珈琲の香りに忘れてきたモノー解決編ー
「ただいまー」
気の抜けた挨拶と共に、事務所の扉を開ける先輩。
「おかえりなさい先生」
「おかえり先輩」
出迎える私たちにひらひらと手を振りながら室内に入ってくる。
「いやー、思いの他あっさりと彼が犯行を認めたよ。僕の証言と、彼の携帯電話が決めてだったね」
自分の席に座るやいなや、警察での経緯を話し出す。
曰く、先輩が転んだ際に目撃したケース、置かれていた爆弾は彼が置き去った物で間違いがないと。そして、彼の持っていた携帯には犯行予告の書き込みを行った形跡が残っていたと。
香織さんが注いでくれたくれたアイスティーを受け取る先輩。
グラスを手渡した香織さんが先輩に尋ねる。
「やっぱり先生は犯人の青年が怪しいって気づいていたんですね?転んだ時に足元のケースや服装をみていたんでしょう?」
私と一緒に予想していた内容を確認するかのように、彼女はどこか答え合わせでもするかのように。
私に至っては、本当に先輩はそこまで気が付いていたのかなと疑いを向けつつ。
「うん?いいや、あの時はケースが彼の物だというのは分かっていたけど、それが怪しいだとか、香織さんに電話で聞いた爆破予告の件とは全く結びついていなかったよ」
固まる私と香織さん。
「まさか爆弾を抱えて走っていたとはね!店に戻る道で彼を見かけなかったから...もしかしたらと反対の道に向かって走ったんだけども、大正解だったよ」
あっけからんと笑顔の先輩。
「早く忘れ物を届けた方がいいという一心だったから。なんというか、日頃の行いがよかったのかもねぇ。ワッハハハ」
笑う先輩は大変いい笑顔、つられて私も香織さんも乾いた笑顔を返す。
まさか、本当に、忘れ物を返すことしか考えていなかったとは。
「...ッハハッハっぶぇっくしょン!!!!」
固まっていた私は、笑いながらグラスを傾けた先輩の口元が爆発したのを横目に見た。
・・・白いワイシャツに紅茶の染みを広げていた先輩が、そこにはあった。
ここまで呼んで下さった方、ありがとうございます。
探偵とは名ばかりの...探偵と評するに値しないような内容だった気もしますが、主人公に振り回される和戸君を楽しんで頂けたなら幸いです。
次回の話が思いつき次第、主人公をのびのびと探偵させつつ、和戸君に語ってもらおうと思います。
それでは、また。