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第十八話 ドッキドキの誕生日

 六月に入り、ニュースで梅雨入りが宣言されてからここ二~三日雨が続いていた。

 雨の日はどうしても憂鬱(ゆううつ)になる。こういう日は、ジム室に行って体を動かして気を紛らわせていた。

 一時間ほど、筋トレをして一息つくと綾音がやってきた。

「い~ちゃん!六月十日に付き合って欲しいんだけど」

「なんだ?何かあるのか?」

「買い物に付き合って欲しいの」

「それなら別に俺じゃなくてもいいだろ」

 俺は汗をタオルで(ぬぐ)ってやんわり断る。

「はふん!い~ちゃんじゃなきゃダメなの!」

 駄々をこねられる。面倒くさいやつだな。

「な~さんと一緒に行きゃあいいだろ」

「な~さんとやっくんはオッケーもらったの!後はい~ちゃんだけなの!」

「なら三人で楽しんでくればいいじゃん」

「はふん、こうなったらな~さんにい~ちゃんの恥ずかしい過去を訊きだすから」

 今度は脅迫かよ!な~さんだったら喋りそうで怖いな。

「しゃ~なしだぞ」

 ゲンナリしながらも了解した。



 そして、当日ショッピングモールの入口で待ち合わせとなった。ラインで場所を確認してその場所へ向かった。

「やっほ~、元気してる~。私は超元気だよ~」

 なんかちょっとテンション高いな、な~さん。そして当然のように綾音にハグしていた。

「普通だな。それより待たせちゃったか?」

「んにゃ、俺達も今さっき着いたところだから。んじゃ、ボチボチ入りますか」

「レッツゴ~♪」

 今日のな~さんのテンションにはついていけそうになかった。

 まずは、服を見て回った。

「綾音ちゃん、これなんてどうかな~」

 試着室に連れて行き、綾音をコーディネートしていく。

 試着室のカーテンが開かれると、ゴスロリ姿の綾音がいた。

「あぁ~、最高だわ~。綾音ちゃん、ご主人様って言ってみて~」

「・・・ご、ご主人様。」

 少し恥ずかしそうにもじもじしながら言った。

「くそっ!これは俺もヤられるわ。可愛すぎだろ」

 やっくんが轟沈した。

 確かに似合っているといえば似合っていた。

 俺もクるモノがあったが、理性がそれをしっかりと封印してくれた。

「なんでショッピングモールにゴスロリが置いてあるんだよ」

 人気なんだろうか。色違いや様々なゴシック系の物もあった。

「いつものワンピース姿も可愛いけど~、こっちも似合うわね~」

 なーさんは綾音を次々と着せ替えていった。

 その度に俺の心臓は脈打つのが早くなっていた。(しず)まれ、我が鼓動よ。

「ん~やっぱり~、これからの時期だとこれかな~」

 最後に着替えさせたのは清楚(せいそ)な感じの服装だった。

 白のロングTシャツにカーキ色のジャンパースカート。

 性格さえ知らなければどこかのお嬢様と言ってもいいのかもしれない。

「シンプルイズベストってね~」

 な~さんはうんうんと頷いて

「じゃあ、これ買ってくる~」

 と、レジに向かっていった。俺はなーさんの様子が変だったのでやっくんに耳打ちした。

「今日ってなんかあんの?」

「え?お前、何も聞いてないの?今日綾音ちゃんの誕生日なんだよ」

「え?マジで?」

「だから二人でプレゼント考えたんだけど、せっかくだしこうして買い物して決めてる訳」

 そうだったのか。綾音のやつ、何も言わなかったからただの買い物かと思ったのに。

 その後、買った服装に似合うベレー帽とシューズをなーさんが選び、やっくんが支払いをした。

 選んでいる間、暇だったのでトイレに行くと伝え、その場を離れた。周りを見る。アクセサリーショップが目に入った。

 入口には六月の誕生石アクセサリーと宣伝され、パールを使ったアクセが並んでいた。

 パールねぇ、綾音には似合いそうにないかなぁ~?と商品を見ながら考えていたら

「お客様、何かお探しでしょうか?」

 店員に声をかけられた。

「あっ、いや、今月誕生日のやつがいるんですけど、なんかないかな?って思って」

「でしたらパールの他にもムーンストーン、アレキサンドライトなども六月の誕生石としても有名ですのでこちらの商品などいかがでしょう」

 ムーンストーン・アレキサンドライトのコーナーに連れて行かれた。

 パッと値段を見ると一万を超えている物もあった。流石に高価な物をあげるのは気が引けたので適当に安い物を探した。

 ふと、ハート型にカットされたムーンストーンのネックレスを見つけた。特価で五千九百八十円だった。これくらいならいいかとその商品を手に取ってレジに向かった。

 精算を済ませ、ラッピングをしてもらった。ベルトポーチにしまう。

 俺はみんなのいる所に戻った。そしてフードコートで昼食にした。

「はふん、外に出る事あまりないから新鮮だよ~。それにプレゼントすっごく嬉しい!」

 綾音もテンションが上がっていた。なーさんのコーディネート姿で自分の着ていた服などは袋に入れていた。

「私も綾音ちゃんをコーディネートできて幸せだったわ~」

