製造責任はだれ?
(15):製造責任
「ご苦労さん。進め方についてはかなり見えてきたんじゃないか」
「ええ、そのように思います。作業も具体的になってスピードも上がると思います」
「香港、中国の件だが、山野電機の米沢はまだ誰も現地に行っていないみたいだけどどうするのかなあ。有川のところに何か連絡あった?」
「いえ。昨日の様子ではそんな感じでしたし、その後どうするっていう連絡も受けていません」
「山野さん、どうしたのですかねえ。戸塚さんが居られた頃なら、即現場に行って、当社よりも先に原因を見つけて、対策と対応の案を持って謝罪に来て、当社と善後策を考えるといった対応をしているはずなんですがねえ。
どうしたんでしょう」
「まあ、休みなしで大変だけど、発火のメカニズムは昨日から続けている品質試験で技術的には裏付けられるのだろうけど、そのメカニズムに至るミスが、実際の製造過程で起こったんだという事実を確認して再発の防止と改善策を見つける。そして、その前提で代替品となる対策品の製造の体制をつくる・・・山野電機の現場に立ち会うとか支援するっていうスタンスではなく、1歩も2歩も踏み込んで自社工場のような感じで監督管理して対応して欲しい。山野電機も異論はないはずだ。しかし、現地の現場担当者や本社から課長レベルの人が出張派遣してきた時は、彼らのプライド、立場にも気遣って動機付けて進めるようにして欲しい」
「了解しました。しかし、こんな問題を起こした山野電機に対して至り付くせりですね。
製造体制の整備から社員教育、動機付けまで配慮する・・・」
「ああ、それがこの当社の危機に対処するのに一番良い道だし・・・それに、私は山野電機にまだ期待したいし、責任を果たしてもらうためには頑張って元気で居てもらわなくては困るんだよ」
「ということは、この責任問題は徹底的にやられるわけですね」
「徹底的というよりも正しく処理するというのかな・・・製造者責任を明確にしなくてはいけない。お客様にお売りしたのは我々だから、お客様に起きる問題は全て我々が対応しなくてはならないが、その不具合を持つ商品を製造した我々に落ち度はなかったか、法的責任はなかったかということだ。実際に組み立てたのは山野電機ではあるが、我々は山野電機を使って製造したのであるからそのプロセスに落ち度があれば我々の責任も発生する。
社会的評価は、仮に100%山野の責任であったとしても、世間は情状酌量してくれるだろうが、実際ブランドに対する信用は落ちることになる。これも営業的、経営的には問題であるが、法的責任についてははっきりしておかなくてはいけない。コンプライアンスの問題だ。お客様に好評している仕様と違う商品をお売りすると言うには契約不履行であるし、詐欺的販売をしたことになる。さらに、それで生命財産に損害を与えたとすれば社会的評価ではなく社会的責任となり法的責任をとらなくてはならない。その場合の事業上、経営上受ける影響は大変厳しいものになる。
さらに、前にも言ったけど、創業以来の日々の我々の働きが否定されることになる。それは、この会社の風土からいって、どこの会社でも本来そうだろうけど、耐え難いことだ。
だから、あいまいには出来ない。そして、費用についても結構な金額が掛かる」
「最初の社告だけで2億円近く掛かると思いますます。その他流通対策、回収費用、コールセンター、代替品コスト、物流費用などざっと見ただけでも10億は覚悟しなければなりません。不具合が多発したり事故が発生したらさらに5億、10億掛かるでしょう。PL保険のカバーしているのは、常務が会議で仰ったように事故に対する対応だけです。事故のことは考えたくありませんが・・・それに、この費用には、我々の人件費用や、事業に対するダメージ、一番大きいブランドダメージについては入っていません」
「ブランドの損失はどのように計算するのか知りませんが、まともに計算すれば、数十億円、ひょっとすると百億円ってことになるんでしょうねえ」
「ああ。仮に我々に落ち度がないとして山野に請求するとしても実費は請求したい。だから彼らには元気でいてもらいたい。それに、万一事故が発生しPL保険を使うことになれば、法的責任がはっきりしていないとどちらの保険を使うか決まらないだろう」
「顧問弁護士や法務部の見解はどうですか」
「製造物責任法では、当社が法的責任を負うわけだそうだ。お客様は当社の商品であると認識して買っている。実際の組み立ては山野電機であるが、お客様はそんなことはわからない。OEMやプライベートブランド商品のケースだ。与えた損害は、民法上の不法行為にあやるということだ。従って、事故が発生した場合やそれを予防するための費用は当社が負担しなくてはいけない。しかし、その発生に至る因果関係から当社に問題がなければその費用を求償することになる。当社の設計
により、当社が指示した、或いは承認した方法により製造した上で不良が発生した場合は、当社の責任であろうし、両者協議で行った場合は、その責任の比重についての判断が必要となる」
「今回の場合、当社の承認した仕様を無断で変更し報告もされていません。ということは100%山野電機の責任ということでしょうか?その責任を追及する法的根拠は如何なりますか?」
「山野電機とは売買契約の不履行ということになる」
「契約内容と違う商品を販売したということですか?」
「そうだ」
「契約には我々の『受け入れ検査』というものがあります。期間内、2週間ですが、その期間に検査してクレームしない時は商品の返品を出来ないことになっています。倉庫での入荷検査は、抜き取りによる外観だけで、その後品質管理の方で性能試験を行っていますが、2週間以内では終了していません」
「倉庫での受け取り検査は通常外観で確認する程度のものという認識だそうだ」
「そうすると、山野電機とはその辺の申し入れ、交渉が出てきますね」
「ああ、それだけに、なぜ今回のような単純な間違いが現場で起こったのかということとその範囲を明確に確認しておきたい。昨日、有川と山野本社に行った時の私の感だが、何か隠しているような気がしてならない。どうもその辺が気持ち悪いので出来る限りのアクションを行ってすっきりしたい。これも感だけど、こういった時は現場へ行けば何かでるはずなんだ。今回の対応を見ていると、部長、常務、社長といった幹部社員や経営の対応もおかしい。出てきたのは、品質管理の中川部長と営業の石川部長の二人だけだ。こういった問題でこの二人しか出てこないと言うのは辺だろう?」
「ええ」
「たぶん、課長以下現場は、香港やシンセンのローカルも含めて地道に仕事をしていると思うんだ。そういった人たちを責めるのではなく、動機付けしながら挽回に向けて進める一方で、事実は事実として確認して欲しい。
わかっていると思うが・・・うるさく言って悪い・・・」
「いいえ」
「平尾、頼むよ。香港の植田社長には連絡を入れておいた。山野シンセンでの製造は現地法人を通していないけど、協力は惜しまないということだ。吉川GMが同行してくれて問題あるときはさらにスタッフをつけてくれるそうだ。手数がいるときは遠慮することはない」