンツ型の水着だった。
綾音は白色のフレアトップ型の水着で小さいフレアが三段になっていた。
解説はやっくんがしてくれた。決して俺が知っている訳ではない。
「はふん!ねぇ見てみて~。似合う?ねぇ似合う?」
綾音が執拗に訊いてきた。
「あぁ、に、似合ってるぞ」
顔を逸らしつつ答えた。あまり直視は出来なかった。こいつって、こんな可愛かったっけ?妙にドキドキする。夢とはいえ、好きと言ったからか?とにかく落ち着け、俺。
「えへへ、な~さんと一緒に水着を買いに行って選んでもらったの」
嬉しそうに話した。
ビニールシートとパラソルを準備し、風で飛ばないようパラソルはしっかりと刺して、ビニールシートにはクーラーボックスを置いた。やっくんはビーチボールを膨らませていた。
「よっしゃ、めいっぱい遊ぶぞ~」
やっくんがみんなに声をかけていた。
俺も海に入り、綾音・やっくん・なーさんの四人でビーチボールを打ちあった。
「綾音、そっち行ったぞ」
「はふん!え、え~い」
「おっ、ナイスパース。はいよ、な~さん」
「オッケ~、任せて~」
思いっきり俺に向かってアタックしてきた。避けたところで態勢を崩して海に中に落ちた。
這い上がると三人は笑っていた。俺もつられて笑う。
「若いっていいねぇ。元気があって」
「そうですね。見ていて微笑ましいです。・・・それはそうと、和彦さん。日焼け止めを塗ってくれませんか?」
飯塚さんが所長に日焼け止めクリームを渡して寝そべった。
「解った。強い日差しはお肌の天敵だものねぇ」
クリームを手に付け、塗っていった。
「・・・ギブギブ。少し休憩させてくれ」
俺は帰りの運転をしなければならないので遊ぶのはほどほどにして、所長達の元に行った。
クーラーボックスからジュースを取り出し、飲む。乾いた喉が潤されていった。
三人は思う存分海を楽しんでから、休憩していた。
そういえば、海に来て遊ぶのは何年ぶりだろうか。ツーリングで海に来た事はあるが海で遊ぶ事はなかった。もしかしたら子どもの時以来かもしれない。
そしてみんなで遅めのお昼ご飯を食べに行き、ゆっくりしてから帰る事になった。
帰りは、綾音・やっくん・なーさんが遊び疲れたのか眠っていた。
俺は所長にお礼を言った。
「所長、今日が俺の誕生日だって知ってたでしょ。だから海に連れてきたんですか」
「あっはっは。それもあるが息抜きだよぉ。仕事続きじゃ体が持たないからねぇ」
食えない人だな、と思った。しかし、その厚意は有難かった。確かにリフレッシュ出来た気がした。
研究所に戻ると、やっくんとなーさんは用意された部屋に行った。俺も部屋に戻り、ベッドに横になる。ほどほどにしたとはいえ、運転は気が張るから疲れた。
俺はいつの間にかうたた寝をしていた。
「はふん、い~ちゃん、起きて。ご飯だよ~」
目を覚ますと綾音が体を揺らしていた。
「・・・ご飯?」
そういや、晩飯食べる前に部屋に戻ったんだっけ。疲れていつの間にか寝ていたのか。
綾音を見ると誕生日にあげたネックレスを着けていた。
「って、うわあぁぁっ」
顔が近かったので思わず、飛び退いてしまった。綾音は不思議そうな顔をしながら
「食堂に行こう」
と綾音に手を引かれ、食堂に向かう。なんか今日の俺、やけにこいつのことを意識してしまっているな。ひょっとして、俺はこいつのことを・・・。いや、そんなはずはない。でも、もしかしたら心のどこかでこいつを求めているんだろうか・・・。
など、色々考えてしまっていた。
食堂では、色々な料理が並んでいた。みんな座って俺が来るのを待っていたようだった。
「はふん!半分は私が作ったんだよ」
胸を張って答えていた。最初は包丁の使い方もままならなかったのに成長するのが早いな。
「凄いな。よく作れたな」
素直に感心した。
「えへへっ。あれからま~ちゃんに色々料理を教わったの。ケーキも自分でデコレーションしたんだよ」
と、指した。その方向を見ると、綺麗というにはちょっと違っていたが立派なホールケーキがあった。
「流石にケーキに三十一本のロウソクは無理だから三本だけにしとくよぉ」
と言ってロウソクを刺して火を点けていった。