「ほんと喜んでもらえて良かったよ」

 三人で盛り上がっていて誕生日プレゼントを渡すに渡せなかった。

 その後は色々見て回った。途中、綾音が腕を組んできたので注意しようと思ったがやめた。目覚めて初めての誕生日だもんな。今日くらいは好きにさせてやるか。

 楽しい時間はあっという間で帰る時間となった。

 プレゼントはベルトポーチに入ったままだった。流石に公共で渡すのもどうかと思ってしまい、渡せず研究所まで戻ってきてしまった。

 俺は屋上へ行き、ボ~ッと煙草を吸っていた。

 どうしようか?と考えていたら所長がやってきた。

「い~ちゃん、娘の誕生日パ~ティ~するから準備お願いねぇ」

 と、告げられた。

「何やるんですか?」

 問いかける。

「料理は、ま~ちゃんがやってくれるから部屋の飾りつけをお願い。大ちゃんも今やってるから」

「解りました。んじゃ、行ってきます」

 所長に声をかけてその部屋へと向かった。

 飾りつけは半分ほど進んでいた。

「大ちゃん、手伝うよ。何すればいい?」

 大ちゃんに声をかけた。

「い~ちゃん、ありがとう。じゃあそのモールを壁に貼っていって」

「了解」

 大ちゃんと二人でなんとか準備を終えた。俺は食堂の方に行った。飯塚さんが料理中だった。

「良かったら手伝いましょうか?」

「あら、本当に?それでは、お願いします」

 俺は飯塚さんの作っている料理のサポートに入った。

 流石にケーキは作ったことがないのでデコレーションは飯塚さんにしてもらったが。




「「「「誕生日おめでとう!」」」」

 クラッカーを鳴らし、俺と大ちゃん、所長と飯塚さんで綾音の誕生日を祝った。

「ロウソクに火を点けるよぉ」

 所長がホールケーキの十九本のロウソクに火を点け、それが終わるのを確認すると大ちゃんが部屋の電気を消した。

 みんなでバースデーソングを歌い、綾音はフ~ッとロウソクの火を消していった。

「今日のために取っておいた秘蔵の酒を出すぞぉ~!」

 懐から年代物のウイスキーを取り出した。

「みんなも呑んでいいからねぇ」

 ロックグラスにウイスキーを注いでいく。氷がピキッと音を立ててゆっくりと溶けていく。

 もちろん、綾音に呑ませるわけにはいかないので綾音はジュースだが。

 一斉に乾杯をして各々料理に手をつける。

「はふん!これすっごく美味しい!」

「流石ま~ちゃんだねぇ。胃袋掴まれちゃったよぉ」

「飯塚さん、凄いですね」

「半分は森さんが手伝ってくれましたけどね」

「い~ちゃん、料理できたんだ」

 大ちゃんが少し驚いていた。

「まぁ、色々バイトをしてたからな。一人暮らしで自炊もしてたし」

「そうなんだ。やっぱり飲食って大変?」

 俺は飲食のアレコレを大ちゃんに話した。

 年代物のウイスキーはアルコールがキツかったが香りが良く、味はまろやかだった。

 所長達が綾音に次々プレゼントを渡していた。俺も、っと思ったが今ここで渡すと所長にからかわれるのが想像できて、結局この場でも渡せずにいた。

 宴もたけなわといった感じではなかったがお酒を呑むと煙草が吸いたくなり、屋上へ出た。

 夜風が気持ちよく、酔い醒ましに丁度よかった。

 煙草に火を点け、味わう。

 扉が開くと綾音がやってきた。

「はふん、やっぱり煙草だったね」

 と、まるで俺を知った風な事を言った。

 あ、そうだ、今なら渡せるんじゃないか?

「綾音」

 声をかけ、ベルトポーチからプレゼントを取り出した。

「わぁ~、い~ちゃんもプレゼント買ってたんだ」

 とてもいい笑顔で喜んでくれた。

「はふん!開けてもいい?」

「どうぞ」

 綾音がラッピングを剥し袋の中の物を取り出した。

「これ、本当に貰っていいの?」

 双眸(そうぼう)をキラキラさせていた。そして、自分で着けようとしていたが苦戦していた。

 見かねて

「貸してみろ」

 ネックレスを受け取り綾音の後ろに回り、ネックレスを着けた。

「はふん、どう・・・かな?似合ってる?」

 振り返り、少し照れくさそうに訊いてきた。

 月明かりに照らされたムーンストーンの輝きが綾音にとても似合っていた。そして、月明かりに照らされる綾音がとても大人っぽく見えた。

「あ、あぁ、凄く似合ってる」

 思わず顔を背けて言った。

「い~ちゃん」

 綾音が俺の胸に顔をうずめる。

「はふん、本当にありがとう。私、今日の誕生日、一生忘れられないよ」

 感極まって泣いているようだった。俺はしょうがないな、と思い落ち着くまで頭を撫でた。

 ズズ~ッ!・・・ん?

 ふと、綾音の方を見た。鼻水が服に付いていた。

「お前何してんだよ!」

 ちょっと怒ってティッシュを渡して俺も服についた鼻水を拭いたのだった。




「綾音ちゃんったら、しょうがないですね」

「ありゃ~、キスまでいかなかったねぇ」

「残念でしたね」

 扉から三人が覗き見をしていたのだった。

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