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リコール  作者: 別当勉
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(31):香港、シンセン。新製品開発の過程から見えるリコールの原因・・・こんな状況から品質不良を起こしたのでは?という点が見えてきた!

(31):香港、シンセン。新製品開発から見えるリコールの原因


   2004年2月


「平尾部長!ご苦労様です。フライトは如何でしたか?」

「こんにちは!デービッド・・・4時間のフライトだからね・・・」

「平尾部長も遠藤課長も海外出張は慣れているから香港ぐらい何ともないでしょう・・・」

「・・・」

「今車をとって来ます。いつものところで待っていてくれますか?」

「急がなくていいよ」

「・・・相変わらず調子がいいですね」

「うん・・・悪気はないんだろうけど日本企業、特に山野のようなところでガイジンとして上手くやっていくにはそれ相応の処世術が必要なのだと思うよ」

「山野社長には結構可愛がられていますよね・・・去年本社の役員にもなりましたしね」「社長の海外マターは彼がいないと出来ないからなあ・・・」

「彼の昇格は、ミュージックセンター向けおEMの商談をまとめた実績とうちのリコール対応を上手くやった実績を社長が評価したって山野の社員から聞きましたけど、リコールは彼の中国工場の管理の問題でしょう?おかしいですよねえ?」

「あの規模のオーナー会社だから仕方ないのじゃない?」

「でも、リコールの問題の本質を会社として認識しているのでしょうか?」

「社員はしていると思うけど・・・」

「そうですよねえ。社長は理解していないですよねえ・・・いつからそんな会社になったのですかねえ」

「創業社長はどこでも大変なもんなんだよ。二代目は育て方を余程しっかりしないと経営が甘くなってしまうもんなんだよ・・・」

「山野一郎社長は、お坊ちゃんで、やはり器ではないのでしょうか?」

「ちょっと言いすぎじゃないの?」

「・・・でもねえ、リコールに関しては、我我が依然苦労しているのに・・・」

「山野も本社は頑張ってくれているじゃない?」

「香港と温度差がありますね!問題の発生源がこれでいいのでしょうか?」

「デービッドに厳しく言ってよ!遠藤からも!」

「ええ、酔っ払って思い切り言ってやりましょうか!」

「シラフで言わないとだめだよ・・・」


「お待たせしました・・・ちょっと混んでいました・・・」

「あれ?デービッド!車変えたの?ベンツは止めたの?」

「いろいろあったのですよ・・・あとでゆっくり話しますよ・・・」

「アスリートZⅢの量産認定は上手くいきそう?」

「Xの米沢工場から皆さん来られて助けてもらっています・・・だから大丈夫ですよ」

「デービットさん。山野でまかせてって言って欲しいなあ!」

「遠藤さんは厳しいなあ!」

「デービット!ところでベンツはどうしたの?」

「あれ500シリーズだったでしょう?快調だったじゃないの?」

「ええ、大変なことがあったのですよ・・・」

「なに?」

「盗まれたのですよ!」

「ええ?ベンツが盗まれた・・・?」

「そうなのです。香港では最近多いのですよ!」

「保険入っていたの?」

「もちろんです」

「山野会長も喜んでいたじゃない・・・ペニンシュラに泊まるのにタクシーじゃあ格好つかないって言ってたよ!」

「そんなこと社長が言ってました?クラウンじゃだめかなあ・・・」

「これ、前に乗っていたクラウンでしょ?どうしたの?」

「ベンツ買ったあとこれを友達に貸していたのですが、盗まれたので返してもらったのです」

「保険でまた買えばよかったのに・・・」

「もうベンツはいいです・・・やはり目立つから香港マフィアに目をつけられて危ないのですよ・・・命が危ない・・・」

「でも皆ベンツ乗っているじゃない」

「シンセンに入るのにクラウンの方が気が楽です・・・私は日本車が好きです・・・クラウンでもかなり高級車ですよ」

「損はしなかったの?」

「実際は、直ぐに見つかったのですが、気持ち悪かったので引きとらなかったのです。だから保険会社からの補償やなんやかやで損はしなくてホットしました・・・」

「フーン・・・香港ではベンツだと思って楽しみにしてきたのに・・・」

「すみません」

「ところでビジネスはどうよ?」

「アメリカ向けは結構いいです。先月のCESでも今年の見通しはポジテイブでした。8月からクリスマス商戦向けでフル稼働できそうです」

「いいじゃない!」

「でも単価は安いし、景気の動向ですぐに数量変えるし・・・」

「デイスカウンターはわがままだものね・・

・付き合うのは大変だよね!」

「疲れますよ」

「発注されても、あれファームオーダーじゃないのですよね・・・売れ行きで簡単にキャンセルを言ってくるし、反対に売れ行きが良いと短い納期で緊急発注が来て、それに対応できないとペナルテイを言い出したり翌年の交渉が難しくなったりして大変ですよ・・・」

