部材を調達し、製造をしている現場を確認するために香港、深圳に出張!
(17):香港、深セン出張
香港は、旧空港時代も入れて、恐らく150回以上降りたことがあると思われるが、今回ほど思い気持で来たことはなかった。33カ国100都市以上の出張経験を持つ平尾であったが、香港の雑多な活気は嫌いではなかったが、その雑多な感じも活気も感じないまま、杉江と皆川とともにチムサッチョイのハイヤットリージェンシーホテルにチェックインした。
杉江も皆川も、製造打ち合わせでこちらへの出張は豊富であったが、平尾と同じフィーリングであった。
「飯は、機内で食べたけど、軽くつまみながらちょっと飲む?」
「そうですね。明日の確認も少ししておきましょうか?」
「じゃ、2階のラウンジが静かでいいんじゃないですか?」
「そうしようか」
5月16日(月曜日)朝9時、香港Xのゼネラルマネージャー吉川が3人をロビーに迎えにやってきた。吉川は、米沢工場に入社して暫く製造管理を行っていたが、海外製造の尖兵として香港、中国、シンガポールに駐在して現地工場の立ち上げを行ってきた。1989年の天安門の時、平尾が担当していたCカセット型ローエンド携帯オーデイオのための中国工場を現場で立ち上げたのも吉川であった。吉川は、平尾より5歳上で学生時代はサッカーをしていた。同じ運動部出身で、所謂体育会系のメンタリテイーで互いに馬が合った。吉川は、東南アジアを転々とした転勤生活から一度米沢に戻ったが、拡大続ける中国生産に対応するため。2000年より再び香港駐在となり、シンセンから広州に至る5つの自社工場を統轄管理していた。
「平尾、おはよう。杉江も、皆川も眠れた?昨日は失礼したけど問題なかった?・・・皆、こっちは慣れているから問題ないはな!」
「ワインでナイトキャップしてぐっすりです。
・・・課題が課題だけに酔えませんが」
「おい。気弱じゃないか。こういうのは、普通に正面から行くのが一番に決まっている。
特別な対応しても上手く行かない。何時も通りが一番なんだ」
「そうですよね!」
「じゃあ行くか。玄関に待たせてあるから」
「エルグランド!新車じゃないですか。前のエステイマから変えたのですか?」
「あれも使っているけど、現場のVIP用に買ってもらったんだ。広州と香港間での機動力アップよ!・・・で、今日、山野香港でやることは?」
「ええ、事実の確認です。不良品の生産は、昨年の11月以降ですが、まずそれが正しいかを確認します。その確認は、部材の発注、即ち、ポッテイング材としてのウレタン材の仕入れ実績と問題となっているエポキシ材の仕入れ実績です。さらに、トランスの変更についてです。何時、日系の日創電子から台湾のタイガー電子に変えたかです。材料の変動の時期を特定します。そして、変動後の仕入れと製造手配、製造リポート、出荷実績、品質リポート、部材の手配と使用実数と現在の在庫を確認して、変動後の商品が、不良とは言え、同じ仕様、同じ品質基準で製造されて出荷されたかを確認します。製造不良の内容、条件を確認しないと発火のメカニズムが確定されません。これが検証されないと、今考えている対策が正しい手と言えなくなります。
次に、対策品の製造の可能性です。対作品のクレードルは山野シンセンで対応しようと思います」
「取引停止にはしないの?」
「そうしたいし、本来ならそうなるのですが、
リコールで必要な代替品を早急に手配するには、それが一番良いということになりました。もちろん、条件はあります。まず、量産承認した仕様の部材を手配することが出来るかということです。そして、量産承認した工程で製造をして品質確認して出荷することが出来るかということを確認します」
「一度変動しているから、再度量産承認のプロセスを経なくてはいけない」
「それなんですけど、本来の量産承認と同じ手続きが必要でしょうか?」
「内容次第じゃないの?杉江はどう思う?」
「品質規定から言うと、厳密に最初からやり直しになりますかねえ。何せ、半年以上経っていますからねえ・・・」
「そうか・・・そりゃそうだよね・・・」
「何れにしても山野香港と山野シンセンで現場も含めて事実を確認しないといけません」
「ただ、現実的には、金曜日から製造は止めていますが、金型は山野シンセンにあって成型品は内製ですし、その他パーツの在庫と購買ルート、ワーカーの手配や教育を考えれば工場を移すのはメイクセンスじゃないでしょう?」
「そりゃそうだよ。うちのシンセンの何処かにラインを設けるのは出来るけど、その手配こそ一からになる。変動プロセスを全てやらなくてはいけない」
「事実の確認をしていないので、たぶんですけど・・・、トランスとエポキシでのポッテイング以外は、製造プロセスも製造管理も変わっていないはずだから問題ないと思うのです・・・当社が製造管理することで対応できる状態か、管理体制もひどく緩んでいて、対応に時間掛ける位なら新規にラインを組んだほうが早いしコストも掛からないし品質も安定する場合もある」
「いずれにしても事実を確認しましょう」
「で、代替品を前提に製造の可能性を探るということだね」
「そうです」
「米沢からの2次部隊は夕方に着く?」
「ええ、それで手配していました。後で確認します」
「課題として、もうひとつあるのは、今回の部材変更が何故なされたかと言うことです。
デイビットは、5M変動について分かっています。なのにその手続きを経ないで変更したかということです。現場が勝手にやったのか、それなら製造管理が出来ていないことになりますし、山野本社の現地法人の管理能力の問題にもなります」
「付属品と言えどもそんな会社に製造を任せて良いのかと言うことにもなりますし、当社の協力工場の管理課題も出てくると思います。さらに、今はリコール対応優先で進めていますが、製造物責任について確認しなくてはなりませんし、山野の規約違反、即ち契約不履行についての確認もしなくてはいけません」
「OK。今日は、山野香港で、インタビューと書類で確認し、明日は、山野シンセンでインタビュー、書類と製造現場確認をするということだね」
「そうです」
「それと、明日は、部材在庫、指定外トランスとエポキシ材、それに仕掛品在庫、完成品在庫の別管理もしなくてはなりません」
「フォワーダーのところに出荷待ちの在庫はないの?」
「それも確認しなくてはなりません。あれば、郵船航空に連絡して別管理しなくてはいけません。部材、半完成品、完成品ともに不良品は別管理し混入を防がなくてはいけません」
「課題と作業はそんな感じだね。了解した。
人手が要りそうであれば、すぐにうちから出すから言ってくれ」
「有難う御座います」