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雪の記憶  作者: 今井りか
1/10

  プロローグ

 ノースウルヘン城の外、雪の降る中、城主アルフレッドは、妻が眠る墓の前に真っ赤な椿を一枝供えて跪く。


「キャサリン、今日が命日だったな……」


 今でも、金髪を翻しながらこちらに駆けてくる妻の姿をありありと思い出せる。


 自分が守れなかった愛しい妻。その後悔と、死に追い込んだ人々への憎しみを心に秘めて、アルフレッドは雪の降る中、城へと戻る。


「何だ?」


 城から墓に行く途中には居なかった女が雪の上に倒れていた。アルフレッドは、警戒しながら女に近づいた。


 墓の前で妻と語らっていた間は、アルフレッドにほんの少しだけだと思えたが、行きには居なかった女の身体の上には薄っすらと雪が積もっている。


 北部のノースウルヘンには珍しい黒髪が、月明かりに反射していた。


  音すらも包み込む静かな雪の中、アルフレッドは近づきそのまま彼女の脇に屈み込んだ。


 薄い水色の下着を着た黒髪の女の細い首に指先を当てる。鍛えたアルフレッドなら、少し力を加えただけで折れそうな首だ。


 かすかな脈を感じ取ったが、アルフレッドは一瞬助けるのを躊躇した。


「もしかして王都の密偵か?」


 愛しい妻キャサリンを死に追いやった王都の暗い手がここまで伸びたのかと、剣に手を伸ばす。


 それに合わせアルフレッドの装身具が冷たい音をかすかに鳴らした。


「ふぅ」とアルフレッドは一息吐き出して、雪の中、下着姿で死んだように倒れている女を見つめた。


「王都ヘッドスパークからの密偵にしては変だな。色仕掛けするには魅力的だが、冬に下着姿でうろつくのが命取りだと知らぬ訳もなかろう」


  アルフレッドは、剣をしまうと目を閉じたままの女の息を確認し、彼女を抱え上げた。


 黒髪がさらさらとアルフレッドの腕から溢れ落ちる。手入れの行き届いた髪から身分の高さを感じたが、服装は貧民でももっと厚着をするだろうと首を捻る。


 整った青白い頬に血の気はないが、少なくとも生きている。


「密偵だとしても、このまま死なすわけにはいかない」


 冷たくなった女を早く温めないと死んでしまう。力強く雪を踏みしめ、アルフレッドは足早に来た道を戻っていった。


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