第十一話 大人って・・・
今日は研究所の創立記念日ということで、屋上でBBQをする事になった。
俺は朝から買い出しで会社の車を借りて、買い出しに駆り出された。
「なんでお前と一緒なんだよ・・・」
ただでさえ、夢で一緒なのに現実でもずっと一緒ってのは少しうんざりする。
夢の弊害なのか。これも今後の課題になるんじゃないだろうか。
というか、夢の中じゃ普通に話しかけたりするのに告白されてから、あまり話しかけてこなくなり、車内でも黙ったままで妙に気まずい。そして、意識してしまう。
「買う物、頭に入ってるか?」
俺は気をそらすため、話しかけた。
「はふん。私たちが買うのは食材だよ。美味しいものいっぱい買おうね」
と、笑いかけてくる。予算はたっぷりもらったからそこそこ買えるだろう。
近くの大型スーパーに行き、食材コーナーを見て回る。
「野菜はどうするかなぁ?」
「ん~と、玉ねぎ・カボチャ・椎茸・白ネギ・ピーマン」
「ピーマンは別にいらないだろ」
俺はピーマンが嫌いだった。滅びればいいとさえ思っている。食わなきゃいいだけの話だが匂いが他の食材に移るのも嫌だった。
「はふ~ん。い~ちゃん、ピーマン苦手なの~?」
ニヤリとする綾音。
「誰しも苦手な物くらいあるだろう」
「おこちゃまだね~。私食べられるもん」
言い方が子どもの発言だった。
「譲歩して、ししとうにしとこう」
ししとうのパックをカゴに入れた。
「魚介類はどうするかなぁ」
「エビ・イカ、後何かあったっけ?」
「ホタテとかかな?」
適当にカゴに入れていった。
「お肉は鶏・豚・牛・ソーセージでいいか」
手当たり次第、カゴに入れていった。
調味料コーナーに寄り、バーベキューソースをカゴに入れた。
「こんなもんかな?」
「はふ~ん!デザート忘れてるよ~」
綾音は走り出し、ゼリーやらヨーグルトなど持ってきた。
後、ドリンクもだな。お茶とジュース、お酒を適当にカゴに入れる。
そして、精算を済ませて袋詰めしていった。
結構な量になり、正直一人だったら大変だった。
再び、カートに乗せ、車の近くまで押していき、トランクと後部座席に食材を詰め込んだ。
研究所へ帰り、早速食堂に行き、食材の下処理を行った。
「じゃあお前は椎茸の軸を切ってくれ、その後、玉ねぎの輪切りと白ネギを頼む」
「軸って何?」
「あ~、要は棒の部分を切ってくれたらいいから」
綾音には、簡単な物から取り掛かってもらった。もう、包丁でハラハラすることはなかった。
俺は、かぼちゃなど硬い物を切り、爪楊枝を使ってエビの背ワタ取りを黙々とこなしていった。鶏肉も一口大に切っていった。
食材の下処理をしていると少し飲食でのバイトが懐かしく思えた。
切ったものはそれぞれボウルに入れ、ラップをして冷蔵庫に入れていった。
一通り下処理を終え、洗い物をして屋上へと向かった。
屋上では、他の職員達がBBQの準備をしていた。焼き場の設営、椅子の用意など忙しなく動いている。俺は邪魔にならないよう、吸殻入れに行き、煙草を吸った。
綾音も着いてきていた。
「はふ~ん。大分暑くなってきたね。もうすぐ夏だね」
「そうだな。その前に梅雨があるが」
なんて他愛ない話をしながら空を見上げ、雲が流れていく様子を見ていた。
夜、BBQの時間となり、俺と綾音は食材を屋上へと運んだ。ドリンクは長机の上に置いて各自セルフサービス式にした。
各々紙コップに飲み物を入れ、所長が祝辞を述べ、一斉に乾杯をし、宴が始まった。
俺はビールを呷った。
酒は命の水とは良く言ったもんだ。渇いた喉を潤し、五臓六腑に染み渡る。
「よぉ、楽しんでるかねぇ」
所長が声をかけてきた。
