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人生と社会のエッセイ  作者: 増本淳一
7/9

ネット知性と読書知性



 今更ながらではあるが、世の中はすっかりネット社会になった感がある。二十年ほど前までは携帯電話を持っていた人も少なく、まさかインターネットがこれほどまでに普及してスマホが個人的な生活の通信手段となり商取引や政治にまでも深く浸透するとは予想していなかった。その間Eリテラシーなるものから取り残されすっかりガラパゴス化したわけだが、毎度アメブロのカスタマイズに精を出しながら忸怩たる思いに苛まれるのはわが身の不覚の一語に尽きる。


 十年ほど前天神西通りにあるアップルストアーに娘が欲しがっていたipodを買いに行った。ipodとは何ぞや?新手のウォークマンだとはわかったが、ウェハーのように薄いあのペラペラの中に収納された数知れない曲が素晴らしい音質で流れ出すのを聴いた時は、正直知らぬ間に時代に取り残された気がした次第である。ラジカセの巻き戻しを何度も押しながら聴いたカーペンターズの「イエスタデイワンスモアー」が懐かしい。


 現在私の仕事であるマイクロ波治療を世間に知らしめるためにアメブロのカスタマイズに勤しむ身であるが、CSSやらハッシュタグやらの言葉が出てくるたびに困惑と無力を感じてしまう。だが、これは要はその知識を得たうえで一定の技術を身に付ければ為しえるものであろう。車の運転技術を習得すれば車の運転ができるようになることと同じレベルの困難に違いない。

 


と自分に言い聞かせて、慣れないパソコンに格闘する日々が続いているが、それとともに次第に感じる欠乏感がある。それは読書によって満たされていた心のある部分の欠乏感である。一口に読書といってもいろいろある。新聞や週刊誌や月刊誌も読書には違いないが、そういった読書から得られる充実感はネット情報からも得られうるものである。今心の中で明白な欠乏感はそういったネット情報や雑誌情報で満たされるようなものではない。

 


人間の知性には拡がり様とういうものがある気がする。いわゆる情報というものを集積し分析して役立てるのは英語で言えばinformationとinteligenceの世界ということになろうが、顧客情報を集め販売戦略を決定するには極めて役に立つ知性の働きである。外交においても他国の情報を集めて外交戦略を練るにはこういった知性溢れる外交官が必要である。こういった知性は社会生活を有利に送るために必要な知性であり、言うなれば実利的な知性と言える。


 人間は実利なしで生きていくことはできないし実利には欲望を満たす力があるから、実利に役立つ知識や知性を身に付けることには一生懸命になる。今の私がそうである。ということは、その過程で生まれる欠乏感は実利に向かう欲望でないことは確かである。かなりややこしいい自己分析になったが、つまりはネット情報や雑誌情報では得ることのできない知性の働きと満足が人の心の中にはあるということである。読書によって形作られる情報の堆積は実利的ではないが、知的な生活を生み人格や品格を形作る。


 我が国には長い長い文学の歴史があり資料もそっくりそのまま残っている。そして、少なからずその伝統を守る大和民族が存在する。敬愛する渡部昇一先生によるとイギリスはエッセイが廃れて久しいらしいが、随筆は一国の民度や文化成熟度を如実に表す指標であろう。それは社会の中で生きる人間が物思う心の深さを表す知性である。実利に向かう知性とは違うベクトルの心に宿る知性とも言える。


 誰かを愛したからと言って何か得するわけでもないが、愛したからには逃れられない心の性というものが生まれる。愛したからには損することを厭わない気持ちになり、むしろ損をしても愛を貫く快感が習わしとなる。同じように、人間にも人生にもある陰翳という事実は損得の対象として描かれるものではない。それはたぶんエッセイや小説などによって最も鮮やかに描写され救済され心を満たす知性の対象である。


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