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リコール  作者: 別当勉
30/33

消防から火災事故の問い合わせが・・・

(29):全焼事故(浜松北消防署管内)


   6月6日

「もしもし・・・こちら浜松北消防署調査係の者です。リコールされているモバイルオーデイオの件でちょっとお聞きしたいのですが・・・ご担当の方お願いできますでしょうか?」

「商品企画を担当しております平尾と申します」

「先週我々の管内で火災事故がありまして、現場検証しましたところ、火元付近で、どうも御社の商品ではないかと思われる物が見つかったんです。それで、それを分解して出火の事実があったかを確認したいので立会いをお願いしたいのです」

「お手数お掛けします」

「いやいや、まだ御社の商品が原因と決まったわけではないのですよ・・・」

「はい・・・それで、事故の状況はどのような感じですか?」

「失礼ですが、どういうお立場でしょうか・・・」

「はい、当部門の商品企画の責任担当で、部長で御座います」

「そんなえらい方が直接電話をとって頂いたわけですか?」

「消防からの事故のお問い合わせには、私どもの部門で対応させて頂くことになっております・・・あいにく部のものが出払っておりまして、私が対応させて頂いております」

「じゃあ遠慮なくお聞きいたします」

「どうぞ・・・」

「個人のプライバシーの問題もあるので、住所は申し上げられないのですが・・・地元の新聞にも出ましたので、調べてもらったらわかるかと思います」

「お怪我された方はおられたのですか?」

「いや、それが留守の間の事故だったので助かったのです・・・家自体は全焼です」

「全焼ですか・・・でも、こういう言い方は問題ですが、お怪我された方がなかったのは本当に良かったです」

「いや、企業さんとしたらそうでしょう・・・でも、まだ御社の商品が原因と決まったわけではありませんよ・・・」

「はい」

「ご家族に事情をお聞きしたのですが、御社のリコールのことは知らなかったので、特にこちらから申し上げないで、いろいろお聞きするなかで電源コンセントの使用状況について確認する中で、モバイルオーデイオが充電中だったということで、そこがほぼ火元だったものですから・・・かなり疑わしいと、実際には思っています」

「モノはどんな具合になっていますか?」

「いやあ、それはもう炭化状態で、黒い塊になっています。が、充電器であることはわかります」

「中の回路基盤も炭化していますか?」

「一部は残っています。確認して頂きたいのは、これが御社の商品であるかということと

今回不具合があると発表されている部分を見て頂き、出火の痕跡があるかということです

・・・この焼け具合から確認するのはちょっと厳しいとは思いますが・・・」

「どういう感じで調べられますか?・・・X線で内部を確認して分解という手順ですか?

「いやあ、こちらにはそんな機器は揃っていません・・・本庁の方にはありますが・・・

外側から順番に分解しながら確認していこうと思っています・・・それで確認できませんか?もし、必要でしたら本庁に頼みますが・・・」

「いえ、目視で大丈夫かと思います」

「そうですか。では、ご都合は如何ですが?」

「私は何時でも結構です」

「明後日の午後にお願い出来ますか?・・・あのう・・・部長というお立場でもこういった現場にご対応頂けるわけですか?」

「ええ・・・私がお伺い致します」

「そうですか・・・では明後日宜しくお願いします」

「了解しました」


「・・・」

「平尾!・・・事故の連絡があったの?」

「ええ。浜松の消防からだよ」

「全焼だったけれど負傷者がいないって聞こえたけれど・・・」

「ああ、幸いね・・・あさって、調査の立会いに行ってくる」

「こういう場合、消防の態度ってどんな感じなの?企業を責める感じ?・・・厳しい?」「いや、結構優しいというか・・・協力を求めているような感じだったなあ・・・」

「現場は教えてくれるものなの?」

「いや、それは、個人情報のこともあるだろうけど、事故調査の客観性を保つために教えられないらしい・・・でも、地元の新聞にも出たって教えてくれたから、インタネットで調べればわかるだろうし、PRSに頼めば本紙のコピーは手に入ると思う」

