第十四話 憧れのファンタジー生活!?
キッカケはふとした事でたまたま大ちゃんに見たい夢はあるか訊いただけだった。
大ちゃんは前にあまり夢を見ない方だと言っていたので見られるとしたらどんな夢が見たいのか気になったからである。
それがまさか夢にでるとは・・・。
ここはとある小国の城下町『リーゼル』
隣国である大国の『ミラドール』が魔王率いるモンスター達により滅び、人々にとって最後の希望の町だった。
大ちゃんは騎士。ファンタジー物の顔と言ってもいい。今回の主役だから妥当だろう。
そして、綾音は魔法使いだった。
「はふ~ん。なぁに?アタシの美貌に酔いしれたの?」
キャラ変わりすぎだろ。俺は冷たい眼差しを送ったが効果はなかった。
・・・放っておこう。まぁ、ファンタジーに魔法は付き物だからな。
そして俺は……。
「なんで俺は奴隷なんだよ!」
大声で叫んだ。
せめて、僧侶だろ!そこは。回復役は必要だろ!よりによって最低ランクの奴隷かよ!・・・理不尽だ。
装備も布の服に細い棍棒って。せめてもうちょいまともな装備にして欲しかった。
何より、それ以上の頑丈な装備はできないときたものだ。
ナニコレ?初期装備でラスボスを斃す縛りプレイか何かか?
序盤のモンスターですら斃せないだろ。
しかも、ゲームと違ってステータスなんて表示されないから今の状態が解らん。
「大ちゃん。これから何がしたいんだ?」
嘆いていても何も始まらない。とりあえず、大ちゃんのやりたい事に付き合う事にした。
「そうだね。とりあえずクエストをやって僕らの知名度を上げていこう。そうすればいずれは城から招集がかかり、魔王討伐の反抗作戦に参加出来ると思う」
「その辺は定番なんだ」
所謂、チュートリアルである。町の外に広がるフィールドにて潜んでいるモンスター退治をする事になった。
町の外を散策する。草原が広がり、遠くには鬱蒼とした森が続き、その奥に山が見える。
「・・・いた。速攻で仕掛けるよ」
大ちゃんが合図を送る。俺はそれに続き、モンスターめがけて攻撃を仕掛け…。
「俺にはできねぇ!!」
可愛い猫型のモンスターだった。めっちゃキュートで俺の心臓を鷲掴みされた。
「はふん!い~ちゃんが魅了にかかっちゃった」
「大丈夫。あいつを斃せば、元に戻るから。援護よろしく」
「はふん、任せて♪」
綾音は火球をぶつけ、モンスターが怯んだ。
「乱れ咲け!剣技、桜花の舞!」
子供の頃、アニメや漫画で主人公達がやっていた必殺技を真似したことは誰しもあるだろう。大ちゃんもそれを真似て敵の隙を突いて、乱れ切りをした。
「桜のように散るがいい」
バッチリ決めセリフも真似ていた。
俺は、正気に戻った!
「何してたんだ?俺」
さっきのは幻だったのか?にゃんこモフモフは?キャッキャうふふは?
「ごめん、大ちゃん」
「い~ちゃんが無事ならそれで良し」
全く、申し訳ない。夢をシンクロしているとはいえ足を引っ張るとは。
ってか、このままじゃ役立たずで終わってしまう。それだけは何とか避けたかった。
俺は気をしっかり持って次の戦闘に備えた。
今度は違うモンスターが現れる。クマ型のモンスターだった。
「今度は僕が囮になる。二人は協力して斃して」
「解った。綾音、行くぞっ!」
モンスターの攻撃を盾で防ぎ、剣で牽制を入れる。俺達はチャンスを窺っていた。
モンスターがよろめいた。今だ!
「食らえっての!」
「完全に屠ってあげる。クリムゾン・コキュートス!!」
綾音が紅の氷柱でモンスターの体を貫き、俺は棍棒で首の頚椎を狙って攻撃した。
モンスターはそれで息絶えた。
・・・あれ?俺完全にいらない子じゃないか?
そう思ってしまった。
「とりあえず、クエストはクリアだね」
まぁ、それなら良しとしよう。そうしよう。いらない子になるのは嫌だ。
「次は洞窟の調査だね。気を引き締めていこう」
なんか大ちゃんが頼もしい。否、実際騎士なのだから頼もしいのだが。
俺達は薬草などを購入し、準備を整えて洞窟へと向かった。途中、何度かモンスターとの戦闘になったが大ちゃんの指示は的確で特に怪我する事もなく辿り着いた。
洞窟内は暗く、戦闘であまり役に立ってない俺が松明を持つことにした。
やはり、洞窟内はモンスターの巣窟となっており、複数のモンスターとの戦闘になる。
「綾音ちゃん、できるだけ火炎魔法を使ってスライム型のモンスターを斃すか威嚇して。外れてもそれが灯りの代わりになるから」
大ちゃんが指示をして、綾音が魔法を唱える。
あれ?そしたら松明いらなくね?またしても俺はいらない子なの?