「不良返品も多いでしょう?」

「木村さんご存知ですか・・・不良でなくても気に食わないと不良だって買戻しさせるし

それを簡単に受けるみたいだし、通販のクーリングオフも大変な数になります」

「それって戻ってくるの?」

「クリスマスが終わって3月までに戻ってきたものがこちらに送られてきます」

「それ再生するの?」

「ええ。5月から7月まで、次のクリスマス向けの生産が始まるまで製造ラインが結構余裕あります。その間に検品と再生を行います」

「どれくらいの数なの?・・・仮に100万売ったらどれくらい戻ってくるの?」

「5%~10%です」

「そんなに?5万台の再生って大変じゃない」

「そのコストは計算済み?」

「当初の出荷時のプロヒットと再生品のプロフィットで何とか計算しますが変動が大きくて困ります」

「デイスコンも困るよね・・・」

「そうなんです・・・最後は再生してデイスコンオッファーで何とかGP、商品利益でマイナスにならないようにはしています」

「品質管理は問題ないのですか?再生品は中古品の扱いにしないのですか?」

「返品チェックは念入りにやっていますから問題ないです」

「でも、一度人の手に渡ったものだから・・・購買の部品検品から始めて製造したものでないと問題じゃあないですか?」

「遠藤さん!アメリカのGMSと付き合おうと思うとその辺は戦略的にやらないとダメです」

「それって戦略なの?」

「うちももちろん北米で商売しているけど、そんな戦略はないなあ・・・」

「平尾さん!Xブランドではそうだと思います」

「品質は本当に大丈夫?」

「アメリカで火が吹いてリコールなんてことになったら大変だよ!・・・我々がやったリコールどころの騒ぎじゃないよ・・・」

「はいわかっています・・・もうリコールはゴメンです・・・X社には大変ご迷惑掛けましたが我々ももう簡便です。保険がきかない分と保険を超えた分の支払いが10億円かかっていると社長が言っていました。うちには売れる土地があったからよかったですが・・・」

「尚更品質に気をつけないとね・・・」

「ええそんなんですけど、保険は大事で、特にアメリカは・・・ご存知でしょうけど・・

・社長の指示でアメリカのPL保険も増額しましたので問題ないです」

「リスク管理としては保険も大事だけどまずは品質管理じゃないの?・・・社長もその辺の意識を高めたほうがいいのじゃない?私からも言ってあげようか?」

「お願いします。社員じゃ中々言えないですから・・・」

「まだそんな感じなの?リコールでちょっとは変わったかと思っているのに・・・」

「オーナー会社ですから・・・」

「デービッドも大変だよね!・・・アスリートZも社長の指示だったのでしょ?」

「聞かれたのですか?」

「うん。ちょっとね・・・」

「私も、日本式の製造管理品質管理の経験が少なかったし、本社の部長には社長から話すので問題ないってことでしたから・・・」

「デービッドも社長の命令だったら仕方がないよね!」

「そうですけど・・・まあ香港とシンセンのオペレーションが悪いということで、私一人が悪いということで責任を取って社内的には丸く収まってね・・・誰も傷つかず良かったです・・・」

「当社は大変傷ついたけどね・・・」

「それは本当に申し訳なく思っています。でも、補償は精一杯させてもらっていますのでそれでご勘弁を・・・」

「デービットさん!それは違うよ・・・そういうこと言われるとまだ御社はこの問題の本当のところをわかってないって思ってしまいます・・・」

「木村さんすみません・・・そんなことはないのですが・・・」

「直接的費用の一部は山野さんに負担していますが、機会損失やブランドへの影響なんか計算すると大変な金額になると思いますよ・・・私なんか、商品企画や開発が遅れて挽回も遅れていることが一番あせります」

