デスニートランド ~~あなたはニートを止めますか? それとも人生止めますか?~~
尾道洋平はニート歴8年のベテランニートだ。
大学を卒業後、就職できずにそのまま親のすねをかじっている。
今までハロワに通う事も一切せず、そのままダラダラとゲームをしながら生きていた。
ある夏の日、彼は親からむしり取った小遣いを手に、コンビニに出かけようとした。
部屋はエアコンでガンガンに冷やしてあるが、それでも夏ならアイスが食べたくなるからだ。強い日差しに辟易しながらも彼は外を歩く。
そして、その途中でトラックに跳ねられ、激痛の中、彼は意識を手放した――
目が覚めると、そこは何もない草原だった。
洋平が周りを見渡せば、はるか遠く、何㎞も離れた場所に人工物が見えるが、それ以外には自然に包まれた、現代日本ではありえない光景が広がっていた。すでに国土のほとんどを人工物で固めた日本という狭い国にこんな光景があるはずもない。洋平はしばらくの間パニックを起こし、まともな思考ができないでいた。
「ステータスオープン」
混乱し、ひとしきり醜態を晒し終えた洋平は冷静さを取り戻すと、自分の身に起きたことに対しある推測を導き出した。
すなわち、異世界トリップの可能性である。
周辺に人影もなく、思いつきでそれを確認しようと思った洋平を責めてはいけない。それは現状を把握するための通過儀礼のようなものだったからだ。もちろん洋平は本心から自分がそのようなことになったとは考えておらず、ちょっとした思い付き程度に試してみただけだったのだが。
「うおっ! マジか!?」
洋平の意とは裏腹に、いや内心まで考えればある種の期待通り、洋平の前にはゲームで見慣れたステータス画面が現れた。
そこに記載されている文字は日本語で、普通に読める。レベルは1で職業はニート。ステータスは軒並み低いが、スキルなどの欄よりさらに下、「加護」と書かれた項目には「創造神の祝福」「異世界からの来訪者」「アイテムボックス」「鑑定」と載っており、洋平が期待した一番最高な未来を導き出す答えがあった。
「創造神の加護」は「あらゆることに対するレベルアップ速度の上昇(激)」で「異世界からの来訪者」は「レベルアップ時の能力上昇に補正(大)」とある。他は見たままだ。
ヘルプを見ればレベルアップとともにスキルポイントを得て自由に成長させるシステムを採用しており、魔法を覚えることもできるようだ。
(異世界でチートライフ! 創造神の加護の効果を考えれば将来的には俺TUEEEもできる! フアハハッハハ! いける、これならいけるぞーー!!)
何がいけるかは不明だが、洋平のテンションは一気に上がる。
こうして洋平は異世界チーレムを始めるために目に見える人工物――つまりは人の町を目指して歩き出した。
町に入るのには魔法的な犯罪者チェックをする必要があったが、税金などの理由でお金を必要とすることは無く、洋平はすんなりとはいる事が出来た。念のために草原で鑑定を何度も行い薬草を多数入手していたが、それは杞憂に終わったようだ。
洋平が最初に向かったのは冒険者ギルドだ。
この手のシチュエーションでは文無しでもなる事が出来る職業であり、基本中の基本と言える職のはずだったからだ。事実、門番の人にも「仕事が欲しければ冒険者ギルドに行け」と言われた。
そこで洋平は冒険者として登録し、雑務をしながらこの世界への理解を含めていく。
黙々と雑用をこなし、小銭を稼ぐ日々。だが洋平はそれらすべてに耐えている。
安い宿代で親身になってくれる宿のおばちゃんと看板娘。
いずれ必要になるからと、稽古をつけてくれる先輩冒険者たち。
多くの人が、そんな洋平を支えた。
洋平が下積みを終え、冒険者として討伐などで有名になるには、それから二ヵ月が必要とされた。いや、二ヵ月しか必要なかったと言うべきだろう。