不安に飲み込まれそうになるのを大ちゃんが声をかけてくれた。
「い~ちゃんは虫型のモンスターの相手をお願い。素早いから僕じゃ追いつけない。僕は獣人型の相手をするから」
「おう、任せとけ」
親指を立てた。
さて、虫型か。どんなやつだ?俺は目を凝らして見た。蜂のようなモンスターが飛行していた。
あいつか。毒持ちだろうな。針に気をつけて殺らないと。
俺は小石を蜂にぶつけ、注意をこちらに向けた。蜂は発達した大顎をカチカチ鳴らし、案の定一直線にこっちにやってきた。俺は棍棒を構え、胴体めがけて攻撃した。
蜂に直撃したがダメージはそれほどなかった。脚を蠢かせ、針の先からは毒液が垂れている。
「ちいいい、かてえ!」
蜂はそのまま針で突こうと俺に迫ってきている。このままじゃやばい。
俺は一旦、腕の力を抜くと同時に横に転がる。蜂は壁にぶつかりそうになるのを回避し旋回して再びこちらに向かってきた。
「舐めてんじゃねえ!」
俺は今度はフェイントを仕掛ける。蜂はフェイントに引っかかり、針が壁に刺さった。その隙を突いて頭部に棍棒を叩きつけた。蜂は動かなくなった。
周りを見ると綾音も大ちゃんもモンスターを倒していた。
「みんな無事でなにより」
「今の私に勝てるモンスターなんていないわ」
「よっしゃ。そんじゃ探索を続けるか」
俺達は洞窟の奥を探索することにした。
すると宝箱が置いてあった。
「どうする?」
「はふん!お宝~お宝~」
「い~ちゃんが開けていいよ。僕はお宝には興味ないから」
俺は宝箱を早速開けた。中には毒弓が仕込んであり、左腕に矢が刺さる。
俺、今回こんな役割かよ。
中身は毒消し草だった。
左腕が痺れてきた。俺は矢を抜いて中に入っていた毒消し草を傷口に貼った。
「これ、お宝の意味ないよね」
「はふん、残念」
「ったく、もうちょいマシな物入れとけっての」
とりあえず、洞窟の探索は終わった。
町に戻ると城から招集がかかった。いよいよ魔王との決戦か。
というところで夢の時間は終わった。
まるで俺たちの戦いはこれからだ!と言わんばかりに・・・。
「・・・なんて様だよ。全く」
俺は起きて部屋を出た。少し遅れて大ちゃんも出てきた。昨日、大ちゃんと一緒の夢を見るべく、大ちゃんもヘルメットを被って寝ていたのだった。
「夢はどうだったよ」
「みんなで同じ夢を見るって凄いね。楽しかったけど、ちょっと消化不良かな」
そりゃそうだろうな。
俺達の戦いはこれからだ!って、漫画の打ち切りじゃあるまいし、これからって時に目が覚めるなんて。
「夢の続きって見る事は出来ないの?」
どうだろう?自分自身に問いかけてみたが夢の続きを見るというのは今まで生きてきた中でなかった。
「飯塚さんに訊いてみるわ」
大ちゃんと一緒にモニター室に行った。
飯塚さんに夢の報告を済ませた後に夢の続きを見る事はできるのか訊いてみた。
「可能性としてはその事を深く思えば見る事はあると思います。今回は堀江君が夢の主役だったようなので堀江君が強く思う、願えば続きを見られる可能性はあります。それだけ意識に残るという意味で」
なるほど、そういうことか。思いの強さで夢の続きが見られる。そんな事もあるのか。それを中学生の時に知っていれば、エロい夢を見た後、続きが見られたかもしれないのに。いい雰囲気でこれからって時に目が覚めたもんなぁ。
「という訳で、堀江君。データをまとめますからお手伝い、よろしくお願いしますね」
「解りました」
大ちゃんはそのまま仕事に就いた。
俺は屋上に煙草を吸いに行った。
その後、綾音の勉強を見ていた。
「綾音はあの夢どう思った?」
「え?なんか思い通りの魔法使えて楽しかったよ」
コイツはコイツで魔法が使えると思ったから使えるのか。なら俺も何か出来るようになりたいなぁ。
漠然とした思いだけ広がっていた。
夜、屋上で煙草を吸っていた。所長がすぐ後に来て煙草を吸う。
「い~ちゃん、今回の夢は役に立ってなかったんだって~」
所長にからかわれる。
「夢だからいいじゃないですか。っても不服でしたけど」
「いけないねぇ。できない自分を責めている限り、永遠に幸せにはなれないだろう。今の自分を認める勇気を持つ者だけが、本当に強い人間になれるのだ。これはアルフレッド・アドラーの名言だがねぇ」
「今の自分を認める勇気ですか」
「奴隷で役に立たない?ならそれを認めてそこから自分がどうしたいのか、どうなりたいのか。具体的にして目的を作って達成する。そういうのが大事なんじゃないかねぇ」
具体的にか。奴隷という立場からどう役に立てるか。そして思いを強く持つこと。
「そうそう、一応夢の続きか見られるかどうかデータを取るから。大ちゃんにも伝えてあるからよろしくねぇ」
そう言って所長は室内に入っていった。
「俺は俺なりのやり方で強くなる。なるんだ!」
そう強く思いながら眠りについた。