「すみません・・・明日の量産認定会議の内容で挽回を示したいと思います」

「デービッド・・・頼むよ」

「はい・・・そろそろハイヤットにつきますけど・・・これからお二人はどうされますか

?・・・米沢部隊は今晩遅く入られるのでしょ?夕方3人で夜ご飯行きましょう」

「有難うデービッド・・・夕方にデイストリビューターと会うことになっているんだ・・

・・夜は決まっていないけど、米沢の部隊が遅くに入るのでナイトキャップドリンクぐらいは付き合いたいし・・・遠藤と二人でその辺で軽く食べるから気を使わなくていいよ」

「そうですか・・・では、私は明日の準備をします。明日は、6時30分にオーシャンフェリーターミナルのチケット売り場でお待ち致します。それで宜しいでしょうか・・・」

「うん、全く問題ないよ・・・有難う」


「ここは日本の居酒屋で飲んでいるのとかわらないですね」

「ここの『きつねうどん』は大阪の味にかなり近いよ!」

「店の名前が『なにわ』ですものねえ」

「俺の知っている限り、マンハッタンの『瓢箪』とトーランスのマリオットの裏の店が、関西人が文句を言わない『きつね』を食べさせてくれるよ!」

「ここも昔はもっとオーセンテイックだったんだけどなあ・・・俺は最後は『きつね』でしめるけどね・・・」

「和田部長らのフライトは定刻に飛んだみたいです。チェックインは10時頃ですから、その時分に帰っていればいいですよね・・・あまり酔っているとまずですよね」

「彼らも機内で飲んでるから大丈夫だよ!」

「しかし香港の景気がイマイチですねえ」

「変換前にあった本土向けの商売がなくなったからなあ・・・輸入も輸出も直接になったし、決済も直になってから香港のファンクションが薄くなったものなあ」

「以前は、全て香港経由だったんでしょう?」

「うん。特に代金回収なんて中国人直接では何ともならなかったものなあ・・・結局、人脈と香港の金融システムを頼らなくてはならないとき語学とメンタリテイーで本土の中国人に足元を見られない香港人を頼らざるを得なかったものね」

「中国っていったって広いですものねえ」

「殆ど沿海州の都市で、北京、上海、南京、広州、シンセン経済特区で、大連、瀋陽、蘇州、杭の方の杭州っていうのは最近だものねえ。内陸部まで本格進出している日本企業はあんまりないんじゃないかなあ・・・ビール会社が大麦の栽培をやってたりするけど、イトーヨーカ堂やセブンイレブンだって中までは入れない。自動車の販社の合弁会社がやっとじゃないかなあ・・・」

「同じような顔をしていてもメンタリテイーが全く違いますよねえ」

「でも、ヨーロッパの奴らは結構上手く付き合っているんだよね・・・一部を見て全てを語ることはナンセンスだけど、アメリカ人も中国に対する偏見が強くて苦手だし、日本人も戦争の負い目もあるけど、あくの強いメンタリテイに閉口気味で、強気だけど純情な面もある韓国人も上手くいかないなかで、ヨーロッパの奴らが結構上手くやっているんだ。

フィリップスなんか、確か1990年代のはじめに意匠や商標の登録をして知的所有権を主張したのじゃないかな・・・ドイツだってシーメンスやフォルクスワーゲンの参入は早かったのじゃないかな・・・フォルクスワーゲンは、ニッサンが日本ではサンタナブランドで作っていたヤツを早くからノックダウンで生産してものね。タクシーなんか殆どそうじゃない。全然走らないけど・・・」

「ルフトハンザなんか、北京と上海に毎日飛ばしていますものね・・・」

「偏見だけど、欧州人ていうのはアジアに入り込むのが結構上手いんじゃないかな・・・

もちろん昔の植民地化とは違うだろうけど・・・」

「ところで平尾さん。空港からホテルにくるときデービットに言っておられたことは本当ですか?」

「なんだっけ?」

「山野社長の命令だって・・・あれ、会うリートZの部材変更のことでしょう?」

「うん・・・本当みたいだな・・・」

「『みたいだな』って・・・確証持って言ってたのじゃなかったのですか?」

「うん?・・・たぶんそうだろうなって思って聞いてみたんだよ・・・」

「でも、デービッドはあっさり認めましたよねえ」

「ああ・・・」

「ということは、山野の社内では皆知っているということですか?」

「そうじゃないの?」

「じゃあ、平尾さんはどうやって知ったのですか?」

「年末のデイストリビューターミーテングで香港に来た時に、シンセンのうちの工場へ行ったんだ。その帰りに山野の工場に行った時にちょっとそんな風に感じたんだ・・・特に明確な何かを見つけたわけではないのだけど・・・で、シンセンの工場を見渡してみて、それで米沢に行った時に改めてそんな視点で山野さんを見てみると、そういうことなんだ