彼の考える当初の予定ではもっと早くから目立つはずだったが、無一文では武器防具を購入することができず、それらをそろえるには薬草採取で地道に稼ぐことが必要だったからだ。鑑定というチートがあればこそこれほどの速さで何とかなったのであり、もしチートなしで同じことをしようと思えば、途中で心を折るか採取の途中で死んでしまうかの2択だったに違いない。薬草採取はモンスターに襲われることの多い、意外と危険度が高い仕事だったのだ。
時間はかかったが、状況は洋平が考えた通りのものになりつつある。
スキルで魔法を習得し、攻撃魔法と回復魔法のどちらも使いこなす優秀な魔法使い。
索敵スキルで狙った獲物を逃がさず、無駄な戦闘を避ける優秀な狩人。
剣の腕も騎士に匹敵する冒険者ギルド最高の剣士。
多少は誇張表現が混じるが、おおむねその評判に恥じない働きができるようになっていた。
今では女の子ばかりの冒険者パーティに誘われ、あとはベッドインをするばかりであったが――
洋平が目を覚ますと、そこは慣れ親しんだ自分の部屋だった。
自分の、日本にある、部屋である。
洋平は周囲を確認するとそこは記憶の中にあった光景と寸分たがわず、自分が日本にいる事を強く意識させた。
「夢……オチ?」
どこか呆然とした表情でつぶやく洋平。
しばらくそうやって呆けていたが、「クックック」を口の中に含むように笑い出す。
「そうだよな、そんな事あるわけないもんな」
ずいぶん長い夢を見ていたが、しょせん世の中そんなものだと諦める。
ベッドから起きると、ふと思いついたように夢の中でやっていた剣士の動きをなぞろうとしてみる。
「え……?」
ニートで運動不足であった洋平の体は固く、思ったように動くことはない。
だがしかし、それでも夢の中でやってきたことが現実であるかのように、細かいところまで条件反射で体が動いた。
そこで洋平は気が付く。
あれは、夢じゃなかった。
魔法は使えなかったが、これはきっとこの世界に魔法の素が無いからなのだろうと納得し、部屋を出る。
時間は朝の7時。両親は食卓で朝食を摂っており、洋平の分もそこにあった。
「おはよう。父さん。母さん」
すんなりと出てきた朝のあいさつ。昔は、昨日まではあいさつも交わさず、ただ金をせびるだけの相手。
しかし異世界で苦労してきた洋平は理解している。
働く両親の苦労を。生きていくというのがどういう事かを。
両親は驚いたように呆けていたが、すぐに微笑んで「おはよう」とあいさつを返す。
「そういえば、昨日面白い夢を見たんだ――」
(ご飯を食べたらハロワで仕事を探そう。大丈夫、俺ならきっとやれる。異世界でモンスターを相手に戦うよりはずっと楽だろうさ)
朝食を食べる間、洋平は両親に不思議な夢を見たことを話した。
両親が呆れるかもと思った洋平であったがそれは杞憂に終わり、二人が笑顔で自分と会話をしてくれることに安堵する。
洋平は今まで子供だったのだ。
両親の優しさに付け込んで、頑張ることを止めていた。
それをたった2ヶ月の異世界生活で学んだ“現実”で理解し、前に進む勇気を得た。
彼は今後、苦労することになるだろう。
だがその道は、きっと暖かな祝福に包まれていた――
……log out
―――※※※ ※※※―――
「こんなはずじゃなかった……まだ死にたくない……」
三上優斗は血を流し続ける脇腹を抑え、森の中を歩いていた。
回復魔法を覚えているが、魔法を封じられた現状では何の意味もない。
重い金属鎧を着ても、扱える者が少ないハルバートを楽に振り回せる筋力があっても得物が無ければ宝の持ち腐れだ。
そしてなにより。
多くの仲間が集まる名声があっても、見捨てられてしまった今では 、仲間の多さは敵の多さでしかなかった。
優斗は1月前に異世界トリップを果たした。
チート能力を得て、それを最大限に使い冒険者として成り上がった。
しかしその反動が出たのだろうか。優斗の心にスケベ心が芽生えてしまった。
優斗は冒険者ギルドの初心者の女の子を3人ほど誘い、野外の討伐クエストに連れ出したのだ。メイン壁は優斗が受け持ち、経験を積ませるためだと言って。
