山野電機香港法人から深圳工場のオペレーションの確認
(19):インスペクション オブ「香港―深圳」オペレーション
「デービッドさんお早う御座います」
「お早う御座います。平尾さん、杉江さん、皆川さん、ご無沙汰しています・・・吉川さんも近くにいるのに全然会いませんねえ」
「本当にねえ。最近、フェリーは使わないからねえ。以前はオーシャン・フェリー・ターミナルで良く会ったのにねえ」
「吉川さんみたいな偉い人は現場には行かないんじゃないですか?」
「いや、結構シンセンには行っているつもりだけど・・・そんなことはないよ。うちは社長だって、本社の社長だってすぐに現場に行くもの」
「ああ、そうですか・・・ところで、このたびは、私どもで作った商品で、大変な迷惑をお掛けしているようで申し訳御座いません。金曜日に中川部長から連絡がありました。昨日も連絡があって明日、中川部長と設計の渋川部長もこちらに来るとのことです」
「重い腰を漸く上げるのね」
「反応悪いですか?」
「悪いよ。自分たちの問題¥じゃないって感じだよ。全て香港の問題だって感じよ。デービッドさん、やばいよ」
「仕様や、品質に関しすることはは、私の一存では出来ないことになっています。こちらでは決められたものを決められた通りに手配しています。ただ、製造の波によって在庫の調整をするために発注や納期の調整とそのための価格の交渉をしたりしています」
「それで、トランスとポッテイング材が我々の知らないうちに変更されていて、これがどうも不具合の原因になってんだけど、変更したの?」
「ええ、去年の11月から変更しています」
「じゃ、工場サイドで勝手に変えたとか、部材の管理が悪くて使い間違えたとか、製造ラインに混じったとかっていうことではなくて、指示で変えたのね?」
「ええ、そうです」
「デービッドさんの指示?」
「部材の手配と製造現場へのオーダーは、私ですが、変更の判断は私には出来ません」
「じゃ誰?」
「誰って・・・米沢本社の判断ですけど・・・」
「おかしいなあ。米沢本社に確認しても要領を得なかったけどなあ」
「変動手続きはしていますよねえ。我々のところには報告がないのだけれど」
「していると思います」
「5M変動してから変更したんじゃないの?」
「してから変更の指示があったと思います」
「でも、デービッドさんは、その報告を聞いていない?」
「聞いていません。が、変動手続きは済んだと思っていました。でも、あのトランスとエポキシは実績があるから安全で問題ないです」
「実績って、どこの商品で使っているの?うちでは使ったことがないけど・・・」
「アメリカに出している、防水式充電式懐中電灯の充電器です。大体年間20万台位3年間販売してきましたが一回もトラブルはないです。安全な部品です」
「問題はなかったんだろうけど、設計条件が変わればそれも変わるよ。もちろん知っていると思うけど・・・」
「で、そもそも何で変えたの?部材が手に入りにくいってことはないでしょう?」
「コストダウンでしょう?」
「コストダウンというよりも、同じ性能であれば同じ部材にすれば手配、在庫。コストの管理上メリットがあります」
「そうだと思うけど、顧客認定も無くやるのはまずいよ」
「ええ、すみません・・・でも、私にはその辺の事情はわかりません。本社からの指示で動いていますので・・・」
「それで、昨年の11月に変更して以降は更なる変更はないですか?」
「ええ、先週末にラインを止めるまで同じ仕様です」
「組み立て工程も?」
「工程も自工具も量産開始以来変わっていませんが、ポッテイングの拡はん器は、ウレタン用からエポキシ用に変わっています」
「品質管理項目も変わっていない」
「変えていません」
「これは本来なら変えなくてはいけないのじゃないの?勝手に変えてはまずいけど・・・」
「コストは変わっていますよねえ?」
「ええ、それは・・・少しだけ下がっています・・・しかし、懐中電灯の充電器では全く問題ないのですが・・・」
「我々の試験で検証できているよ。後で詳しく説明するよ」
「それで、今日は?」
「11月の仕様変更前後から部材の調達、製造、出荷、在庫をトレースして事実を確定。そして対象商品の確定。今週金曜日のリコールの記者発表の内容に間違いのないようにしたいのです。明日、シンセン工場でも同じ作業をさせて頂き、加えて、受け入れ検査データー、製品品質データー、現在庫の状況を確認させて頂きます。そして、今晩、うちの米沢から4人が加わりますので、明日以降、代替品クレードルの製造を進めたいと思います」
「我々が作ってもいいのですか?」
「それが一番メイクセンスだと考えました」
「但し、調達から出荷までの製造管理は、当社社員が駐在して行います」
「はいわかりました。でもリコール数量はどのくらいなりますか?」
「作っている人に聞かれるなんてまずいなあ」
「すみません」
「デービットさん!16万台だよ。自動車なんかと違って販売記録がないから大変なんだよ」
「申し訳ありません」
「じゃ、それぞれの記録を見せて頂けますか?」