と思ったのだよ・・・」

「どういうことですか?」

「たぶん社長がデービットにやらせたことだから仕方がなかったのだよ・・・皆で尻拭いをやったのじゃあないかなあ・・・」

「デービッドにやらせたって・・・デービッドは4M変動って知らなかったのですか?・

・・いや山野社長だって・・・」

「そんなはずないと思うけど・・・軽く見ていたのは確かじゃないかな・・・」

「そんなことばれたら本社の品質管理が黙っていないでしょう?」

「そうだと思うけど・・・戸塚さんが辞めてからは社長に意見を言う人間は技術顧問の和多田さんぐらいで・・・和多田さんも顧問になってからは現役に遠慮しているから・・・

そうすると歯止めが掛からないのじゃないかな・・・」

「ええっ・・・それじゃあメーカーの体をなしていないじゃあないですかあ・・・」

「そうなんだよ・・・うちもその実体に気づかなかったという落ち度がある・・・少なくとも日常的に接している我々商品企画は気づかなくてはいけなかった・・・」

「すみません・・・」

「いやいや皆が悪いと言っているのじゃなくて、何で誰も気づかなかったのかなあって思うんだ・・・何か思い込みがあったのか、慣れがそうさせたのか、甘えがあったのか・・

・」

「実際に社長が部材の変更を指示したのでしょうか?」

「詳しくはわからないけど、デービッドが提言したのか、社長が指示したのかわかないけれど、二人の口からは『100万個の実績ある部材だから問題ないと思った』って同じ言葉が出てきたものね・・・」

「工場の担当者が間違えたわけではなかったのですね・・・」

「充電時間が違えば掛かる電圧や電池負荷が違うのは常識っていってたのは後から知ったのでしょうか?」

「本社の連中に教えてもらったのじゃない」

「デービッドだってエンジニアじゃないけどそれぐらい知っているでしょう・・・じゃあ

やっぱり社長ですか?・・・」

「じゃないの・・・」

「表向きは、シンセン工場の責任者のデービットの責任ということですか・・・」

「そりゃあ社長の指示でやったなんて言えないよ・・・メーカーとして終わりだよ・・・

全社上げて隠したっていうか・・・よく言えば挽回のために大芝居打ったって感じじゃないの?」

「うーん、それに我々は騙されていたってわけですか・・・」

「そうなんだよ・・・どうする?・・・」

「デービッドが一人悪者になって・・・えっ、じゃあ、あのベンツってのはその代償?」

「かなあ?・・・」

「それとも、香港でベンツ乗っていい格好したかったから、ベンツ買うコストを捻出しよ

としたんでしょうか?」

「わからん・・・」

「デービッドも、さすがに口止め料のベンツを買ってもらって嬉しそう乗っているなんて本社の連中が香港に来たときに見せられないでしょう・・・」

「だろうね・・・」

「やはり、社長が・・・それで、当社がリコールして技術的な原因だけでなくその発端がわかって流石に社長もそのベンツを持っているわけにはいかなくて売ったということですか?」