討伐は4~5日を予定し、行きである最初の3日間は約束通り優斗が危ないところを助け、誰一人脱落することなく、大きな怪我をすることなくクエストは終わらせた。
そして明日町に帰るという段階で。
優斗は女の子の寝こみを襲った。
眠る女の子の体にまたがり、逃げられないようにしてからの犯行であった。
確かに、無防備な女の子が近くで寝ているという状況が何日も続いていれば性欲が溜まり、発散を求めるのは仕方が無かっただろう。それが自分の好みの女の子であれば尚更である。
戦闘では優斗が大いに活躍した事もあり、熱い眼差しを向けられていた。それは妄想ではなく、勘違いするというのもしょうがない。
元はニートであった優斗にとって、ちやほやされる経験などあるはずもない。舞い上がって、調子に乗ってしまったのだ。尊敬の眼差しを、慕情からくるものだと勘違いする程度に。
それでも、レイプは犯罪なのだ。
目が覚め、優斗に襲われていることを理解した女の子は反射的に叫ぼうとした。だが優斗がその口をふさぎ、くぐもった声が漏れるだけでしかない。
優斗は嫌らしい笑みを浮かべると女の子の体をまさぐる。恐怖に震える女の子は、身を固くして動けないでいた。これからされるであろう事への恐怖、信頼していた人への失望、それらがないまぜになって女の子の頬を涙が伝う。
しかし優斗は失念していた。
野外で眠る者の常として、見張りを立てていたことに、である。
いや、多少はそのことも意識にあったのだが、しょせんは新人と甘く見ていたのだ。
気が付くと脇腹には短剣が突き立てられており、熱く焼けるような痛みと流れる血とともに活力が失われていくような脱力感が優斗を襲う。
痛みで動きが止まった優斗の体は、女の子の上から転がり落ちる。
気が付くと見張りを担当していた女の子がそこに立っており、冷たい目で優斗を見下ろしていた。
優斗は慣れない痛みに顔をしかめつつも、回復魔法で傷を癒そうとするが――それは失敗に終わる。短剣には“魔法封じの呪”がかけられており、魔法が使えなくなっていたのだ。
「アイテムボックスからポーションを出しなさい。もちろん、全部よ」
「それが出来なければこの場で死になさい」と見張りの女は冷たい声で宣告する。
そこに本気の意思を感じ取った優斗は慌ててアイテムボックスにあったポーション、すなわち回復アイテムをすべて取り出す。見張りの女はそれらをすべて回収し、自身の持つバックパックへと詰め込んだ。
「言う事を聞いたあなたはこの場で殺さないであげるわ」
そう言って残るもう一人と一緒に優斗の元から去っていく3人の女の子。寝る前に外した防具や、すぐ使えるようにと置いてあった武器などもすべて持ち去って、である。
実はこの見張りの女の子、ギルドが優斗を警戒して潜り込ませた暗殺系少女だったのだ。初心者を食い物にする先輩冒険者というのは一定数存在し、それらへの処罰を行うギルドナイトという特殊な人間であったのだ。
国やギルドに対し不利益を行う間諜ではないかという疑いが優斗に持たれていた。急速に成り上がったため、最初の初心者然とした行いが偽装ではないかと思われたためだ。
だから付けられた見張り役であったが、それが正しく仕事をしたという訳である。
残された優斗は痛む体に鞭うち、必死に街を目指す。
時々回復魔法が使えるようになっていないかを確認するが、それはいまだに成功しない。
武器や防具は無く、魔法も使えないままの逃避行。傷を負った身ではまさに命がけ。町まで1日分の距離があったが、それが今は遠い。
「ちくしょう、あの女ども……」
最初は、優斗にも「馬鹿なことをした」という反省があった。
だが時間がたつにつれ、徐々に恨み言の方が多くなっていく。
「性欲処理も込みで誘ったにきまってるだろ……。それで付いてきたのに本番で逃げるとか……契約違反だろうが……」
自分本位な呪詛が、優斗の口から溢れ出す。
「町に戻ったら覚えてろよあの売女ども……。神様に選ばれた者に逆らった罰を与えてやる…………」
優斗は呪詛を暗い炎で燃やし続け、それを糧に体を動かす。
だが、それが結果を残すことは無かった。
