表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

せかいでいちばん

作者: 旅がらす

 大きめのカップに入れたコーヒーから、ゆっくりと湯気が昇る。

 湯気はやがて、彼のタバコの煙と混ざり、更に上昇していく。


 私は、コーヒーをゆっくりと口に運びながら、彼の隣でそれを見ていた。


「…………」

「…………」


 私たちは、特に話をしたりしない。お互いにあまり話をしないほうだし、逆にこうやってただ黙っているほうが心地よいのだ。


 私たちの関係って、なんなのだろう。周りはよく私たちのことを『恋人』って言うけれど、でも、私たちは恋人のような『お付き合い』をしたことがない。遊園地にも、水族館にも出掛けたこともなければ、キスだってしたこともない。

 いつだったか、彼に、

「私たちの関係って何なんだろね」と、ふざけ半分に聞いたことがあった。そのとき、彼は少し考えた後で、


「どうなんだろな」


と、答えた。質問を質問で返されてしまった私は、しばらく何も言えなかったが、その後で彼がまた、


「でも、俺はこうしているのは好きだ」


と言ったので、今度は別の意味で何も言えなくなってしまった。


 今日も、私たちは彼の部屋でコーヒーを飲んでいる。私はミルクをたっぷりと入れてカフェオレを楽しんでいるけれど、彼はブラックだ。彼曰く、ブラックとタバコの相性はとても良いらしい。私は、彼以外からその話を聞いたことが無いし、タバコも本当は吸ってほしくないので、彼の言葉が一割も理解できなかった。

 外を見ると、雨が降っていた。粒と言うより線に近い雨がサラサラと空間を滑る音が、とても心地よく聞こえて、私の視界は少しずつぼやけていった。






     ◆






 気がつけば、私はソファーの上で横になっていた。いつの間にか、眠ってしまったらしい。体にはタオルケットが掛けられ、隣にいたはずの彼が、向かい側で座ったまま小さく寝息をたてていた。

 私は、彼が起きないように注意しながら、静かにソファーから起き上がり、そっと彼の顔を覗きこんだ。

 いつものちょっと無愛想な顔じゃなくて、心地よさそうにしている彼の表情は、新鮮でなんだかとても可愛らしかった。そんなこと、本人に言ったら、顔を赤くしながら怒りそうだけど。

 彼は、気付いていないんだろうな。自分が思っているほど彼は大人じゃないこと。ときどき、小さな子供みたいに拗ねてること。そして、そんなとこが、堪らなく可愛いこと。

 私は、なんとなく彼の肩に頭を預けた。彼が起きていたら絶対にできないことだ。でも、私はやってみたかった。他人と常に一定の距離をおきたがる彼は、いつも私が必要以上に彼に近づくことを許してくれない。だから、今のうちにしておこう。

 ゆっくり息を吸うと、コーヒーとタバコのにおいが私の鼻孔をくすぐった。タバコのにおいが喉を刺激し、それをコーヒーの深い香りが柔らかくする。なるほど。確かに結構合うかもしれない。

 耳を傾けると、彼の鼓動が小さく響いていた。子供のそれみたいに小さく、でも力強い音は、大人であろうと必死に背伸びする彼にぴったりだった。


 そこは彼で埋めつくされていて、彼のにおいがいっぱいで、彼の鼓動が私の中まで響いていく。

 そうして、私の鼓動は彼のよりも少しずつ速く打ち始め、身体が温かくなり、胸が少しずつ満たされていく。


 ――ああ、私はこの人が、世界で一番好きなんだ。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  先に評価なさった方と、前半は同じような思いでした。文章とかですね。  しかし読んでいくうちに、ヒロイン(?)と彼氏の想いはよく伝わり、確かにこんな日もあるなぁ、と共感していました。いつの…
[一言] 小説っていうか詩ですね(笑) 詩として読む分にはいいですが、小説として読むのであれば、いくら短篇とは言えこれは無いだろ、という気がします。 もう少しヤマがあった方がいいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