「そうだろうなあ・・・でも最近まで持っていたんだから・・・」

「ええっ、それはひどいなあ・・・反省なしですねえ」

「リコールの費用を払っているからいいのじゃないかって思っているんだよ・・・」

「商売わかってないですねえ・・・ブランドに対する信用とか・・・何より商品企画や開発が遅れて未だに回復できない我々の状況をどう思っているのでしょうかねえ・・・」

「我々に力がないってことかなあ・・・」

「そんなあ・・・平尾さんは何時わかったのですか?」

「年末に米沢に行った時にちょっと感じた・・・」

「で、今日確認されたのですか?」

「うん」

「で、どうするのですか?」

「確証ないからね・・・」

「でも、このまま山野さんと付き合うわけにはいかないですよね・・・」

「うん。本社の誰かに確認してから山野との付き合い方を考えなくてはいけないのじゃないかなあ」

「芦田さんには報告するのですか?」

「うん。ちょっと話はしてある・・・今回何かわかって、米沢でもうひと確認したうえで

常務に報告しようということになっている」

「松本さん、怒りますかねえ」

「我々に?」

「いええ山野さんに!」

「怒りはしないだろう・・・長年の・・・山野の創業以来の付き合いなのに・・・情けないよね」

「まだ内緒にしておいてね・・・」

「ええ、それはもちろん・・・でも、そんなことが何で怒るのでしょうかねえ・・・ISOの監査もあるでしょうに・・・」

「ISOも取り組み方針で生かし方も効果も変わるもの・・・」

「そうですよね・・・しかし、情けない話ですね・・・」

「酒がまずくなる話で悪いねえ・・・」

「いえ、そんなこと・・・」

「経営者って、今更ながらに思ったけれど、志が大事だよね!」

「『志』以前の問題ですよね・・・」

「我々としたら、BEHINDしている我々の商売を挽回することに集中するだけじゃあないかな!」

「はい・・・せっかく築きあげた事業ですものねえ・・・こんなことでポシャルわけにはいかないですものねえ・・・」

「がんばろうよ・・・」

「ええ、もちろん!」

「そろそろ皆が着くんじゃないか?ナイトキャップ付き合わないと叱られるよ!」

「きつねうどん食べる時間はありますかねえ?」

「まだ大丈夫だよ・・・空港でタクシー乗ったら携帯に電話くれるはずだから・・・」


「和田さんお疲れ様!」

「船でのシンセン日帰りは久しぶりだったので・・・うちの工場を作るときはもっと頻繁に乗っていたのですけど、あの時は疲れなかったですけどねえ・・・年を取ったのかなあ」

「ああいう時は気持ちが盛り上がっているもの・・・今日は、ミーテイングの内容というより山野シンセンというか山野全体の空気に温度差を感じるよね」

「そうでしょう?当社との温度差というより山野の中でも以前と変わったなあっていう、

それも何か性格悪くなったなあっていう感じで・・・情緒的な言い方ですが・・・」

「わかるわかる!」

「何でこんなところと付き合わなくてはいけないの?っていう感じがしました・・・以前は、互いの思いがわかるっていうパートナーだっていう確かなものを感じながら仕事が出来ていたと思うのです」

「リコールして変わるかなって思ったけれど残念ながらそのままっていうか、さらに悪くなったっていう感じがするんだよね・・・」

「そうですよねえ。今日でも昼飯のときにデービッドが言ってましたが、リコール保険がきかないことに多額の費用を負担をしていて責任を果たしているって言ってましたものねえ・・・それで米沢から来た山野本社の連中もそうだって顔してたでしょう?」

「あれは馬鹿だなあって思ったよ・・・ちょっとこれからは付き合えないかなあって思ったなあ・・・」

「本当ですよね・・・今日の件も特別採用条件が7つもあったでしょう?量産認定であり得ないですよね!」

「ああ、あれ大丈夫?」

「ええ、残った前田らがつめますから問題ないですが、本当にもう付き合えないですよねえ・・・何であんなになったのでしょうか?リコールで徹底的に補償させられたのが彼らには気に食わなくて緊張感が切れたのでしょうか?」

「それだったら逆恨みだよ・・・」

「ですよねえ・・・最近の彼らは何なんでしょう・・・」

「とにかく動機が一気に下がっているよね」

「それでも・・・平尾さん!まいりましたねえ・・・」

「うん・・・特採があんなに多いとはねえ・・・」

「量産承認したものの、本当に良かったのかなあって・・・普通は、品質担当としては、『よしっ!これでいいものを沢山作って沢山売ってもらおう!』って気になるのが量産認定会議なんですけど・・・」

