僕の小さな大冒険 16話
仕事の都合上、住まいをロンドンの都心部へ移した時からまた歯車が回り始めてしまった。
ケンジントン公園が目の前の家に引っ越した時に。
そこでは、ピーターパンが英雄のように語れていた。
現に、そこに住む妖精達は、ピーターパンの笛の音に夢中でまるで王様扱いだ。
夕方になり、門が閉まり人の居なくなった公園で颯爽と飛び回るあいつを見つけて。
僕は、にがにがしくそれを眺めていた。
今の僕は、もう大人だ。
夜の公園に忍び込んで、冒険を繰り広げる無謀な子供じゃ無い。
たとえ、船長の仇が討てなくても。
大切な家族を守る事が、僕の使命だ。
僕を生かしてくれた船長に報いる事だ。
また、幸せな毎日が過ぎて行く。
毎晩、ケンジントン公園を見張るのが日課に加わっただけだ。
ある日、妻が言った。
「貴方、どうしてそんなに恐い顔で公園を見るの?子供たちが怖がるわ」
「ごめん、でも。あそこにはピーターパンが居るから」
「なら、そんな恐い顔しなくて良いわ。彼は永遠の子供、子供たちの味方だわ」
「味方だと!?」
怒鳴ってしまった。
「ごめん・・・。でも・・・」
妻は、そっと僕を抱き締めてくれた。
「いいのよ・・・。貴方、話してくれたものね。私は貴方を愛してる。貴方を信じるわ」
その夜、僕は、近所の知り合いのパーティーに出かける事になっていた。
「では、行ってくる。くれぐれも戸締まりは厳重に」
「ええ、大丈夫よ」
妻はキスをすると、僕を送りだして扉に閂を閉めた。
リーンゴーン!リーンゴーン!
パーティー会場にビックベンの時の声が鳴り響いた。
「へんじゃな、こんな夜更けに鳴り響くなんて」
主催者の老人が怪訝そうに首を傾げた。
僕の心臓の音が鳴り響く。
おかしい。
へんだ。
なにかが、おかしい。
僕は外に飛び出した。
ビックベンの上を飛ぶ影を見つけられた。
先頭を飛んでいる小さな光は、ティンカーベルだな。
その後ろ・・・ピーターパンだ。
さらにその後ろに、幾つかの影が浮かんでいる。
危なっかしく飛んでいる。
なんだ?あれは・・・?
まさか!
僕は、急いで家に戻った。
閂が開いている。
泣き声が聞こえる。
僕は、泣き声のする子供部屋に向かった。
「貴方・・・」
妻が泣き崩れている。
「あの子が・・・。連れて行かれてしまった・・・飛んで行ってしまったの」
「ピーターパンか!?」
くそ!
俺は、壁を殴った。
何回も・・・。




