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マーズ皇国/エルメス王国  作者: 中島 遼
1/15

マーズ 大学付属図書館(ナイト)

この話も便宜上、新話としてアップしましたが、シリーズの続きになります。

「ねえ」

図書館の入り口に至る道を歩いていると、ソーラがこちらを見上げた。

「君は大地の城に行きたくて、僕と空の城を出たんだよね」

何が言いたいのかわからずに相手を見返す。

「ほんとにいいの?」

「……と言うと?」

「足手まといな僕と旅するの、ほんとは嫌なんじゃないかと思って」

どうやらソーラは、先だってナイトに言われたことを気に病んでいるようだった。

「そんなことはない」

「……っていうより、君は僕が足かせを外すために旅するのに、付き合う義務はないんだ。だのに、どうして一緒に来てくれるのかなって思って」

「昨日話した通り、紫竜の元には三人で行かねばならないからだ」

「正直、預言の書とか言われても胡散臭いんだよね。その三人が僕らかどうかなんてわかんないし、そうでない確率の方が高そうだ。だったら最後はそんなあやふやな話じゃなくて、誰が聞いても腹落ちするような根幹の理由が欲しいだろ?」

ソーラの言い分が彼の考えと同じであることから、わずかにナイトは焦る。

ひょっとしたらソーラは、ナイトをお払い箱にしたくてこんなことを言い出したのかも知れない。

実際、今はエルデがいる。

ソーラにしてみれば特にナイトと旅する理由などなく、割とドライにこちらを切り離そうとしているのかもしれない。

だが、それは困る。

もちろん、決してソーラと離れがたいとか、一緒にいたいとか、そういうよこしまな心があるからではない。

(そうとも、絶対にそれはない!)

「……ね?」

見上げる瞳は嘘を許さぬ色をしている。

ここは一つ、自分の都合を正直に告白する必要があるとナイトは考えた。

「今まで言わなかったが、お前につきあっているのは主命だ」

「……え?」

「海の城の王がおっしゃった。空の城の姫君の願いを叶えてこい、と。だから俺は貴方が男になる日まで、それを手伝うために一緒にいなければならない」

「……いなければならない?」

目を見開いたソーラに頷く。

「ひょっとしたら、俺にそれを命じたときと、今の海の城の王のお考えは異なるかもしれない。しかし、俺にとってはあの日の主命がすべてだ。王ご自身からそれを撤回する言葉をお聞きするまでは、疑うことなく任務を果たす。だから義務がないなどと、ソラが俺に遠慮する必要はない」

「……そうだったんだ」

ソーラはわずかに微笑み、そしてそのまま黙って道を歩んだ。

いつもは何かと話しかけてくるのが静かになると、それはそれで気持ち悪い。

いい加減、何かこちらから話題を出さねばならないかと思ったとき、図書館の入り口付近に立つエルデとリヒターが目に入った。

「エルデ、お待たせ!」

ソーラがエルデの方に走っていく。

それを目で見送りながら、エルデは紫竜に願いを言いさえしなければ、本当に初恋を成就させたかもしれないという思いをナイトは強くする。

「一つ、ソーラに話しておきたいことがあるんだ」

ナイトたちが到着すると同時に、エルデは改まってこちらを見つめる。

「俺達二人はかつて、幼い頃に預言の書の発掘に立ち会った」

ナイトは頷く。

以前、シーガイアに行く船で語り合った際に、エルデはそんなことを言っていた。

「ユスティーツとの約束があったから今まで言わなかったが、預言の書の内容を俺達は知っている。魔物がそれを壊したというのは事実だが、俺もユスティーツも古語が読めたからな」

ソーラが目を見開いた。

「それでそれで?」

「魔が目覚めし時、天は海、空、大地より少年を選ぶ。

そは魔王を封じるためなり。

魔が目覚めし時、天は少女を選ぶ。

そは魔王が起つのを遅らすためなり」

リヒターが頷く。

「当時、子供心に我々二人は、これを人に話すと逆に混乱を招くだろうことを恐れ、二人だけの秘密にしようと誓った。だが、最早その必要はなさそうだ」

エルデは右手のひらを握りしめた。

「正直、初めてそれを読んだときには何のことやらさっぱりわからなかった。そして、ソーラとナイトに出会った時には、選ばれた少年はナイトと俺、そして選ばれた少女はソーラだと思っていた」

「僕は男だよ」

「わかっている。というか、紫竜に会って初めてわかった。海、空、大地に選ばれた少年というのが俺達三人だと」

ナイトは眉をひそめた。エルデは何度もそう言うが、自分が選ばれた者だと思うことに抵抗がある。

「海、空、大地の城の三人が旅をすることなど、同じアース王国、よくある話だと思うが」

ソーラもうなずく。

「僕、魔王封印なんて大それたこと、今の今まで考えたことすらなかったよ」

リヒターがふと、薄目をあける。

「紫竜に会えた、ということでも、貴方たちが何かに守られているという証拠になります。まず、あの竜は人前に姿を現さないのでね」

エルデもわずかに頷いた。

「実のところ、紫竜のいる場所を知っている、そこに紫竜がいる、とは言ったものの、行って帰ってきた人間のデータが全くなかったので自信はなかった」

リヒターがソーラを見て微笑んだ。

「だからこの男は貴女を置いて行ったんですよ。大口を叩いて、そこに紫竜がいなかったら恥ずかしいですからね」

ソーラはわずかに頬を膨らませる。

「……そんなこと、気にしなくてよかったのに」

「と、と、ともかく」

エルデは強引に話を引き戻す。

「俺とナイトは紫竜に会えた。それは奇跡とすら呼べるほどの運だ。つまり、我らには精霊の加護がある」

ナイトは肩をすくめた。

「それは思いこみだ。お前は洞窟を抜ける知識を持ち、俺はあのレベルのモンスターを薙ぎ払う程度の腕があった。それだけのことだ」

「……お前はそうかもしれんが、一般人は違う」

溜息を一つつき、エルデは再度言葉を継ぐ。

「それともう一つ、預言の書の其の四だが、勇者は○○○○○落とし、その○○を○○れる、のくだりだ。シャルルに頼んで石版の写しを見せてもらったが、わずかに残った後から推察して、恐らく、勇者はそのみ○を落とし、その○○を○○れる……となる」