「和田さん達の役目からするとそうだろうなあ・・・しかし今回は意気が上がらない・・・」

「そうなんです・・・しかし、こういう時は気をつけないといけないんですよ。そんな気はなくてもどこか見落としが出てくるものなのです・・・」

「全体的な緩い雰囲気に巻き込まれてしまう?」

「そうなんです。今日、山野の雰囲気・・・そんな感じがあったでしょう?」

「うん・・・感じた!」

「シンセンに残った前田達も同じことを言っていましたので、彼らはその緩い雰囲気に流されないように最大気をつけて特採マターに対応するでしょうが・・・」

「・・・和田さんなんか山野ことどう思う?」

「どうって、・・・付き合えるかどうかってことですか?」

「うん・・・」

「はっきり言って、今日の感じだと疑問の域を超えてもう辞めた方がいいのではないかと思います・・・理由がありません」

「残念ながらそうなってしまったよね」

「リコールの問題を、『雨降って地固まる』

とか『災い転じて過となす』って方向に持っていかなくてはならないのにそうなってない

・・・というか、反対に悪くなっている感じがします・・・ちょっと言いすぎだけど、居直っているというか・・・」

「あるよね!リコール対応で、被害者対応とか補償とか社告、それに最近の我々の品質チェックが厳しくて、自分達は何でここまでやらなきゃならないんだって気があるんだよ」

「それって居直っている感じもしますし、一方では何か自分達の力を過信って言うか、うぬぼれみたいなものを感じますねえ・・・なんでそうなったのでしょう?」

「アメリカのGMSのOEMで上手くいったから自信を持ったんじゃあないの?」

「上手くいったって・・・あれ、上手く行っていると言えるのでしょうかねえ・・・」

「実体は厳しいけど、社長としたら結構満足しているようだよ・・・」

「でも、品質問題も結構起こしているようだし、その不良返品やクーリングオフの返品再生も含めると決して儲かっているとは思えないですけど・・・結局、品質問題が一番大きくて、一時は結構あった大手家電メーカーの製造協力もどんどん減って、最近は、中堅家電メーカーや日用雑貨ブランドの家電関連商品の製造をやっていますがどれも技術付加の小さい商品ばかりです・・・」

「単機能の携帯ラジオ、ローエンドのCDウオークマンか・・・」

「音響関係の商品だけではなく、電動歯ブラシ、電気シェーバーの本体部分のアセンブルなんかもやっていますからねえ・・・」

「充電技術が評価されているんだろう・・・」

「その充電器で問題を起こしたわけですから本来もっと真剣になっていいじゃあないかと思いますけど・・・何かヘラヘラして緊張感がないですよねえ・・・特に、部長達が皆そんな感じです・・・若手は結構まずいと思っているようなんですが、地方のオーナー会社で、オーナー社長の方ばかり向いて仕事している上司の下では限界があるのもこちらで見ていて感じます・・・」

「結局、社長と幹部次第だよね・・・企業の大小、都会の会社田舎の会社は別にして・・・」

「前はもっと真剣な厳しい雰囲気が山野の中にあったのですが・・・」

「社長にとってウルサイ人達を追っ払ってしまったからね」

「顧問と戸塚さんですか?」

「うん。戸塚さん辞めてあと和多田さんを技術担当取締役から技術顧問にしたからなあ・

・・あの二人がいたときは、開発設計製造品質に一つのポリシーが貫かれていて社長がアメリカから変な話を持ってきても、いい加減な商品を作れって来てもあの二人が受け付けなかったからね・・・」

「そうですよね。戸塚さんは徹底していましたからね・・・山野の技術の良心というか魂

という感じだったですけどね・・・デザインレビューから設計出図、試作レビュー、量産認定の各レビュー・・・我々が出た会議でもピリピリした雰囲気で妥協を許さなかったですものね・・・あれを見ているだけで安心しましたもの・・・」

「和多田さんは役員定年ですか?」

「役員定年なんてきっちりした規定はないだろう・・・若返りという理由で辞めてもらって、功労者だから顧問という形で残したんだと思うよ・・・」

「戸塚さんは何で辞められたのですか?今の社長と意見が会わなかったからですか?」

「人間が違うからねえ・・・面白くなかったということもあったと思うよ・・・でも、それだけじゃないと思うよ・・・」

「・・・」

「米沢で量産認定会議をやったとき、・・・結構品質で苦戦したMMXの量産認定だったのだけど、会議が終わったら「今晩泊っていけ!」っていうから、米沢のはずれの民宿の蕎麦屋で飲んだんだ」

「へえ・・・」

「初めて積もる雪が降った時で、庭に雪がどんどん積もっていく風情がいい感じだけど、

その時、辞めるって聞いたんだ」

「止めなかったのですか?」

「こちらは困るけど、そんな立場じゃないし尊敬している人が決めたことは尊重しなくてはいけないと思ったんだ」

「そうですよね・・・」

「戸塚さんはねえ、50になったら仕事を辞めようと思っていたんだって・・・。その時他の会社からいい条件の誘いもあったようだけど、好きな木彫りやって、奥さんがやっている居酒屋を手伝ってゆっくりと暮らしたいって思っていたんだって・・・山野内部の雰囲気も少しはあったのだろうけど調度いいタイミングだからということだった・・・」

