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邪気眼ダンス  作者: OnJ
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逃走

【ヴント】


 気付くと崩れかけたような簡素な小屋の中にいた。

 寝かされ、周りを魔族に囲まれている。犬のような顔のもの、鳥のような羽のある者、猫のような耳を持つ者、個性豊かな顔ぶれだ。


「あんれま、こん人起きただよ! シモンはどうだね」


 牛のような角を生やした太った女性の魔族が叫んだ。大きな鼻の穴から風が吹く。

 隣を見ると先程戦っていた魔族の男が横になって目を閉じていた。

 呼吸で胸が上下している。生きているようだ。

 自分の体の上には丁寧に布団がかぶせてある。この魔族達に敵意はないようだ。

 シモンと呼ばれたその男が飛び起きた。


「ああああああどこいったあああああ!」


 シモンは事態を把握していないらしく、一瞬固まった。 

 隣をみてこちらに気付く。怒りに震えて床を殴りつけている。


「なんでそんな奴看病してんだよ!」


 牛の魔族は濡れた布で顔を拭いてくれる。


「なんでって、道で倒れてたらあぶないべ?」   


 犬の男性の魔族がお盆に皿を載せて運んできた。米をスープに浸した料理が入っている。一口の大きさに切られた魚が入っている。

 少しすすると体が温まり、魚介類の香りと程よい塩味が口の中に広がる。夢中になって口に掻き込む。

 犬と牛の二人の魔族が寄り添って微笑ましくこちらを眺めている。


「てめえは食うな!」


 シモンがやかましく騒いでいるが、気に留めない。

 シモンはこちらに掴みかかろうとして、若い女性の鳥の魔族に頭を叩かれた。

 ぶつぶつ言いながら料理を食べ始める。


「すまなかったな。先ほども言ったがわざとではない。敵に追われていたんだ」


 シモンは納得がいかないようで見向きもしない。ふて腐れ、抱えた膝で貧乏ゆすりをしている。


「しかし、シモンが喧嘩に負けるなんて珍しいじゃないか」  


 牛の魔人が言うのを聞いた瞬間、シモンが布団から飛び上がって地団駄を踏んだ。

 建物が揺れて軋む音がする。木屑の粉が宙を舞う

 シモンはこちらを指さして怒鳴り始める。


「負けてねえよ! こいつも倒れてたんだろ? 俺が倒したんだ」   


 魔族の三人は腹を抱えて笑いだす。


「うそだべ! だってこん人は眠るように倒れてたども、シオンはでっかいたんこぶ作って気絶つくっとたでよ!」  

 

 家はこちらから正面の大きな戸が開け放たれた状態になっていて風通しがよい。

 外の様子も見える。

 その光景のほとんどが緑に埋め尽くされていた。葉の大きな植物に紛れて、点々と色とりどりの花が咲いている。

 さらに手前では水溜りに桶を持った子供達が集まって、何かを捕まえようとしていた。

 その少年達もよく見れば、人間ではなく、獣の耳を持っていたり尻尾を揺らしたりしている。


「すまない。世話になった。サンサラルピへ向かう途中なのだが、方角はどちらか」

 

 猫の少女の魔族は縁側まで歩いていくと方角を指示してくれる。他の者は完全に毛に覆われた獣の顔をしているか、人間の顔に黒い髪の毛を持つのに対して、彼女は人間の顔に栗色の毛をしていて目立っている。