獣の叫び声が森に響き渡り、優斗を襲う。
武器があれば、防具があれば結果は違っただろう。だが不幸なことに、優斗には素手での戦闘経験がほとんどなく、一方的に蹂躙されることになった。冒険者生活が浅く、スキルポイントを素手戦闘に使わなかった弊害が出ていた。
「俺はこんなところで死ぬ奴じゃ――」
最期の最期まで自分本位だった男、三上優斗はこうして死を迎えた。
log out……NG
memory reset
world reboot
log in
―――※※※ ※※※―――
堀部太一は目の前の銀貨の山を嬉しそうに眺めている。
太一は1月半前に異世界トリップを経験し、宿屋で下男をしていた。
最初は冒険者にでもなろうと思ったが実際に戦えるだけの度胸が太一には無く、それゆえの、苦渋に満ちた選択だった。
生きていくには働かなければいけない。親の庇護という守りが終われば自分で稼いでご飯を買わねば生きていけない。元ニートの太一にもそれが分かっていた。
だが運命は太一に味方する。
冒険者時代に雑用で訪れた宿がちょうど下働きの下男を探していたこと。
料理の下ごしらえで太一が戦力になったこと。
ニート時代の知識が太一の中にあり、その中には料理のレシピもあったこと。
異世界であるはずなのに、地球と同じような食材を扱っていたこと。
それら全てが味方し、太一は宿の料理長とでもいうべき存在にランクアップした。
現代知識をフルに使い、効率化された職場を整え。
周辺では見ない珍しい料理、それでいて味は極上という噂が町中にあふれ。
太一は料理人として一躍有名になった。
今では太一の料理を目当てに宿の客が来るほど繁盛している。
人を追加で雇い、忙しくなった厨房。
飛び交う注文もアイテムボックスというチートをフルに使った太一が高速で処理し、客を待たせる事無く高速で回転させる。
毎日が忙しく充実した日々。
太一は正しく、幸せだった。
「お疲れー」
「お疲れ様です」
その日、太一は厨房スタッフの少女と二人で飲んでいた。
名目は新作スイーツの試食である。
異世界という事もあり、望んだ食材が簡単に手に入るわけではない。似たような物がある事と、似たような物が揃っている事とは違うのだ。この世界の小麦粉に、薄力粉は無かった。
小麦粉を薄力粉にするために太一は頭をひねり、それをようやく実現したことでケーキを作った太一は少女を二人でそれを評価する。
「甘いです……! それに、こんなに柔らかいなんて!!」
「粉が荒いと、この柔らかさが出せないんだよねー」
「凄いです、太一さん!! これ、絶対に売れますよ!!」
「安定供給の目途が立たないから、超高級品扱いでしか売れないけどね」
絶賛する少女に太一は苦笑する。
現在薄力粉を作れるのは太一一人であり、今のままではまともな商品にはできない。
需要が高まろうと売り物が無ければ意味が無く、太一がそれにかかりきりになってしまえば他への影響が深刻になる。全てがすぐに上手くいくわけではない。
料理人としてだけではなく、経営者としても太一は頭を悩ませていた。
当然のように、少女は太一を尊敬の目で見ている。
いや、それ以上の感情を込めて。
太一は鈍感な男ではない。
むしろ、他人からの視線には人一倍感受性が強かった。それが理由で引きこもり、ニートをしていたのだが。
その過去を振り払い、太一は一つの決意を秘めてこの場に臨んでいた。
目の前の少女に告げる言葉のため、勇気を振り絞って。
「俺の故郷にはさ、ウェディングケーキって言葉があって……。俺と君と、二人のためのケーキを、俺は焼きたい」
堀部太一、一世一代の大勝負。
これで駄目だったら首を括るしかないとまで覚悟を決め、必死に悩んだ末のプロポーズだ。
少女は一瞬キョトンとし、次いでその目に涙を浮かべる。
頬は紅潮し、漏れる感情を抑えるように口元を手で押さえる。
言葉もなく何度も縦に頷き、太一の言葉を受け入れる少女。
二人は抱き合い、唇を重ねた――
「え?」
翌朝、太一はベッドから身を起こした。