「消防も結構理解あるもんだね・・・」

「きちんと対応していれば大丈夫だと思うけど・・・」

「でも、うちのが原因だって確定したわけでもないし・・・」

「いや、聞いていると殆どそうだよ・・・」

「調査って、どんな風にするのだろうね?」

地域の機材や設備ってあるのかなあ」

「難しいのは、消防庁の研究所で対応するのだろうけど、それほどでもないって感じだったよ・・・分解作業に立会うって感じだから・・・米沢に頼むこともないよ・・・昼からだから、先に現場を見てから行くよ・・・」

「ご苦労さん」

「落ち込んだら、うなぎ食べて帰ってくるよ

・・・ちょっと不謹慎かも知れないけど」

「それぐらいのハラでやろうよ・・・」


「ご苦労様です。調査課の宮寺と申します・

・・あと、調査課の担当者と現場に出動した担当者が同席参加します・・・現場を見られましたか?」

「ええ、寄ってから着ました・・・火事の現場なんて久しぶりに見ましたけれど・・・ショッキングなものですねえ」

「幸い留守だったものですから怪我人も出なくて良かったのですが・・・」

「火元は現場検証でほぼわかるものですか?

「ええ、場合によりますが、場所はかなりの精度で特定できます。その周辺に出火の原因になるものがあったかということで、今回は御社のものが残っていたのです」

「正確には、御社の商品らしきものですが・・・」

「それで、ご確認頂きたいのです」

「御社の商品であるかどうか。出火した形跡があるかどうか。リコール該当品であるかどうか。もし、そうであるならば、出火のメカニズムと、実際どれ位の火力でどんな風に出火するのかということを教えて頂ければと思います。ご協力お願いします」

「了解致しました」

「それでは、メンバーも揃いましたので始めさせて頂きます」

「まず、現場より回収しまいた現物をご確認下さい・・・これです・・・かなり炭化していますが・・・」

「触っても構いませんか?」

「どうぞ・・・」

「分解が必要なら、順番に写真をとっていきますが・・・」

「いえ、大丈夫です・・・これは、間違いなく当社の商品で、9分9厘リコール対商品です」

「わかりますか?」

「ええ。外観はかなり変形していますが、間違いなく当社の商品です・・・底の銘版の部分は大方溶けていますが、品番の最後の番号が僅かに確認できます・・・この部分にはトランスが乗っているのですが、たぶん原型を留めていそうなので、今回問題としているトランスであることが確認できると思います」

「ということは、Ⅹ社さんが回収されている対象品であるということです」

「はい、間違いありません」

「・・・そうですか・・・簡単に識別できない場合は、記録を残しながら分解して証拠としようと思ったのですが・・・」

「全体と底の銘版の部分を撮影頂いたら良いかと思います。当社としては、発火の疑いに対して異議を申し上げるような疑いはありませんので・・・」

「ああそうですか・・・」

「見ただけでお認めになるということは、Ⅹ社さんでも調査をされて、原因をはっきりつきとめられているからですか?」

「ええそうです・・・」

「記者会見された資料のコピーが本庁から回ってきているのですが・・・この発火のメカニズムが今一つわからんのです・・・ちょっと教えて頂けませんでしょうか?」

「はい・・・では、正規品を分解したものをお持ちしていますので、これを使って説明致したいと思います」

「ああ、それはわかりやすい・・お願いします」

「アスリートⅩは、ジョギングやウオーキングといったアウトドアでの使用を特徴としていますので、本体はもちろん生活防水の機能を持たせてあり、充電クレードルもシャワーや洗面周りで使用されることを想定して防水機能を持たせてあります・・・で、防水の方法としては、充電器内に回路基盤が入っているわけですが、そのケースを樹脂系の材料で充填・・・ポッテイングすることで防水性を実現しています・・・これがそうです」

