表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うっかり探偵  作者: はましょう
4/10

珈琲の香りに忘れてきたモノー憶測編ー

 結局のところ、お兄さんは声をかけても目を覚まさず、警察と救急車を呼ぶことになった。先輩が連絡して数分、サイレンの音が近づき車が到着すると、見覚えのある刑事さんと部下らしき青年が救急隊員とともに駆けつけた。軽く先輩が状況を説明すると、青年と救急隊員の人達が素早く動き対応する。あっという間に、気絶していたお兄さんを担架に積み、先輩は刑事さんに事情を説明するため一緒に行ってしまった。


「あー、駿助くん。ちょっと平塚(ひらつか)さんに事情を説明して遅くなるだろうから、君は事務所に行っておいてくれ。」


 私を見ながら先輩は、ジャケットを手渡してくる。


「あと、それを香織さんにお願いして洗っておいて貰ってくれないか?」


 そういって上着を受け取った私に手を振って「じゃあ、行ってくるよ」と刑事さんの車に乗りこむ先輩。

見送る私がぽつんと残されたが、現場保存の為と青年刑事に説明されに公園から退散、そのまま事務所に戻ることにした。




「それは大変だったわね・・・」


 先輩の事務所に戻り、先ほどの出来事を説明し終えると香織さんがそう答えてくれる。


「ええ、毎度のことですけど、自分には何がなんだかさっぱりで...」


 炎天下で走った後に長々と話をしたせいか、随分と喉が渇いた。

入れてもらったアイスティーを呷り、一息つく。


「けれど和戸くん、たぶんその倒れたお兄さんっていうのは、私と先生が丁度探していた人だわ」


 顎の下に指を当て、なにか思案するような仕草でそういう彼女。

はて、先輩と香織さんが?丁度探していた?さっぱりわからない。

疑問が顔に出ていたのか、私をチラリと見た香織さんは「ふふふっ」と小さく笑い言葉を続ける。


「さっき和戸くんに電話をかけたでしょう?丁度彼についての依頼だったのよ」


 そういって携帯を持ち、操作しながら近づく。

シックなデザインのスマホを、白く細い指でスワイプしある画面を示す。


「大手の掲示板サイトですね。・・・爆破予告ですか?」


画面には随分とレス数の伸びているスレッドが表示され、その投稿をそのまま読み上げてしまう。


「刑事さんからこの掲示板についての連絡があってね。その件で先生に電話したんだけど、まさかこんなに早く解決できるなんて、流石先生だわ」


 香織さんのそんな発言を聞きつつ、画面を送る。確かに、爆破を予告している投稿者から何度かこの地域について書き込まれている。それを面白がってか、他の投稿者が煽ったりからかったりとレスが続いている。

 そして後半の方で予告した投稿者が、「これであの店は木っ端みじんだ 」と書き込み、それ以降書き込まれて居ない様子をみると・・・。


「・・・だからあんなにケースを見て大声をあげたのか」


 ベンチに座って携帯を見ていたのは、この掲示板を確認していたからだろうか。そして置いてきたはずの爆弾が目の前に戻ってきた。そんな状況では誰だって驚くだろう。


「けれど、あんなケースが爆弾なんて思いもしませんよ。ましてやそれを持って運んでいたなんて・・・」


 改めて、恐ろしい想像をしてしまった私は血の気が引いていくのがわかる。もし、あのまま先輩がケースに気が付かず店に残っていあったら。もし、ケースの持ち主が分からず、先輩が届け出ると言いださなかったら。最悪なのは、移動中に爆発していたら・・・・。


「日頃の行いがよかったのねぇ。先生も、和戸くんも」


 私の気も知らず、あっさりとそんなことを言う香織さん。

たおやかに笑う彼女はそういって空になったグラスを取り、おかわりを入れてくれる。


「いやいや、香織さん、そんなあっけらかんと言わないで下さいよ。ケースの持ち主が犯人だったと解ったのも、たまたま近くにまだ居たっていうのも、偶然みたいなものですよ?」


 香織さんの携帯を返し、代わりにグラスを受け取りながらも小さく反論する。

その反論を受けてか、ポカンとした彼女は言葉を返す。


「そうかしら?きっと先生は犯人がケースを置いていった事と、まだ店の近くに居たことは分かっていたと思うわよ?」


「はい?」


 そんなことを言い出す香織さん。思わず声を返す私。


「まずケースの事だけど、先生は喫茶店に戻って自分の携帯を見つけた時に一緒に持ってきたのよね?」


 ピンと人差し指を立てて、私を見ながらそう聞いてくる香織さん。

どうやら解説モードに入ったらしい。向かいに座る姿が何かの先生っぽい。


「ええ、自分たちが座っていた席に向かった先輩が見つけてそのまま...」


 記憶にある状況を思い浮かべつつ、答える。


「先生は席に戻って椅子と床を先ず確認した。たぶん奥の席の下を確認したかったのでしょうね」


「えっ、奥の席の下ですか?」


 急に想定外の説明に口を挟んでしまう、何故そうなるんだろうか。


「お手洗いに向かう時、転んだ時に奥のテーブル席の足元にあったケースを見ていたのでしょう。物を落としてしまうなんて、転んだときにもしかしたらと思うでしょうから。携帯を探すついでにそっちの方を見たら...忘れ物があった」


 確かに、転んだ時に声をかけられていたな...しかし、


「それなら確かに、持ち主があの犯人だという察しが付きますけど、まだ店から遠くに行ってないという理由づけにはならないのでは」


もう一つの疑問をそのままに伝える。それを聞いて微笑み返す彼女が


「勿論、店から遠くに居ないと判断したのは別の理由よ。その時犯人は遠出するような格好じゃなかったんじゃないかしら」


 確かに、あの犯人はラフな格好をしていた。しかし、この真夏の炎天下の下だ、涼しい恰好をしていることは何もおかしくはない。


「先生は彼の履いている物を見た。靴じゃなくてサンダルを、走ったり遠出したりするのは不向きな、近所に出かけるときに気軽に履くようなサンダルを」

「サンダルで軽装なお兄さんが、足元にピカピカなアタッシュケースを置いている。なかなか印象深い人物として先生なら記憶するわ」


 ・・・そういえば、先輩は転んでからなかなか起き上がらなかった。奥のテーブル席の下で、犯人の足元をのぞき込んでいた先輩にとっては、違和感を覚えて記憶に残していてもおかしくはない。

そしてのぞき込まれていた犯人はなかなか起きない先輩に声をかけていた。

「・・・大丈夫ですか?」と

足元に爆弾を置いて居た、そこ見ず知らずの人がのぞき込む。そしてなかなか立ち上がらない先輩に見られたくないから声をかける。確かに、そんな風にもとらえられる。


「電話をかけて爆破予告の件についても伝えていたのよ。その時に先生は彼の格好と持ち物が怪しいって考えたんじゃないかしら」


 そういって自分のグラスを手に取り、アイスティーを飲む香織さん。

かすかな違和感を感じるようで、筋が通っているように聞こえる彼女の推理。私の頭の中でも先程まで体験していた光景を思い起こしつつ思案する。


 すると、事務所の前に車が止まる音がした。

窓からみると、噂していた先輩が刑事さんの車に送られ事務所に戻ってくるのが見えた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