「あの道がさっきあんたが倒れてた道だから、そこからまた歩いていけばいいよ」


 少女は腰に手を当てながら、そう言った。 

 器も持ち上げて、スープを飲み干す。

 袋の中から数枚金貨を取り出し、相手に渡した。

 他の者達はどよめきだす。牛の魔族がそれを見て驚きの声をあげ、慌てて押し返そうとした。


「助かった。礼を言う。俺は先を急ぐ」


 仕方ないので金を床に置いて、その家を出た。

 なるほど確かに方角を聞くまでもなく目の前に先程の道がある。

 しばらく進むと、後ろから砂を蹴り散らす激しい足音が聞こえて来る。

 振り向くとまた顔を赤くしたシモンが立っていた。後ろに止めに来た猫の魔族も走ってきている。

 だが、シモンは先程とは違い激昂する事なく、鼻で大きく呼吸して静かに怒っている。


「お前の金なんかいらねえよ!」


 シモンは地面に金を投げ捨てる。

 何を怒っているのかわからない。礼の言葉も詫びの言葉も口にしたし、その気持ちを表明する為にお金も払った。

 それにシモンに渡したお金ではない。

 呆然として立っていると、追いついた猫の魔族がシモンの頭をまた叩いた。

 驚いた事に怒った顔のまま向かって来たかと思うとこちらも顔を叩かれた。しびれるような痛みが走る。

 咄嗟に相手の顔を見た。

 こちらを真直ぐに見つめながらも、少し震えて眼が潤んでいる。

 

「ごめん。シモン馬鹿だから。

でもさ、そのお金も受け取れない。

人のする事……勝手にお金で説明付けないでよ!」


 腕で顔の涙を拭うと猫の魔族はシモンを連れて逃げるようにその場を去って行った。

 しばらく呆然とその場に立ち尽くす。

 ようやく歩き出してサンサラルピが遠くに見えだす頃にまた日が沈み始める。

 後ろから草をかき分けて進む音が聞こえる。

 

「シモンか」


 なぜ付いて着たのだろうか。まだ何か怒り足りないのか。

 道の植物の陰からシモンが現れる。夕焼けが長い影を地面に落とした。


「解ってんなら話は早い」

 

 向かって来ようとするシモンを手で制する。

 それでシモンが止まるはずもなく仕方なく分身に体を取り押さえさせた。


「また昨日と同じ事になるぞ。今は止めておけ」


 魔眼で出した数人の分身に野営の準備をさせる。

 分身達が辺りの草を刈り、寝袋を置いて、あたりの監視を始めた。

 シモンはこちらを警戒して遠くから身構えていたが、空が暗くなるのを見て諦めたのか、自分もその場の岩に腰掛けた。

 しばらく寝袋に入って、目を閉じていると体が温かくなっている。いっそ熱い。

 夜中、目を開けるとシモンが分身達の監視体制の輪の中に入って、たき火をしていた。温まるというより、何かを調理しているようだ。


「あの女の子ずいぶん怒っていたな……誰なんだ」


 昨日の猫の魔族の話が気になり、シモンに尋ねてみる。

 シモンは何か吐き出す真似をして舌を見せ、嫌な事であるかのように話し始める。


「ソプラノの事か? あの村のネイル教の教会で神官まがいの事をしているうるさい女だ。

昨日みたいにすぐかっこつけて、人のやる事に口出ししようとしてきやがる」

 

 いつの間にかソプラノの言葉を頭で反芻している。

 あの魔族達が自分を金の為に助けたとは思っていない。ただ、あの時には感謝の仕方として自分は金を出すという方法以外は思いつかなかった。

 ハーキュに昔他人の立場で物を考えるように言われたのを思い出す。

 自分がそうであるように金だけでは割り切れない思いや金だけでは買えない目的を他人も心の中に持っている。それを金で無理矢理説明されたとしたら、それは確かに屈辱かもしれない。