「ゴム・・・ラバー?・・・」

「ああ!これで基盤全体を覆って水の浸入を防ぐのですね・・・」

「そうです」

「ブヨブヨしていますねえ・・・」

「ウレタン材です・・・これが、製造管理の問題から品質確認がされずにエポキシ材という特性の違うものに変更されたことが原因の一つです」

「どのように違うのですか?」

「難燃性の問題です・・・が、そのことを知ったのは、今回が初めてです・・・これまでは、ウレタン材しか使ったことがなかったですから・・・」

「部材の採用を間違えたのですか?」

「いえいえ。お恥ずかしい話なのですが、製造過程で使用部材を間違えたという単純なミスなのです・・・正確に言えば、正式な部材変更の手続きをしないで使ったということなのです・・・その変の製造管理の詳細は、今調べているところです・・・」

「これが回路が発する熱で火がついたのですか?」

「ええ、そうですが、通常、回路の発熱程度では発火には至りません・・・正確言えば、トランスの不良と安全回路が不十分であった・・・設計の問題とは言いたくないのですが、設計仕様と違った材料が使われた場合の安全性まで配慮した設計にはなっていなかったというのは事実です・・・言い訳のように聞こえるといけないので、この辺はあまり言うべきではないのですが・・・実際このような重大事故が起きていますので・・・」

「・・・発火のところをもう少し簡単に教えて頂けますか?」

「すみません・・・話が飛んでしまって・・・つまり、トランスの問題ですが、絶縁不良から巻き線・・・トランスには細い銅線が巻きつけてあるのですが、そこが切れて過電流が回路に流れるわけです」

「電源・・・コンセントからの電流がそのまま流れる?」

「そういうことです・・・回路には、過電流が流れた場合には即座にカットするための安全回路としてヒューズがつけられています」

「さもないと、電流は発電所から無尽蔵に流れますものねえ」

「過電流が流れ続けると、当然発熱し発火するということになりますよねえ?」

「そうです・・・ヒューズは、ヒューズ抵抗という部品が使われているのですが、これが溶断・・・つまり溶けて回路が切断されることによって過電流が流れることを防ぐわけです」

「えっ、過電流がシャットされるのにどうして発火するのですか?」

「これがヒューズ抵抗ですが、溶断する時にスパークします。このスパークが充填され回路を覆っているポッテイング材料であるエポキシ材を炭化させてしまうのです・・・本来使用するウレタン材では炭化しないのですが

・・・ヒューズ抵抗の回りが炭化するのですが、その炭化した部分がせっかく遮断したはずのバイパス回路になり、エポキシ材の上の炭化した部分を再び過電流が流れ始めるのです。その際の加熱でエポキシがガス化し回路上で膨張していきます。そしてある温度に達したときに発火し、ガスを噴出しながら出火します」

「火柱があがるわけですか?」

「ええ」

「どれくらいの勢いですか?」

「強制試験で再現したのですが、条件によって変わりますが、30センチから50センチぐらいで、時間は10秒から20秒位です」

「音はでますか?」

「ええ・・・シューという音が出ますので、近くに人がいれば気づきます。気づかれて消火されたケースもあります」

「事故の件数ってどんなもんです?言える範囲で結構ですけど・・・」

「いえ問題ありません。現在15件で、全焼はこの浜松の1件で、半焼5件、住居の一部

・・・ボヤが4件、住居の一部か家具を焦がしたのが6件です」

「負傷者はいます?」

「いえ、幸いお怪我をされた方はおりません」

「それは良かったですねえ」

「ええ。ただ、これまでは、ということですから、それだけに回収を急ぎたいということです」

「なるほどねえ・・・」

「でも、X社さんは、真面目にっていうとおかしいですが、きちんと対応されていますねえ」

「そうですか?」

「そう思いますよ。こうやって立会いをお願いしても直ぐに来ていただけないような企業もあります」

「全焼しても?」

「ええ、負傷者が実際に出ると違いますが・

・・それでも、関わりを最後まで認めない感じは結構強いものです・・・」

「そんなもんですか・・・」

「平尾さんは、即来て頂き助かりました」

「・・・」

「内容は良くわかりましたから報告できます」

「それで、管内の広報をしたいのですが、何か良い文章はないでしょうか?本署から記者発表のコピーのファックスが回ってきたのですが、浜松の消防本部、消防署、分署、出張所に案内しようと思います。自治会の回覧までいきわたりますので、予防のために結構いいかと思います」

