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牧場の娘 2

「足、痛いか?」

「痛いよ。思いっきりくじいたからね」

 ミルテは赤くなった目じりを擦ったあと顔を上げた。

 その顔はいつも牧場で見る、太陽のような明るい笑顔だった。牧場じゃなくて宿に持ち帰りたいなあ。

「どっちの足だ」

「右足」



 ミルテが足に履いているのは黒いヒールだった。いつもはヒールなんか履いていない。

 履きなれてない、しかも歩きづらい靴を履いたせいで態勢を崩してしまったのだろう。

「ちょっと見せてみろ」

 俺は再びしゃがみ込んでミルテの黒いヒール、黒いパンプスを順に素早く脱がせていった。

「ちょ、ちょっと待ってカッペイ! (くさ)いから! 絶対に臭いから脱がさないで!」

 慌てて俺の手を退けようとするミルテ。

「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ」

 俺は臭くても一向に構わん。



 ミルテの足首を持って横を向けると、外側のくるぶしの下部が紫色に変色しているのが見て取れた。完全に内出血している。

「帰る前に診療所へ行った方が良いな。連れて行ってやるよ」

 この場所から白魔道士がやっている診療所までは1㎞も離れていない。

「そ、それは悪いよ! 足をくじいたのは私だし、ここから診療所までなら別に一人でも」

 ミルテは両手を振って遠慮する。同時に胸も小刻みに揺れている。

「いいから」

 俺はミルテに背中を向けて身体を預けるよう促した。要はミルテをおんぶしようと思ったのだ。



 ん? 待てよ。オンブするってことは、あれが直に背中に当たるんじゃ……。

「それじゃお言葉に甘えて……」

 その言葉と同時に世界中のどんな果物より瑞々しいであろう感覚が俺の背中を包んだ。

 暖かな羽毛の枕を押し当てられているよりも更に柔らかく、それでいて弾力を感じられる。

 なるほどこれが桃源郷ですか。



 ***



 白魔道士がいる診療所は

 先ず狭い路地を東に進み、

 路地を出たら今度はリザードテイルの真ん中を通っている川を渡って

 南に500mほど下った場所にある。

 ここからだと、ゆっくり歩いても15分くらいだろうか。人ひとり背負って歩くのだから距離は短い方が良い。いつもの俺ならそう思っただろう。

 ……背負ってるのがとびっきり巨乳の娘でなければ。



 俺の全神経は背中に集まっている。恐らく今スネを蹴られても痛くないんじゃないかと思うくらい背中から伝わる柔らかい感触に全力で集中していた。

 俺が全神経を集中させているからというのもあるが、ミルテが両腕をしっかり俺の首に絡めているため俺の背中に当たる胸の感触は余計に強くなっていた。



 俺が一歩足を出すたび、背中から胸がこすれる感触が伝わってくる。甘い柔らかさは俺の思考力を根っこから剥がそうとしてくるかのようだ。加えて俺の顔のすぐ後ろにミルテの顔があるため吐息は耳にかかり、喉を鳴らす音はまるで快楽に誘っているかのように感じられる。

 そして俺の手は直接ミルテの太ももに触れているが、ふんわりとしたその感触は手の中で今にもとろけてしまいそうなほど柔らかい。

 診療所に着くまで何度手を滑らせようと考えただろうか。


「カッペイ」


 黙っていたミルテが突然口を開いた。本人にその意思はないのだろうが、吐息混じりのその声はとても扇情的で、余計に俺の足はあらぬ方向に向かいそうになる。

 いかんいかん、俺はそんな事のためにミルテを助けたわけじゃない。

「どうした?」

「その、重たくない?」

 ミルテの口調はとても申し訳なさげである。正直に言えばムチムチ、というよりモチモチした体格のミルテはフィアールカよりだいぶ重たい。ただそれは死ぬ寸前まで忍者としての修行をしてきた俺にとっては誤差に等しいものだ。



「いやいや、まるで漬物石のように軽いぞ」

「……、それ重たいって言ってるよね!?」

 ミルテに話しかけられたことで俺は普段のペースを取り戻してきた。

「冗談だよ、錨よりは軽いって」

「さっきより重たくなってるよ!?」

 俺たちは普段からこんな軽口をたたき合う仲だ。こんなにふざけたことを言えるようになったのは俺が毎日牛乳配達のため牧場に通い続けたからでもあるが、それよりミルテの性格がとても柔らかかった事が大きい。



 ミルテと談笑しながら石造りの橋を渡り、南に少し歩いたところで診療所の屋根に付けられた木製の十字架が見えてきた。話していればあっという間だ。

 もう少しミルテと二人で話していたい、身体の感触を感じていたという思いを断ち切るように俺は診療所へと歩を速めた。






 つづく

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