「マイペースでやらせてもらってます」
一応、所長よりビールの缶をを少し下にして乾杯した。
「普段、関わっていない人達とコミュニケーションを取るいい機会だからねぇ。めいっぱい呑みニケーションしたまえ」
そう言って所長は一人一人挨拶をしに行った。
総勢30人ほどだろうかみんなそれぞれ、話をしながらBBQを楽しんでいるようだった。
俺は、こういうのはあまり積極的ではないので基本話しかけられるまでは一人で黙々と酒を飲む事が多かったが、同じ卓になった人が焼肉奉行だったようで次々と食材を焼いてはみんなに振舞っていた。もちろん、俺にも。
「ありがとうございます」
その度、お礼を言って食べる。そしてお酒を呑んだ。
その奉行が一段落つくと話しかけてきた。
「君、い~ちゃんって言うんだろう。僕は、堀江 大佑、大ちゃんって呼んで」
あまり声を張らない喋り方だった。喧騒の中で意識しないと聞き取れない感じだった。
「はぁ」
生返事をする。
「バイク乗ってるんだって?もしかして水色のルネッサ?」
「そうですけど」
「良いよね、ルネッサ。僕も前に乗ってたんだ。Vツインのサウンドとバイクのフォルムが良かった」
「貴方も乗られてたんですか?」
「今はスズキのバイクだけどね」
そこからバイク談義となり、気が合い、お酒も入ってお互い年も近いこともありあだ名で呼び合う仲となった。
ふと、綾音の方を見ると綾音も色んな人に話しかけられていた。少し困惑していたが受け答えしていた。
「そういえば、大ちゃんはここで何の仕事をしてるん?」
「あぁ、主に夢の分析・解析の手伝いかな。飯塚さんが大体やってくれるから大分助かってるけどね。後は、他の人と一緒に機械のメンテナンスもしてる」
「そうなんだ。メンテって大変そう」
「基本、特に部品交換とかじゃない限りは、データチェックだけどね。被験者に万が一がないよう、そこは徹底してる」
「ほぇ~」
俺にはそういう知識はないから素直に凄いと思ってしまう。
「い~ちゃんだって、色々な夢を見てるんでしょ?僕はあまり夢を見ないタイプだからある意味羨ましいよ」
「夢を見すぎて、あまり寝た気がしないのが欠点だけどね」
「なるほど。そのへんは改良の余地あり、か。ご意見サンキュ。じゃあ、僕は他の所にも顔を出すよ」
シュッと手を上げ、他所の卓へ行った。
俺はほろ酔い気分になってきて煙草が吸いたくなったので吸殻入れの近くにいき、煙草を吸った。
すると綾音が近づいてきた。手にはバーベキューソースが付いていた。俺に触ろうとしてきたので
「ソース付いた手で近づくんじゃねえよ」
「はふ~ん。なんでよ~、いいじゃん」
触られる前にティッシュを取り出して綾音に渡した。口元もベタベタだった。どれだけバカ食いしてたんだ。
「なんか保護者みたいですね」
フフッと笑いながら飯塚さんが言った。細長い煙草を吸っていた。
「飯塚さんって煙草吸うんですね」
少し驚きだった。
「お酒が入るとね。少し吸いたくなるんですよ」
その気持ちは物凄く解る。
「なんか二人とも大人って感じがしていいなぁ~」
羨望の眼差しで俺たちに向けていた。
「俺はもうオッサンだが大人って意味ではまだまだ子どもだけどな」
メンタル的な意味で大人にはなっていない気がする。そもそも何をもって大人っていうんだろうな。
「私も煙草やお酒呑んだら大人になれるかな?」
「何馬鹿なこと言ってんだ?なら試しに呑んでみるか?」
俺は持ってたビール綾音に渡した。お酒は二十歳になってからだが俺は隠れて中学から親からこっそり貰って飲んだりしていた。ビールは苦くて嫌いだったがチューハイは好きだった。
「うげ~、苦い~、はふん」