「それ、ぜひお願いします。広報担当に文章をつくらせてメールで遅らせますのでので、添削して下さい」

「そこまでやって頂ける?」

「ええ、雛形ありますので、こちらの消防本部発信のものを簡単に作れます」

「助かります」

「いえいえ、こちらこそ・・・それと地域、自治会で回覧していただけるのであれば、チラシがありますので枚数を言って下さい。お送りします」

「そこまで用意出来ていますか?」

「いえ、もうバタバタですが何とか回収を進めたいと思っています。とにかく回収を進めたいのです・・・」

「なるほどねえ。もし、お時間あるのでしたら、県庁と市役所・・・浜松市ですが、寄っていかれます。広報に協力してくれるはずですよ。担当者に連絡してあげますから」

「ああ、それはぜひお願いします」

「了解しました・・・で、被害者の方にはコンタクトして宜しいでしょうか?」

「2,3日お待ち頂けますでしょうか。お認めになっておられるので問題ないわけですが

署内の手続きを直ぐに進めて、被害者の方に報告します。それが済んだ段階で平尾さんに連絡を入れます。それからにして下さい」

「Ⅹ社さんのほうでは、きちんと対応されるのでしょう?」

「ええ、誠意を持って出来るだけのことはしたいと思います。当社もリコールは何分始めてのことですので、わからないことばかりですが、社会的責任をきちんと果たす・・・だけではなく、何か当社としての気持ちを加えながら対応できればと思います」

「そうですか。焼け出された方も不安な状態でおられますので、早くご対応を始められるように出来るだけ早く連絡入れます」

「お願いします」


「常務!浜松に行ってきました」

「ご苦労さん。浜松はどうだった?」

「ええ。やはり、さすがに全焼はショッキングです・・・『大変なことをしてしまった』という思いになります」

「うん・・・被害者の方にはまだお会いできないのだろう」

「はい。まだ当社商品の出火ということはお気づきでないようですし・・・消防が調査するということで、そちらを信頼してというか・・・おそらく、火事のショックで氣がまわらないのだと思います。自分の家が火事になるというのは本当にショックだと思います」

「回収の呼び掛けも届かない?」

「今日の生活をどうするかを考えることが精一杯で、他のことは何も考えられないだろうなあ・・・と、焼けてそのままになっている現場を見ていて、そのように思えました・・・」

「なるほどなあ。そりゃショックだろうなあ・・・本当に怪我はされていない?」

「ええ、消防の方に確認しました」

「浜松の消防本部に伺ったのだっけ?」

「いえ、浜松西消防署の予防課です・・・こ名刺の予防課長と担当者、そして現場で消化にあった消防士の方2名とお会いしました」

「で、どんな感じ?・・・厳しい?」

「いえいえ。とくに企業に対して特別何か感情的なものを持っているというようなことはなかったです・・・どちらかというと協力的な感じがしました」

「助かるなあ・・・」

「ええ本当にそう思いました・・・現物は、これです。持ち帰らせてくれました」

「みただけでわかるなあ!」

「製造番号も一部残っています」

「火元に残っていたの?」

「ええ。火元は科学的に確定できるようです」

「じゃあ、当社商品が原因ということは認めざるを得ないわけだなあ」

「現場検証、被害者からの聞き取りで、火元にこれがあって出火した形跡があるのであれば、ほぼ100%だそうです」

「被害者からも聞き取りをしたんだ!」

「特定されないように、家中の電気やガスの使用状況や、タバコ、ライター、マッチの保管状況を聞くらしいです。被害者にとっては

これも辛いようです・・・焼け出された上に

失火の可能性も追求されるようで・・・消防は被害者の失火を追及する気はないのでしょうが発火を誘導することのないように客観的に事実を確認するためにはそうせざるを得ないようです」

