序文/冷たい雨
これはとても不愉快な話だ。
これはとても不愉快な話だ。自分がただの虫籠にすぎないという事実は、とてもとても胸クソの悪くなる話だ。
この話はあんたに読んでもらうために書いてはいるが、その実、あんたそのものにはなにも伝わらないようになっている。これは蟲の話だ、いや、正確に言うなら、蟲に語りかけるための話だ。あんたはきっと嫌がるだろうが、これはあんたの中にいる蟲に向かってあんたを通して語りかける為に書かれた話だ。
この話を読むのはやめた方がいい、この話はきっとあんたの中の蟲を活性化させる。この話はきっとあんたの中に棲む蟲を活性化させる。
冷たい雨
雨の日は嫌いだ。
それは、たったそれだけの行為だった。雨が上がったばかりの街の中、たたまれた安物の傘の先端を地面から、わずかに百二十度、上に傾ける。他人の事を考えない輩なら|無意識的( ふ つ う)にやる動作だ。
それからかっきり三時間後、男はこの世とは別などっかへ行っていた。
それは、彼にとってはささいな行為だったかもしれない。しかし男にとっては脅威的な行為だった。安物の傘の尖った金属の先端が彼の瞳の数センチ前にあった。それは男にとって重要な行為だった。
『傘の先端をコッチに向けるんじゃない』
『傘の先をコッチに向けるんじゃない』
『傘の先をコッチに向けるんじゃない』
『傘の先をコッチに向けるんじゃない』
『傘の先をコッチに向けるんじゃない』
『傘の先をコッチに向けるんじゃない』
『傘の先をコッチに向けるんじゃない』
『傘の先をコッチに向けるんじゃない』
『傘の先をコッチに向けるんじゃない』
『雨の日は嫌いだ、こういう怖い行為を平気でするヤツが一杯だ、一杯なんだ。雨の日は嫌いだ』
トン、と背中を押された感覚がした。気がつけば、彼は相手の傘を奪い取りその傘で、男をメッタ差しにしていた。
『わかるか、わかるか、わかるか、おまえはオレにこういう恐怖を与えたんだ、身を持ってしれ、身を持ってしれ、』『雨の日は嫌いなんだ』『雨の日は嫌いなんだ』『雨の日は嫌いなんだ』『雨の日は嫌いなんだ』『雨の日は嫌いなんだ』『雨の日は嫌いなんだ』『雨の日は嫌いなんだ』『雨の日は嫌いなんだ』『雨の日は嫌いなんだ』『雨の日は嫌いなんだ』『雨の日は嫌いなんだ』『雨の日は嫌いなんだ』『雨の日は嫌いなんだ』
『雨の日は嫌い、なんだよ』
本作品はフィクションであり、実在の団体や人物等とは全くの無関係です。また、不適切な表現が混じっている場合がありますが、表現上の演出とご理解頂きたく存じます。