その隣にいる少女を求めて横を見る。
だがそこには誰もいない。
そして太一は異変に気が付く。
「日本……? え?」
愛する少女と結ばれた幸せな異世界から、孤独な日本という絶望に突き落とされる太一。
太一は泣く。愛する少女を想って。
すべてが幻だったと、夢でしかなかったと絶望に支配された太一は自殺を決意する。部屋にあったカッターナイフで自分の首を切ろうとした。
『太一さん……愛しています』
少女の声が、どこからか聞こえた気がした。
『凄いです太一さん! 私も頑張ります!!』
思い出が、脳裏を駆け巡る。
『太一さんなら、きっとできます!』
いつの間にか太一の手から力は失われてカッターナイフは音を立てて床に落ち、その刃を折った。
その日一日、太一は泣いていた。
日本に戻ってから二日目。
太一は両親に対し土下座をしていた。
「今まで甘えていてごめんなさい。これからは心を入れ替え、まじめに働きます」と。
資産家である両親はそれを受け入れ、太一に職をいくつか斡旋することにした。
その中から太一が選んだのは洋食屋で、それしかないと、太一は思った。
「俺、頑張るよ。それでいつか――」
険しい道に挑もうとする太一の目には、強い光が宿っていた。
log out
―――※※※ ※※※―――
「しゅにーん! F723番、まだ修道院から動きませーん! そろそろ追い出しまーす!!」
「G001番、ログアウト条件を満たしました。実家に搬送します」
「A320番、犯罪行為に走りました。ぶっ殺しますねー」
いくつものモニターが並べられた部屋。
そこには報告の声がひっきりなしに上がる。
それらを記録として保存し、大雑把な傾向をまとめていくAIたち。そしてより効率の高い異世界生活をくみ上げていく。
主任と呼ばれる男は、まとめられた報告をグラフ化したものを手にしてつぶやく。
「今月の就職率23%か。ずいぶん効率が上がったな」
計画実行から1年。
男は異世界トリップ式ニート脱却計画が軌道に乗り始めたことに安堵していた。
ニート問題が深刻になったのは2300年代後半からである。
VRシステムの普及と同時に「現実がダメでも、VRがあるじゃない」と現実世界を否定する若者が急増。
夢がかなうVR世界でちやほやされることに慣れた根性無しどもが、こぞってニートになったのだ。
これを受けて政府は就職活動を支援すべく、VRにおける規制をいくらか緩和し、就職支援のためのVRゲームの作成を決定。
通称、「デスニートランド計画」だ。
まず痛覚規制を解除し、現実と違和感のない最高のVR世界を作った。
そしてニートたちの保護者に連絡を取り、働かないニートを眠らせたうえで政府直轄の収容施設に隔離。
眠ったままのニートを強制的に作ったVR世界に送り込み、そこでチートという支援を与えたうえで働かせる。
勤労意欲を持ったと判断された段階日本を模した別のVR世界に移し、経過を観察する。問題無いようであればログアウトさせ、実家に送り返すというものだ。
無論、すべての人間が勤労意欲を持つわけでもない。
だがそういった不逞のニートには死を与え、何度でもやり直しをさせるのだ。繰り返しの記憶はリセットするが、深層部分には焼きついていく。犯罪行為をすれば、ニートのままでいれば死ぬのだと、本能に刻み込むのだ。
これは無限に繰り返される“死”の中で、働くことを強要する非人道的な計画だった。
協力者である親を含め関係者には秘密厳守を絶対条件とし、そのための監視システムも脳に組み込まれる。
よって計画が露呈することはまずない。
このようなことをしていると知れ渡れば非難は免れないだろう。だがそれでもやらねば国が腐ってしまう。これは日本再生のために必要な計画なのだ。
すべてのニートを駆逐するまで「デスニートランド」は消えたりしない。
世界が存在する限り、ニートは決して消え去ったりしない。
永遠に続く戦いは、まだ始まったばかりである。
――貴方はニートを止めますか?
それとも、人生を止めますか?――