「でも被害者の方は、今気持ち的にはどん底だろうなあ」

「ええ」

「で、我々の責任ということになると、そのショックが、怒りに変わるのだろうなあ・・

・」

「ええ・・・」

「交渉は大変だろうなあ・・・どのように進めるのかなあ日本東京海上に教えてもらって進めるのだろうけど・・・」

「常務も経験・・・ないですよねえ」

「ああ、さすがにこれは35年のサラリーマンというかビジネス人生でも初めてだよ」

「でも、どこまでもっていうわけにはいきませんが、心情的には、被害者の方が『ホット

』する対応が出来ればと思いますが・・・無理でしょうねえ・・・全焼ですから・・・」

「お金では補償できないものもあるだろうから・・・アルバムとか、思い出の品とか・・

・」

「そうですよねえ・・・何とかあせらずやってみます・・・」

「いやいや、平尾、お前がやるのではなくて青木が担当を決めて対応するから、そっちにまかせようよ。商品企画の責任者としての気持ちはわかるけど、前にも言った通り、事業はチームでやっているんだから・・・」

「ええ、わかっています。辛い場面は、出来るだけ助けになりたいと思ってもいますが、

この機会にリコールというものの仕事の中身を商品企画者として把握しておきたいと思うのです・・・それも責任の果たし方の一つかなと思います」

「だから、その責任ってのはいいから・・・まあ、本来の担当を忘れないでやってくれよ

。老婆心だけど・・・」

「はい・・・」


「長田様でいらっしゃいますか。Ⅹ社の平尾と申します。浜松西消防署から連絡がお受けになったと思いますが、この度は・・・」

「ああ、消防署から聞いたけど、一体どういうこと?」

「誠に申し訳御座いません。現在回収を進めております当社商品の出火が原因で大変なご迷惑をお掛けいたしました・・・」

「迷惑って・・・もう大変なんだよ、わかっている?」

「はい、誠に申し訳御座いません」

「なーんにも残っていないんだよ・・・なーんにも・・・何でこんま目に合わなくてはいけないの?見てごらんよ!なーにもないよ・

・・うち、家財じゃあないよ・・・お金で計算できないものもあるんだよ・・・アルバムとか・・・モノだって買い換えて済まないものが一杯あるんだよ・・・子供達の辛いのが一番たまんないよ!わかる?・・・・・・」

「・・・本当に申し訳御座いません・・・・

・・それで、長田様・・・そちらの方にお伺いして当社として謝罪させて頂き・・・今後のこと・・・補償させて頂くようなお話をさせて頂ければと思うのですが・・・」

「きちんとしてくれるんだろうね」

「弊社として誠意を持って対応致したいと思います」

「誠意って何?・・・とにかく全部やってもらうからね・・・元通りに・・・すぐに・・

・とにかく、子供達もショックで何にも手がつかないんだから・・・子供達は何かっていうと毎日涙ぐんでだよ・・・子供の頃からの思いでのものも今の勉強道具もとにかく全て燃えてしまったんだから・・・こっちも見ていて不憫でたまらんよ・・・わかってるの?」

「・・・誠に申し訳御座いません・・・」

「あのねえ・・・第一なんですぐに連絡しなかったの?・・・この数日間、我々がどんな思いで過ごしていたかわかる?・・・とにかく全て無くしたんだから・・・どういうつもりよ・・・」

「・・・長田様・・・誠に申し訳御座いません・・・」

「本当にどうしてくれるんだよ・・・」

「・・・とにかく、まずはお伺いしたいと思います・・・消防のご担当よりお聞きしたのですが、今はご実家の方においでと伺っております。ご都合に合わせてお伺いしたいと思います。日にち、お時間、仰って下さい」