「へえ・・・そういうことだったのですか・・・」

「戸塚さんは、仕事は厳しいけれど人柄は易しいからね・・・追求していることはまともだし要求していることは当然のことで、山野を世間レベルに上げたのはあの人の功績だよ。うち以外にも大手メーカーとの付き合いが出来ているのも戸塚さんがいたからなんだよね

・・・若手からは、怖いけど上司として尊敬されていたから戸塚さんの指示は泣きながらも必死で頑張っていたよね・・・あれが山野の信頼性や品質につながっていたんだよ・・

・ただ、同じレベルの部長達は結構頼りきっていたのも問題で戸塚さんがいなくなってら一気に社内的な緊張感がなくなったし、一番緊張がなくなったのは社長で歯止めがきかなくなってしまったのかなあ・・・」

「戸塚さんがいたなら反対したことも、強く異を唱える人がいなくなったら独裁というわけでしょうか?」

「アメリカ事業は特にそんな感じで進んだようだよね・・・」

「社長にしたら、和多田さんと戸塚さんは目の上のたんこぶだったんでしょうねえ」

「相当大きなたんこぶだったんじゃあないの・・・」

「部長にしても、若手にしてみれば尚更でしょうが、地方のあの規模のオーナー企業の中では余程の気持ちがないと社長の言うことに異を唱えるのは難しいでしょうねえ・・・」

「戸塚さんはねえ、創業社長に恩義があって尊敬もしていて、だから山野に対する忠誠があって、山野のためならという信念があったのだと思うよ・・・」

「でも、辞められたのでしょう?」

「個人的な人生観もあったんだろうなあ・・・50をひとつの区切りにするっていってたからなあ」

「広川常務・・・戸塚さんが辞められたあと社長が連れてこられましたけど、あれもまずかったですよねえ」

「うん・・・」

「広川さんってのは、どういう経歴なのですか?社長の右腕みたいに振舞っていられますけど・・・」

「アメリカにエミーマートっていうデイスカウンターの大手があるだろう・・・そこの、東京バイイングオフィスにいたんだって」

「家電担当だったのですか?」

「いや、アパレル担当だったらしい」

「それで採用したのですか?・・・場イン具オフィスのバイヤーって、本社との連絡で英語での仕事はするのでしょうが、特にセールスに長けているってこともなく・・・本社に提案数を多くして、その中でヒット商品が出ればいいっていう・・・『数打ちゃああたる

』的な仕事しているのでメーカーには評判が悪いですよね・・・言いすぎかも知れないけど、ごろつきみたいな人も居ますよね・・・」

「ちょっと言いすぎじゃあないの?」

「ええ、そうかも知れないですけど、広川さんもちょっと品がない感じですけど・・・山野社長は何に期待したのでしょうか」

「ウォルマート、シアーズローバックと言った大手と取引したかったのじゃあないの?・

・・実際に取引できたし・・・」

「でも、50万台って言っても返品が多くては利益的には厳しいって聞いています」

「らしいよね」

「そういう対応を優先するので、追いつかないところが出てきて、我々の問題も発生したのでしょうね・・・」

「そういうところあるかも知れないね」

「山野さん・・・しっかりしたメーカーだったのに・・・」

「うん」

「創業いらい付き合ってきた当社として、出来ることはなかったのでしょうか?」

「かなり緊密なパートナーだけど・・・まあどこまで関わるべきかってこともあるからねえ・・・相手は独立した会社だし、創業のときと違って大きくもなったし、当社へのウエイトも小さくなってきたからなあ」

「そうですよね・・・昔ながらのよしみで話をしてあげるって考えもあるけど、相手も独立した立派な会社になんだから小姑みたいにガミガミ言うのもなんだし、ウルサイと思われるのもイヤだし・・・」

「でも、結局は、苦しくなったら頼ってくる・・・甘えていますよね・・・」

「そうなると、こちらも『しょうがないなあ』となる。こちらにも甘えがあるのかなあ・

・・結局は、この甘えがリコールの遠因かなあ・・・商品企画者にとしては甘いのかなあ」

「ちょっと待って下さい。当社も平尾さんにも落ち度はないですよ!」

「まあ、そうなんだろうけれど・・・商品企画担当としては、協力メーカーの管理育成というのも責任の一つだからなあ・・・」

「・・・でしょうけど」


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