 朝、鳥の鳴く声で目が覚めた。寝袋についた土を払い折り畳んだ。火はいつの間にか消えか細い煙だけが風に揺られて立ち上がっていた。

 隣ではシモンが四肢を出鱈目な方向に思いっきり広げて寝ている。

 その場に残して、再び歩きはじめた。 

 すぐにサンサラルピの街が見えて来る。

 その地方の殆どが熱帯雨林に覆われている中、そこにだけ鉄とコンクリートの巨大な都市が鎮座していた。

 この前訪れた日本にも劣らない程、背の高い建物が並ぶ。降り注ぐ日光を窓が眩く反射する。

 建物の一階には洋服や靴、おもちゃ、家電などの様々な小売店が入っていて、人の出入りが耐えない。

 その他はホテルや金持ちの家だ。中には屋上にプールがあるものまであった。

 舗装された道を車高の低い真っ赤な車が走り抜けて行く。先程の海沿いの村と同じ国にある街とはにわかには信じがたい。

 久しぶりの大きな町だ。食事もしたいし、少し休みたい。

 入りやすそうな若者の客が多い店の一番奥の席に腰掛ける。

 有名人という訳ではないが自分の事を狙っている人間は多いだろうし、大っぴらに行動できる立場ではない。

 テレビでは今日に入ってから頻発しているというボヤ騒ぎを報道している。少し見ていて思い出すことがあったが、面倒そうなので考えるのをやめた。

 しばらくすると恐ろしい厚さのハンバーグを挟んだサンドイッチを浅黒い店主が持ってくる。パフォーマンスなのか盆を指の先で一回転させてから机に置いた。

 上下の大きさが一口で収まらないものをサンドイッチで出す意味は何だろうかとは思うものの、調理したての料理からあふれる肉汁に食欲をそそられる。

 隣の客は上のパンを外すと机に備え付けられているケチャップやマスタードをこれでもかと言う程かけてからサンドイッチを両手で押さえつけてむしゃぶりついている。案の定口の周りにソースが飛び散って、汚い。

 少し考えて、適度にソースをつけて細かく食べる事にした。

 旨い。肉の臭みが胃の中におさまると、生気が染み込んでいく。

 胃が膨れて、体があるべき重さを取り戻す感覚がある。疲れてふらついていた体がそこに安定するように力が湧いてくるのだ。

 そうして店などを回り物資を集めながら夜まで過ごしてから、目的地であるホテルまで向かう。

 日が沈めば、また街は様相を変える。建物は色とりどりの照明に照らされ、富裕層の若者が集まる場所には爆発のような音量で曲が鳴り響く。

 髪を振り乱しながらお互いの体をすり合わせて、狂ったように踊る男女が塀の近くには見える。

 目まぐるしく変化し、移動する光と音に飲み込まれて、自分の存在がなくなるような不安感を覚えた。

 酒を飲んでもいないのに五感が奪われていく陶酔感がある。ここは好きになれない。

 世界にはおかしなものを買った金持ちの話やおかしなことを始める金持ちの話が耐えないが、なるほどここにいて大量の金を消費し毎日こんな生活をしていれば、気も変になるのだろう。

 ホテルの中へ入っていくと、少し音楽は遠くなったが、中でも少し静かに同じような事をやっている。

 うんざりして、急いで目的の階へ向かった。

 通路には足元を飲み込まれる錯覚に陥る程柔らかい真っ赤な絨毯が敷き詰められている。

 突然、背後の気配に気づいて、振り向く。

 黒いドレスを着た自分より少し下ぐらいの少女がこちらに歩いてくる。少女はこちらに見られたことに気付くと、両足を揃えてつんのめるように立ち止まった。顔が近い。


「何の用だ」


 少女は質問には答えず、口をへの字に結んだまま興味津々な眼でこちらを上から下まで眺め回す。

 もう一度、同じ問いかけをしようと口を開きかけるとそれに被せるように少女が声を出した。


「あんたは誰?」


 閉口する。人を尾行しておいて、誰とは何だ。こちらの眼をじっと見たまま少女は笑う。

 妙なものに目をつけられた。確かに自分の服装はここに集まる若者の服装と比べると多少みすぼらしい格好ではある。

 日本人らしい平たい輪郭。薄い唇を常に少し突き出している上、細く長い眉につり眼。きつい意地の悪そうな印象を与えるが、その笑顔はどこかあどけない。


「名乗る義理は無いように思う。誤解だったらすまないが、付いてくるのは止めてくれ」


 そう言って歩き出す。

 エレベーターのボタンを押して、待っている間も少女は隣を離れない。エレベーターの位置を知らせる光が一階を指す。

 乗り込んで目的の階のボタンを押して、少女の方を見るがこちらをからかうように薄ら笑いを浮かべるだけでボタンを押す様子はない。

 本当にただ付いて着ているらしい。確かにきらびやかな服装の客が多い中、旅人の出で立ちをしている自分は珍しいかも知れないが、それでわざわざついてくるか。

 声を上げて追い払おうと口を開く。


「いい加減にし」


「うるさいなぁ!」

 

