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人生と社会のエッセイ  作者: 増本淳一
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細やかな幸せ

金に困る生活の中でも知恵と技と気持ちがあれば細やかな幸せを確保できるものである。


暑苦しい日の晩御飯はあっさりした和食が合うが、あっさり味ばかりだと興ざめしがちなので、一点脂物があればアクセントになる。


買い物はせず冷蔵庫の中に潜む食材を思い知恵を巡らし、細やかな幸せに繋がる味のバランスを想像する。


キュウリの塩揉みに胡麻を掛けて一品。玉ねぎをスライスして鰹節を掛けて一品。細切りの豚肉とチンゲン菜を唐辛子にんにくオイスターソースで炒めて一品。島原素麺を湯がいて一品。麺汁には葱と大葉と摺り胡麻を入れた。


こうして金がないと家にある食材で美味いものを作ろうとする、つまりその分知恵を使い賢くなるわけだ。出来た料理を家族が楽しんでくれれば、細やかな幸せながら充実感がある。


昔からないならないで済ますとか足るを知るとか言う台詞があるが、やっぱり金に困った奴が発した言葉に皆が賛同したから今に伝わっているに違いない。


メディアに登場する金の掛かった美食はもちろん魅力があるが、貧乏性の心配性には多少の罪悪感が生まれる。また、どこか浮わついた違和感が伴い、射幸心が萎む気がする。


別に清貧を主張するのではないが、贅沢の中にある違和感は否めない。それは理性が感覚の深いところで感じる危険なのかもしれない。


金があれば好きなものが手に入るのが世の中ではあるが、金があっても手に入らないものがあるのも世の中である。そして、どちらかと言うと、人間は金があっても手に入らないものに納得するように出来ている様である。


趣味は料理の他に読書がある。いろんな問題意識もあり書店に行くたびに買ってしまいたい衝動に駆られる新刊本がたくさんある。あるが金がないので涙を飲んで忸怩たる気持ちのまま何度書店を後にしたことか。


そんな時は新刊本のない書店、つまりブックオフに行くわけだが、たまに百円コーナーで知的な刺激を受ける未読本に出くわすと普通の書店では味わえない興奮を覚える。未知なる存在の魅力を知って興奮するのは女との出会いにも似た感じだが、金があればこんな邂逅はあり得なかったわけである。ただ、金がないと女との関係は困難だろうとは思うので先に負け惜しみを吐露しておく。


百円で買った本の中を読み進むといつか同じような内容の本を読んだ記憶が甦り、書斎の本棚に同じ本があったりする。この本に出会った感激がいっぺんに冷めてしまうが、感激も不勉強ないし未消化のゆえと自戒の念が生じる。一度会った女は忘れないくせに時間を掛けて読んだはずの本を忘れてしまうところ、女は男の気持ちの掴み処が違うと感心する。


いずれにしろあれもこれも金のない身が経験する様々な物思いに過ぎないが、自嘲とともに細やかな幸せであるには違いない。


わかるかな、金持ち諸君?

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