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マーズ皇国/エルメス王国  作者: 中島 遼
12/15

エルメス 動物園2(ソーラ)

 動物園はさすが世界最大と言われるだけあって、敷地はすこぶる広かった。

「サファリパークなので気をつけるように。うっかり強いモンスターの巣に入っていったら生命はない」

エルデはチケットの半券と一緒に黄色いB5版の紙を二人に渡す。

「何、これ? 誓約書?」

園内で命を落としたり、怪我をしても自己責任において対処します……とそこにはある。

「見ての通りだ。入るからには自分は自分で守れ、ということだろう」

「アース王国では考えられない動物園だよ」

「まあな」

と、ナイトがエルデの返してきた巾着を覗いてから、彼を睨む。

「おいエルデ、どうして500G払ったんだ? 十五歳以下は無料だろうが?」

「お前はお尋ね者だから、身分証明書を出せなかったんだ」

「ソラもお前も身分証明書など出せない立場だろうが!」

「俺達はまあ、顔パスで……」

「お前達が顔パスで、どうして俺が通らないんだ?」

ソーラは仕方なしにナイトの腕を軽く叩く。

「ほら、通行の邪魔だし。それにこんなところで目立つのも、時間を無駄に過ごすのも今は避けようよ」

エルデの有り難そうな一瞥と、ナイトの不満そうな一瞥を受け止めながら、ソーラは回転扉を通り抜けた。

「色んなコースがあるんだね。ジャングルコースに湿地コース、山岳コースとか」

一般の客は動物園の係の者が引率して、園内を廻るらしい。

「そのとき、お客をちゃんと守れるだけの強さの持ち主しか、ここの動物園では雇わない。そして、引率する客の数がスタッフごとに違うのは、その男の守れる人数で決まるからだそうだ」

ルートごとに定員が違うのは、それもあるのだとエルデは言う。

「ま、とりあえず俺達は園長に直談判だ」

と、

「……俺が園長のサカイやけど、何か?」

慌ててソーラが振り向くと、彫りが深く渋いイケメンの男がバケツを持って立っていた。

「あの、ちょっとお願いがあって……」

言いかけたとき、少し先を歩いていたナイトがこちらを振り向く。と、

「うわっ、ナイトやん」

サカイは少し驚いたような顔でナイトを見る。どうやら知り合いらしい。

「こないだの剣大会の時より、大分背が伸びたんちゃう?」

「はい」

「その顔やったら、ジュニアやのうてシニアで申し込んでも顔パスや。次からは上に来いよ」

ナイトは首を横に振る。

「時間がないので手短に話しますが」

愛想もくそもない。

「俺達は事情があって、スズメの涙を手に入れなければならないのです。そこで、園長の許可をもらうためにここまで来ました」

サカイはわずかに顔を歪ませる。

「そりゃ、無理や」

「どうして?」

「話せば長いんやけど、何や一年半ほど前から、大人しいはずの紅孔雀が暴れるようになってな、やたら観光客を襲って首食いちぎったりとかして、かなり危ないさかいに紅孔雀の巣穴に蓋をしたんや」

ナイトが肩をすくめる。

「蓋ができたなら、開けることも可能でしょう?」

「いや、蓋をするのも開けるのも、多分うちの力自慢のナンバ君しか無理や。けどあいつ、色々あって、今はここにはおらん」

エルデが肩をすくめた。

「つまり、彼を連れ戻せ、という訳ですね?」

しかしサカイは首を振る。

「正確に言えば、彼がここに戻るための条件を揃えないとあかん、ということや」

「条件?」

「一年前、繁殖のために雌の炎色パンサーをマーズ帝国へ送ったんやけど、帰りの船が時化で沈没してもうた。ナンバ君は子供の頃からその炎色パンサーとごっつう仲良しやったさかい、絶対どこかで生きてる、言うて、探しにいきよったんや」

「……俺やったら、ここにおんで」

「えっ!」

声のした方を見ると、いかにも今まで旅をしていたというばさばさ頭のマッチョな青年が柵にもたれかかっていた。

「なんや、ナンバ君、いきなり参加は心臓に悪いわ」

サカイがあきれたように、しかし嬉しそうに呟く。

「まずは、おかえり」

「とりあえず、何か食わしてえな」

「……要するに、路銀使い果たして食べもんなくなったから帰ってきた言うわけか」

ぶるぶるとナンバ君と呼ばれた青年は首を振る。

「そんなんやない、お金ないんと食べもんないんは事実やけど、俺が帰ってきたんはあいつが戻ってるんちゃうかな、と思って」

「何でまたそんなことを」

「偶然、道で占い師のセンリに会うたんや。そしたらそないなこと言うとったから……」

サカイは残念そうな顔で首を振る。

「あの千里眼の予言が外れるって珍しいことやな。残念やけど、ゲレゲレはまだ戻ってきとらん」

ソーラは驚いて、残念そうな顔でしゃがみ込んだその青年を見る。

「ゲレゲレ?」

「ゲレゲレ」

「……僕、知ってる、その炎色パンサーがどこにいるか」

「なんやてっ!」

サカイとナンバは同時に叫ぶ。

「何で知ってんねん?」

迫り来る二人に、ソーラはつい最近に立ち寄った小さな島での出来事を話した。

「それ、どの辺や? すぐに行って連れ戻したるわ」

サカイが手を振って否定の意を表した。

「やめとき、ナンバ君、お前めっちゃ方向音痴やん。世界一周して戻ってくんのがオチや」

言いながらサカイはソーラを見る。

「見たとこ、あんた、移動魔法使えるやろ?」

ソーラは目を丸くする。

「何でわかるの?」

「なんでやろ。まあ、何かこう、勘みたいなもんや」

サカイは腰に手を当てたまま、ソーラの顔に自分の顔を近づけた。

「その村は魔法で行ける?」

「うん」

「そしたらナンバ君連れて、ちょっと飛んでもらえへんか? そしたら紅孔雀の件は了承するさかいに」

ナンバが不思議そうな顔でサカイを見る。

「何や、紅孔雀の件って?」

「ナイトが力試しに紅孔雀とワンオンワンやりたい言うてる」

「ナイトって?」

サカイは左手でナイトを指し示す。

「このお人や」

それだけで納得したのか、ナンバは大きく頷いた。

「わかった、ほなちょっと待っててや」

彼はそのままサファリーパークの方に真っ直ぐ二百メートルほど走る。

そして、そこの突き当たりの岩山に蹴りを加えた。

すると、大きな岩盤が二つに割れ、そこにぽっかりと穴が一つ空く。

ナンバはそのまま再びこちらにすぐに走って戻ってきた。

「間違ごうて誰か入らんように、サカイ、ちゃんと見張っといてや。俺はナイトさんの力試しが終わった頃に、またどっかから岩を持ってきてはめこんどくから」

にっこり笑ったナンバはソーラに右手を差し出した。

「ほな、連れていってんか」

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