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リコール  作者: 別当勉
11/33

X社のプロフィール

(9):X社


 松本は、経済産業省から汐留の自社へ戻った。オーデイオ事業部長の松本は、モバイルオーデイオ(MAM)にホームオーディオ(HAM)とプロオーディオ(PAM)を加え3つのマーケテイング部を統括していた。リコールが始まると、しばらくはMAMに掛かりっきりになることが予想されたので、今時間があるうちに他の2部の案件を対応しておきたかった。

 オーデイオ事業は、蓄音機の輸入で始まり、高音質を再生する独自の技術開発を進め音の世界で新境地を開き、自社商品を製造販売することにより業績を拡大することができた基盤事業である。

 ホーム・オーデイオ・マーケテイング部。通称HAMは、『上質な音の空間による生活創造』といった事業コンセプトを掲げ、コンポーネントオーデイオやホームシアター用オーデイオといった商品のマーケティングを推進している。デジタル技術革新が急速に進む中で、オーデイオもPCやインターネットとの連携が重要な課題となっている。そういった中、ハードメーカーは、それぞれが得意とする電気電子技術の要素を武器に付加価値を明確にして「もの作り」を行っている。

 プロ・オーデイオ・マーケテイング部。通称PAMは、放送、ホール音響、ステージ音響、録音スタジオ、商業施設の音響機材のマーケティングを推進している。クラシック音楽からロックンロールまでプロ・ミュージシャンの録音でのX社に対する実績と評価は、アナログ録音からデジタル録音に変わる頃から高まってきた。「音質」に対するこだわりはは、創業以来に哲学である。それは、創業からしばらくは家庭用のラジオ、ステレオ、テレビの商品で発揮されてきた。しかし、出力音質にこだわるならば入力音質にこだわるべきという当然の理屈でプロ・オーデイオの領域にも進出し推進してきた。この事業は、商品やサービスを創り販売し利益を出すという、事業として当然の役割を果たして経営に貢献するミッションを担っているが、更に自社が扱う全ての商品の品質を主とする価値、ブランド、企業文化を広く社会や市場に発信していく広報のミッションを担っている。即ち、有名なオーケストラ、ミュージシャンの録音やコンサートがXのPA機材を使って行われている・・・その信頼性が、まず商品の音質に対する信頼性につながる。

 加えて、オーディオ・ビジュアルと言われるように、両社はシナジーを発揮できる付加価値で、テレビの登場で消費者が享受すべき価値となり、X社もテレビ事業に参入し「ビジュアル事業」がスタートした。

ビジュアル事業部は、「録画された『その映像』を『臨場感』を持って高画質に再生するか」をテーマに、表示媒体としてのブラウン管やLCD要素の技術開発を積み重ねながら家庭用のTVモニター、PC用モニター、屋外の大型表示板、その他様々なモノに使われるコンポーネントとしての表示体の商品を展開して事業を伸ばしてきた。オーデイオ事業部とは、ホームオーデイオのマーケテイングにおいてはホームシアターの領域でシナジーを発揮し、PAのマーケティングにおいては、スタジオや屋内外のステージ、スタジアムなどの大型表示板音響設備の領域でシナジーを発揮してきた。

 要素技術がアナログからデジタルに変遷するなかで、コンピュータや通信機器のコンシューマ化が進みパーソナルコンピュータや携帯電話が登場し、音と映像はその魅力や価値を高める機軸の要素となった。

その変遷は、音で創業し映像を加えオーデイオ・ビジュアルの領域で専門性を発揮してきたX社にとっては、そのリソースを発揮してコンピューターや通信機器の世界で事業領域を大きく広げるチャンスをもたらした。

そして今、全社をあげて取り組むミッションは、「『音の美』と『映像の美』の『創造とコミュニケーション』」である。即ち、音と映像の価値を創造しコミュニケーションの魅力を創造することで、商品やサービスを通じて創造した価値を提供することがミッションである・・・ということである。

 音と映像のデジタル化を進める過程でコンピューターや通信との融合の可能性を嗅ぎ取ったX社は、それぞれの専門領域での実績はなかったが、コンシューマ領域での展開を狙ってモバイル事業とパーソナルコンピュータ事業を多角化事業としてスタートさせた。それは、1980年代の後半で競合より少し遅れた参入であったが、蓄積した音と映像の技術を活かすことにより差別化した価値を持つ商品やサービスを提供できるという経営判断に基づくものであった。

モバイルフォーン=携帯電話事業は、X社が強みを発揮できるオーディオ事業で培った高音質とビジュアル事業で培った高品質の画像を徹底的に活かした高付加価値をアドバンテージにした商品やサービスで、業界のトップではないものの音や画質にこだわるユーザー層に強い指示を得て確固とした業界での地位を築いてきた。即ち、鮮明で高精細な画像が、日常的に使う「待ち受け画面」や「機能表示画面」の質感を高め、加えて「インターネット」や「デジタルフォト」使用時のパフォーマンスを高めた。そして、地デジ対応モデルの登場により、動画が使用されるようになると、デジタルビデオやテレビ放送を楽しむためにその技術上のアドバンテージを更に生かす事業戦略が進められた。また、「音質」は、使用者が電話音声やテレビ、ラジオ、MP3といった機能を高い満足感を持って使うための必須の要素であり、その質を高める技術は画像品質の場合と同じく商品の付加価値を高める大きなアドバンテージである。モバイルフォーン事業は、この2つの技術要素を戦略の軸に競合と差別化した市場ポジショニングを確立し堅調に推進されている。

