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雪の記憶  作者: 今井りか
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8  ノースウルヘン城の夏

「リサ! 何処へ行ったのだ!」


 アルフレッドはリサがいなくなり、ヘインズ牧師も姿を隠した時から、ずっと探していた。


 ヘインズが牧師で無いのは、本物のヘインズ牧師が赴任して来る前から気づいていたが、アルフレッドは王都からの罠だったのだと改めて怒りを覚えた。


「私は途中の街で流行病の治療の手伝いをしていたのです。

 そう、此方にも手紙を出したのですが……」


 人の良さそうなヘインズ牧師に罪は無いが、それを利用した偽物を放置する気はアルフレッドにはなかった。


「私は王都ヘッドスペークに行って、全ての屋敷の扉をを打ち壊してもヘインズを名乗った若僧を捕まえる!」


 リサは彼奴に殺されたのだと復讐を誓うアルフレッドを、マーカス城代は必死で止めたが無駄だった。


「大后イザベラ! 貴女がリサを殺す命を下したのなら許しはしない!」


 心配したマーカスはアルフレッドに付いて王都ヘッドスペークへ向かったが、途中のカリザンの街で大后イザベラの訃報を聞いた。


「流行病は王都では未だ終焉してないみたいです。

 あれほどの大都会になると、一旦流行病が発生すると手がつけられません。

 きっとリアノン王も避難されるでしょう」


 少し様子を見た方が良いとマーカスは止めたが、アルフレッドは彼奴が流行病などで死ぬのは許せないと怒った。


「リサの最期を知りたいのだ!

 私は愛する女性を護りきれなかった!」


 壁を殴る手を必死で握り込んで、マーカスはお供しますと、止めるのを諦めた。



 王都ヘッドスペークは悲惨な状態で、リアノン王は家臣が逃げ出した王宮でアン王妃と、少しでも多くの人々を救おうと頑張っていた。 


「アルフレッド卿! よく来てくれた」


 心労で窶れたリアノン王とアン王妃を、アルフレッドは見捨てられなかった。


 連れてきた兵隊を救護所に配置し、マーカスと共に薬剤の配布や、病人の隔離を手伝う。


 それと同時にリサを殺めた犯人を捜したが、思わぬ所で憎むべき相手を見つけ出した。


 下町の救護所で重篤な状態の犯人を見つけたが、リサを殺した罪を問う前に息を引き取った。


「流行病の中を急いでノースウルヘン城まで来たので、罹患したのでしょう。

 王宮は流行病が入り込まないように、侍医達が気をつけているのに、大后がうつったのは……」


 リサを処分した報告を受けて、コイツからうつったのではないかと、マーカスは推測した。


 アルフレッドはあれほど殺したいと怒りを覚えた相手の死に、がっくりと気落ちをして床に崩れ落ちた。


「アルフレッド様! 大変だ!

 リサ様がいなくなられてから、食事もちゃんと召し上がってなかったから!」


 マーカスはヘッドスペークにあるノースウルヘン家の屋敷にアルフレッドを連れて帰った。


 丁度、王都ヘッドスペークの救援にヘミング医師が到着して、アルフレッドを看病する。


 リノラン王からも、異母兄の病気を知り薬剤が届けられた。


「まさか毒ではあるまいな?」


 疑うマーカスだったが、イザベラ大后が亡くなり、リノラン王には相談役が必要だったのだ。


「いえ、これは上質な薬剤ですよ」


 ヘミングは口で噛んで確かめてから、アルフレッドに煎じて飲ます。


 元々は頑強なアルフレッドは薬剤と、ヘミング医師の手当てで回復したし、王都の流行病も春めいて来たので終焉に向かった。


 リノラン王はアルフレッドに王都で補佐をして欲しいと願ったが、流行病がおさまると家臣達も帰って来た。


「私のような無骨な人間はノースウルヘンが似合いなのです」


 キャサリンを失い、またリサを失ったアルフレッドは生きる気力も無くしていた。




 春真っ盛りのノースウルヘン城に帰っても、アルフレッドは部屋に閉じこもったままだ。


 領主としての仕事は辛うじてこなすが、キャサリンの墓へ参る以外は外にも出なかった。


「キャサリン! リサの墓も作れないのだ! 貴女の側にリサは居るのだろうか?」


 名前だけ彫ろうかとも考えたりしたが、夜に夢に出てくるリサは生き生きとしていて、それも躊躇われるのだ。


「もしかしたら、リサは自分の時代に帰ったのかもしれない……」


 それが馬鹿げた希望であっても、そうだと良いと祈った。





 ノースウルヘン城にも夏が来た。


 花々は短い夏に咲き急ぎ、農民達は畑仕事に精をだす。


 だが、アルフレッド一人は陰鬱な表情で、黒い喪服を来て夏を楽しむどころか、運命を呪っていた。


「リサ! リサ! もう疲れてしまったよ」


 愛が深いだけ、失った悲しみも深い。


 城代のマーカスや医師のヘミングは、このままではアルフレッド様は健康を害してしまうと心配していた。


 


 そんなある日、アルフレッドはキャサリンの命日に墓参りをして……


「アルフレッド様! 帰って来れたのよ!」


 真夏に見慣れぬコートを着たリサが黒髪をなびかせて走って来る。


「リサ! 本物のリサだ!」


 二人は抱き合ってキスをした。


「アルフレッド様の元に帰れるか、凄く不安だったの! 二度と離れないわ!」 


「愛している! 二度と離さないよ」


 二人は今すぐに結婚しようと、ノースウルヘン城へ手を繋いで駆けていった。

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