と、すぐにジュースを飲みなおす。
「どうだ?大人になれたか?」
「ううん」
綾音は首を振った。
飯塚さんもその様子を見て微笑んでいた。
「そりゃそうだろう。お酒や煙草ってのは大人っていうか社会人、働きだしたらふと欲しくなる物なだけなんだよ。だから呑めるようになったって大人とは限らん」
もっとも的な事を伝える。
「じゃあどうしたら大人になれるの?」
「そ、それは・・・」
俺は言葉に詰まる。すると飯塚さんが口を開いた。
「誰かを愛すること、ですかね」
「「誰かを愛する?」」
二人してハモッた。
「恋は相手のどこがいいとかで決めるじゃないですか。でも愛は違います。相手の欠点やその人が抱えているモノを含めますから、それができれば大人ですかね」
フーっと煙を吐く。お酒も入っていたせいかその姿が艶めいて見えた。
「・・・愛することによって失うものは何もない。 しかし、愛することを怖がっていたら、何も得られない。アンジェリスの名言だがねぇ」
話を聞いていた所長がやってきた。挨拶回りを終えたのだろう。
「綾音ももうそんな事を考える年か。愛については、まだまだといった感じだがねぇ、どうだ?うちの娘は?欲しいかねぇ?だが、娘はやらんぞぉっ!」
「何言ってるんですか。こんなのいら……」
「いらないって言ったらトラウマを解析してエンドレスに夢で再生してやる」
「ほげっ!?」
なんて恐ろしいことを言い出すんだ。
「なんてねぇ。父として一度は言ってみたいセリフだったんだよねぇ」
飯塚さんは笑っていた。何がそんなに面白いのかサッパリだ。
「私は所長の事を愛してますけどね」
飯塚さんが突然爆弾発言をした。酔ってるのか?この人。
「なかなか言う機会もないですし、私と付き合ってくれませんか?もちろん、一緒に働いてきて貴方の事情は知ってつもりです。貴方と綾音ちゃん、そして貴方の前の奥様の思い出を含めた上で私は、貴方と添い遂げたいと思っています」
周囲にも伝わり、どよめきが走る。
「まっさか公開告白とは恐れ入ったねぇ。これじゃ、私は逃れられないじゃない。・・・解った。私で良ければ喜んでお願いしますよ。ま~ちゃん」
その言葉に一斉に歓声が上がった。盛り上がりもますますヒートアップした感じになり、一層騒がしくなった。
飯塚さんは口元を手で押さえ、涙を流していた。所長は優しく肩を抱き、落ち着ける場所に連れて行った。
「はふん!という事は、ま~ちゃんが新しいお母さんになるの?」
「そうなるかはわからんが、再婚したらそうなるな」
綾音からしたら複雑な心境だろうな。お母さんとの思い出が過去にしかないのに、そこに新しい人が入り込むことになるんだから。
「あまり無理して考えないほうがいいぞ」
そう声をかけた。
「大丈夫。なんとなくそんな気はしていたから」
強がってるんだろうか?と顔を見たがそうでもなかったようで少し安心した。
「私が寝ている間も、目が覚めた間もま~ちゃんが精一杯、体のお世話をしてくれたから。だからあの人だったら多分、お母さんも赦してくれるんじゃないかな」
そう言って空を眺めていた。
「はふん、ところでい~ちゃんは私のこと愛してくれないの?」
俺はビールを吹き出した。
「突然何を言う。色恋もまだまだ知らない子どもだろ」
「はふん!私のこと、嫌い?」
上目遣いで訊いてきた。
「いや、嫌いって訳じゃないけど・・・」
俺はしどろもどろになる。
「じゃあどうなのよ」
「そんなの解んねえよ」
「はふん!そんな言い方ずるい!」
「大人ってのはズルい生き物なの。一つ勉強になったな」
と、言い残して俺はその場から逃げ出したのだった。