 まさかこちらが怒られるとは。

 怒鳴られた事も怒鳴った事も気にする様子もなく、少女は両足のつま先で体を上下させ楽しげに拍子を刻んだ。

 結局、部屋まで付いて着る。部屋の木製のドアを指の裏で叩く。部屋の中で足音がして、すぐに扉が開いた。

 気難しそうな顔の痩せた男が現れる。


「お久しぶりです」


 頬がこけ、年齢を感じさせる顔だが、着ているスーツは高級品で小奇麗な格好をしている。眠そうな目で表情が読みにくいのは相変わらずだ。


「やぁヴント。待っていたよ! 後ろの女の子はガールフレンドかな? まぁ二人とも入りなさい!」


 相手は明るい声で返しながらも、視線で自分の背後の何かを指し示している。

 呼吸を沈めて、眼を閉じた。相手が息をひそめていても解る。

 確かにおじ以外の低く太い呼吸が聞こえる。体の大きな男性だろう。部屋の入り口に潜んでいるらしい。

 ゆっくりと足を前に出し、徐々に加速する。部屋の入り口に差し掛かる直前に居合の要領で刀を抜き、頭上高く振り上げた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 沈黙を打ち破り、二つの怒号が部屋に響く。壁の陰から現れた男の切り上げた巨大な剣とこちらの刀がかち合い、火花が飛んだ。

 素早く手首で刀の角度を返し、また斬りかかると、相手は体を引きながら垂直に剣を落とした。これもお互いに傷をつけるには至らない。

 得物をはじかれた時に手を上にあげない。これは戦闘において実は重要な技術だろう。剣を中心から外さない事で次の相手の行動に素早く対応が出来る。

 間髪入れずに間合いを詰めて巨大な剣の間合いを潰す。この距離なら相手の巨大な剣には十分な加速をつけられない。

 しかし、刀を振り下ろそうとすると、男は片手を剣から離し、拳を叩きつけてきた。刃は相手の体をとらえるも、わずかに踏み込み切れずに拳を柄に当てられ、体が飛ばされる。

 すさまじい剛力に部屋の角まで飛ばされた所を再び巨大な剣で襲われる。

 何とか刀で防ぐが、その勢いのまま相手は得物の大きさからは想像もつかない速さで何本も連続して打ち込んでくる。反撃の隙が無い。


「杉浦さん。あんたを人質にとって正解だ! やはりこのボウズここに着た!」


 杉浦が協力者である事を知った上で、ここで待ち伏せしていたらしい。ハーキュの時と言い、こちらの行動が筒抜けになっている。

 ヴォイニッチの権力も敵に回すとこうも厄介なものか。

 しゃべる事で少し緩んだ相手の打ちの隙をつき、刀を回転させながら、剣を抑え込む。もちろん防御としても攻撃としても十分ではないが、とにかく今は間を作る必要がある。


「何者だ! 誰の差し金で動いてる!」

 

 相手の見開く眼には光が宿っていない。何かに酔い、自分を見失っている。


「我らは勇者騎士団。古より人の世を魔族から守って来た勇者の血族!」

 