「お名前なんだっけ?」

「平尾と申します」

「どういう立場なの?責任もって判断できる役職なの?課長さん?部長さん?」

「商品企画の責任者でございます・・・部長職でございます・・・」

「じゃあ、いろいろ判断できるのね?」

「はい。そのつもりでお伺いしたいと思います」

「じゃあ、明日でもいい?明日土曜日だけど

・・・大企業はお休みだろうけど・・・こっちは、こんなことなってしまったから、本当は出勤だけど休みとってるから時間はいつでもいいよ」

「午前、午後どちらのご都合が宜しいでしょうか?」

「・・・それじゃ、午後にしてくれる・・・午前じゃ落ち着かないし・・・そっちも東京から来るんだったらそのほうがいいでしょう・・・じゃあ、昼一番、1時ごろにしてくれる?住所はわかる?」

「・・・お気遣い有難う御座います。今のお住まいは、消防署から伺っております。いろいろお手数お掛けいたしますが宜しくお願いします」


「やはり結構お怒り?つらく当たられた?」

「ああ、青木さん・・・ええ、最初は少し厳しい感じでしたけれど・・・無理もないですよねえ・・・火を出して焼け出されたのですから・・・でも、明日お伺いすることになったのですが、時間なんかも気遣って下さったので・・・そんな厳しい方じゃないと思います」

「平尾自ら行くって言ってたけど、補償関係のことは業務で担当するよ」

「ええ・・・でも、全焼ですし・・・他にも事故案件あるでしょうし、青木さん一人じゃ全て対応するのは大変ですよ・・あってほしくないけど、事故が増えたら我々が手分けして対応しないと・・・」

「まあ、そういうことになってるけど・・・

うちの担当をつけるから、実務はそっちにまかせろよ・・・抱え込むと、結果的にいい対応にならないから・・・」

「うん。わかってる」

「じゃあ、担当決めてよこすから・・・」

「うんわかった。保険会社と予習して行くから頼む!」


「X社の平尾で御座います。先日はお電話で失礼致しました・・・」

「業務部の石川で御座います。平尾とともにご対応させて頂きます宜しくお願いします」

「平尾さんが商品企画の部長さんで、石川さんが業務部の課長さんですか・・・」

「今回のリコールに関わる件につきましては全社体制で行っております。専任の部署ではないことご理解下さい」

「うちは、とにかくきちんと対応してもらえばいいよ・・・俺の言いたいのはそれだけでだよ・・・」

「はい、我々二人が社を代表して担当させて頂きます」

「とにかく元に戻してくれればいいんだから

・・・それで、現場は見てきた?焼け落ちて何にもないけど・・・」

「・・・はい、先日浜松西消防署にお伺いした際に寄らせて頂きました」

「消防から教えてもらったの?」

「いえ、消防署からは、火元として疑わしいということで調査協力を求められました」

「我々も、家中のガス、電気の使用状況を何度もひつこく聞かれたよ・・・同じこと何度も聞かれるので、何か悪いことしたような気分になってきて・・・まるで、自分の家に火を放ったようなこと言われているようで・・・消防の担当者はいい人で、あとの方で『そんなこと思ってない』って言ってくれたけど、・・・最初は辛かったよ・・・消防は、最初からわかっていたのかなあ・・・『何か充電していましたか』って聞かれて、『携帯オーデイオ』って答えてから電気の使用状況をやたら詳しく聞かれたからなあ・・・メーカーと機種名、それに何時買ったかも聞かれたからなあ・・・もう、思い出すだけで血圧上がったよ・・・カミさんなんか、自分の火の不始末かって自分を責めて、出掛ける前のこと何度も思い返して、もうノイローゼみたいになって大変だったよ・・・本当に大変だったんだから・・・」

「お手数お掛けして申し訳御座いません・・・お家は、地元紙の報道からご住所を確認して伺わせて頂きました」

「ひどいもんだろ?」

「はい・・・私どもが言うべきではないと思いますが、ショックでした」

「子供なんかショックどころではないよ・・気が狂わんばかりに泣いたよ・・・」

「申し訳御座いません」

「ショックをわかってくれるんだったら、そのショックから立ち直る対応をしてくれたらいいよ」

「弊社と致しまして誠心誠意をもって対応させて頂きます。こちらで出来ることは全て対応致しますが、どうしても長田様自身にお願いしなくてはいけないようなことが発生すると思います。手続きや作業でお手数お掛け致しますが、ご協力頂けますよう宜しくお願いします」