PC事業部は、全社ミッションである「音の美、映像の美の創造とコミュニケーション」を推進するためのブラットホームツールとしてのパーソナル・コンピューターを市場に提供する役割を担っている。つまり、X社が提供する価値としての「音と映像」を作り、加工し、他のデジタル機器とのデーター交換をインタフェイスし、データーを保管して楽しむために中心となる道具である。従って、X社が商品やサービスを通じて提供する音や画像の価値を高め、拡張性を高める役割を担っている。その役割を果たすことで、競合の厳しいPC市場のある部分でその地位を確固たるものにし、一方でX社の他の商品のパフォーマンスも高めるというシナジーを発揮している。

その商品コンセプトは、音楽、そしてビデオや写真といった画像のライブラリー管理、編集、インターネットを通じての取得などデーターを集中管理し、アクセサリー周辺機器を使ってそのデーターを用途拡大をする際のインターフェイスを行うことで、ホームユースとプロユースにソフトを分けて商品ラインナップを構成している。つまり、Ⅹ社のデジタル機器ネットワークシステムのプラットホームである。

このPCをプラットホームに、音と画像を携帯して使うアクセサリー機器としての携帯機器がモバイルフォーンでありモバイルオーデイオある。そして、高機能のホームユースの専用機がホームAVで、ビジネスユースの専用機がプロ・オーデイオやプロ・ビジュアル機器である。そして、このそれぞれの機器によるネットワークにより高い価値を創造し、質の高いサービスを提供している。そのネットワークは、PCとの連携だけではなくそれぞれの機器間の連携、更にそれぞれの機器のアクセサリー機器も含めた連携も含まれる。つまり親機、子機、孫機にそれぞれの兄弟機を加え縦横の連携である。その連携の中から、音と画像を核とした付加価値サービスが創出されている。

例えば、携帯機器は、電話、オーディオ、ビジュアル、カメラ、ビデオカメラそれぞれで専用機と汎用機を持ち、専用機は、それぞれの特化した機能において高品質の性能を持ちマニアからプロユースを想定している。また、汎用機は、広く消費者がそれぞれの基本機能を持ち合わせながら、お財布ケイタイ、JRや航空会社のチケットレス乗車券、搭乗券、映画館、美術館の入場券、スキー場のリフト券など、インタネットで銀行やクレジット会社と連携して決済機能を搭載したり、或いは、さらに、人が身につける機器。X社がウエアラブル機器と呼んでいるデジタル機器とブルートウースで連携する際の親機の役割を果たしている。例えば、歩数計やGPSによる速度計、距離計、マップなどの機能を持つ携帯機器からブルートウースでデーターを飛ばしてウオッチに表示させる。或いは、心拍などの生体情報センサーからのデーターを親機の携帯機器に飛ばしたうえでウオッチに再転送し表示させるといった連携をしている。

このようにそれぞれの事業の商品やサービスで使われるデジタルデーターを用途に応じて他の事業の商品やサービスでも相互利用することでⅩ社の商品やサービスのネットワークが構成されている。その品質や信頼性を実現するには、事業本部間におけるデジタルデーターのインタフェイスに間違いがあってはならない。そのためには、事業部間での業務の連携が必須である。オーデイオ事業、ビジュアル事業、PC事業、モバイル事業、それぞれの事業本部間で、本部長の常務取締役本部長から担当者までが、緊密な連携で仕事をするという課題は重要な経営課題である。この点が上手く行っている限り、Ⅹ社の継続性発展性収益性社会貢献性は実現される。社長の石塚が経営方針として明確に打ち出していることの一つである。

この課題を進めるために、事業の責任者である4人の各事業本部長は、まず自分達の連携が滞ることがないよう互いに戒め合いながら各自の事業部を運営していくという仕事の進め方をしている。

 松本自身も、自分が統括するオーデイオ事業の業務上の滞りや他の事業と歩調を合わせない推進によって他の3事業の推進にマイナスの影響が出ないよう、また反対に、他の3事業の推進の状況がオーデイオ事業の推進にマイナスの影響が出ないよう、次の4つのことを戒めていた。


一 自分の決済は素早くする。

二 オーデイオ事業の課題で他の事業部の課題に関連することや影響すると思われること

は進んで本部長連絡会で伝える。

三 他の事業部の課題でオーデイオ事業の課題に関連することや影響すると思われることは、オーデイオ事業部の部長会で素早く伝えること。

四 家族経営で風通しの良い社風なので、社内抗争のようなものはないが、4人の本部長間(常務)のコミュニケーションが良ければその下はそれぞれ風通しが良くなるとの思いから、それを4人で確認するとともに、率先することを自分に課した。加えて、その姿勢は、本部長間だけでなく他の事業部の取締役から現場の担当者に至るまで貫くこととしていた。


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