平尾、杉江、皆川は、3人で手分けして各帳簿を調べた。トランスについては、日系の日創電子から台湾系のタイガー電子に変わった日から最新のロットまで、仕入れと製造での使用をトレースした。また、ウレタン材については、仕入れた量と使用した量がロットに見合うかを確認した。即ち、仕入れたものが何時の製造に使われたかを確認した。加えて、他の部材についても報告のない変更がされていないかを調べた。さらに本社工場とのコレポンについての閲覧は、デービッドはさすがに官憲の査察のようで、そこまでされなくてはいけないのかと抵抗したので、それでは、材料変更に関わる本社とのやりとりだけでも見せて欲しいと要求したが、メールと電話での指示で正式な指示書はないという。3人は、そういった関係のコレポンも何処かのファイルに隠されている、或は紛れているかも知れないと想定しながら調査を続けた。
一通り確認した結果、仕入れ、在庫、製造、出荷に関する記録は、様式通り丁寧にファイルされていた。内容は、何れもシステムに保管されているデジタルデーターと相違はなかった。3人は不思議であった。このように、製造の業務品質を理解し、決められたプロセスに逸脱することなく業務を進めることを理解している山野香港という職場で、あやふやな材料変更が行われたということに違和感を持った。
彼らの製造に関する理解が足らずに勝手に独自で行ったということはこの仕事振りからは創造できない。ならば、やはり米沢本社からの指示で動いたのであろうか。米沢でのあいまいな応対は、そういうことなのだろうか
?。しかし、山野電機の米沢本社の業務管理は、ISO9001を取得していることを持ち出すまでもなく、システムとして今起きているような問題は発生する余地はないはずである。さらに、業務の仕組み以前の問題として日本の製造メーカーで、中小と言えども、山野電機程の実績と規模を持つメーカであれば、不明確な部材の変更というような、もっとも基本的なことを逸脱するようなことなど起こるはずもない。ここ数年の山野電機の仕事振りに問題は見られるものの、そのようなことが起こるはずのない低レベルのことである。
しかし、現実的には起こっている。今日山野香港の記録を確認し、明日現場を山野シンセンの現場を確認して事実を確認すれば、製造プロセス管理の問題と、現状の問題を解決し、本来あるべき製造のプロセスに修復することが出来るが、果たしてそれで良いのであろうが?この発生した問題の根はもっと違うところにあって、ひょっとすると性質の悪い根の深いものかもしれない。それを確認しないことには本質的な問題の解決に至らないのではないか・・・そんな中で代替品の製造をして新たな問題を抱える被害を大きくする可能性はないのか。平尾は、そんな不安を感じた。これが、松本が言う「山野電機の本質的な問題」というものであろうか・・・。その本質を見極めないでリコールを実施することは、局地戦において周囲を固めないで中央突破するようなものだ。そんな危うさを平尾は感じた。
夕刻、平尾は東京の芦田に調査の報告をした。山野香港の書類を確認した範囲では、昨年11月以降の製造に関しては自分達の仮説通りの仕様で製造されている、即ち、トランスとポテイング材が変更されていたということが確認できたということを報告した。明日、製造現場での確認は行うが、社告内容に関しては先週末に決めた内容で問題ないのではないかという意見を伝えた。
経済産業省への届出、新聞等媒体社告、流通への案内などの印刷物の手配を考えればタイムリミットであった。芦田によれば、すべて手配済みで、平尾の調査で新たなことが見つかれば手配を止めて修正するつもりで進めていたということであった。とにかく、週が開けて各準備課題について各方面に確認したところ、当初予想通り金曜日の記者発表に向けては、全ての準備に時間の余裕はないということが改めてわかったとのことであった。
そして、芦田が悪い知らせとして最後に話したのは、さらに2件の発火が確認されたということであった。いずれも週明けの朝一番に名古屋と広島の販社の窓口に問い合わせがあり、販社の方で対応しているとのことであった。幸い人身に至っていないとのことであったが、やはりリコールが急がれる状況になったと芦田は言う。原因が解明されたといっていい状況で金曜日までリコール発表しないのは、告知がきちんと行渡るように準備しているからであるけれど、その間お客様を危険な状況に晒すことになる。企業としては、何はともあれ今すぐに使用の中止を訴えるべきではないかという思いもあるとのことであった。
本日中に両販社からの報告がありその内容しだいであるが、松本常務、石塚社長の性格からして直ちにリコール発表ということもありえるのでその心積もりもしておいて欲しいと告げられ芦田との電話は終わった。
夕方ホテルに戻り、後続部隊として日本から来た4人と合流した。後続部隊は、米沢工場製造部統轄部長の豊田、米沢工場モバイル
・オーディオ技術部品質管理グループ品質検査チーム課長の前田と係長の小林、モバイル
