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人生と社会のエッセイ  作者: 増本淳一
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ディテール

詳細と訳されるが文学の世界ではディテールと言う言葉が幅を利かせてきた。それはその言葉を使い続けた文学者たちの意識の堆積が和訳では収まり切れない趣向を表現するまで完成したためであろう。


谷崎潤一郎が「刺青」で表現した女の踵の魅力や開高健が「夏の闇」で拘った女の肛門の描写は、やはり詳細とはならずディテールである。


「丹念に小皺を集めてしっかりと閉じた肛門...」


何と素晴らしいディテールであろう。


普段の感覚で過ごす毎日の生活は用事に追われ、明日の生活の心配に満たされる。そこにはディテールに向かう余裕がないわけだが、そんな生活ばかりしていると人間はいつか疲れ果てる。そのことは女性のほうがよく知っているのかもしれない。


女性は息抜きの値打ちを本能的に知っているため、生活に根差すカルチャーは女性発信ばかりになる。


儲かる訳でもないのに花を飾ったり香りを楽しんだり色彩に凝ったり、美容やお洒落を生活に組み入れていく女性は男性に比べて遥かに人生のディテールを楽しんでいる。つまり、女性の感性は男性より日常の中にある喜びを表現する物の魅力に感応するように出来ているようだ。


「初心忘るるべからず」と言うが、「初心」は「はつごころ」と読むべきと聞いたことがある。赤子が初めて物を見る時の心理なのだそうだ。誰しも歳を食って世擦れすると常識的な概念の中で生活するようになり、毎日御上り頂き静かにお隠れなさる御天道様の美しさや有りがたさに無感動になる。愛して結ばれ子供と家庭を作ったはずの縁の不思議を恐れなくなる。人間は放っておくと無感動に陥るものらしい。


そこで後悔しながら危機を覚えて再生への試みを繰り返すことになるが、初心がどれほど取り戻せるやら。それは物事のディテールに関心を持てるか否かに繋がる。


人間社会の生活が概念が定まった用語のやり取りだけになれば味気のない機械的な空間になり、人間の魂や想いは腐敗してしまうに違いない。合法違法や善悪だけの解釈しか成り立たない世界はたぶん人間性の根幹を腐らせる。



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