「それでもさっぱりわからんのは同じではないか」

「いいえ」

リヒターが首を振る。

「古語独特の韻、言い回しと貴方がたの体験を元に、エルデと話し合った結果、次のように推察しました。即ち、勇者はその耳を落とし、その腕を焼かれる。事実、貴方がエルメスで魔物に腕を焼かれたと同時に全国各地で次元のゆがみが生じ、そこから魔物がぞくぞくと出てきているという報告を受けています」

ナイトは顔をしかめた。

「……俺は勇者ではない」

「しかし、蒼き狼の耳を落としたのはやはりお前だ。そして現実にはお前ほどの男はそうそういない」

エルデがしれっと言う。

「すごーい、ナイト」

ソーラが目をキラキラさせてこちらを見つめる。

我知らず、かあっと頬が熱くなった。

さっきのことがあってから、ナイトはソーラをまともに見られない。

「出会ったときからただ者ではないと思ってたけど、やっぱりただ者ではなかったね」

エルデが笑う。

「ソーラ、言っておくが、海、空、大地が選んだ三人が勇者なんだぜ」

ソーラはエルデの方を見て微笑む。

「それが?」

「お前も勇者の一人なんだよ」

「それはありえないよ。僕はLPもMPも、どんなに努力しても人並み以下だ」

「何かが貴女の本来の実力を抑えつけているんです」

リヒターが腕を組み、じっとソーラの足輪を見つめる。

「それが何かはわかりませんが、エルデの話を聞く限りでは、貴女は紫竜にその封印を解いてもらいにいかねばならなかった」

ソーラは自分の足輪を見る。

「紫竜に頼めばこの足かせ、外してくれたのかな?」

「恐らくそれは違います。足かせはあくまで貴女を女にするためのもの。魔力を制限するものではありません。だから、それを外してから封印を解くために竜に会うというのが筋道でしょう」

「足かせと今回の件は別なんだね」

「別なようでもあるし、関連してるとも言える。足輪のもつ不思議な抑制力は、預言とは何の関係もないかもしれない。だが、それを利用して貴女を女性にしようと画策した輩は、きっと魔王復活に荷担している」

リヒターは腕を解いた。

「預言の書が、魔王復活を阻止する早道を記したものなら、恐らく魔物がそれを見れば、書かれてあることが起こらぬように手を打つはず。わずかな違いを積み重ね、調和を崩せば魔王復活阻止ができなくなるというのが魔物の狙いに違いない」

「そのために、僕は女に?」

「はい、恐らく。貴女を傷つけることが結界内で叶わなかったので、そんな迂遠な手に出たのでしょう」

「なら、いずれにしても我々がソーラの足かせを取ろうと頑張っていたのは理にかなっていた訳だ」

エルデが大きく頷いた。

「で、これからどうするか、だが……」

しかし、言いかけたエルデをリヒターが制する。

「やらねばならないことはいくつもあるだろうが、一つ私から頼みがある」

「え?」

「つい、数時間前に早馬が到着した。マーズの首都からさらに南に下がったところにある洞窟で、昨日、謎の石版が発掘されたと」

三人は顔を見合わせた。

「早晩、魔物が石版を狙いに来ることは必須。だからその前に、書いてある文字を読んできて欲しい」

エルデがリヒターをじっと見つめる。

「お前は行かなくていいのか?」

「君たち三人のようにお尋ね者でないだけに、自由がきかぬ」

エルデが鼻白む。

「俺はお尋ね者ではないぞ」

「残念だが、大地の城から連絡が来ている。大地の城管理下の紫竜の洞窟にお尋ね者のナイトを入れたという罪でお前も賞金首だ」

「何だって!」

「ナイトは鉄仮面で顔を隠していたらしいが、その体格、その剣のこしらえから、大地の城、シーガイア支所の所長はナイトだと分析したらしい」

エルデはうーんとうなった。

「さすが、我が大地の城の職員は優秀だ」

「というわけで、とりあえず行ってくれるな?」

だが、それにはソーラが首を振る。

「申し訳ないけど、この足かせを僕は十五になるまでに取らなきゃいけない。だから、そんなことしてる暇はないんだ」

リヒターはじっとソーラの足下を見つめた。

「では、次はどうなさるおつもりですか?」

「とりあえずは黒い剣を探さないといけないみたい」

「心当たりは?」

ソーラはだんだん言葉少なくなる。

「……あまり、ないけど」

「先日来、貴女に頼まれた黒い剣の伝説の出所をを調べています。貴方たちが石版の文字を確認して、ここに戻ってくる頃には、何か手がかりぐらいつかんでいると思いますよ」

他にどうしようもなく、三人はとりあえずリヒターの依頼に基づき、石版の洞窟に向かうことにした。

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