「ああ、いいけど、こちらも仕事があるんだから、そのことはわかってよね」

「はい了解しております」

「とにかく、早く生活を取り戻したい・・・それだけだよ・・・実家といったって、俺は次男だから、カミサンだっていろいろ大変なんだから・・・」

「ご迷惑お掛け致します」

「まあ、お茶でも飲んでよ・・・で、何からするの?」

「まず、消防の確認を得て現場の撤去と整地をしなくてはいけません」

「そうそう。黒こげになっているけれど、柱や壁が残っていて崩れ落ちたら危ないもんなあ・・・第一、あんなの毎日見せられたら、ご近所も感じ悪いもんなあ・・・俺んちは、見たくもないけど、撤去も寂しいもんだろうなあ・・・また泣くなあ・・・」

「申し訳御座いません」

「子供達はどうするかなあ・・・最後のお別れしたいって言うだろうけど・・・また泣くだろうなあ・・・自分達の家が取り壊されるんだから・・・俺だって泣けてくるよ」

「申し訳御座いません」

「二人で誤らなくっていいよ・・・お二人の責任じゃないんだから・・・まあ、御社を代表して来てくれてるんだろうけど・・・で、

どういう手順でやるの?」

「お辛いでしょうけど、もう一度現場をご確認頂き、家財、ご家族の持ち物で残っているもの・・・焼け残ったもので、これも中々お辛いかも知れませんが・・・」

「そうだよなあ・・・とにかくショックできちんと見てないからなあ・・・ひょっとして思い出のものの、破片かも知れないけど、残っているかも知れないもんなあ・・・もういちど見たほうがいいよなあ」

「お願い致します」

「それで心の整理をつけて一気にきれいにするかあ・・・崩れたりしてお隣にご迷惑掛けてもいけないからなあ・・・皆でお別れしよう」

「すみません」

「で、次は何するの?」

「ご被害の内容を確定させて頂く作業が御座います」

「家以外にも家財ということだったら大変な数だよ・・・」

「はい。大変お手数になりますが、その作業にご協力願いたいと思います」

「ふーん・・・で、具体的にどうするの?」

「弊社が契約している保険会社・・・日本東京海上火災ですが・・・ここの担当者と鑑定士が協力を致します」

「こういう時のために保険に入ってるんだ」

「ええ、PL保険です」

「ふーん・・・ということは、企業は、あんまり腹は痛まないんだ・・・」

「いえいえ、そんなことはないんです・・・PL保険の掛け方もいろいろあるのですが、

事故の補償の費用対応という考えも正直なところありますが、その費用によって経営に影響が出ることを防ぐためや、或いは、補償費用を払えなくなってしまってはまずい・・・

「そんな会社は、はなっからその保険に入らないんじゃない?」

「まあそうですかねえ・・・補償費用の規模も事故の規模によって変わりますが、保険金額を上回れば自社で支払わなくてはならないし、リコールに関わる費用・・・記者会見や社告の費用、回収の実費、人件費・・・自ら招いた結果ですが大変な負担です・・・もっとも痛いのが失う信用です。ブランドの失墜を費用換算すると大変な額になります・・・

すいません・・・こんなこと愚痴る立場ではないのですが・・・」

「ふーん・・・保険に入っていても大変なんだ・・・保険で全部賄えないんだ・・・」

「全て保険対応するとなると日頃の掛け金が莫大になります」

「だからということではなく、お客様にご迷惑を掛けないということを当然に、積み重ねてきた信用をこれからも積み重ねていくために事故は起こしてはいけないのです。だから品質は重要なのですが・・・さらに、一度起こした事故は誠心誠意対応しないと受けるダメージは益々大きくなるということなのです」