・オーディオ技術部購買グループ課長の佐久間の4人であった。これで、商品企画、商品設計、製造管理、製造設計、品質管理、購買の専門家7人体制で対応することになった。
それぞれ中国製造に関して豊富な経験を持っている。香港、中国への出張も数知れず経験している。吉川を加えた8人は、ホテルの裏にある日本食レストラン「浪花」で夕食をとりながら明日からの作業を打ち合わせた。
「しかし、変ですよねえ・・・やったことは製造メーカーとして無茶苦茶だけど、製造管理はきちんとしてるんですよ・・・」
「でも、設計変更、部材変更に関して香港と米沢がやりとりした様子が見当たらないんだ
」
「全くですか?」
「デービッドの話を聞いていると、メールや電話でのやりとりはあったようなのですが、記録がない!」
「じゃ、香港サイドが勝ってにやったってことではなく、山野本社も知っていたってこと
?」
「そういうことなんだろうけど、米沢の方もあやふやなんだ」
「米沢があやふやって・・・少なくもISOの手順云々以前に、山野電機程度の会社でそんな仕事の進め方が起こっていいはずないし、起こるはずないと思いますけど・・・」
「なっ、そう思うだろう」
「嘘ついているのですかねえ?」
「嘘ついているっていうか、何か隠している
・・・同じだけど・・・」
「まだ我々に言ってないことありますね。確実に!」
「うん」
「同じフライトだったのでしょう?」
「ええ、品質管理の中川部長と営業の石川部長と成田のゲートでお会いしました」
「何か言ってた?」
「いやあ・・・今回は大変ご迷惑を掛けているってことと、全力で挽回するってこと・・
・我々にも手数掛けさせて申し訳ないってことをおっしゃってました」
「営業担当と品質管理担当に部長二人、それも部長だけで現場を動かす担当が来ないってのもどうかと思うなあ・・・」
「これから来るのでしょう」
「やはりコトの重さがわかってない・・・」
「温度差ありますねえ」
「山野さん、どうしたのでしょうねえ。以前はもっと現場的で、緊張感あってフットワーク良かったですよねえ」
「そうなんだけど・・・」
「それで、こういった状況で明日からどうするかだけど・・・」
「明日は、不具合の件と代替品の製造の2班に分れましょう。杉江さんと私が朝一でシンセンに行き、山野シンセン工場の現場を確認します。山野香港での製造管理と現場の製造に違いはなかったか。そして部材、仕掛、完成品在庫について現物確認します。あと、製造再開についての課題を確認します。豊田さんの方は、山野香港で代替品の製造準備をお願いできますか?」
「OK、じゃ、残りは、デービットとあちらのスタッフを入れて、部材の在庫を確認のうえ、初期40000個分の部材の緊急調達を確認。日程は部材の入荷によるんだろうけど、製造プロセスの確認をする。当初承認した仕様で量産試作し、品質試験を行って承認し量産に入るプロセスを、どうやって短期で行うかを相談し、明日シンセン工場の現場を確認しながら現場スタッフと打ち合わせて最終決定しよう」
「あと、郵船香港で出荷を止めしてある貨物と在庫の確認があるのですが、吉川さんのところのどなたかお借り出来ませんか?」
「OK。いいよ。誰もいなければ私が行くことにするよ。青田社長にも用事があるし・・・」
「お願いします」
「しかし、山野さんどうしたんですかねえ。本来こういったことは、うちが数量と日程の希望を伝えたら、予定を組んで提案してくるってのが普通でしょう?」
「今回も、品質管理の中川部長と営業の石川部長の二人しか来ていませんし・・・」
「今回のような状態であれば、提案を受けても、結局、ウチが現場で確認して承認してた立ち会って指導して進めるってことになるんだよ」
「そうでしょうけどねえ」
「でも、山野さん、今回のそもそもの不良のことに加えてこの対応じゃあ、今後お付き合いは厳しいでしょうねえ」
「一郎さんが亡くなって、弘さんが経営に動き出してからおかしくなって来たんだよ。戸塚さんが設計で睨みを効かせていた時は、弘社長も押さえが効いていて勝ってなことをしなかったんだけど、戸塚さんが辞めてからは好き放題だよ」
「本人はまじめにビジネスやっていると思っているんだけどね」
「現場は、まかせっきりで海外OEMに掛かりっきりですよねえ」
「豊田さんなんか製造を見てられるから、その辺は一番感じられるんじゃないですか?」
「ああ。でも、あそこにも蓄積があるから、まだ製造品質を保ってるけど、実際は、ウチの奴らが出向いて結構支えているところもあるんだよ。向こうの部長達は社長のご機嫌ばっかり気にしているから・・・まあ、地元のあの程度の企業ではいた仕方ないとこもあるけど、それも程度の問題だよ・・・大体なんで若手の教育まで何でウチがやらなくてはいけないんだって思うけどね。ホント戸塚さんが辞めてから一気に・・・って感じだよな」
「戸塚さんは今何されているのですか?」
「昼は、好きな絵を書いたり木彫りをして、夜は奥さんと民芸居酒屋をやって悠々自適みたいですよ」
「へえーいいですねえ。そういった人生」