 勇者騎士団、気の違った人種主義者か。

 ネイル教と元を同じくして一部教典を共有しているものの、それらを独自に解釈して、魔族の排斥を目標とする思想を受け継いできた組織。

 魔族差別が先に立ち、この教義が生まれたのか、この教義が魔族差別を助長しているのか。いまやそれもわからない。

 なるほど。出張ってくる事は予想外だったが、彼らの思想からすれば自分からやっている事は邪魔でしかないだろう。

 こちらの刀と相手の剣が互いを押さえつけ合いながら、不規則に揺れる。力を入れ過ぎればその硬直を相手につかれる。力を緩めれば押し込められる。精神力の勝負だ。


「トクタミシュ!」


 突然相手がそう叫ぶと、ベットの陰から弓を引き絞った男が立ちあがった。

 目の前の相手の背中を盾にして弓から隠れようとする。

 するとトクタミシュと呼ばれた男はこちらの脇をすり抜けて、後ろにいた少女を片手で抱え込んだ。ナイフを首筋にあてている。


「ぎゃあああああああ! あんた! はなしなさいよ! 近づかないでよ! 臭い!」


 少女が首にかかっている手を必死にたたく。

 まずい。分身が間に合わない。

 その時だった。爆発音を伴って何かが近づいてくる。


「おらぁあ! どこだああああああああ!」


 遠くの部屋でドアが吹き飛ぶ音がしたかと思うと一部屋ずつ近づいて来た。

 次の瞬間、壁をぶち破って炎が部屋に吹き込む。シモンだ。


「勝手に逃げてんじゃねえ分身バカ!」


 男達は身を守り、体をかがめている。

 その隙に分身を数体出して、シモンと処女を抱き上げ、廊下に飛び出した。通路の端の窓に突っ込んだ。

 二人の頭を抱え込むようにして身をかがめ、ガラス片から身を守った。分身同士に手をつながせ、鎖のようにして、窓からぶら下がる。


「ぶへえ!」


「ぐえ!」


 腹部に受けた自分の重みでシモンと少女はえずいた。

 散らかったガラスで地面が輝いている。

 触れて手を切らないように湿った土に手をつくと、すぐに地面を蹴り上げて素早く体を前へ進める。

 ホテルの前の幅が広い道を駆け抜けて街へ出た。振り返ると、二人が後ろから追いかけてくる。


「あんた誰?」


 少女が先程と同じ質問を今度はシモンにぶつけた。

 シモンが唾を飛ばしながら怒鳴る。


「お前が誰だ!」


 少女は相手を小馬鹿にしたように口の端で笑った。

 走りにくそうなかかとの高い靴で、よくあの速さで走れるな、と感心する。器用なものだ。


「私は黒川旭!」

 

 誇らしげに胸を張ると少女は大きな声で言い切った。

 シモンは黙って不機嫌そうに眉をひそめたまま、少女を見つめている。

 黒川というのは名家なのかもしれない。しかし、そんな名前をシモンが知るはずもない。

 社交界に関わらなかった自分にも正直よくわからない。

 窓から隠れるように他の建物の陰に隠れ、その後も細い脇道に入り込んで何度も曲がりながら、街の外へと走る。

 少し息が速くなったのを感じる頃にようやく立ち止まった。

 旭が木の枝に片手をかけて、激しく息をついている。顔が赤い。


「お前誰に襲われてたんだ? 何か最初に俺の家壊した時も、何かに追われるようにして機械に乗って突っ込んできたよな。結局お前何なんだ?」


 順に二人の顔をみて、少し考える。もう隠してはおけないだろう。


「俺はヴント・ヴォイニッチ。ヴォイニッチ家について調べている。先日俺を追いかけていたのもヴォイニッチ家の人間だ。

今日の男達も勇者騎士団として動いてはいたが、十中八九ヴォイニッチ家の息がかかっているんだろう。

味方だと思われた以上、身の安全が保証できない。ほとぼりが冷めるまでは俺の近くにいてもらう」

  

 旭が驚いて小さく声を漏らし。 

 シモンが前のめりになって首をこちらに伸ばしてきた。夜闇の中でも解る堀の深い顔が目の前に突き出される。

 シモンはこちらの顔をしばらく見ると、何かを思い出そうともどかしげに眼を細めた。


「また当然の事のように勝手な言い分を! ていうか、ヴォイニッチってどっかの王様の名前だろ? 教会に置いてあるテレビのニュースとかで見た事がある」   


「ガリアだ。あの国の王族が裏で何をしているのか調べる必要がある……手に入るはずだった足を失った。別の移動手段を考えねば」


 野営をしようにも、火を焚く事が出来ない。俺達はすぐには眠れずに木の下で過ごした。

 シモンは機嫌が悪そうに黙り込んでいたが、意外にも旭は付いてくる事に関して、文句を言わなかった。旭はそもそも事の重大さを理解していないのかもしれない。

 ようやく眼を閉じて、起きてみれば、日が頭の上に来ていた。

 道を歩いていくと、小さな町が現れる。昨日いた街とは比べ物にならないぐらい小さいし、活気も無い。

 だが、そんなこの街を特別にしているものがあった。

 街の真ん中にある巨大な建物のから白い煙が上がっている。

 甲高くも太い汽笛の音がして、煙は横に滑り始めた。


「列車だ!」

 

 鼓膜をおかしくするような喜びの悲鳴を旭があげた。

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