「なるほどねえ・・・アメリカなんか大変なんでしょう?」

「ええ、企業が負う損害賠償額は莫大というか尋常ではないです・・・何百億円というのもあります」

「日本でも製造物責任法・・・PL法が施行されて企業の責任が重くなりました・・・大手販売店や通販との契約ではPL保険の加入が条件となっています」

「へえー。なるほどねえ。俺ら地方の公務員からすれば遠い話だなあ・・・で、その被害の確認作業だけど、具体的にどうするの?」

「はい。その保険会社の鑑定士を連れてまいりますので、それから作業を始めることになりますが、まず、被害品を書き出して頂くことになります」

「被害品って、細かいものもあるよ」

「はい、全て書き出して頂きます。お手数ですが・・・その・・・靴下やハンカチ一枚にいたるまで書き出して頂きたいと思います」

「お金では換算できない価値を持つものもあるよ・・・」

「それも、一つのモノとして書き出して下さい。その上で注記して下さい・・・あとからのご相談になりますが、慰謝料の中でお支払いすることになると思います」

「その計算はどうするの?」

「はい、それは、私どもも何分初めてのことですので保険会社の担当から詳しくお答えしますが、損害賠償責任について法律の定める範囲・・・判例がひとつのガイドラインになりますが、その事例によって個別にご相談しながら進めるということになります」

「ふーん。そうすると、結構気が長い話にんるねえ・・・」

「お手数お掛けします・・・」

「お金は、幸い、俺もカミサンもキャッシュカードを持って出掛けていたから・・・あいつも現金のへそくりはなかったからよかったけど・・・何とかなってるけど、新たに買ったものなんかどうなるの?」

「はい。領収書は全てとっておいて下さい。精算する際に必要となると思いますので・・

・」

「『思います』って、全額払ってくれないの?」

「その辺も保険会社が詳しく説明致しますので少しお待ち下さい」

「大丈夫?何か不安だなあ・・・」

「すみません」

「とにかく自分の家でゆっくりしたいよ・・・」

「書き出してリストにして頂く表を送りますので、お手数ですがおつくり願いますでしょうか。家屋は、お建てになった工務店に尾と居合わせて頂き、図面、売買契約書があればそのコピーを貰って頂けませんでしょうか

・・・もし宜しければこちらで対応致しますが・・・」

「火災保険はお入りになっていたでしょうか?」

「いや、入ってないけど・・・入っていたらどうなるの?自分の保険で賄うの?」

「・・・ええ、お入りになっている保険会社が対応し、その保険会社が当社に求償してくる・・・掛かった費用の支払いを求めてくるということになります。それで、当社は、当社の保険で支払うことになります」

「なるほどねえ・・・でも、こんな事故が続いて支払いが増えてきたらどうなるの?保険金だって限度があるでしょう?

「ええ、あります。保険金を使い切ったら、自社で負担してお支払いすることになります」

「じゃあ、小さい会社じゃもたないなあ」

「手前どもにとっても大きな負担になります

。費用よりも信用や社会的責任が先にくるのですが、だからこそ品質には細心の注意を払わなければならないのです・・・しかし、今回のようなことを起こしてしまったので・・

・」

「まあ、とにかく、こっちは一時はどうなるかと思ったけれど、それで、お宅の商品が原因だって聞いて頭にきたけど、こうやってそぐに来てくれて、丁寧に説明してもらったので少しは気が楽になったよ・・・」

「恐縮です・・・」

「対応宜しく頼みますよ!」

「はい。私が長田様の担当としてきちんとやらせて頂きます」

「石川課長さん・・・ね。本当に宜しくね!

平尾さんは部長さんだからこういうのを統括されてやられるんだ・・・」

「石川が日常的な窓口として対応させて頂きますが、何か御座いましたら直接でも全く問題御座いませんので、私までご連絡下さい」

「部長さんと課長さんお二人で対応して頂けるということでしたらきちんとやって頂けるのでしょうから・・・」

「はいそのようにさせて頂きます」

「じゃあ、こっちは、その被害品のリストを作っていくことにするか・・・」

「お手数お掛けいたします」





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