俺以外のみんなでバースデーソングを歌い、俺はロウソクの火を消した。少し照れくさかった。
そして次々とプレゼントを渡された。こうやってみんなに祝われるのは何年ぶりだろうか。
「みんな、ありがとう。凄く嬉しいよ」
みんなにお礼を言って料理に手をつけた。
「美味しい。ホントに料理上手くなったな。綾音」
綾音を褒めた。綾音は少し照れくさそうに笑った。
お酒もすすみ、タバコが吸いたくなって席を外した。屋上へ向かう。
「夜になってもまだ少し暑いな。」
煙草に火を点けて一服する。ほろ酔い気分で気持ちがよかった。
しばらく一服しているとそこへ綾音が現れた。
「はふん!あ、あの、これ・・・」
と、ラッピングされた小さな袋を渡してきた。
「誕生日プレゼントか。もらってもいいのか?」
綾音は恥ずかしそうに、うん、と頷く。
俺は煙草を吸殻入れに捨て、受け取った。
「開けてもいいか?」
「はふん、いいよ」
袋を開けると中には、革のチョーカーが入っていた。星型に革がくり抜かれているデザインで俺の好みのデザインだった。
「お前、これ・・・」
「な~さんからい~ちゃんの好みを訊いたの。そして水着を買いに行った時にい~ちゃんが好きそうな物を自分で選んで買ったの。」
チョーカーを着けてみた。
「に、似合ってるか?」
と訊くと
「はふん!凄く似合ってるよ」
嬉しそうに答えてくれた。
袋の中にはもう一つ何かが入っていた。手紙?開いて読んでみる。
タイトル 大好きな
と書かれた詩が書いてあった。
どんだけ好きなんだよ、と思ったが胸にジーンとこみ上げるモノがあった。やはり、俺は綾音を・・・。
綾音は俺の反応を窺っていた。
俺は優しく抱きしめた。酔っていたせいもあるが素直に嬉しかった。
「綾音、俺の鼓動が聞こえるか?今、物凄く嬉しくてドキドキしてる」
「はふん、すっごくドキドキしてるね」
「それだけじゃないんだ・・・。綾音に伝えたいことがあるんだ」
・・・たった一言。好き、と言うだけなのにかなり緊張する。綾音はよく俺に好きだと言えたもんだ。だからこそ、それだけ本気なんだという事が今更になって理解出来た。
俺も負けてはいられないと覚悟を決めて、
「綾音、好きだ」
誰にも聞かれないよう、耳元で綾音だけに聞こえるように言った。
そして反応を待つ前に唇を奪った。
五秒くらいだったが体感時間はとても長く感じた。
綾音の唇はプルプルしてとても柔らかかった。キスを終えてから
「綾音が俺を離さないって言うなら、俺も綾音を離したりしない」
綾音に向かって誓った。その事を言ってから急に顔がカーっと熱くなった。
俺はそっぽを向いて
「こ、この事は二人だけの秘密だからな」
口外しないよう言った。
チラッと綾音を見ると最初は固まっていたが徐々に目に涙を浮かべて、俺を力一杯抱きしめた。まるで二度と離さないかのように。
俺は優しく頭を撫でた。綾音が自分の誕生日を絶対忘れられないと言っていたように俺もこの日の誕生日は忘れられないだろう。
最初は綾音を救ってそれから俺が救われて、もう綾音に対して踏み込んで欲しくない領域なんてなかった。
「これからは二人で支えあっていこう」
満天の空に揺蕩う月を見ながら綾音に伝えた。綾音は声を殺して泣いていた。
綾音が泣き止むまで優しく抱き返し、頭を撫で続けたのだった。
最終話まで読んで頂きありがとうございます。構想自体は何年も前から漠然とあったのですが時間が出来たので書いてみました。
小説はほとんど読まないのでかなり拙い文章に語彙力がないので表現にかなり苦労しました。国語辞典や検索サイトで検索してにらめっこしながら書いていました(笑)
それでも、登場キャラクターにワンシーンでもいいので感情移入して共感してもらえると嬉しいです。私は綾音ちゃんに感情移入してしまい、かなり可愛がっています(笑)
夢に関しては事故夢と綾音ちゃんのお宝探し編と大ちゃんのファンタジー以外は自分が実際に見た夢を元に話を作りました。、
悪夢編の男はあえて名前を出しませんでした。もし、同姓・同名の人が読んで嫌な気持ちになられたら、と思ったので。
あとがきの最後まで読んで下さりありがとうございます。それでは、また。




